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■春演(9)

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(C)Eriko Kawaguchi 2015-07-26
 
「きれいな絵を描いてますね」
と青葉は思わず言った。それは一面のコスモス畑の中に何か尖った岩が描かれている絵だった。青葉はその情景に性的なものを感じたが、その絵はこの子のかなりの回復を表している。この絵はふつうの人が見たら絵を趣味にしている人が描いたふつうの風景画である。もっと精神を病んでいる人の絵は鬼気迫るものがあったりする。この絵にはその手の緊張感が無い。
 
「失礼しました。川上青葉と申します。鈴蘭杏梨絵斗の名前で、槇原愛ちゃんの曲を書いています」
と青葉は自己紹介する。
 
「わあ、作曲家さんでしたか。でも巫女さんみたいな服」
「巫女なんですよ。こちらは私の姉の千里です」
と言うので、千里も笑顔で会釈する。
 
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「姉妹で巫女さんなんですか?」
「そうです。私たち姉妹ともローズ+リリーのケイさんの友人で、清子さんのことを心配して、様子を見て来てくれと頼まれたんです」
 
「わあ、ケイさんから!」
「ケイさんも§§プロには随分お世話になっていて、§§プロからデビューする話もあったらしいんですよね」
「あ、聞きました! 川崎ゆり子の名前でデビューの予定だったとか」
「そうなんですよ。それをケイさん断ったから、その名前はその次にデビューすることになった、蓮田エルミさんに行っちゃったんです」
「この世界って、時々そういう芸名の流用ってあるみたいですね」
「そうそう」
 
「でも今日は何でいらしたんですか?」
「ケイさんからはたくさんおしゃべりしてきてと言われています」
「でも私、ほんとうはあまりおしゃべり得意じゃないの。アイドルしてる時は元気な子を演じて、たくさんお話できる振りしてたけど。ライブとかもフリーで話してるような振りして全部台本だったんですよ」
 
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「いいんですよ。話が途切れたら沈黙のままでもいいし、何か思いついたら話せばいいし」
「それならいいかな」
「おやつでも食べながら、お話ししましょ」
「あ、でも私カロリー制限が」
「1日くらい、いいでしょ?」
と言って青葉がヒバリのお母さんを見ると頷いている。
 

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向こうも夕食は終わっているが、冬子から託された東京ばな奈の箱を開けて、一緒に摘まみながらおしゃべりする。お母さんや紅川社長の娘さん・奥さんにも勧める。
 
「私も地方に行く時に、けっこうこれをお土産にしたなあ」
などとヒバリは言っている。
 
「これケイちゃんからの手紙」
と言ってヒバリに渡す。
 
「わあ、美しい字」
と言って手紙を読んでいる。ケイは確か書道の段を持っていたはずである。
 
「ケイさんの相棒のマリさんとかは、地方に行って美味しいもの食べられるから歌手やってる、みたいなこと言ってますね」
「マリさんって凄いですよね。何か全てに達観しているみたいで。私もああなれたらなあって思ってました。私、すぐくよくよしちゃうんですよ」
 
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「そんなマリちゃんも精神的に破綻して自殺でもするんじゃないかと周囲が絶対に目を離さずにいた時期もあったんですよ。家の中の刃物も全部鍵の掛かる引き出しにしまって」
 
「あの休業していた時期ですよね?マリさんの詩集読みましたよ。私読んでて涙が止まらなかった」
 
「心が疲れている人ほど、あの詩集は効くみたいね」
「あの3年間はマリちゃんの回復を待つ3年間だったんですよ」
「でも復活したのが凄いなあ」
「実際には半年ほどした所でロリータ・スプラウトの名前で復帰していたんだけど、ずっと正体を隠していたし、その間人前で歌ったのは数えるくらいしかなかったし」
「やはり色々苦悩してたんでしょうね」
 
「繊細でなきゃ人の心を動かすような歌は歌えないけど、ある程度図太くないと、歌手を続けて行くことはできないって、あるベテラン歌手さんが言ってましたよ」
 
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「そうかも。私にはその図太さが欠けているんだろうな」
 
「秋風コスモスちゃんなんかはある意味凄いよね」
と千里が言う。
 
「コスモス先輩、いつも明るく元気だから凄いと思ってます」
とヒバリは言うが
 
「知らない?コスモスちゃんって本当は物凄く内気なの。ステージに立つ前はいつも足が震えるなんて言ってるよ」
と千里が言う。
 
「嘘!?」
 
「あのあたりの実態を知っている人は少ないよね。コスモスさんの中学時代の同級生とかに聞くと、あんな内向的な子がアイドルを何年も続けていられるなんて信じられないって言いますよ」
と青葉も言う。
 
「全然知らなかった」
 
「コスモスさんのお姉さんの方が、アイドル歌手としての才能自体は高かったみたいね」
「そうそう。でもお姉さんはデビューできなかったんだよ。歌も上手いし、本当に明るく元気な子だったんだけど。一時期自主制作でCD出してたけど全く売れなかったね」
 
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「コスモスちゃんは、歌も下手だし、学校で友だち同士でおしゃべりしている時とかも、ひとこともしゃべらずに、ただみんなの会話を聞いているような子だったらしい」
 
「それがどうしてあんなに元気になれるんですか?」
「あの子は、元気なアイドルを演じているんだよ」
 
「そうだったのか!」
「清子ちゃんもそうじゃない?」
「それはそうだけど、私はそこまで徹底できなかったかも」
 
「自分が内向的なゆえに明るいアイドルという存在への憧れがあった。その憧れの存在を演技しているのが彼女なんですよ」
と青葉は言う。
 
「いや、あの子、事務所に最初に来た時って、何を聞かれても恥ずかしそうにして俯いているだけの、ほんとにはかない感じの少女だったんですよ」
と紅川さんの奥さんも言っている。
 
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「アイドルなんて虚像だもん。だからコスモスちゃんってアイドル歌手を演じている女優なんだよね。あの子、内気な性格だけに、小さい頃から自分で色々と物語を作って遊んでいた。だから天性の女優・小説家の才能があったんだよね」
と千里。
 
「アイドルって実像と虚像が大きく異なることはよくあるけど、彼女の場合はふだんファンに見せている姿が100%虚像だから、いい意味で開き直って居るんだよね」
と青葉。
 
「それってなんか凄い気がする。あれ?でもコスモスさんってドラマとか映画には絶対出ませんよね?」
 
「多分女優やると、うますぎて、秋風コスモスというブランドのイメージにそぐわないからだと思う」
「え〜〜〜!?」
 
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「セリフを覚えたくないからと言い訳してるよね。友だちを作らない・努力しない・敗北する、というのが秋風コスモスのテーゼとか言っているからそれでみんな納得しちゃうし」
 
「わぁ・・・」
 
「うん、あの子はだから100歳まででも《下手くそなアイドル》を続ける以外の選択肢が無い。他のアイドルみたいに20歳過ぎたらポップス歌手とかに脱皮なんてことはできないんだよね。伊藤宏美という人物と秋風コスモスというキャラは全く別人だから」
 
「そういう生き方もあったのか・・・」
とヒバリは何か考えているようであった。
 

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青葉と千里は紅川社長の実家に泊めてもらい、翌5月17日(日)も1日ヒバリの話し相手になった。それは半ばセッション、半ばただのおしゃべりという感じであった。しかし青葉はこの子、ほんとに元気になってるじゃんと思った。恐らくはこの宮古島の空気が彼女が本来持っていたパワーを呼び起こしているのだろう。
 
青葉は18,19日(月火)は学校を休むことにして母に連絡を入れ、その日はお散歩などもして、ずっと彼女と楽しい時をすごした。千里も月火は休むと桃香と会社に連絡を入れていた・・・と青葉は思ったのだが、実際に連絡したのは溝口麻依子(40minutes)と靖子さん(レッドインパルス)である。麻依子から佐藤玲央美にも連絡してもらっている。
 
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その17日の日は紅川さんの娘さんの車に乗せてもらい、ひまわりを見に行った。
 
「すごーい。きれいに咲いている」
と青葉は感動する。
 
「宮古島では1〜3月にコスモスが咲くんです。私それを毎日見に行っていたの」
とヒバリは言う。
 
「その後、でいごとかテッポウユリとか見てたんだけど、5月に入るとひまわりが見られるようになって」
 
「季節感が本土とは随分違いますね」
「そうなんですよね。人間の常識なんて、割とローカルな見識に過ぎないのかもと思うようになった」
 
「そうだね。春に桜が咲いて、夏にひまわりが咲き、秋にコスモスや菊ってのは東京や京都・福岡などの北緯35度付近の季節感に過ぎない。私が育った北海道の留萌とか旭川じゃ、ソメイヨシノなんて無かったし」
と千里が言う。
 
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「わあ、ソメイヨシノって北海道には無いんですか?」
「札幌にはあるんだよね。あのあたりが北限なんだと思う」
「なるほどー」
 
「私は北海道というと芝桜のイメージが強い」
と青葉は言う。青葉も札幌の越智さんの招きで小さい頃から何度も北海道を訪れている。
 
「うん。芝桜はきれいだよ」
と千里。
「それが宮古だと、でいごかなあ」
などとヒバリは言っている。
 
「でもひまわりというと、ヒバリちゃんの先輩の海浜ひまわりちゃんも早く引退しちゃったね」
 
「そうなんですよね。立川ピアノさんから桜野みちるさんまでは良かったんだけど、その後、海浜ひまわり・千葉りいな・神田ひとみ・明智ヒバリと連続してハズレだったと世間では言っているみたい」
などと彼女は明るく話す。
 
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「まあ歌手なんて当たりは宝くじ並みに少ないから」
と千里。
「そうそう。私はハズレくじ」
とヒバリ。
 
「でもうちの事務所も大胆ですね。女の子で詰まったら男の娘を売り出すとか。アクアが選ばれたロックギャルコンテスト、今年の応募者も可愛い男の娘がたくさん応募してきているらしいですね」
 
「えっと、アクアは別に男の娘ではなくて普通の男の子だと思うけど」
と青葉。
 
「え?うそ?女の子になりたい男の子じゃないの?」
「別に女になる気は無いと思うよ」
「でもひな祭りでは十二単(じゅうにひとえ)着てたし、ドラマでは女子中生を演じてるし」
「十二単はジョークだと思うけど。ドラマはプロデューサーにうまく乗せられちゃったみたいね」
 
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「てっきりアクアってそのうち性転換するのかと思ってた」
「いや、そういう傾向は無いはず」
「でもあんなに可愛いとおとなの男にしちゃうのもったいないよね?」
「それ周囲から随分言われて困っているみたい」
「へー」
 
「女の子の服とかたくさんファンから送られてくるみたいだよ」
「あはは。女装に目覚めたりして」
「あの子はたくさん女装させられるだろうね。でも一応普通の男の子のはず」
「私も可愛い女の子の服を贈ってあげようかな」
「いいかもね」
 
青葉たちは、ひまわり畑の前で2時間くらいおしゃべりを楽しんだ。ヒバリに気づいた高校生くらいの女の子(福岡から来た観光客らしかった)がサインをねだったら、ヒバリは快く応じていた。
 
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そしてその17日(日)の深夜。
 
日付が18日(月)に変わってすぐ、0時過ぎ。
 
青葉は何かが部屋に近づいてくる気配に意識を覚醒させた。ちー姉は?と思って隣の布団の様子をうかがうと熟睡しているようだ。青葉も取り敢えず目を瞑って寝ているふりをする。
 
障子を開けて入って来たのは、なんと明智ヒバリだ。
 
それも尋常の状態には見えない!?
 
彼女は豪華な振袖を着流ししている。赤白黄の原色が豊かな品だ。そして頭に白い鉢巻きを巻いている。
 
「****」
彼女の言った言葉が聞き取れなかった。しかしその言葉に反応して青葉の後ろに居たシーサーの兄弟が飛び出して、彼女に従った。
 
嘘!?
 
彼女はそのまま2匹のシーサーを引き連れて出て行こうとしたが、こちらに気づいたようで言った。
 
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「青葉さんとお姉さんも付いてきてください」
「分かった」
と言って青葉は起き上がったが、隣で千里も起き上がる。いつからちー姉は起きていたのだろう。
 

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神がかりになったかのようなヒバリが歩き、その後を2頭のシーサーが歩く。その更に後を青葉と千里が歩く。青葉も千里も着替える時間は無かった。寝間着代わりのTシャツとハーフパンツなどという軽装である。青葉は財布や携帯などの入ったミニトートのみだが、千里はデイパックを持っている。
 
やがてヒバリは何かの遺跡のような所に来た。
 
「ん?」
と言ってヒバリが千里と青葉の方を振り向いた。
 
「ここは男子禁制なのですが、あなたたちまさか男ですか?」
「ふたりとも生まれた時は男でした。でも性転換手術を終えています」
と千里が答えた。
「ふーん。じゃちんちん無いの?」
「もう取っちゃいましたよ」
「だったら許してやるか」
などとヒバリは言っている。
 
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