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■春暉(10)

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「こんにちは。醍醐春海こと村山千里の妹で、青葉と言います」
 
とアパートに着くと青葉は織絵に挨拶した。
 
「どこかで会いましたっけ?」
と織絵が訊く。
 
「直接お会いしたことはなかったと思います。ローズ+リリーの『女神の丘』という曲のPVに私が出演したので、それをもしかしたら目に留められたかも」
 
「ああ、あのPVで舞を舞っていた人だ。巫女さんのコスプレして」
「実はコスプレじゃなくて本職なんですけどね」
「そうだったんだ!」
 
「ちょっと手を貸してください」
「はい」
 
それで青葉は左手で織絵の左手を握ったまま、いろいろおしゃべりをした。
 
「だったら、千里さん、玲羅さん、青葉さんで3人姉妹なんですか?」
「玲羅さんは千里さんの実の妹さんです。私は東日本大震災で両親、祖父母、に姉まで失ってひとりで途方に暮れていた所を千里さんに保護されて、妹にしてもらったんです」
 
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「そうだったんだ? それは辛かったね」
「あまりにも凄すぎて、1ヶ月後くらいでしたよ。初めて泣いたのは」
「それに比べたら、私は大したことないな」
 
青葉の身の上を聞いて織絵の心の中に自分も頑張らなければという気持ちが湧いたようであった。
 
「最初、千里さんか一緒に行動していた桃香さんが私の後見人になってくださるという話だったんですが、それだと私が成人する2017年まで、いわば子連れということになって、結婚の障害になるからと言って、桃香さんのお母さんが私の後見人になってくださったんですよ。ですから、私は桃香さんとは法的にも義理の姉妹なんです」
 
「なるほどー。だったら、私も桃香の元恋人ということで、青葉ちゃんの叔母みたいなもんだ?」
「そうかも!」
 
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「みんな親戚ですね」
と玲羅も楽しそうに言った。
 

「天津子、千里姉ちゃんと知り合いだったんだね」
 
と青葉は天津子に言った。北海道には1週間滞在することにしたのだが、折角北海道に来たからということで、青葉は足を伸ばして旭川に天津子を訪問していた。
 
「なぜ、そのことを知らなかった?」
と天津子が言う。
 
「だって、ちー姉も天津子も言わないんだもん!」
「私はそんなことを青葉が知らないなんて、思いもよらなかった」
 
うーむ。。。。
 
「青葉って、魔術とか密教とかについては異様に詳しいけど、人間の営みに関してはほんっとに無知だよね」
 
「なんか最近、誰かにも同じ事を言われた気がする」
 
天津子とは周囲数kmに人が居ない山奥に入って龍笛対決をしたものの、近くでたくさん雪崩が起きたようであった。
 
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「誰も巻き込まれなかったよね?」
と青葉が言ったが
 
「ウサギさんが2頭お亡くなりになった」
と天津子。
 
「ウサギさん、ごめんなさい」
「せめて食べてあげて供養しよう」
「それ誰が取りに行くのさ?」
「チビ行っておいで」
 
と天津子が言うと、天津子の眷属の虎が山の中に走っていき、10分ほどで死んだウサギを2匹くわえて持って来た。
 
「おお、美味しそうだ」
 
それでふたりは枯れ木を組んで火を起こし、うさぎを丸焼きにする。
 
「いい匂いだ」
「うん。私もむやみな殺生はしたくないけど、食べるためなら割り切る」
 
やがて充分焼けているのを確認して天津子がサバイバルナイフを使って肉を切り分ける。
 
「美味しい、美味しい」
「ウサギ美味しいかの山ってやつだよね」
 
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「天津子さ、うちの千里姉をどう思う?」
「どう思うって?」
「正直、私は分からない。物凄い霊的なパワーの持ち主のようにも思えるけど、実は全然ふつうの人なのかもと思える時もある」
 
「まあ千里さんとは3年ほど雅楽合奏団にいたけど、私がかなう相手ではないと思い知らされたね」
「やはりちー姉って凄いんだ?」
 
「本人は凄くないと思う」
「ん?」
「千里さんのオーラは青葉も見えるでしょ?」
「うん。なんか普通に少し霊感がある人程度なんだよね」
「それが千里さんの実態だと思う。でもあの人って多分物凄く大きな存在に護られているんだよ」
 
「そういうことか・・・・」
「だから多分私と青葉がふたりで束になって千里さんを殺そうとしても絶対に殺せないよ。確実に返り討ちに遭う」
 
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「なるほどねえ。もしかしたらそうなのかも」
 
「あと、あの人、物凄く優秀な霊媒なんだよ」
「ああ・・・」
 
「だから私はあの人をバッテリーとして使わせてもらってる。本人が拒否していない限り、かなり凄いパワーをあの人から取り出せる」
「そのパワーを私も分けてもらっているんだよね?」
「そうそう。このパワーを使っているのは、多分私と青葉と、もうひとり菊枝さんも」
「何となくそれ心当たりある」
 
「瞬嶽さんのさ」
「うん」
「遺産をあの人管理してるよ」
「え?」
 
「瞬嶽さんが弟子に伝えたかったものの、それを学べる弟子が現れなかったいくつかの秘伝を、そのまま千里さんの魂にデッドコピーしてある。だから青葉も修行を積んでその秘伝を学べる条件を満たしたら、自然と千里さんからそれを受け取れるはず」
 
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「そんな仕組みがあったなんて・・・」
 
「あとさあ」
「うん」
「あの人、自分では男の娘だと主張しているみたいだけど」
「ん?」
「それ絶対嘘だから。だって、私ある程度人の身体の中身を透視できるけど、あの人、卵巣も子宮も持ってるもん」
 
「え〜〜〜!?」
「だいたいあの人、最初に会った時から波動が女の子だったし」
「ほんとに?」
「青葉も騙されてたでしょ?」
「ちょっとその件は再度考えてみる」
 

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青葉は10月の20日(月)から26日(日)まで札幌に滞在して織絵のヒーリングをしたのだが、11月22日(日)、再び呼び出されて札幌に向かった。
 
「こんにちは。いや、おはようございます、かな?」
と青葉。
 
「私は事務所首になって引退の身だから、ふつうにこんにちはでいいよ」
と織絵。
「私は実質休業中だから、こんにちはでいいよ」
とAYAのゆみ。
 
「青葉さん、ヒーリングの達人と聞いて、私もヒーリングしてもらいたいなと思って」
とゆみが青葉に頼む。
 
「いいですよ」
 
それで青葉はゆみの手を握っておしゃべりしながら、心のヒーリングをした。
 
「織絵さん、男装がハマってますね。以前から時々してたんですか?」
「ううん。光帆に乗せられてコスプレ・プレイとしてやってただけ。男装で人前に出たのは今回が実は初めてなんだよ」
「凄く自然でふつうに男の子に見えますよ」
「だけど私は男の声が出せないから」
「声はみんな苦労しますね」
 
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「ゆみさんは、やはり数年間にわたる精神的な無理がたたって心が折れたんだと思います」
と青葉はヒーリングしながら言った。
 
「前のマネージャーさん、私に全然休ませてくれなかったから。若い人に交代したのをいいことにわがまま言って休ませてもらって。最初は少しだけ休むつもりだったのに、全然やる気が復活しないのよ」
とゆみは言った。
 
「北海道旅行で何か得られました?」
「心の栄養をたっぷり吸収した感じ。やはり大自然の中に自分を置くのはいいことだと思った」
 
「ゆみちゃん、私と話している内に随分元気になった気もする」
と織絵が言う。
 
「織絵ちゃんも私と話している内に随分やる気を回復した気がする」
とゆみ。
 
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「それとね。青葉さん、槇原愛の曲とか書いておられるんでしょ?」
「ええ。マリさんに押しつけられたというか」
「ああ、何となく分かる」
 
「実は私たちでこの曲を書いてみたんだけど、編曲とかできるかなあと思って」
「見せて下さい」
 
それは水森優美香作詞・桂木織絵作曲『Take a Chance』という曲だった。
 
「できたら打ち込みで伴奏作って2人で歌いたいなと思って」
「性質上、あまりいろんな人には声掛けたくなくて」
 
「私でもできるけど、たぶん姉の方がこの手の仕事は速いです」
 
それで青葉が千里に連絡すると、OKOKと言って引き受けてくれて翌日の午前中にきれいに編曲された譜面とMIDIデータを送ってきてくれた。千里は旭川に知り合いのスタジオがあるけどと言った。
 
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「確かに札幌で収録するより旭川でやった方が目立ちにくいよね」
 
それで結局玲羅も含めて4人で旭川に移動し、この歌を収録した。スタジオでは荒木さんという音響技術者さんが録音を担当してくれた。荒木さんはベテランさんのようで、単に録音をするだけでなく、織絵とゆみのふたりに歌い方に関するアドバイスとかも、かなり突っ込んでしてくれた。荒木さんの方が、作曲者のふたりより、よほど深く楽曲を解釈していたりして、ふたりが「あっそうか」と言う場面も多々あった。
 

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「いや、でもゆみさんに会えるとは光栄でした」
などと、一息ついたところで荒木さんは言った。
 
「いえ、こちらこそ歌い方のアドバイスとかまでしてもらって」
とゆみ。
 
「デビューなさったのが2008年の4月でしたよね?」
「ええ」
「あのデビューCDの発売直前の調整作業をこのスタジオでやったんですよ」
「え?そうだったんですか?」
 
「3人で歌った音源から権利関係の問題で2人分消さなきゃいけないという話で」
と荒木さん。
「あれは大変だったみたいですね。私は何もしてないんだけど」
とゆみ。
 
「でもなんでそれを旭川のスタジオでやったんですか?」
と青葉が訊く。
 
「音響技術者の耳ではなく、ミュージシャンの耳でやりたいとプロデューサーの方がおっしゃって。1曲は別の方が東京のスタジオでしたのですが、もう1曲は鴨乃清見さんがなさったんですよ。あの方が旭川在住だったので、データをこちらに高速回線で転送して、こちらの環境にインストールして、それで夜10時頃から始めて朝8時頃までに完成させて。鮮やかでした」
 
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「へー。鴨乃清見さんって旭川におられるんですか」
とゆみ。
「あの人もプロフィールが謎ですもんね」
と織絵。
 
「当時まだ高校生だったんですけどね」
 
ん?高校生?
 
「正直私は最初高校生で大丈夫か?と思ったんですが、物凄くセンスがいいんですよ。手際よく音源を整理して。あれって最初から完成形が見えている感じでしたね。だから、それに向けて全力でデータを調整していたという雰囲気でした」
 
「確かに卓越した芸術家は試行錯誤して作品を作り上げるんじゃなくて、最初から直線で迫っていくんですよね。夏目漱石の『仁王』の話みたいな感じで」
と玲羅が言う。
 
「そうそう。まさにあの人は音楽をデータの中から彫り出して行った感じでした。消さなければいけない2人の声の代わりに自らフルートを吹いてそれで代替したんですけどね」
 
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ん?フルート??
 
「最後の最後になってサックスのパートを加えられた時はびっくりしました」
 
「『スーパースター』って、そのサックスパートがとても魅力的で評価高かったんです」
とゆみが言う。
 
「でしょ? キーボード使ってリアルタイムでMIDIをインプットしていくんだけど、キーボードで入れているのに、まるで生のサックス吹いているかのように、データが入って行くんですよ。サックス吹かれるんですか?と聞いたら、あの人の先生がなんでも日本でも五指に入るサックスプレイヤーだとかで、その先生の演奏を思い浮かべながら入力したなんて言っておられましたね」
 
先生がサックスプレイヤー??
 
青葉はさっきから心の中で、ひとつの疑惑が少しずつ拡大して行っていた。玲羅と顔を見合わせると、どうも玲羅も同じことを考えているようだ。
 
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「私も最近は若い人に任せっきりになって、なかなか現場に入っていなかったんですけどね。今回はその鴨乃清見さんから、便宜を図って欲しいと連絡があったので、久しぶりに担当させてもらいました」
と荒木さんが言う。
 
織絵とゆみも「へ?」という表情でお互いの顔を見た。
 
「すみません。もしかしてその鴨乃清見さんって、この人ですよね?」
 
と青葉は携帯の中から写真を1枚選んで表示した。
 
「ええ、そうです。そうです。この方です。これ最近のお写真ですね。昨日久しぶりにお声を聞いた時は声がけっこう大人っぽくなったなと思ったんですけど、お姿は女子高生だった時分とあまり変わっておられないんですね」
 
と荒木さんは懐かしそうに言った。
 
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つまり・・・・鴨乃清見って、ちー姉だったの!? そして当時、ちゃんと女子高生してたんだ!!
 

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