広告:國崎出雲の事情 3 (少年サンデーコミックス)
[携帯Top] [文字サイズ]

■春演(1)

[*前p 0目次 #次p]
1  2  3  4  5  6  7  8  9 10 11 12 
前頁 次頁目次

↓ ↑ Bottom Top

(C)Eriko Kawaguchi 2015-07-24
 
4月15日(水)の深夜。青葉が自室で勉強をしていたら東京の政子(マリ)から電話が掛かってくる。
 
「おはようございます。政子さん」
と青葉が言うと
 
「おはよー。それでさ、猫ちゃんたちお社のすぐそばに居るじゃん」
「はい?」
 
青葉は何の話か分からなかった。
 
「鳥居のそばにも何かあった方がいいと思うのよねー」
「えっと何のことですか?」
「神社よ。それで狛犬だと普通すぎるからさ。ゴジラとモスラを並べたらどうかなと言ったら、冬がそれ著作権料を払わないといけないからダメって言うのよ」
「えーっと・・・」
 
「青葉何かいいアイデア無い? でもゴジラがオスでモスラがメスかなあ」
「さあ、ちょっとそちらの性別はよく分かりませんが、有性生殖ならゴジラにもモスラにもオスとメスがいるかも」
「なるほど。きっとゴジラにも男の娘がいたりして」
「へ?」
「あっ、カツ丼できたみたい。じゃ、また後でね」
 
↓ ↑ Bottom Top

それで政子の電話は切れてしまった。
 
何の話だったんだ!???
 

4月13日(月)。
 
千里は午前中世田谷区の体育館でバスケの「自主練習」をした後、その日は練習仲間の入野朋美と一緒に川崎市内の某所に出かけた。
 
「こんにちは、来ていいよということだったのでお邪魔しました」
と言って中に入っていく。
 
「おお、話題の人が来た」
と千里を高校生時代から知っているキャプテンの広川妙子さんが言う。
 
実は朋美に誘われて、彼女が所属するWリーグの上位チーム、レッドインパルスの練習に非公式参加させてもらうことになっていたのである。
 
「実は2月からユニバ代表候補になって合宿に参加していて自分の練習不足を痛感していたので、参加させてもらえると嬉しいです」
と千里。
 
↓ ↑ Bottom Top

実を言うとそれが千里が代表を辞退した最大の理由だった。ユニバ代表の合宿に参加していて自分の身体が自分の思う通りに動かないことを再認識し、このままではダメだと思ったのである。
 
「まあ強い練習相手は貴重だから」
と広川さん。
 
「それなんだけど、ほんとに練習相手として使えるかどうか最初にテストさせて欲しい」
と練習の指揮をしている松山コーチが言った。
 
それで最初今年(1軍に)加入したばかりの入野さんや長原さんなど若いメンバーと1on1をやる。千里が8割くらい勝つ。またスリーを撃つと今日はフリーで撃ったので、撃った分を全部入れて、千里のプレイを初めて生で見た餅原さんが「凄い」と言っていた。
 
その後、中核選手である広川さんや餅原さんと1on1をやったのだが、この日千里は彼女たちには全敗であった。
 
↓ ↑ Bottom Top

「うーん。さすがに広川や餅原には勝てないか」
と松山コーチがいうので
 
「では不合格でしょうか?」
と訊くと
 
「とんでもない。合格、合格。ロースターに枠があったら1軍に入れたいくらい」
などとコーチは言う。
 
「たぶんこの子、強い選手との対戦経験が絶対的に不足しているんですよ」
と広川さんが言う。
 
「僕もそう思った。だからうちで鍛えていたらどんどんうまくなりそう。君は今どこかのチームに入っているの? なんならうちの2軍でもよければ正式加入しない?」
とコーチ。
 
レッドインパルスの1軍はプロリーグだが、2軍は実業団所属ということになっている。
 
「済みません。一応自分のクラブチームを持っているので」
「この子のチーム、先日の全日本クラブバスケット選手権で優勝したんですよ」
「おお、すごい」
「あくまで練習にだけ参加させてもらえたら嬉しいのですが。レッスン料払いますので」
 
↓ ↑ Bottom Top

「うーん。じゃ一応レッドインパルスのユニフォームだけ作って。そのユニフォーム代だけ払ってもらおうかな。レッスン料とかは要らないよ。2軍の練習生扱いということでいいと思う。その資格でIDカードも発行してあげるよ」
「ありがとうございます」
 
「よし。じゃ千里ちゃん、ユニフォーム作るのに採寸しようか。ちょっと来て」
と練習を見守っていた事務局の靖子さんが言い、千里は体育館の端でメジャーで身体の寸法を靖子さんに測ってもらってからその日の練習に参加した。IDカードもその日の練習が終わった時に渡された。
 
そういう訳で千里はこの年、レッドインパルスの練習に毎日参加させてもらえることになったのであった。レッドインパルスの練習は基本的には月曜から金曜の15-18時であるが、月曜あるいは水曜は休みになることもある。但し公式には休みであっても結構勝手に練習に出てきている選手は居る。実は朝9時頃からずっと練習している選手もいたりする(このあたりが実業団との違い)。これに秋から冬にかけてのシーズン中は土日に試合が入るのだが、春から夏に掛けては公式戦が無いので土日に公開練習や練習試合を入れるケースもある。
 
↓ ↑ Bottom Top

結局、この春からの千里(千里A)の一週間のスケジュールはこうなったのである(♪=音楽活動)。
 
月 9-12 自主練習 12-14 ♪♪ 15-18 Red Impulse 19-21 ♪♪
火 9-12 自主練習 12-14 ♪♪ 15-18 Red Impulse 19-21 40minutes
水 9-12 自主練習 12-14 ♪♪ 15-18 Red Impulse 19-21 ♪♪
木 9-12 自主練習 12-14 ♪♪ 15-18 Red Impulse 19-21 40minutes
金 9-12 自主練習 12-14 ♪♪ 15-18 Red Impulse 19-21 W大学の練習
土 9-12 ♪♪ 12-16 40minutes
 
特に火曜と木曜は完璧にバスケ漬けである。なお、火曜・木曜にレッドインパルスの練習場所(川崎市内)から40minutesの練習場所(江東区)への移動は、南武線で溝の口まで行き、東急田園都市線−半蔵門線のラインを使う。千里Bがお仕事をしているJソフトの最寄り駅・二子玉川駅や、自分のアパートの最寄り駅・用賀駅を通過しての移動である。通勤時間帯だが混雑する方向とほぼ逆方向なので比較的楽に移動することができる。
 
↓ ↑ Bottom Top


4月18日(土)。
 
青葉は土曜日ではあるものの合唱軽音部の練習で学校に出た後帰ろうとして学校の最寄り駅まで行き、氷見線の下り列車を待っていたら、突然自分は出羽に行かなければならないのではないかという気がした。
 
ちょうどそこに高岡行きの上り列車が到着する。青葉は反射的に飛び乗った。それで乗換案内で鶴岡への連絡を確認する。
 
今日中に鶴岡に到着できる!
 
それで母に連絡する。
 
「お母ちゃんごめーん。急用でちょっと山形まで行ってくる」
「あらあら。忙しいね。お金は持ってる?」
「高岡駅か新高岡駅のATMで降ろすよ」
「なるほどね。気をつけてね。いつ戻る?」
「分からない。もしかしたら月曜日は休むかも」
「じゃ、その時は連絡して」
「うん」
 
↓ ↑ Bottom Top

青葉は心の中で「生きてたらね」と付け加えるが、さすがにそれは母には言えない。
 
乗継ぎ時間を確認すると高岡駅は9分、新高岡駅は14分である。なんとも微妙だが青葉は新高岡駅の方が少し余裕があると見た。それにそもそも新高岡駅ではどっちみち一度改札外に出ないといけない。城端線の新高岡駅と新幹線の新高岡駅は駅舎が別れているのである。
 
列車はすぐ高岡駅7番ホームに到着するので、階段を駆け上がり駆け下りて1番ホームに行き城端線下りに乗り継ぐ。JR氷見(ひみ)線とJR城端(じょうはな)線は路線図で見るとまるで一続きの線のように見えるが、実際にはつながっておらず、どちらも高岡駅を出る列車が下りである。そして実はこの2つの路線は新高岡駅でJR西日本の新幹線と接続する以外は他のJRの線とはつながらない「孤立路線」である。高岡駅を発着する旧北陸本線の電車は3月14日から「あいの風とやま鉄道」に移管されている。
 
↓ ↑ Bottom Top

実際には城端線の列車は青葉が駆け込んでから結構な時間経ってから発車した。こちらでATMに行っておくべきだったかなと少し後悔したが仕方ない。列車はわずか3分で新高岡駅に到着するが、さっき高岡駅では通学用ローファーで走ったのが結構大変だったので運動靴に履き替え、また運賃の小銭を用意する。
 
列車が新高岡に到着するとすぐ運賃箱に料金を入れて飛び出し、城端線の駅舎を出て新幹線の駅舎まで走る。ATMの所に人が居ない!ラッキー!青葉はそこに飛び込むと余裕を見て10万円下ろし、すぐにみどりの窓口に並ぶ。
 
発車までの時間は残り9分だ。前に並んでいるのは2人。その窓口の所にいる人があれこれ悩んだりしているので青葉はかなり焦ったが、青葉はその待ち時間を利用して自分が乗るべき列車のリストをメモ用紙に書き出した。
 
↓ ↑ Bottom Top

その人が終わった後、次の人は東京までの往復チケットという単純なオーダーだったので、残り4分の状態で青葉の番になった。
 
「鶴岡までの乗車券、上越妙高−直江津間は、えちごトキめき鉄道・妙高はねうまライン経由で。新高岡から上越妙高までの新幹線特急券自由席、しらゆき7号の上越妙高から新潟までの特急券自由席、いなほ13号の新潟から鶴岡までの特急券自由席下さい」
 
と言って、さっき書いておいたメモを見せる。
 
メモが無かったら結構悩むようなオーダーである。
 
しかしきれいにまとめられているので、それを見てすぐに係の人が券を発行してくれて、それを持って2階の2番ホームに駆け上がる。駆け上がって、はあはあと大きく息をしていたら、もう列車が到着する。青葉は飛び乗って安堵した。
 
↓ ↑ Bottom Top

実際には《新幹線はくたか572号》はわりと空いていて、青葉は息が落ち着くと富山駅に到着する前に空いている座席に座ることができた。しかし随分走った!!特に階段の上り下りは身体を鍛えている青葉でも結構きつい。そして席に座ってからあらためてチケットを見ると、しらゆき7号・いなほ13号は指定席で発行されていた!もっともこれは、わざわざ《7号》《13号》と列車名を書いた青葉も悪い。自由席なら単に《しらゆき》《いなほ》とだけ書いた方が混乱は無かった。
 
新幹線の中で青葉はいつの間にか眠ってしまっていたが、眷属の《雪娘》が『青葉、そろそろ起きて』と言って起こしてくれた。それで上越妙高で降りて信越本線の特急に乗り継ぐ。ここでの乗換時間は8分であるが、小さな駅なので楽勝である。新幹線は3階に到着するが、エスカレーターで2階に降りて改札を通り、更に1階に降りて《えちごトキめき鉄道》の乗場に行く。
 
↓ ↑ Bottom Top

《しらゆき7号》は当駅始発列車なので既に列車は入っている。わりと混んでいたが指定席なので安心して座ることができた。結果的には指定席で発行してもらって良かったようである。
 
3月13日まで越後湯沢から北越急行経由の《特急はくたか》で直江津−富山・金沢方面が結ばれていたのが、北陸新幹線の金沢延伸で《特急はくたか》が廃止され、《はくたか》という名前自体も北陸新幹線の列車名に転用された。結果的に直江津付近(上越地区)から長岡・新潟方面(中越地区)へのアクセスが不便になったので新設されたのがこの《特急しらゆき》で、《えちごトキめき鉄道》の上越妙高−直江津からJR信越本線の新潟までを結んでいる。車両は常磐線を走っていた《フレッシュひたち》のE653系が使用されている。「しらゆき」という名前は以前金沢−青森間のディーゼル急行(全線電化区間を走るのにディーゼル列車で運用されていた)に使用されていたもので、その列車は後に特急に昇格して「白鳥」の増発便になった。雪が鳥に変身したのである。
 
↓ ↑ Bottom Top

青葉はこの《しらゆき》の車内でもひたすら眠っていた。
 
終点の新潟で降りて1時間半の待ち合わせでJR羽越本線の《特急いなほ13号》に乗り継ぐ。時間があるのでいったん外に出てコンビニでお弁当とおにぎりにお茶2本、懐中電灯と電池を買った。
 
懐中電灯はすぐに電池を入れ、ちゃんと点くことを確認しておく。駅のホームでお弁当を食べ、お茶を1本飲む。もう1本のお茶とおにぎりは予備に取っておく。やがて《いなほ》が入線してきたので乗り込み、またひたすら車内では寝ておく。これもE653系の電車である。
 
鶴岡に到着したのは23:20であった。青葉は駅前からタクシーに乗り、羽黒山の麓の「いでは文化記念館」のところまで行ってもらった。
 
↓ ↑ Bottom Top

以前来た時にちゃんと下から登って来いと叱られたからなあと思う。懐中電灯を点け、随神門のところから遊歩道を登っていった。夜間でもあり慎重に歩いたので、蜂子神社の所まで辿り着いたのはもう夜1時過ぎである。結構息がきつい。ああ、修行不足だと言われそう、などと思いながら三神合祭殿でお参りをした。
 
青葉はその付近をキョロキョロする。過去にここに来た時はこのあたりで美鳳さんか佳穂さんが出てきてくれた気がするのだけど・・・。
 
うーん。どうしよう?
 

↓ ↑ Bottom Top

↓ ↑ Bottom Top

前頁 次頁目次

[*前p 0目次 #次p]
1  2  3  4  5  6  7  8  9 10 11 12 
春演(1)

広告:まりあ†ほりっく Blu-ray BOX