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■春演(7)

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ふたりとも巫女服に着替えてからホテルを出る。
 
「この服装で沖縄を歩くとなんか沖縄に殴り込みにでも来た気分」
と青葉が言う。
「本土のやくざが沖縄に進出しにきたって図かな」
と千里。
 
近くのレンタカー屋さんでライフを借りた。沖縄はゆいレールで行ける範囲外に行く場合、極端に交通の便が悪くなる。千里が運転して恩納(おんな)村にある木ノ下先生の自宅に向かった。
 
「私初めて恩納村に来た時は、けっこうギクっとした」
と千里が言う。
「私たちって性別に関する単語に敏感だもんね」
「そうそう」
「沖縄の言葉で男とか女って何て言うんだっけ?」
と青葉が半ば独り言のように言うと、千里は一瞬後ろに意識をやった後
 
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「男はウィキガ、女はウィナグだって」
と言った。
 
「誰に訊いたの〜?」
「秘密。でも青葉、なんか沖縄の子たちを連れてるね」
「あ、分かる?」
「昨日飛行機に乗った時には何か普段と違うのが居るなと思ってたけど、那覇に着いてから活性化したみたいだったから、あ、きっと沖縄の子なんだと思ってた。キジムナーかな、いや、これはシーサー?」
 
「そう。私は最初狛犬ちゃんかと思ったんだけど、シーサーの兄弟みたい。東京の某所で迷子になっていたのを拾ったんだよ」
「へー。あ、オスメスじゃなくて両方男の子なの?」
「うん。この子たちどちらも男の子みたい」
 
まさかちー姉のアパートで拾ったとは言えないし。でもちー姉は私があの箱を開けてみたことは分かったのだろうか?
 
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国道から分岐して県道、更に村道であろうか、細い道を走っていくとサトウキビ畑が途切れた所に幅300-400m, 奥行き100mくらい、最近掘り返したようで土の地面が出ている一角があった。
 
「あれは何か建てるのかな?」
「何かの工場でも建てるのか、あるいはホテルか何かか」
 
「あれ?でもあそこ」
「あそこだけサトウキビ畑が残っているね」
 
広く掘り返された地面が続くエリアの中央付近に1箇所、恐らく20m x 40m 程度の広さの部分だけサトウキビ畑が残っているのである。
 
「買収に応じずにあそこの地主さんだけ頑張っているのでは」
「なんかこじれたのかもね」
 

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やがて木ノ下先生の御自宅に到着する。家の前に車を駐める。
 
「ニライ地区別荘地開発計画反対」
という大きな横断幕が掲げられている。それを見て青葉はハッとした。ニライって、このシーサーちゃんたちが居た所と言ってた場所では?
 
「ね、この別荘地って・・・」
「今見た土が掘り返されていた所かもね」
 
千里がドアホンを鳴らす。
「はい」
という中年の女性の声。
 
「おはようございます。藤吉真澄先生から紹介されて参った鴨乃清見と申します」
と千里が名乗る。
 
「ようこそいらっしゃいました」
と言って笑顔でふたりを通してくれた。どうも木ノ下先生の奥さんのようである。座敷に通され、お茶を頂く。
 
「そうそう。これは★★レコードの松前社長から言付かって参りました」
と言って、銀座の高級洋菓子店(2015年6月閉店)のマロングラッセを渡す。
 
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「まあまあ、済みません。この店のマロングラッセ、あの人大好きなんですよ。今呼んで参ります。でも驚かないで下さいね」
と奥さんは言って奥に下がる。何だ?何だ?
 
それで奥さんに連れられて木ノ下先生が出てきたのだが、驚かないで下さいねと事前に言われてなかったら、正直驚きの表情を出してしまったいたかも知れないと青葉は後で思った。
 

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「あんたら、(藤吉)真澄の知り合い?」
 
と、明らかに女性用の真っ白い服を着て、長い髪に白い鉢巻きを付け、濃厚なお化粧をした木ノ下先生は言った。
 
「お初にお目に掛かります。鴨乃清見と申します。こちらは私の妹で鈴蘭杏梨絵斗あるいは大宮万葉の名前で活動しております」
 
と千里はにこやかに笑顔で言って《作曲家・鴨乃清見》の名刺を出した。青葉も《作曲家・大宮万葉》《作曲家・鈴蘭杏梨絵斗》という2枚の名刺を出す。どちらも政子が作って渡してくれたものだ。
 
「鴨乃清見さんか! あんたなかなかマスコミに露出しないよね?」
「この3月まで学生でしたので。本業はむしろ私はバスケット選手なんですよ」
「へー!」
 
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ふーん。ちー姉はバスケット選手を名乗るのか。ソフトウェア技術者じゃなくて、と青葉は思った。
 
「ですから、作曲家としての活動は年間数曲しかないんですけどね」
「いや、その数曲が珠玉の名作だと思う。あんたとなら話してもいいかな。鈴蘭杏梨絵斗というのも聞いたことある。確か、槇原愛の曲を書いているね」
「はい。書かせて頂いております。私も高校生なもので、あまり表には出ておりません」
 
「へー。でもあんたたち、巫女さんみたいな服を着ているし、巫女なの?」
「はい。私は中学生の時から約12年ほど巫女をしています。妹は物心ついた頃からの巫女です」
「凄いね!」
 
「作曲の方の仕事では私は雨宮先生の弟子、妹はケイ先生の弟子なんですよ。それで雨宮先生が藤吉先生から相談されて、私たちが来ることになったんです。私はまあ大したことないのですが、この妹は2年前に亡くなった高野山の瞬嶽大僧正の直弟子でして」
 
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「瞬嶽さんのか!」
と木ノ下さんは言った。
 
正直、青葉は瞬嶽などという、その筋では有名ではあるものの一般の人にはほとんど知られていない名前はどんなものだろうと思ったのだが、木ノ下先生は知っていたようである。
 

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「そういうあんたたちになら話してもいいかな」
と言って木ノ下先生は半年ほど前から起きていた出来事を青葉たちに話してくれた。
 
「ここ数年来、この近辺では大規模なリゾート開発が続いているんだよ。私などもよそ者だからあまり大きなこと言えないんだけど、元々基地があった所の再開発とかはまあいいと思うんだ。しかしそれに合わせて便乗したような開発もかなりあってさ」
 
と木ノ下先生は語り出す。
 
「そんな中でこの近くのニライ地区という所にあった廃校の跡地に別荘地を作るという計画が浮上して、住民が気がついた時には、その廃校の土地だけでなく周囲のサトウキビ畑とかも、大量に買収されていたんだよ。買収は様々な名義で行われていたんで、誰も気づかなかったんだ」
 
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「ありがちですね」
「ここに来る直前、土が掘り返された所がありました」
「うん。そこなんだよ」
「1ヶ所だけ畑が残ってましたが」
「そうそう。玉城さんが頑張ってるんだ。死んでも売らないと言ってる」
「なるほど」
 
「それでその廃校のそばに古いウタキがあってさ、そのウタキは管理していたノロさんが2年前に亡くなったんだけど、相続した甥が東京の方で事業をしていたのが失敗して数億円の借金をしていて、その借金のカタに取られてしまって、地元の住民は猛反発したんだけど、業者が入ってこの2月にブルドーザー入れて、建物丸ごと潰して更地にしてしまったんだよ。あの中には貴重な琉球王朝時代の板絵や祭具もあったのに」
 
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「乱暴ですね」
と青葉は思わず言った。
 
「そのブルドーザー入れたのも完璧な不意打ちで。住民との話し合いで工事は春になるまで凍結するという同意をしていたんだよ。ところがあいつら2月4日の早朝、まだ誰も周囲の住民が起きていない内に土木機械を入れて崩してしまった。2月4日は立春だからもう春だというのが向こうの言い分で」
 
「うーん。それはやはり明確な日付を決めていなかったのも問題だと思います」
と千里が言う。
 
「うん。住民の間にもそういう意見は多かった」
と木ノ下先生。
 
「それにしてもあくどいですけどね」
と千里。
「だろ?」
 
「先生の御衣装はノロの衣装とお見受けしました」
 
「そうなんだ。実はそのウタキが崩された2月4日の晩に、2年前に亡くなったノロの霊が僕の所に降りてね。お前が自分の代わりにあのウタキを守れというお告げがあったんだ。それで僕はノロになることにした」
 
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民間の霊能者ユタと違い、本土では神社の宮司に相当するノロは、きちんと組織化されていたものなので、正式の儀式にのっとって継承が行われるのが本来なのだが、現在そういう意味での正規のノロはほとんど存在しないと言われている。強い霊感を持つ人などがノロを非公式に継承している例もある。但し。。。
 
「それで女性の格好をなさっているんですね?」
と千里が訊く。
 
「そうそう。ノロって女しかなれないんだよ。だから僕は女にならなければならないと思った。それで女物の下着を買ってきて、ずっとつけてるし、髪も元々けっこう伸ばし放題になっていたんだけど、2月4日以降一度も切ってない。お化粧も頑張って覚えた」
 
なるほど。それでこういう格好をしていた訳か。
 
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「ブラジャーもつけてバストパッド入れてるけど、これなんかいいね。癖になりそう」
 
「ああ、けっこう男性でブラジャーにはまる人いるんですよ」
「うんうん。いるらしいね。男でブラジャーつけるなんて変態じゃんと思ってたけど、締め付けられ感がいいんだよ。それで足のムダ毛もちゃんと剃ってるし、ヒゲはレーザー脱毛したし」
 
「徹底してますね!」
 
「いや、足の毛はまだ数日に1回でいいけど、ヒゲは毎日剃らざるを得ない。しかしヒゲを剃るといやでも自分が男であることを思い出す。だからそれを考えなくていいようにレーザー脱毛しちゃったんだよ」
「なるほどー」
 
「トイレもずっと座ってしてる。もういっそ去勢しようかとも思ったんだけど、女房に反対された」
 
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「先生まだ現役だったんですか?」
「実はもう10年くらい前からもう役立たずなんだよ。どうせ立たないものなら取ってもいいかなとも思ったんだけどね。前立腺肥大対策にもなるし」
 
「先生、おそらくノロをするのは一時的なものだと思います。去勢したら後で悔やみますよ」
と千里が笑顔で言う。
 
「一時的なもので済む?」
「ええ。後継者のノロが遠くない内に現れると思います」
「そうか。男の身の僕がそもそも代行してていいのかという疑問はあったんだけどね。でも週に2回は僕は完璧に神がかり状態になるんだよ」
「なるほど」
 
青葉はその神がかりというのが、奥さんが「もう我慢できない」と言っていた内容かなと推測した。
 
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「神がかりになった時の言葉は女房が記録してくれているんだけど、そのお告げに従って、2月末には住民数人と一緒に、那覇市内のゴミ処理場に行った。それでそこでウタキの拝所にあったと思われる祭具や板絵などの破片を発見した。処理場の人と交渉して、それを買い取って持ち帰った。
 
「なるほど」
「それを地元の女子高生・女子大生数人でずっと復元作業しているんだよ。君たちもちょっと見てくれない?」
「はい、拝見します」
 

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それで木ノ下先生に案内されて奥の部屋に行く。女子高生かなという感じの子が5人、作業をしていた。元々ウタキの奥部というのは男子禁制の世界である。それでこの作業も女性だけのチームでやっているのだという話であった。
 
青葉はその時、部屋の片隅に白と黄色のシーサーがあるのに気づいた。
 
「そこのシーサーもウタキにあったんですか?」
「そうそう。ウタキの入口付近にあったんだよ。このウタキにあるものの中では新しい部類で、1990年頃に奉納されたものらしい」
「へー」
 
青葉は自分の後ろにいるシーサーの兄弟が凄く喜んでいるのを感じる。間違い無い。この子たちはここに宿っていたんだ。
 
「ちょっと見せてもらっていいですか?」
「どうぞどうぞ」
 
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それで近づいて見る。どうもかなり破壊されていたのを接着剤でつなぎ合わせたようだ。
 
「その子たちも粉々になっていたんだよ。それをそこの長堂ちゃんたちがきれいにつなぎ合わせてくれて」
 
「私もそのゴミ処理場に行って、破片をかなり頑張って集めたつもりだったんですけどね。白い子の方は何とか全部破片があったのですが、黄色い子の方がちょっとだけ破片が足りなかったんですよ。それでそのあと数回またゴミ処理場にお邪魔したんですけど、どうしても足りない破片を発見できませんでした」
 
とその長堂さんと呼ばれた女子高生っぽい子が言っている。
 
「どこが足りなかったんですか?」
「お股の所なんです」
 
それで見ると、黄色いシーサーのお股の所が確かに欠けている」
 
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『きゃー、僕のおちんちんが無い!』
と青葉の後ろでシーサーの弟君が悲鳴をあげている。
 
「これ白い方を見ると、ちゃんとおちんちん付いてるんですね」
と青葉はもう1体のシーサーを見て言う。
 
「そうなんですよ。ディテールにこだわってますね」
と長堂さんは笑いながら言う。
 
「その白い子のおちんちんの部分を接合する時は、結構キャッキャッ言いながらくっつけましたよ」
 
そんなことを言われて青葉の後ろのお兄ちゃんシーサーはなんか恥ずかしがっている。
 
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