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■春分(3)

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その時、楽屋にスターキッズの七星さんが入ってくる。青葉を見て
 
「おっす、青葉」
などと言うので
 
「おはようございます、七星さん」
と青葉も挨拶する。
 
七星さんの顔は知っている人も多いので、部員たちが騒ぐ。しかし空帆が何か考えている様子。
 
「どうしたの? うっちゃん」
「いや、今ふたりの挨拶聞いてて突然思いついたけど『おっす』ってもしかして『おはようございます』の短縮形かな?」
と空帆が言う。
 
「うん。そうだよ。君は清原さんだったよね?」
と七星さんが言う。
 
「覚えていてくださいましてありがとうございます。清原空帆です」
「『おはようございます』が『おはよっす』『おはっす』とかになって最後はとうとう『おっす』になってしまったらしい。明治時代に海軍で広まったとか、京都の武道学校の生徒たちの間で広まったとか言われるけどね」
 
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「なるほどー」
 
「さて、準備準備。オープニング、青葉はこれ着て」
と言って渡された衣装は狩衣っぽい。
 
「これを着るんですか?」
「コキリコ演奏するから」
「コキリコなんですか!?」
と青葉が驚いたように言う。
 
「連絡・・・行ってたよね?」
「聞いてません。てっきり『眠れる愛』でも吹くのかと思ってました」
 
ローズ+リリーの新譜『雪月花』に入っている『眠れる愛』の音源では実際に青葉がサックスを吹いている。
 
「それも後でやるけどね。じゃ譜面も・・・」
「見てません」
 
「先々週、ケイの所に行ったら、その日はケイが出かけてたからマリに渡したんだけど・・・・」
「マリさんじゃ無理です」
「だよなあ。あの子、天国の住人だから」
 
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と七星さんも諦め気味だ。
 
「風花ちゃん、この譜面コピーしてくれる?」
と言って七星さんが譜面を秋乃さんに渡している。
 
「行ってきます」
と言って飛びだしていく。
 
「それで譜面は今から覚えて」
「分かりました!」
 

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それで七星さんは赤い狩衣、青葉は青い狩衣を着るので、各々服を脱いで着替える。が、その時、近くで驚いたようにして俯く子が居る。
 
「ん?」
と須美が気づいてそちらを見る。
 
「あ、翼か」
「あのぉ、ここもしかして着替えとかもするんですか?」
「まあ女性用控室だから」
「僕、外に出てます」
「だめだよ。連絡事項とかあるかも知れないし」
「えー!?」
 
「君は今女子高生なんだから、別に女性が着替える場所に居てもいいと思うけど」
「まずいですよー」
「じゃ、目をつぶっていればいい」
「そうします!」
 

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オープニングはその青葉と七星さんのツインサックス(ふたりともYanagisawa A-9937PGPというピンクゴールドの製品を使用している)をフィーチャーした「コキリコ」(富山県五箇山民謡)であった。
 
実際に五箇山(ごかやま)のお祭りでも使用する「ささら」を持った地元の人にも入ってもらい、踊ってもらっている。コキリコの唄に関してはマリは半日お稽古を受けただけだが、ケイは民謡の名取りで、しかも五箇山の近く高山の出身でもあるので、コキリコは幼稚園の頃から唄っていたらしい。それで地元の人にも充分聴きごたえのある唄になっていたようであった。
 
オープニングの演奏の後、七星さんは元々本来の衣装の上に狩衣を重ね着していたので舞台袖でさっと狩衣を脱いで再度ステージに出て行ったが、青葉はいったん控室に戻り、次に『眠れる愛』に出るため別の衣装に着替える。他にも何人かの伴奏者が忙しく出入りしては、着替えたりしているので、その度に翼は目をつぶっていた。
 
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その青葉が『眠れる愛』の出番を終えて次は『苗場行進曲』に出るため制服に着替えていたら
 
「こんにちは〜」
と言って、最初に出会ったテレビ局の人がアナウンサーっぽい若い女性と大きなテレビカメラを持った女性と一緒に入ってくる。
 
テレビ局の人たちとは、『コキリコ』『眠れる愛』にも出た青葉のことについてはインタビューでは触れないことにして、純粋に高岡T高校の合唱軽音部の課外活動というのに焦点を当てて質問をすることで合意した。
 
「合唱軽音部って変わった名前ですね?」
「昨年度までは合唱部と軽音部だったのですが、人数が少なくて統廃合の対象にするぞと言われたので合体しました」
「それで合唱の大会と軽音の大会の両方に出ています」
 
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インタビューに主として答えているのは空帆と日香理である。
 
「色々お話聞いていたら、他の地区のライブでは吹奏楽団の人たちのマーチングをした所が多かったらしいですね」
「そうなんです。でも私たちが出る『苗場行進曲』という曲、元々が毎年夏に新潟県の苗場で行われているロックフェスティバルのために作られた曲なので、私たちのような軽音の楽団が出るほうが、よりふさわしいとケイさんから言われたんです」
「なるほどー、それで軽音なんですね」
 
「みんな各々楽器を持って演奏しながら行進します」
「ドラムスとかはどうするんですか?」
「エアードラムスで」
「スティックだけ持って歩きます」
「ピアノもエアーピアノです」
「ピアノは指を動かすだけで」
「チャイコフスキーのピアノ協奏曲をダイナミックに弾きながら」
 
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このインタビューの様子は多少編集された上でローカルの情報番組で10分間も流されたらしい。
 

インタビューが行われていた間、青葉はカメラの後ろに立ってストップウォッチを持っている女性がずっと気になっていた。最初に廊下で会った、秋乃さんと立ち話をしていた人である。
 
それで撮影が終わった後で、その女性の所に行く。
 
「済みません」
「はい」
「ちょっと肩にゴミが付いていますよ」
 
と言って、彼女の左肩を払う(祓う?)。
 
「あ、ありがとう」
「いえ」
 
と言って青葉は部員たちの所に戻り、ピンクのサックスを手に持った。
 

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青葉たちが『苗場行進曲』に出場するのに出て行く。ステージの撮影はレコード会社が許可を出さなかったものの、レコード会社担当の氷川さんは資料映像として★★レコード側でもステージは全部撮影しているので、その画像を後でコピーしてあげますよと約束してくれた。それで撮影隊は彼女たちがステージまで上がっていくところと、降りてくる所だけを撮影することになった。
 
彼女たちが出て行った後、控室は急に静かになった。残っているのは最近事実上のローズ+リリーのマネージャーと化している風花と、さきほど青葉が肩の所に付いていた(憑いていた)ゴミを払って(祓って)あげた女性、左倉さんだけである。★★レコードの氷川さんは舞台袖に行っているし、UTPの甲斐さんはお使いに出ている。
 
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控室の中で、左倉さんが風花に言った。
 
「元気な子たちですね」
「いや女子高生32名のパワーはさすがに凄いです。自分の高校生時代を思い出してしまいました」
と風花。
 
「やはり軽音なさっていたんですか?」
「軽音は有志でバンド組んで1度だけ大会に出たのですが、それより中学高校の6年間、私は合唱部にいたんですよ」
 
「わあ、合唱もいいですね」
と言ってから彼女は突然、愁いの表情になる。
 
「どうかなさいました?」
「実はさっきのインタビューの時に突然亡くなった娘のこと思い出して」
「お嬢さん、高校生で亡くなられたんですか」
「ええ。16でした。昨年七回忌を済ませたのですが」
「じゃ、生きておられたら今はOLでもしてたか、ひょっとしたら結婚して赤ちゃんできていたり」
 
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「実はそんなことばかり考えるんです! 死んだ子の年を数えるなとは言いますけどね」
「お子さんはその人だけですか?」
 
「その子の前に生まれた子は生まれてすぐ亡くなって。出生届けと死亡届を一緒に出しました」
「わあ」
「その後、その子が生まれて、その次の子は今度は流産して」
「あらら」
「卵管妊娠だったんですよ。でその時卵管を傷つけてしまって、それでもう妊娠はできないと言われたんですけど」
「あら〜」
「でもそれから6年も経ってもうひとり出来たんです」
「それ、反対側の卵巣から出てきたんでしょうね」
「お医者さんもそんなことを言ってました」
 
「じゃそのお子さんは希望の光ですよね」
 
と言いながら風花は過保護に育っていなければいいがと余計な心配をする。4回妊娠して3人出産して、結局今1人しか生き残ってないというのは随分運も悪いが、親もその子に愛情を注ぎすぎてしまうこともありがちだ。
 
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「そうなんですけどねぇ」
と言ったまま、悩むような表情になる。風花はその表情を読みかねた。
 
「すみません。こんな個人的なこと話してしまって」
「いえ。いいですよ。世間話の範疇で」
 
「あれ?」
「どうしました?」
「いえ。ここ数年ずっと左肩が痛かったのが急に何ともなくなったような気がして」
「へー」
「夫は五十肩だろうとか言って。せめて四十肩と言えよと」
 
そんなことを言うので風花も微笑む。しかし左倉さんはハッとしたように言った。
 
「さっき、女子高生の子、あのピンクのサックス持っていた子が私の肩にゴミが付いているとか言って払ってくれて。それで肩の凝りが取れたのかも」
 
「ああ、それはあり得ますね。ピンクのサックス持っていた子なら、川上青葉ちゃんと言って、日本で五指に入る凄い霊能者なんですよ」
 
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「えー!?」
「たぶん、何かが取り憑いていたのをお祓いしてくれたんですよ」
「わぁ・・・」
 

そこに甲斐窓香が戻って来るが、鱒寿司の輪っぱの入った袋を両手に持っている。
 
「お疲れ様〜」
と風花が声を掛ける。
 
「済みません。風花さん。まだあるんで運ぶの手伝ってもらえません?」
「OKOK」
「あ、私も手伝いますよ」
と左倉さんも言ってくれて一緒に通用口の方に行った。
 

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『苗場行進曲』の演奏を終えたT高校の合唱軽音部員たちが戻って来る。一緒にケイとマリ、七星さんも入ってくる。
 
それでケイとマリが前半着た衣装を脱ぎ、汗を掻いた下着も交換するのに上半身裸になってしまうと、それを見た翼は慌てたように部屋の外に飛び出して行った。
 
「ん?どうしたのかな」
「あの子、女子制服は着てるけど実は男の子なんで、遠慮したんだと思います」
と青葉。
「へー。別に気にすることないのに」
とケイ。
「私たち、けっこう男性の目線とか気にせず舞台袖で急いで着替えたりすることもあるもんね」
とマリも言っている。
 
しかしそこに窓香が
「おやつ代わりに鱒寿司買って来ました」
と言うと
「頂きます!」
と言って、みんなそれに飛びつく。池の鯉に餌をやったかのような凄い騒ぎである。
 
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「20個買って来ましたから足りるとは思いますけど、足りない!ということでしたら、また買って来ますから」
などと窓香は言っている。
 
するとそれを見たマリが
「あ、鱒寿司、私も好き〜」
などと言うので、窓香は
 
「マリさんのは別途ちゃんと買ってあります」
と言って、マリの前に輪っぱをどーんと積み上げた。
 

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幕間を経て、またマリとケイ、七星さんが後半のステージに出て行く。T高校の合唱軽音部員たちはまだ騒ぎながら鱒寿司を食べている。
 
「なんかあっという間に無くなりそうだよ」
と風花。
「少し追加で買って来ます」
と窓香が言う。
 
「あ、甘い物もあったら歓迎です」
などという声もある。
「どこかお勧めあります? この時間に開いているところで」
と窓香が彼女たちに訊く。
 
現在既に夜8時前である。多くの店はもう閉まってしまう。
 
「富山駅の地下街のお菓子屋さんなら遅くまで開いてますよ」
「柔らかいクッキー系のものが好きです」
「じゃ、行ってくるね」
 
と言って窓香は飛び出して行った。
 

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