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■春始(2)

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10月12日の作業が終わったのはもう夜12時近くである。さて、どこかホテルにでも泊まろうかなと思いながら、楽器を片付けていたら
 
「お疲れ様〜。まだ遅くなるかな?」
などと言って千里がやってくる。
 
「今終わった所。千里、忙しいかと思って声掛けなかったけど、何か弾かない?」
と冬子が言う。
 
「無理無理。私みたいな素人が出る幕ではない」
と千里は笑って言って、差し入れのピザを出してくれる。
 
「あ、ちょうどお腹空いたと思ってた」
という声があがり、ピザはあっという間に無くなる。ちなみに千里は政子の前には専用で1箱置いたが、それが最初に無くなった。
 
「でも千里、龍笛もフルートも凄いし、キーボードやベースも上手いし、確かドラムスも打てるよね?」
「まあでも実際今は月末の社会人選手権向けの練習と、例の運営会社設立の件で忙殺されてるよ」
 
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「あれ大変みたいね。私はローキューツの会社設立の件は毛利さんに投げてしまっているし」
 
「あれ、結局毛利さんがしてるんだ?」
「そうそう。雨宮先生が押しつけた」
「毛利さん、アクアのCDの制作もしてるのに、大変だね」
「うん。でも実はこの手の話は男性に動いてもらった方が話がスムーズなんだよ」
「ああ。日本って男女差別社会だからね〜」
 

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結局青葉は千里のアテンザに乗って経堂の桃香のアパートに移動した。
 
「この車は初めて見た」
と青葉は言う。
 
「インプレッサがもう限界だったんで、この車のオーナーの人が買い換えたんだよ。それを借りてきた」
と千里。
 
「オーナーってちー姉だよね?」
「違うよ」
「うーん・・・」
 
「明日、そこの姫様の神社に行くからさ、ミラじゃあそこの坂を登れないもん」
「確かに確かに」
 
「姫様は新しいしもべたちは見られました?」
と千里は、青葉の後ろで、青葉の守護霊とおしゃべりしていた風の《ゆう姫》に直接語りかける。
 
『まだ見てないが、可愛い子たちだと聞いて楽しみにしてる』
と《ゆう姫》。
 
「可愛い子ですよ。ちなみにひとりは男の子にでも女の子にでもできますが、どちらがいいですか?」
『女は面倒くさそうだから男でよい』
「了解です。ではあの子は男の子を基本とすることにして」
 
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千里と《ゆう姫》が、そうやって直接会話しているので、青葉は何なんだ〜!?と思って、半ば呆れて会話を聞いていた。
 
千里は肉声に出して話しているのでそれが《ゆう姫》に聞こえるのは分かるのだが、《ゆう姫》の『念の声』は何かの縁がある人でなければ聞こえないはずなのにと青葉は思う。元々ちー姉とどこかで関わりがあったのだろうか???
 
「でもそんな簡単に男にしたり女にしたりできるんだっけ?」
と青葉は訊いた。
 
「女の子にしたい時はおっぱいくっつけて、男の子にしたい時はちんちんくっつければいいんだよ。それで青葉も男の子のふりしてなかった?」
と千里。
 
「私は男の子のふりしたことは無いよ!」
「青葉、男の子としても可愛いのに」
「そんなこと言ったのは中村晃湖さんくらいだ」
 
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「青葉はまた男の子に戻りたくなったりはしない?」
「絶対嫌」
「ちんちん、あると便利だよ」
「要らない!」
 

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「あ、そうだ。例の国際C級ライセンスはもうもらったの?」
と青葉は訊く。
 
「ああ、あれは勘違いでさ」
「へ?」
「5月に北海道で出たのはレースだから良かったんだけど、こないだ宮城で出たのはレースではなくてスピード行事なんだよね」
「どういう違いが?」
「何人かが同時に走って競争するのがレース、1台ずつ走ってタイムで競うのがスピード行事」
「へー!」
「あと、サーキットじゃなくて公道を走るのがラリーね」
「難しい!」
 
「で、スピード行事やラリーは3回でレース1回分と計算するから、あれではまだ申請条件を満たしていないとJAFからの返事」
 
「あらら」
「いや、申請条件が結構複雑だし国際ライセンスの申請なんてしばらくやってなかったから、うちのクラブの会長も勘違いしてたと言ってた」
「あぁ」
 
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「だから、昨日レースに参加してきた」
「わっ」
「だってこの後お正月に掛けて忙しくなるからさ。何度も何度もは出場できないもん。それに条件を満たすレースもそう多い訳じゃ無いからさ」
「ちー姉、忙しすぎるもん!」
 
「でもこれで国際C級のレース除外ライセンスが取れるはず」
「レース除外?」
「国際ラリーに出場できるけど、国際レースにはまだ出場できない」
「よく分からない」
「実は私もよく分かってない」
「あははは」
 
「国際レースにも参加できる除外無しの国際C級ライセンスを取るには2年以内に5回以上レースに参加して順位認定される必要がある」
「結構大変そう」
「挑戦はしてみるけど、無理はしないよ」
「作曲家しながらバスケットしながらソフト会社に在籍しながらレースまでというのは無茶だよ」
 
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「まあ私も今年は忙しすぎたなという気はする。でもレースは雨宮先生に乗せられてやってみたけど、あの超高速の世界は病みつきになる快感だよ」
「そうだろうね」
 
「でも青葉も勉強しながら、水泳とコーラスやりながら、アナウンス学校にも行きつつ作曲家をしながら霊能者もってのはかなり無茶」
 
「実は7月以降、アナウンス学校にあまり行ってない」
「それは仕方ないと思うよ。青葉って物事断るのが下手だしね」
「うん。アクアの作曲も受験が一段落したらまた頼むと言われているけど、正直どうしようと思っている部分がある」
「誰かに押しつけちゃえばいいんだよ」
「うーん・・・。誰に押しつけよう?」
 

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経堂のアパートに着いて、千里と青葉が協力して夜食を作っていると、寝室で寝ていた桃香も起きてくる。
 
「あ、桃姉ただいま」
「うん。おかえりー。千里もお帰りー」
「桃香、ただいま」
「レースってのは成績どうだった?」
「4位だったよ。表彰台は逃した」
「それは残念」
 
「でも桃香、いくら空調入っているからって服着たら?」
と千里が言っている。
 
「まあ青葉ならいいかなと思って」
「取り敢えず、ちんちんは取らない?」
「付けてると立っておしっこができて便利なんだよ。君たちも男の子だった頃はやってたろ?」
 
「立ってしたことない」
「同じく」
 
「君たちの性転換前の実態というのもどうにもよく分からん」
などと桃香は言っていた。
 
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翌日は朝食後、千里と青葉が巫女服に着替えた上で3人でアテンザに乗り込む。青葉が免許を取ったと聞くと、桃香は「よし青葉に運転させよう」と言った。
 
「だって免許取り立てで運転して万が一にもどこかにぶつけたらまずいよ。借り物の車だし」
と青葉は言うが
 
「青葉は少なくとも私より上手いし、私より長く運転しているはずだ」
などと桃香は言っている。
 
「でも若葉マーク持って来なかった」
と青葉が言うと
「あるよ」
と千里が言う。
 
むむむ。さすが、ちー姉!
 
それで結局青葉が運転席に座り、念のため千里が助手席に乗って車は駐車場を出る。首都高・京葉道路を走ってまずは3月まで千里が勤めていた千葉市内L神社に寄る。顔見知りの副巫女長・友香から玉依姫神社・御札授与所の鍵を借りる。
 
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「この鍵、千里さん1つコピーして持ってません? そもそも神社は千里さんの妹さんが設置者だし」
「そうだね。でも授与所はL神社のものだし」
「大丈夫ですよ。こちらはみんな千里さんを信頼してますから」
 
そんなことを言っていたら宮司さんが通り掛かって言う。
「確か村山君はうちの神社の嘱託になっていたはずだよ。だから鍵を持っていても問題無い」
「え〜!? そうだったんですか!?」
 

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ここまでずっと青葉が運転していたので替わることにする。千里が運転席に座り、桃香が助手席に乗って青葉は後部座席に行く。それで彪志のアパートに寄って拾う。彪志は当然後部座席、青葉の隣に座る。そしてそのメンツで町外れに出て急坂を上り玉依姫神社に到達した。
 
既に冬子のエルグランドも来ている。青葉たちが車を降りると冬子たちも降りてきた。千里が授与所の鍵を開けてみんなを中に案内する。
 
「かなり大きなものだね」
と桃香が言っているし、政子も
「可愛い」
と言っている。《ゆう姫》も
『ふむふむ。なかなか素直そうで良い子じゃ』
などと言っていた。
 
しばらく待っている内に業者さんが来たので、台座に乗せてセメントで固定してもらった。その後、青葉はヒバリから託された「中身入りストラップ」と呪文のメモを取り出す。
 
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シーサーの各々に念を込めてそのメモの呪文を読み上げると、ストラップに入っていた「中身」が各々のシーサーの像の「中」に飛び込んだ。呪文を読んだ青葉自身、「へ〜」と思いながらそれを見ていた。
 
「魂を入れたの?」
と冬子が尋ねる。
 
「ええ。沖縄のシーサー兄弟の子供をヒバリさんからお預かりしていたので、それをここに移しました。移す呪文は、特別にヒバリさんから教えて頂いたんですよ」
 
「へー、どんなの?」
と言って政子が覗き込むので
「勝手に見ちゃダメ」
と冬子が注意する。
 
青葉は
「別に構いませんよ。私以外が唱えても効果無いですから」
と言ったが、政子は実際にはメモを覗き込んで
「これ読めな〜い」
などと言っている。
 
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「古代文字で書かれているので」
と青葉。
「読み方教えて」
と政子が言うので、青葉は微笑んで古代文字の横に振り仮名を振ってあげた。すると政子はそれを読んでいる。
 
「何か起きた?」
「もう子供たちは中に入っていますから」
「残念。いったん外に出せないの?」
「出す方の呪文は習ってないんです」
 
そんなことを言っていたら千里が
「そもそも、この手の呪文は私や政子のような素人が唱えても効果無いよ」
と笑いながら言っている。
 
「やはり修行とかしてないとダメなのね?」
 
それはそうだけど、でもこの呪文、そもそもちー姉から教えてもらったんだけど!?と青葉は突っ込みたくなるのを抑えていた。千里は沖縄からの帰りの飛行機の中で
 
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「中に入れる呪文はこれって、ヒバリちゃんから教えてもらったから」
と言って、この古代文字でメモを書いたのである。つまり千里姉はこの呪文をいったん覚えていたことになる。
 

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引き上げようとしていた所に、またまた谷崎潤子ちゃんたち「関東不思議探訪」の撮影スタッフがやってくる。この番組はどうもこの神社を定点観察スポットにしている感じである。
 
それで今設置したばかりのシーサーについて説明していたら、千里が片方のシーサーのおちんちんを取り外してみせたので、びっくりする。そんな仕掛けがあったとは知らなかった!
 
そういえば昨夜、ちー姉は姫様に「男の子がいいですか?女の子がいいですか?」なんて訊いていたなと思い起こす。しかしまあ不思議な仕掛けを作っておいたものである。千里は谷崎潤子に、おちんちんを取り外す鍵を見せていたが、あの鍵はどこにあったんだろう?
 
番組の放送が終わった後、谷崎潤子がこの神社の裏手からの景色が好きなどというので、みんなで裏手に行き、千葉市街の景色を眺めていたのだが、その内潤子が
 
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「あれ!?あそこ煙があがっている」
と言い出す。
 
青葉はその方角を見て「あっ」と思った。千里の顔を見ると、千里も厳しい顔をしている。
 
「どうかしたの?」
と冬子が尋ねる。
 
「あそこで燃えているのは、私と桃香が3月まで住んでいたアパートだよ」
と千里が答えた。
 
「私も多分あのアパートだと思った。千里姉もそう感じたのなら間違い無いと思う」
と青葉も言った。
 
あのアパートはそもそも、とても人が住めないような場所にあったし、あのアパート自体にもかなりの問題があった。しかし青葉が2011年4月に、震災後身を寄せていた佐賀の祖父宅から「逃げ出し」、千里と桃香に保護してもらえないだろうかと期待して、あそこに初めて行った時点で、あのアパートだけ、そしてあの部屋だけが安全地帯になっていた。
 
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当時青葉はその理由を、ちょうどアパートの鬼門の位置にあったお地蔵さんのお陰だと思っていた。そのお地蔵さんは、桃香の部屋から正確に磁北から東45度の方角に在ったのである。つまり桃香の部屋はあの凶悪な地区の中であそこだけオアシスになっていたのである。
 
ところがある時、青葉があのアパートに寄った後、そのお地蔵さんに守ってもらっているからお供えしておこうと思い、水とあんぱんを供えていたら偶然近所のお年寄りと遭遇する。そしてそのお年寄りから、そのお地蔵さんがごく最近「C大学の学生さん」がその近くの交通事故で亡くなった学生さんの慰霊にと設置したものであることを青葉は聞いた。その時は「へー」と思っていたものの、最近千里の「霊的な能力」に気づいてから改めて考えてみると、その設置した学生さんというのは、千里姉だとしか思えないのである。
 
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そして桃香と千里は3月末であのアパートを退去したが、ちょうど引越をしていた時、近くで道路工事も行われていた。道路の線形改良という話だったのだがその工事の影響で、お地蔵さんも少し場所を動かすことになるというのを地元の人から聞いた。その地蔵が動けば当然、地蔵が守ってくれるエリアも移動することになる。このアパート何か起きなければいいが、と一瞬思ったのであった。
 
そして今あのアパートは燃えている。
 
『ちー姉、あそこ燃えた後はどうなるんだろうね?』
と青葉がテレパシーで問いかけると、
 
『駐車場か何かにするかもね。アパート再建したって、また自殺者や犯罪者が出るだけだよ』
と千里もテレパシーで返事してきた。
 
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あそこはアパートが5軒並んで建っているのだが、桃香たちが暮らしていた間に自殺者も出ているし、夜中に包丁を振り回して暴れて警察が出動する騒ぎを起こした住人もあったらしい。
 
『あそこって古戦場?』
『それはそうだけど、その問題だけではないと思う。どっちみちあまり関わりにはなりたくない』
『確かにね。でもなんであんな最悪の場所に住んでたの?』
『青葉、馬鹿とハサミは使いようって言葉知ってる?』
『へ?』
 

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