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■春分(4)

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それで窓香が出て行った後、左倉さんが青葉の所に来て言った。
 
「済みません。さっきは何か祓ってくださったみたいで、ありがとうございます」
 
「あ、気づきましたか? ちょっとたちの悪そうなものでしたけど、取り除いたからもう大丈夫ですよ。肩がずいぶん凝っていたでしょう?」
 
と青葉は言う。
 
「そうなんです!アンメルツ塗ってもサロンパス貼っても、エレキバン貼っても全然利かなくて」
 
「実際肩こりに悩んでいる人の半分以上が実は精神的なもので、その中の1%ほどに霊的なものがあるんですよね」
 
と青葉は言う。
 
「実はさきほど秋乃さんから聞いたのですが、川上さんって日本一の霊能者さんなんですってね」
 
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青葉は困ったような顔で風花の方を見る。風花がVサインをしている。
 
「まあ私は自分のできる範囲のことをしているだけですけど」
 
「あの、もしよろしかったら相談に乗って頂けないでしょうか? 御依頼料がどのくらい掛かるのか分かりませんけど、100万円くらいまでなら何とか用意しますので」
 
「そんなに取りませんよ!」
と青葉は言った。
 

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翌日の12月22日。青葉は富山市内のレストラン個室で左倉さんと会っていた。21日が日曜日、23日は天皇誕生日で、22日は休みの間に挟まれた平日である。本当は青葉としては学校を休みたくないのだが、左倉さんの相談内容が深刻な感じであったこと、相談の中心になる中学生の娘が学校に行っている間に話したいということだったので、この日に相談に応じたのである。
 
「なんかあの子、最近まるで人が変わったようなんです」
 
喫茶店で会ったその40代の母親はそう青葉に言った。
 
「幼い頃はわりと元気な子だったんです。でもあの子が小学1年生だった時に9つ年上の姉が交通事故に遭って亡くなって」
 
と母親は言う。青葉は心の中で暗算する。
 
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「亡くなられたお姉さんは高校1年生だったんですか」
「はい、そうです。昨年七回忌をしました」
 
ということは亡くなったのは2007年ということになる。そして妹は今中学2年か。
 
「随分年の離れた姉妹ですね」
「亡くなった子を出産した2年後に卵管妊娠して流産して、それで子供はもうできないだろうと言われていたのですが、6年も経ってから突然妊娠して」
 
「なるほど。私の知り合いで8つ年の離れた姉妹がいますけど、そこもやはり流産絡みで間が開いたんですよ」
 
「たまにあるみたいですね」
「でも交通事故で子供を亡くすと辛いですね」
 
「あの子は小学生の時からずっとバスケットしていて、中学でもジュニア大会で全国BEST8になって、高校は愛知県の強豪校に行って、その年インターハイで優勝したんですよ」
 
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「J学園ですか!」
「ご存じですか?」
 
「私の姉もバスケット選手でインターハイ上位まで行っていたのでJ学園の強さはよく聞きました」
「そうですか。あの子もその年は1年生なのにインターハイのベンチに座っていて、期待されていたんですよ。結局出番はほとんど無かったのですが」
「いや。あそこで1年生でインターハイのベンチに座れるって、無茶苦茶期待されていたんだと思います」
 
「その年は国体でも優勝して。そちらはけっこう出番があったと言って喜んでいました。それでその国体の優勝記念にボールペンをもらいましてね」
 
「へー」
「秋田で行われた国体だったので秋田杉を使ったボールペンだそうで。それで娘はウィンターカップでも頑張るぞと言って、あ、ウィンターカップって・・・」
 
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「分かりますよ。高校バスケではインターハイと並ぶ大きな大会ですね」
と青葉は答える。
 
実は千里がかなりバスケをやっていたということに最近気づいて勉強したものである。
 
「でもそのウィンターカップの地区予選直前に、新しいバッシューを買って帰る途中、青信号で横断歩道を渡っていたのに、強引に右折してきたトラックに轢かれて。即死でした」
 
「それは酷い・・・・」
 
と言いながら青葉は考えていた。右折してきたトラックが死角になる側の歩行者を轢いたとすれば、左側をやられたことになる。この人も昨日左側に変なものが憑いていた。何か共通の原因が無いか?
 
「J学園の監督とコーチと校長先生に理事長さんまでわざわざうちに謝りに来られたんですよ。でも私も夫も、出場できない娘の分まで頑張って優勝してくださいと言って。それでJ学園はウィンターカップでも優勝したし、その後出た皇后杯でも3回戦まで進出したんです」
 
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「高校チームがプロも出場する皇后杯でそこまで進出するのは凄いですね」
 
と青葉は言いつつ、その年ってちー姉もインターハイと皇后杯に出ているし、ひょっとしてちー姉はインターハイでそのお姉さんと対戦していたりしないか?と思った。その年、ちー姉の高校は準決勝でJ学園に負けている。
 

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「それで妹のハルなのですが、ハルは補導された時、その姉が国体の優勝記念にもらったボールペンを持っていたんですよ。なんでも学校の先輩に貸したら壊されたとかで。その修理ができないか文房具屋さんに尋ねに行ってたらしいんです。でもその日はあの子の中学は中間試験をしていたんですよ。それで『あんた何やってんの?学校は?』って声を掛けられて。それで娘が逃げようとしたもので捕まって警察に連れて行かれて事情を聞かれて」
 
「なるほど」
 
「それで私の携帯に電話があったので会社を抜け出して引き取りに行って。ところがですね」
 
「はい」
 
「娘は中間試験は全教科90点以上出して先生に褒められたんですよ。特に補導された日に行われていたはずの理科では満点だったそうで」
「え?」
「つまり、娘は中間試験の日に学校を抜け出して商店街を歩いていることなんてできなかったはずなんです」
 
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青葉は考えた。
 
こういう場合、常識的には、どちらかが身代わりだったというのが考えられる。しかし大学なら代弁したりひょっとして身代わり受験もあるのかも知れないが、中学校で、クラスメイトにも先生にも顔を知られている生徒の身代わりなんて誰にもできるわけがない。一方、親が警察まで引き取りに行ったのであれば、それが別人ということは絶対にあり得ない。
 
でも青葉はそれ以上に不思議なことがあった。こういう案件で何かの怪異のせいであれば、背中がぞくぞくとしたりするのだが、この話を聞いていてもそういうのが全然無いのである。
 

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「それから、娘は姉が亡くなって以来、凄く泣き虫になってしまって。自分もお姉ちゃんみたいにバスケット強くなるんだと言ってミニバスのチームに入っていたのも辞めてしまって。ただスポーツ自体は好きみたいで小学校高学年のクラブ活動では水泳をしていましたし、中学では陸上部に入って昨年は中体連地区大会の2000mで優勝したんですよ」
 
「それは凄いですね」
「ところがそれも今年の春くらいからどうも様子がおかしくなって」
「はい?」
 
「それまで朝はちゃんと起きていたのが遅刻がちになって」
「ええ」
「5月頃、顔に怪我していたのでどうしたの?と訊いたら転んだだけと言って。それからどうも部活をずっとサボっていたようで。でもそれにしては帰りが遅いし」
「うーん・・・」
「それとお金が」
「もしかして家の中でお金が無くなりますか?」
「はい」
と母親は辛そうに言った。
 
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つまり娘が勝手に取っているのだろう。青葉は考えてから言葉を選ぶようにして言う。
 
「もしかして、それっていじめにあっているのでは?」
「やはりそうですか? 実は私も疑って本人に訊いたのですが、そんなのないよと言うものですから」
 
まあ、親が訊いても言わないだろうね。
 
「そういうお話なら、これ私のような者に相談するより、先生とまず話し合うべきだと思います」
 

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「いや、それがですね」
「はい」
 
「その警察に補導された少し前から、また元気になって」
「へー!」
 
「毎朝ちゃんと遅刻せずに学校に行くようになって」
「ほほお」
 
「でも陸上部は辞めるといって、退部届を出すからというので印鑑を押しました。どうも陸上部自体、今年の春に顧問の先生が交代してから、その先生とあまり合わなかったのもあったようです」
 
「ああ、それは辛いですよね。でも元気になったのなら良かったじゃないですか?」
 
「ところがなんか違和感があるんですよ」
「はい?」
 
「あの子、凄く元気な時と、夏頃までと同様におどおどしている時の両極端があって」
「なるほど」
「私服もこれまで可愛い系の服がずっと好きだったのが、その元気になっている時はパンツルックが多いんですよね」
「ああ」
 
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「それとちょっと良くない噂を聞いて」
「ええ」
 
「あの子、なんかたちの悪い子たちと付き合っているんじゃないかと。これ、あの子を幼稚園の頃から知っているお母さんが、私にだけこっそり教えてくれたんですが、その人のお友達が、平日の日中に、ゲームセンターで、いかにもガラの悪い感じの男子中学生数人と一緒にいたのを見たと言って」
 
「それ、その子たちに脅されていたのでは?」
「そのお友達もそう思って、場合によってはうちの娘を保護してあげなきゃと思ったらしいんですが、見ていたらむしろうちの子がその子たちに命令しているようだったと」
 
「へー」
 
「でもですね。うちの娘は、2学期に入ってから無遅刻無欠席で偉いと先日も担任から褒められたんですよ」
 
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青葉は確信した。
 
これはドッペルゲンガーだ。
 
元気にしている時とおどおどしている時とがあるというのであれば、普通なら躁鬱病が考えられる。明らかに性格の違う2人がいるという場合、多くは解離性同一性障害(俗に言う多重人格)だ。
 
そして解離性同一性障害が進むと、本人がその解離しているもうひとりのキャラを認識している場合もある。これはいわゆるイマジナリーフレンドと言って、実は正常な人でも幼い頃はイマジナリーフレンドを持っている人がいる。しかし解離性同一性障害の人が持つイマジナリーフレンドは物凄く存在感が強い。本人もそれが自分の心の中の存在であることに気づかない。
 
そしてこの心の中の別人格は、しばしば、いわゆるイブホワイトとイブブラックの事例のように本人と全く正反対の性格を持つ場合がある。
 
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二重人格の別人格が不良少年たちと付き合っているという話であれば1986年のテレビドラマ「ヤヌスの鏡」(杉浦幸(みゆき)主演−おニャン子の杉浦美雪とは正真正銘の別人)の例などもある。
 
もっと古い物語では、1972年のオカルト映画で『悪を呼ぶ少年』というのがあった。原題はThe Otherで、このタイトルが既にネタバレになっている感もあるのだが、主人公は「出産時間差のため生まれ星座が異なる」一卵性双生児の男の子。片方は良い子で片方が邪悪な子なのだが、この映画の中でカメラは1度たりともその兄弟を同時には映さなかったのである。
 
(全くの余談だが、この物語の中盤に兄弟が見せ物小屋に忍び込むシーンがある。「ふたなり」の見せ物で、兄弟がドキドキしながら見ているとステージに出てきた人物が服を脱ぐのだが、立派なバストがある。それで主人公の少年は『女の人だよね』と思う。しかしその後、ステージ上の人物はお股の茂みの中から立派なペニスを出してみせる。『えー?男の人なの?』と主人公は混乱する:原作にあったシーンだが映画でもこのシーンを流したかどうかは不明。そもそも何のためにこういうシーンがあったのかも意味不明)
 
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ドッペルゲンガーは本体とは絶対に同時に同じ場所には現れないという伝説があるが、それは実際には普通の解離性同一性障害、いわゆる二重人格で、同時に双方が現れることが物理的に不可能であるからではないかと青葉は思っている。
 
しかし、これは科学者は絶対否定すると思うのだが、イマジナリーフレンドが他人にも見えるようになり、実際に本体とイマジナリーフレンドの双方が別々の場所で行動している場合があると青葉は考えている。
 
これは実際には自分の精神の一部を飛ばしているもので、安倍晴明などが使役していた「式神」に近いものだと青葉は考える。青葉の知合いには式神の類いの使い手が結構いる。北海道の天津子はチビと呼ばれている虎の眷属を使っている。この虎はかなりの存在感を持っており、霊感の強い人には結構見えるようである。
 
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青葉も数人の眷属を使っているが、天津子のチビほどの存在感は無いので、彼らを見られるのは、トップレベルの霊能者に限られる(但し見えなくても霊感のある人には「何となく感じられる」ようである)。
 
本人と見まがうばかりの姿を取った式神というのは、青葉も瞬嶽師匠の高弟で瞬角さんという人が使っていたのを1度見たことがあるだけである。彼のお寺を訪問した時、玄関の所で確かに瞬角さんが檀家の人と話しているのを見た。それで「今行くからあがって待ってて」と言われて中に入り、奥の部屋に行ってみたら「おお、待ってたぞ」と言われたのである。あれは玄関の所にいたのが、瞬角さんの式神だったとしか思えない。
 
しかしその件に関して、瞬角さんはこちらが尋ねても何も答えなかった。その瞬角さんも今はもう亡い。あの人には色々聞きたいことも多かったなと青葉は思う。
 
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そもそも式神を人間と同じサイズに出現させてちゃんと動かすということはその式神のために人間1人分のエネルギーを使うということになる。それが生身の人間にできることなのか、青葉は疑問を感じる。青葉は以前、福井県を走るバスの中から、眷属のひとりを千葉県の彪志がバイトをしていた場所まで飛ばして、彼の危機を救ったことがある。しかしそのために無茶苦茶エネルギーを使った。こちらは夜行バスの中で半ば寝ていたからできたようなものである。
 
霊能者の中にはけっこう生き霊を遠くまで飛ばせる人がいるが、生き霊を飛ばしている時は自分の3分の1くらいをそちらに取られている感じで、本体は物凄く疲れやすいし、霊的な防御まで弱くなると、皆言っている。
 
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だから、自分の分身をどこかに出現させてそれを動かすなんてことをしている時は、本人はほとんど寝ているのでないと、あり得ない気がするのである。
 
 
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