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■春暉(6)

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次に黒部市の高校、富山市の私立高が歌った後、5番目が青葉たちのT高校であった。ピアニストの翼に、指揮者の今鏡先生が指示を出して前奏が始まり、やがて課題曲を歌い出す。6月頃からずっと練習していた曲である。身体が覚えているので、青葉もみんなも無心になって歌う。
 
演奏はかなりうまく行った気がした。
 
終わると、お互いに顔を見つめ合って頷いている。
 
そしてまた気を引き締め直して自由曲に行く。
 
翼のピアノが躍るような重音のスタッカートを響かせた後、歌は始まる。
 
今年のヒット曲だけに、会場のみんなが「おおっ」と思ったようであった。もっとも合唱版は遠上笑美子のバージョンとは違い、元々のKARION版をベースにしている。それで特にソプラノ(元々は和泉パート)とメゾ1(元々は蘭子パート)の掛け合いが複雑に進行する。メゾ1がスケールで駆け上がって最高音のE6まで到達した時は、会場から思わずざわめきが聞こえた。
 
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とんでもない音域を持っている蘭子(=冬子・ケイ)が担当するパートだった故にメゾ1にこんな高い音を割り当ててあるのだが、実はこの時、本当にこのE6を歌ったのは、ソプラノの青葉・美滝・久美子の3人で、メゾの子は誰も歌っていない。その直前のC6はメゾ1の美津穂・須美・和紗の3人が歌っている。この音の交代が目立たないように、代替でE6を歌った3人はソプラノの右端、メゾとの境界線上に並び、その隣のメゾ1の左端に美津穂たち3人が並ぶという配置にしていた。
 
演奏が終わると凄い拍手があり、青葉たちも満足してステージから引き上げた。
 
最後にここ数年毎年富山県大会で1位になっているW高校が歌う。自由曲は最近多くの女声合唱曲を書いている作曲家の作品であった。元々女声合唱のために書かれた作品なので各々の声域をけっこう端々まで使っている。しかもかなり《現代音楽》っぽい作品である。
 
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「あれ?これ無伴奏なんだ」
「しかも調性が無いみたい」
「それでどうやって音程取るのよ?」
「うちじゃ考えられないね」
「うん。うちでこんな曲を無伴奏でやったら間違いなく音程が4−5度くるう」
「さすがに4度はくるわないのでは?」
「いや、そのくらいくるわせる自信ある」
 
変な自信を持たれるのも困ったものである。
 
「私ならその倍の8度くるうかも」
と言う子までいるが
「8度くるったらオクターブで元の音に戻るじゃん」
とツッコミが入る。
 
「いや、この曲は全国で優勝しちゃろうという意気込みの作品だよ」
と日香理が言うものの
「私の好みじゃない」
と空帆は言う。
 
確かに現代音楽は空帆の好みじゃないだろうなと青葉は思った。彼女は基本的にロッカーだ。
 
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やがて演奏が終わるが、やはり難解な曲であったゆえか、拍手はまばらであった。
 
20分ほどの休憩が宣言されるので、みんなトイレに行ってくる。当然女子トイレは長蛇の列である。
 
「大半の学校が女声合唱だったもんね」
「男子トイレは空いてるかも」
「私、男子トイレに行ってこようかな」
「やめときなよー」
「痴漢でつかまるよ」
「性転換しましたって言おうかな」
「女に性転換したのなら女子トイレなのでは?」
「だから男に性転換したと」
「それなら女子制服を着ているわけない」
 
休憩時間は20分の予定だったのだが、どうも選考が揉めたようであった。実に1時間も待たされた。その間、30分以上すぎた所で、C高校の部長・鷺宮さんが
 
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「せっかく合唱好きの人が集まってるから、待ち時間に何か歌いませんか?」
などと提案した。
 
運営の人が許可したので、C高校のピアニスト・菓子さんがステージに登り、『歌の翼に』『花〜すべての人の心に花を〜』『ありがとう』(いきものがかり)など合唱の好きな高校生なら誰でも知っているような曲を会場全体で歌った。これは本当に楽しい時間であった。最後は富山県民謡のコキリコ・麦や節・越中おわら節まで飛び出してきた。
 

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やっとのことで大会長さんがステージ脇に戻る。ピアニストの菓子さんが一礼してステージを降りたが、会場全体から大きな拍手が送られた。
 
「たいへんお待たせして申し訳ありませんでした。実は2位の選考が最初の投票では3校同点になってしまったため決選投票をしたりして時間がかかりました」
と大会長は言う。
 
会場内が騒がしくなる。2位同点3校というのは凄い。
 
「それでは1位から発表します。1位、高岡C高校」
 
これにはC高校のメンバーがいちばん驚いたようで、凄い騒ぎになる。司会者から注意されて、やっと鷺宮さんがステージに行き、表彰状を受け取った。
 
「1位はW高校だと思ったのに」
「いや、あの曲があまりにも難しすぎたから、結果的に解釈が浅くなっていた。C高校は易しい曲だったけど、それをしっかり歌った。その差だと思う」
と日香理が言う。
 
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「むやみに難しい曲を歌ってもダメということ?」
「充分歌いこなしたら別だけどね」
「新入生が入って来てから実質4ヶ月ちょっとで難しい曲の解釈を深めるのは困難でもある」
「私たちは元々みんなよく知ってる曲だったからその点は楽だったね」
 
「そして2位です。高岡T高校」
と大会長が言った。
 
会場はシーンとしている。いや、むしろ最初に騒いだのはW高校のメンバーだった。「なんで〜?」「うそ〜」などという声が上がっている。
 
青葉は左隣に座る空帆に訊いた。
「今どこって言った?」
「高岡T高校と聞こえた気がした」
右隣の日香理を見る。
「私も高岡T高校と聞こえた気がするけど」
 
全く反応が無いので司会者が再度呼ぶ。
 
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「高岡T高校の方、おられませんか?」
 
それで部長の真琴さんが
「はいはい、いまーす!」
と言って手を挙げ、慌てて飛び出して行った。賞状をもらうと初めてT高校のメンバーから歓声があがった。
 
「信じられなーい」
「嘘みたい」
とみんな大騒ぎだが、今鏡先生まで
「これ、夢じゃないよね?」
などと言っていた。
 
大会長が
「1位の高岡C高校、2位の高岡T高校は中部大会に進出します。なお、進出はなりませんでしたが、同点2位のあと2校はW高校とY高校でした」
 
と説明した。
 
こうして青葉たちは今年は中部大会に行くことができたのであった。
 

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大会長の総評のあと、主催者の全国企業の富山支社長のメッセージ、更に協賛のJR西日本金沢支社の人のスピーチがあった。青葉はそのJR西日本の人を見て、あれ?これ、こないだのKARIONのライブの時に来ていた人だと思った。新幹線開業に向けた宣伝活動の一環でこういう所にも顔を出しているのだろう。
 
参加者全員に協賛のJR西日本から新型新幹線W7系をかたどったボールペンが配られた。そして解散となるが、青葉たちが退出しようとしてロビーで人がはけていくのを待っていたら
 
「ねえ、君」
と声を掛ける人がいる。さっきスピーチをしたJR西日本の人だ。
 
「こないだKARIONのライブの時に楽屋に居た子たちだよね?」
「あ、先日はどうもでした」
などと最初に空帆が反応した。
 
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「魚重さんでしたね。先日は済みません。皿を割ってしまって」
と青葉はあらためてその件を謝っておく。
 
「あ、あの時横笛を吹いた方ですよね? あのあとで、伴奏者の方にお聞きしたのですが、あなたって、日本で五指に入るほどの凄い霊能者なんだそうですね?」
 
それは秋乃(風花)さんかな、と青葉は思った。五指はオーバーだぞ。
 
「そうですね。表だって看板を出しているわけではないのですが。口コミで頼まれた案件は、私の力の及ぶ範囲で対応はしていますけど」
 
「実はちょっと誰か霊能者に一度見せた方がいいんじゃないかという話が出てきている案件があって。こんなこと、会社として正式に依頼できるようなものではないんですけど」
 
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「お、青葉の本職の出番だよ」
と美由紀が言う。
 
「依頼料は幹部で個人的に出し合って何とかしますので」
 
「うーん。話だけなら聞きますけど」
 

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それで今鏡先生にことわった上で、青葉と「マネージャー」を自称する美由紀が魚重さんと一緒に近くの喫茶店に入った。何でも好きなものを取って下さいなどというので、美由紀はケーキセットを頼んでいる。青葉は紅茶だけを頼んだ。
 
「実は先日から新しい新幹線の試験運転を、運転手の訓練を兼ねて実施しているのですが」
と魚重さんは切り出した。
 
「糸魚川駅から白山車両基地に至る間で、何度も運転士が『人をはねた』とか『大型の獣をはねたようだ』とか言って緊急停止させる事件が発生していまして」
 
「同じ場所なんですか?」
「完全に同じ場所ではないのですが、全て***と***の間の山岳地帯、トンネルの中で起きています」
 
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確かにこの付近ってトンネルが多いよなと思った。古来よりの難所・親不知子不知(おやしらず・こしらず)の所とか、木曽義仲が「火牛の計」を用いたことで有名な倶利伽羅(くりから)峠とか。併走する北陸本線や北陸自動車道なども長いトンネルで抜けている。
 
「先日、お会いした時に、巫女さんのような人が皿を持って来たとおっしゃっていましたね」
 
「はい。念のためと思って調べてみたのですが、G峠近くにあった神社に勤めておられた巫女さんのようです。新幹線の工事のために、その神社は立ち退きになりまして。一応別の場所に新しい神社を作って、そちらに神様も引っ越ししてもらったのですが」
 
青葉はその引っ越しがうまく行っていないのではと考えた。神社にも色々なタイプがある。神明社や護国神社の類いは割りと場所を選ばないのだが、中には古い荒神を封じた神社などもあり、そういう神社はその場所にあることで意味をなすのであって場所を勝手に移転すれば、その神社が封じていたものがやばいことになる。
 
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「その神社を見せてください」
「分かりました。ご案内します」
 

それで魚重さんの車でその問題の神社のある峠に向かった。
 
「新しい神社と元あった場所の両方を見た方がいいですよね?」
「ええ。新しい神社に先に行きましょうか」
「はい」
 
「ちょっと暗くなってきたね」
と美由紀が言う。
 
コンクールが終わったのが採点が長引いたせいで結構遅くなった。その後30分ほどお話を聞いてから出てきたので、ちょうど山の中に入っていった頃、日が落ちてしまった。
 
「あれ?このあたりだったと思うんだけど」
と魚重さんは悩んでいる。
 
「済みません。私が運転していいですか?」
「あ、免許持っておられます?」
「持っていませんけど、多分私でないとたどり着けない気がします」
 
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魚重さんは運転できるのなら、この際免許のことは目をつぶるといって運転席を譲ってくれた。青葉は神社の波動を感じながら魚重さんのアクセラを運転し、10分ほどで真新しい鳥居のある神社に到達した。鳥居の奥には小さな祠が祭られている。
 
もうあたりはすっかり暗くなっているが、お参りする。
 
「どうですか?」
「ここはほぼ空っぽです。神様の気配はありますが、本体はおられません」
「えー!? じゃ、やはり引っ越しは失敗しているんでしょうか?」
「恐らく。元の場所にも行ってみましょう」
「はい」
 
それでまた青葉が運転して5分ほどで、小屋のようなものが建っている所にたどり着く。
 
「じゃ、こちらも見てみましょうか?」
と言って魚重さんは降りようとしたのだが、青葉が停めた。
 
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「ここは夜間は降りない方がいいです。私も今日は準備が足りません。いったん引き上げましょう」
 
「分かりました!」
 
山の下まで青葉が運転し、そのあと魚重さんに運転を代わって、魚重さんはふたりを自宅まで送り届けてくれた。
 

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青葉は魚重さんと連絡を取り、翌日の昼間、また現地に向かうことにした。ところが出かけようとしていたら、ふらりと千里が自宅にやってきた。
 
「ただいまあ。あれ?青葉どこかに出かけるの?」
「ちー姉、なぜここに?」
「別に用事はないけど、大阪の友だちに会ったついでにこちらに寄ってみた」
「大阪から千葉に帰るのに高岡を通るの?」
「東名ばかり走っていると飽きるから、今回は北陸道経由で帰ろうと思ってね」
 
青葉の後ろで女神様が何だか笑っている。どうも女神様はちー姉が来ることを最初から知っていたようだ。
 
「ちー姉、ちょっと付き合わない?」
「いいけど」
「ちー姉、巫女服持ってる?」
「持ってるよ」
 
それでふたりとも巫女服に着替えてから、千里の運転するインプで高岡駅に向かった。
 
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