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■春分(2)

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10月上旬。千里は大阪で「子作り」をした後、東京に帰ろうと自分のインプを運転していて、少しぼんやりしていたら、いつの間にか琵琶湖の北東岸を走っているのに気づいた。本来は米原JCTは直進して名神を走り続けなければならない所をなぜか分岐して北陸道に入ってしまったようである。
 
あれ〜? なんで私こちらに来ちゃったのかなと思うが、自分が道に迷う時はその理由があるんだと言われていたことを思い出す。
 
それで取り敢えず賤ヶ岳SAで停めて青葉たちへのお土産にお菓子を買ってから、北陸道をそのまま走り、小矢部砺波JCTで能越道に分岐して高岡ICで降りる。ところが青葉の家(桃香の実家)に行ってみると、誰も居ない。考えてみたら月曜日なので、青葉はふつうに学校に行っているし、朋子も会社に出ているのだろう。それで折角来たしと思い、お土産のお菓子はメモを付けて郵便受けに放り込み、桃香の好きな鱒寿司でも買って帰るかと思い、8号線を富山方面に向かって走った。
 
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富山空港の近くにある笹義というお店で鱒寿司の輪っぱを1つ買う。ここが桃香のお気に入りのお店なのである。
 

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それで車に戻ろうとしていた時、千里は中学生っぽい少女が竹刀(しない)を持って歩いているのを見かけた。普通なら別に見過ごすところだが、千里は気がついた時には彼女に声を掛けていた。
 
「ね、君、今日は学校無いの?」
 
彼女は千里を見ると
 
「お姉さん、補導員か何か?」
と訊く。
 
「ううん。私は通りすがりのバスケットボール選手」
「へー! バスケットするの?」
「中1の時から11年半やってるよ」
「すごーい! あれ?だったら今24歳?」
「まだ23歳。私、早生まれだから」
「すごーい。まだ18-19歳に見えた」
 
ああ確かに私って若く見られがちみたいね。本当は毎年100日余分に修行してるから実は今は歴史年齢より2歳くらい上のはずなんだけど、などと千里は思う。
 
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「ね、お姉さんバスケット教えてくれない?」
「いいけど。でも竹刀はバスケには使わないかな」
「ああ。これ? さっきちょっと別の中学の子と果たし合いしてきてさあ」
「元気だね」
「これは念のため持って行っただけで、実際には素手で倒したよ」
「偉い偉い。喧嘩は道具使っちゃいけない。お互い素手でやるもんだよ」
「お姉さん、話分かるね」
 
どうも少女は千里のことが気に入ったようである。
 
「まあ取り敢えず車に乗りなよ。そんなの持ってる所、おまわりさんに見付かると面倒だよ」
「そうだねー」
 
それで千里は彼女を車に乗せ、近くの市民体育館に向かう。
 
「実はさ、うちの中学の女子生徒がそこの男子生徒にレイプされて妊娠したんだよ」
「生臭い話だね」
「赤ちゃんはうちの中学の女子生徒でお金出し合って中絶したんだけどね。こういうの警察に届けたら、被害者のほうが記者とかに追いかけ回されてひどい目に合うじゃん」
「うん。全く日本はひどい国だよ」
 
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「それでうちの中学の番長してる子が、話付けちゃると言って、加害者の子を締め上げて中絶費用は結局そいつに全額出させたんだ」
「いい話じゃん」
 
「ところがそれを向こうの中学の番長が気に入らんと言い出してさ。果たし合いだって言ってきたんだけど、被害に遭ったのは女なのに、男同士で決着つけるなんて不愉快じゃん」
 
「まあそういう考え方もあるかもね」
「だから私にやらせてよと言って、それで私が向こうの番長倒してきた」
「へー、男の子に勝ったんだ?」
「私はそこら辺の人間の男には負けないよ」
「まあ、そういうのもいいんじゃない?」
 
と千里は微笑んで言った。
 
「やっぱ、お姉さん、話が分かる人みたい。名前教えてよ」
「私は千里。君は?」
「私はアキ」
 
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と少女は言った。
 

市民体育館の駐車場にインプを駐め、少女と一緒に中に入る。千里はいつも車にバッシュとボールを積んでいる。
 
「君靴は?」
「あ、適当に」
 
などと言うので、千里が窓口で申し込む。1時間借りることにする。この子を昼休みには学校に送り届けたい。
 
それで
「1時間借りたよ」
と言って振り向いた時、そこには戸惑うようにしてバッシュを手に持ち立っている、はかなげな少女が居た。
 
「君、アキちゃんだよね?」
と千里が尋ねると
 
「えっと・・・・私ハルです。ここどこ?」
などと彼女は訊く。
 
「市民体育館だけど」
「私、なぜここに居るの?」
「君がバスケの練習をしたいと言うから連れてきたんだけど。君もバッシュ持ってたんだね」
と千里は答えるが、おいおい、これこの子が知らないうちに拉致されてきたなんて騒いで、私、未成年者誘拐に問われないよね?と心配になる。
 
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「あ、このバッシュお姉ちゃんのだ」
 
千里はもしかしてこの子、さっきアキと名乗った子の双子の妹で「お姉ちゃんのバッシュ」ってそのアキの方のバッシュなのかな?と思った。
 
「バスケの練習する?」
「してみたい!」
と彼女が言うので、千里は微笑んで
 
「1時間借りたから。それで少し練習してから、お昼には君を学校に送り届けるよ」
と言った。
 
それで彼女がバッシュを履く所を見ていたのだが、一度も使ったことのないバッシュのようで、そもそも紐がまとめてある。千里は彼女に紐の通し方から教えてあげた。
 
「このバッシュ、君にはまだ少し大きいみたい」
「私、バスケまたやろうかな。それでこのバッシュが合うくらいになる頃には少しは強くなれるかな」
「かもね。以前もやってたの?」
「小学1年の時にちょっとだけね」
「ふーん」
 
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千里はハルと名乗った子がバスケ自体は事実上初心者であるものの、運動神経が非常に良いのを認識した。
 
何よりも走るスピードが速い! 下半身を何かのスポーツでかなり鍛えているようで、走ってきてピタリとトラベリングにならないように停止することができる。
 
ドリブルもパスも初心者ではあったものの、千里は基本を丁寧に教えてあげる。
 
「まずはチェストパスをしっかり覚えるんだよ。相手の胸を見て、しっかりと両手で押し出す」
と言って実際に彼女の両腕をつかんで投げる所の練習をする。
 
「お姉さん、腕が凄く太い」
「まあU18とかU21とかの日本代表とかもしたし」
「すごーい!」
 
「女の子らしいということとね、腕や足が細いかどうかって関係無いんだよ。身体を鍛えている女の子に魅力が無いんだったらオリンピックのゴールドメダリストはお嫁に行けないじゃん」
「ですよね〜」
「君って凄く運動神経いいもん。腕立て伏せとかも頑張りなよ」
「そうだなあ」
「腕立て伏せ頑張ると胸の筋肉が発達するからおっぱいも大きくなるよ」
「頑張ります!」
 
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「ハルちゃんはバスケは何でまたやってみようと思ったの?」
「お姉ちゃんがバスケ強かったの。もう死んじゃったんだけどね」
「へー!」
 
と言いながら、千里は、じゃさっき私が話していたアキちゃんって、もしかして幽霊?などと内心冷や汗を掻きながら考えていた。
 

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2014年12月21日。
 
この日はローズ+リリーの富山公演があり、青葉は冬子から出演しない?と打診された。
 
「サックス吹くんですか?」
「うん。オープニングに七星さんとふたりで吹いてもらえないかと思って」
「私、下手ですよ〜」
「そんなことはない。それと『苗場行進曲』というのをやるんだけどね」
「はい?」
「青葉たちの学校の合唱軽音部の子たちに楽器を演奏しながら行進してもらえないかと思って」
「私たち、吹奏楽部とは違ってマーチングとかはしませんけど」
「構わない構わない。ギターやベースを掻き鳴らしながら行進してこそ苗場らしいじゃん」
「確かにそうですね!」
 
ということで青葉たちは部ごと出ることになったのである。公式の要請はレコード会社から出してもらい、★★レコードの北陸支社の営業さんが学校に来て校長・顧問と話し合い、学校側からも許可が出た。
 
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当日、青葉たちは話を聞いて急遽参加することになった3年生も含めて32名が高岡駅に集まった。この部はほとんどが女子なので、みんな当然女子制服を着ている訳だが、1人、1年生の翼だけは、(男子なので)男子制服を着ている。
 
「なんで翼、男子制服なのよ?」
「え? そんなこと言ったって僕、男子だし」
「でも折角、女子制服で揃っているのに男子制服の子がまじってたら変だよね」
「じゃ、僕、行進参加は遠慮しましょうか?どうせ僕、ピアノ抱えては行進できないし」
 
「心配ない、心配ない。君のためにこれを用意した」
 
と言って女子制服が1着出てくる。
 
「さあ、着てみよう」
「え〜〜〜!?」
 

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そういう訳で32名の《女子》が1時間後、富山駅から出てローズ+リリーのライブ会場、オーロラホールに向かっていた。
 
まだ開場前なので、会場前には大勢の観客が詰めかけて入場を待っている。青葉たちは裏手の楽屋口に行く。警備員さんが立っているので、予め渡されていたバックステージパスを見せる。
 
「T高校の生徒さん32名ですね。じゃ数えますから1人ずつ通って下さい」
というので、みんな楽器を持ったまま通過する。
 
翼が通る時に警備員さんが「あれ?」というので翼はドキッとする。
 
女子制服着てるの変だった?
 
と思ったら
「君は楽器は持ってないの?」
と言われる。
 
「ぼく・・・、いや、わたしピアノ担当なので手ぶらです」
と翼は答える。
 
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「ああ、さすがにピアノは手で持てないよね」
と警備員さん。
 
「スタインウェイのコンサートグランドは480kgですよ」
とひとつ前に通ったユーフォニウム担当の麻季が言う。
 
「480か。女子高生なら10人がかりかな」
と警備員さん。
 
「20人要るかも」
「でも君の楽器も大きいね」
「これは4kgくらいです。ピアノの100分の1ですね」
「それでもずっと抱えてるとけっこう大変でしょ?」
「重いと思ったら、猫のルイちゃんに持たせてます」
「君んちの猫も大変だね!」
 
そんな冗談(?)も言いながら全員通過する。
 
「確かに32名ですね。あれ?女子生徒32名と引率の女性教師1名と書いてあるけど」
と警備員さん。
 
「すみませーん。顧問の今鏡先生は持病の癪(しゃく)が差し込んで緊急に帝王切開で三卵性双生児を出産中で」
と3年の郁代さんが訳の分からんことを言う。
 
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「はあ!?」
 
「代表は代わりに私が務めます。連絡事項がありましたら清原で呼び出して下さい」
と空帆が言った。
 
新部長の青葉が個別でも出演して忙しいので、新副部長の空帆が代わって今日のまとめ役をしているのである。
 

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廊下を歩いて楽屋方面に行く時に翼が言う。
 
「なんか女子生徒32名で届けられていたみたいですけど?」
「うん。だから翼、ちゃんと通用口を通過できて良かったね」
「何なんですか? この計画性は?」
 
と翼は抗議した。
 
それで歩いていると、向こうでケイのお友達の秋乃風花さんが40代くらいの女性と立ち話しているのに青葉が気づく。
 
「おはようございます、秋乃さん」
「おはよう、青葉ちゃん。凄い人数だね!」
「苗場行進曲に出場するんですよ」
「おお、よろしくねー。あっ、控室に案内するね」
 
と言う。すると一緒に居た女性が
 
「君たち、それは高岡T高校の制服だっけ?」
と言う。
 
「はい、そうです!」
と青葉たちが元気に答える。
 
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「越中テレビの者ですけど、あとでちょっと取材させてもらっていいですか?カメラの人呼ぶから」
などと言っている。
 
「いいですよー」
と答え、秋乃さんに案内され控室に入る。
 

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中に以前会ったことのある鈴木真知子ちゃんや松村市花さんがいるので会釈する。
 
「たくさん来たね!」
と鈴木さんが言う。
「おはようございます、鈴木さん」
と青葉が言うが
 
「おはようございます、川上さん。でも同い年だし名前呼びにしようよ」
と鈴木さん。
 
「そうだね、真知子ちゃん」
「うん。よろしく、青葉ちゃん」
 
「この人どなた?」
と部員たちから質問が出るので青葉が紹介する。
 
「ケイさんのヴァイオリンの姉弟子で、鈴木真知子ちゃん」
と紹介する。
 
「姉弟子? 妹弟子じゃなくて?」
「中学生の頃のケイさんが、当時小学生の真知子ちゃんにヴァイオリンを習っていたんだよ」
「凄っ!」
「天才少女ヴァイオリニスト?」
「真知子ちゃん、よかったら何か弾いてもらえる?」
「いいよ」
 
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それで真知子ちゃんがヴァイオリンを取り出すと自分でもヴァイオリンを弾く2年生の杉本美滝が
 
「それ、物凄く高そう」
と言う。
 
「そんなことないですよ。3万ユーロで買ったから」
と真知子ちゃん。
 
「3万ユーロって何万円だっけ?」
「今150円くらいだから450万円」
「きゃー!」
 
「私が買った時は1ユーロ、100円を切っていたんですよ。だから300万円くらい」
と真知子ちゃん。
 
「いや、それでも充分高い」
 
そして真知子ちゃんがカルメン変奏曲の一節を弾いてみせると
 
「かっこいいー!」
「うまーい!」
という声が掛かっていた。
 

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