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■春演(10)

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彼女はまるで女王様のようで、夕方までの少しはかなげな少女の姿ではない。
 
ヒバリはその遺跡のような所で前に進むと、なにか青葉には聞き取れない言葉を大きな声で唱えている。
 
「*****、*****、*****、*****、*****」
 
宮古の言葉なのだろうか、あるいは何かの呪文なのだろうか。青葉には判断がつかなかった。
 
彼女はたっぷり30分くらい言葉を唱えていて、その間青葉と千里はずっと待っていたが、その場の空気が神々しいものになっているのを青葉は感じていた。その30分ほどの言葉が終わったと思った時、突然の落雷がある。その雷は確かにヒバリの身体に落ちたように見えた。
 
しかしヒバリは平気な顔でこちらを向いて言った。そのヒバリの身体は光り輝いているように見えた。
 
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「私は今すぐ沖縄本島に行かなければなりません」
とヒバリは言った。
 
「行く手段を用意してもらえませんか?」
 
「朝一番の飛行機は8:50だったかな。すぐ予約を入れましょう」
と青葉が言うが
「それでは遅すぎます。夜明け前に到着しなければならないのです。これはノロの指示です」
とヒバリは言った。
 
ノロ?彼女はもしかして今ノロになっている?
 
「ヘリコプターが飛べないか聞いてみます」
と言って千里がどこかに電話していた。
 
千里は電話でしばらく話していたが、
「来てくれるそうです。沖縄本島の会社なので宮古島空港に到着するのは手続きなどもして午前3時頃になるそうです」
 
「分かりました。それでは宮古島空港に行きましょう」
 
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千里はヒバリや自分達が居なくなっているので騒ぎになっているのではと考えて紅川さんの奥さんにメールを入れたようである。そしてヒバリとシーサーと青葉・千里の道行きは進む。
 
ヒバリは、か弱いアイドル歌手とは思えない速度で歩いている。青葉は付いていくのだけでも大変だが、千里は平気そうである。くっそー。負けるものかと青葉は頑張った。
 

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一行が宮古島空港に着いたのがもう2:50くらいである。空港の警備員に停められるが「チャーターしているヘリコプターが来るので」というと、空港の管制に確認した上で通してくれた。
 
空港スタッフの指示で、出発ロビーで待機した。3:15頃、ヘリコプターが到着する。これにヒバリ、シーサー兄弟、青葉と千里が乗り込むが、他の人たちには2頭のシーサーは見えないであろう。
 
「夜分遅く済みません」
と千里がヘリコプターの操縦士に言うが
 
「いや、ノロさんの指示だというから、うちも動くことにしました。普通なら急病人とかででもない限り、夜間は飛ばないのですが」
と操縦士さんは言っている。
 
ノロという存在に恐らく大きな尊敬の念を持たれているのだろう。
 
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その「ノロ」を自称したヒバリは無言で闇夜の空を見つめている。青葉が確認すると今日は旧4月1日。朔日である。もしかしたら「朔」というのがノロの儀式に重要なのかもという気がした。あとで再確認すると木ノ下先生が神がかりになった2月4日は満月であった。
 
ヘリコプターはかなり高速な機体のようである。約1時間で沖縄本島の那覇空港に着陸した。千里が「ありがとうございます」と笑顔で言ってヘリの操縦士に分厚い札束を渡している。ちー姉の得意な「予定調和」で現金の用意をしていたのかな、と青葉は思った。おそらくヘリコプターの会社の電話番号もそれで事前に調べていたんだ!
 
「確かに80万円受け取りました」
と操縦士が言って、領収証をくれた。あはは。さすがに凄い料金だ。
 
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「でも助かりました。これ、ノロさんからの心付けです」
と言って千里はポチ袋も渡す。
 
「あ、どうもありがとうございます」
と操縦士。
 
「松前社長から概略費用で200万円預かっていたんだよ」
と千里は空港のビルに入ってから青葉に言った。へー!
 

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那覇空港の外に出たところで千里が
 
「ノロさんの行き先が多分分かると思います。車で移動しませんか?」
と言うので
 
「うん。案内して」
とヒバリは言う。
 
それで空港の駐車場に駐めっぱなしにしていたライフに乗り込む。帰りの日程が不明だったのでレンタカーはいったん返せばいいのにと思っていたのだが、こういう使い方をするために、使わない日のレンタル料金と駐車料金まで払ってここに駐めておいたのだろう。こういうのもちー姉の得意な「予定調和」だ。
 
千里が運転席に乗ると、ヒバリとシーサーが後部座席に乗り込むので青葉は助手席に座った。
 
車は国道58号を北上し、やがて恩納村の木ノ下先生の自宅前に泊まった。時刻は5:30くらいである。
 
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ヒバリはその玄関の前で何かを大きな声で叫んだ。
 
すると、1分もしない内に家の中から白い装束に白い鉢巻きをした木ノ下先生が出てくる。恐らくこれを待っていたのだろう。向こうも神がかり状態のようである。心配そうにその後ろに奥さんがいたが、青葉たちを見てびっくりしている。
 
ヒバリがじっと立っている。木ノ下先生がヒバリに向かって何かよく分からない言葉を掛けた。それをヒバリはじっと聞いている。そして木ノ下先生は、予め用意していたのであろうか。緑の葉で作った冠をヒバリの頭にかぶせ、頬に何かの印を押した。
 
これはノロの継承式だ!
 
青葉はそう思った。
 

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「われはニライ村のノロなり。これより祭祀を復活させる。村人たちを起こすがよい」
とヒバリが言う。
 
すると木ノ下先生は家の中からエレキギター!を持ってくると、それを掻き鳴らし始めた。
 
たちまち近所の人たちが、何事かという様子で起きてくる。しかし起きてきた人達はみな一様に、そこに神々しい雰囲気の少女が、赤白黄色の模様の振袖を着流しにし、緑の葉の冠を付けているのを見て、圧倒される。
 
ヒバリが歩き出すと、そこに集まった人たちはみなその後に付いて歩いた。
 
例の別荘地の所まで来る。するとそのヒバリの前に立つ人物がある。
 
その人物は長い剣を抜くといきなりヒバリに斬りかかってきた。ヒバリがさっと身をかわす。その時千里が「これを使って」と言って、独鈷杵(?)を彼女に渡した。
 
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ちょうどその時、東の空から太陽が昇ってくる。するとその太陽が突然ふたつに分裂すると、片方の太陽が全てヒバリが手にした独鈷杵に吸収されてしまった。そしてその太陽を半分吸収した独鈷杵から物凄い光が飛び出すと、ヒバリに剣を振るった人物に当たる。ぎゃーっという声をあげて、その人物は消滅してしまった。
 
この不思議な戦闘はその場に居た多くの人が目撃した。
 
そして独鈷杵を手に持つヒバリの姿は青い炎のようなものに包まれているように青葉は思えた。
 
この時、ここにいる全ての人が彼女がノロであることに納得したであろう。
 
ヒバリはそのまま別荘地を少し歩き回っていたが、やがて中央付近のある場所に立ち止まった。例のサトウキビ畑が残っている場所のすぐ近くである。
 
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「ここは神の降りる場所なり。ここにて祭祀を行う」
と彼女は言う。
 
「ここは誰の土地ぞ?」
「それは不動産会社が持っているのですが」
 
とひとりの人が言った時、青葉たちが昼間見た不動産会社の社長が、数人の武闘派?っぽい部下を連れて駆け寄ってきた。おそらく「反対派が何か実力行使に出たようだ」と警備員から知らせを聞き、飛んできたのだろう。
 
「あなたたち何ですか? ここはうちの私有地ですよ。勝手に立ち入らないでください」
と社長が言った。強面の男達がその後ろに居る。
 
しかしそれに対してヒバリはその社長の前に出て言った。
 
「我はこのウタキを祭るノロなり。そなたが、ここの土地の持ち主か?」
 
すると社長はヒバリのあまりにも神々しい雰囲気に飲まれてしまったようである。ヒバリは相変わらず青い炎に包まれている。
 
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「あ、はい・・・そうなのですけど・・・何か?」
 
と突然トーンダウンしている。
 
「ここは神が降りる神聖な場所なり、そなたの土地を祭祀のため、わらわに貸してもらえぬか?」
とヒバリが言う。
 
「はい、お貸しします!」
と社長は言った。
 
これには青葉もびっくりしたが、住民達も驚いていたようである。
 

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「木ノ下先生、御自宅から香炉と香炉台にシーサーの置物を持って来てくださいませんか?」
とヒバリが笑顔で言う。
 
「分かった。誰か手伝って」
と木ノ下先生が言うと、不動産会社の社長が部下たちに
 
「お前たち手伝ってやれ」
と言った。それで腕力のありそうな男たちが4人、木ノ下先生に付いていく。そして10分ほどでそのシーサーの置物を2人で1つずつ抱えてきた。香炉を木ノ下先生の奥さんが、香炉台を木ノ下先生が持って来た。
 
「まず香炉台はここに」
と言って、それを置いてもらい、ヒバリは自分の懐から何かのお香を取り出すと、千里がヒバリに渡したライターで火を点けた。とても良い香りが周囲に広がり始める。
 
「シーサーの黄色い子はここ、白い子はここに」
とヒバリが指示する場所にシーサーを置く。するとずっとヒバリに付き従っていたシーサーの兄弟が喜んで、その中に飛び込んで行った。
 
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「あ、そうだ。おちんちんが無かったんだった」
と黄色い子が言うので青葉はそばに寄って
 
「少し待てば君のおちんちん、ちゃんと出来てくるから、すぐくっつけてもらおうね」
と言う。
 
「ありがとう。青葉さん。おちんちん無いと、僕おしっこもどうしてすればいいのか分からないや」
などと黄色い子は言っている。
 
そしてヒバリはその2体のシーサーが守る場所の少し奥、香炉台の下に、千里が渡してあげたスコップで少し穴を掘り、手に持っていた金剛杵を埋めた。
 
しかし・・・ちー姉ってライター持ってるし、スコップ持ってるし。本当に用意が良すぎる!
 
ここまで終わった所で、ヒバリはふっと緊張の糸が途切れたかのように倒れ気を失った。
 
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木ノ下先生の自宅で彼女を青葉と先生の奥さんとで介抱したが、彼女はすぐに意識を取り戻した。
 
「えへへ。私のノロ、上出来でした?」
 
とヒバリが言う。
 
青葉は目をぱちくりする。
 
「ね?今のまさか演技?」
 
「半分はね」
「へー!」
「コスモス社長にならって私もノロを演じてみるのもいいかなって思って。でも何かが降りてきたのは確か。そしてこれはノロの魂だと思った。だから私はきっとノロになれということだと思ったの。私がしゃべっていたのは半分は私に降りてきた魂のことば、半分は私の演技」
 
「やるじゃん!」
「えへへ。でも沖縄本島に移動するというのは自分で言ってびっくりしました」
とヒバリ。
 
「移動できるとは思わなかった!」
と青葉。
 
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「戦闘もまるでRPGみたいで。あれ、何だったんでしょうね」
「多分闇の存在。あれが不動産屋さんの社長を操っていたんだよ」
と青葉は言った。
 
「でもなんで私あんな派手な振袖を着流ししたんだろう?」
「たぶん祭祀に使うアガサ(別名:長実母丁字ナガミボチョウジ)の白い花、赤や黄色の実を表しているんだと思う」
 
「ああ、その代用だったんだ? 本来は白い服ですよね」
「そうそう。木ノ下先生が着ているみたいな」
 
「木ノ下先生、木ノ下先生がノロを臨時代行なさっていたんですか?」
とヒバリが訊く。
 
「うん」
と少し恥ずかしげに答える木ノ下先生はまだ白い服を着てお化粧もしている。
 
「男の人なのに?」
「きっと君につながる人物として選ばれたんだよ。おかげで僕はこの3ヶ月、ずっと女装していた」
 
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「女装楽しかったでしょ?」
「いや、楽しいの半分、恥ずかしいの半分かな。でもこいつに泣かれちゃうから、早く後継者さん来てよと思ってた」
と言って奥さんを見る。奥さんは先生にそんなことを言われて涙を浮かべている。
 
「私がノロを継ぐことになったみたいだから、先生はお疲れ様でしたということで」
とヒバリは言った。
 

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