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■春暉(3)

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メニューを見ていた奈々美が
「あ、ここティラミスがある」
と言い出す。
 
どうもお寿司を結構食べてデザートに進むようである。奈々美の前には既に皿がどう見ても20個くらい積み上げられている。
 
「パネルで注文すればいいんじゃない?」
と日香理が言うので、タッチパネルを使ってオーダーを入れる。
 
「あ、私はモンブランにしよう」
と美由紀が言うので、それもオーダーを入れる。
 
それでしばらくしたら
「お待たせしました」
と言って女性スタッフがティラミスとモンブランの皿を持ってテーブルまで来た。ここは別途注文を入れたものは、そのテーブルまでスタッフが持って来てくれる仕組みのようだ。
 
「わぁ、美味しそう!」
と美由紀と奈々美が言って受け取るが、千里がそのスタッフさんに手を振っている。
 
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「おお、千里〜、久しぶり〜」
と彼女が言う。
 
「お友達ですか?」
と日香理が言う。
 
「うん。以前一緒のバスケットチームに居たのよ」
「高校時代の?」
「ううん。大学生の時」
「あれ?同じ大学だったんですか?」
「私も千里も大学のバスケ部には入ってなくて、クラブチームだったんだけどね」
 
それで千里が
「千葉ローキューツというクラブ・バスケットチームの元キャプテンで石矢浩子さん」
と紹介する。
「いや、名前だけのキャプテンで申し訳無い」
などと石矢さんは言っている。
 
「こちらはうちの妹の青葉、それから妹の友だちの奈々美ちゃん・美由紀ちゃん・日香理ちゃん」
と青葉たちも紹介する。
 
「わあ、北海道から出てきたの?」
「ううん。彼女たちは富山県。北海道とは別系統なのよね」
「へー。なんか複雑そうね」
などと言っていたが、他のテーブルで精算を求めるピンポーンという音が鳴ると
 
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「はーい。参ります」
と言って、
「じゃ、また後で」
と千里に告げると、そちらに飛んで行った。
 

「ちー姉って、バスケは高校時代だけじゃなかったんだ?」
と青葉は尋ねる。
 
「私もねぇ、大学に入ったらバスケはしないつもりで。だから大学のバスケチームにも入らなかったのよ。でも何もしてないと身体がなまるじゃん。それで時間の空いた時に体育館でひとりで少し練習してたら、浩子ちゃんに会って、誘われて彼女たちのクラブに参加したのよ」
 
と千里は説明する。
 
「女子のチームだよね?」
「彼女、男に見える?」
「女性に見えたけど」
 
青葉はもっと千里を追及したい気分だったものの、みんなの居る前ではさすがにまずいかと考え、その日はそれ以上はその件は話題にしなかった。
 
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その日は結局4人は千里と桃香のアパートになだれ込んで、全員ゴロ寝した。桃香が「可愛い子がたくさん」などと言うのを「高校生に手を出したら淫行で捕まるよ」と千里が釘を刺していた。
 
「青葉、彼氏の所に泊まらなくてもいいの?」
「自粛しておく」
「彼、さみしがってるよ」
「大丈夫だよ。こないだテンガ送っておいたし」
「おお!」
 
「あれちょっと興味ある。一度使ってみたい」
「あんた、どうやって使うのよ?」
「誰かちんちん貸して」
「ここに居る子は全員持ってないな」
「唯一持っていた子も取っちゃったし」
 
「だけど本当に持ってたのかなあ」
「なんで?」
「だって誰も、付いてるの見てないよね」
「ふむふむ」
「それで今はもう存在しない。付いていたことを誰も証明できない」
「なるほど。実は最初から無かったのを、あったことにしておいて、性転換手術して取っちゃったよと主張しているだけなのかも知れない」
「今更、それはもう分からないよね」
 
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そんな奈々美たちの会話を聞いていて、それってちー姉にも言えるぞ、と青葉は心の隅で考えていた。
 

「俺家庭不和起こしたくないから、風俗は・・・」
と渋るのを、古株の先輩に押し切られた。
 
師笠はその個室に入り椅子に腰掛けると、ふっと息をつく。
 
あのトラブルの直後、ローカル線の運転区に転属を命じられた。今は日々、並走する国道の自動車にも追い抜かれていくような鈍行を運転している。昔なら『日勤』をやらされていた所だ。自分は経験無いものの、同期の奴がやらされてげっそりして帰ってきたのを見ている。
 
しかしこの運転区も居心地は悪くない。みんな出世の可能性がない分、のんびりしている感じで日々の勤務をしっかりこなしている。まあ多少規律がルーズな面はあるけどね!
 
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そんなことを考えていたら、37-38歳かなと思う「お姉ちゃん」が入ってくる。さてここのサービス内容を聞かされてないけど、何をするんだろう。
 
「何かお好みのがあります?」
などと訊かれる。ちょっとハスキーな声だ。
 
「いえ。私、ここ初めてなのでさっぱり分からなくて」
と師笠は答える。
 
「じゃ初心者向けでセーラー服・コスプレコースとかどうですか?」
 
セーラー服のコスプレ?この「お姉ちゃん」がセーラー服を着るのか?ちょっとさすがに立つ自信がないぞとは思ったものの、まあそれでもいいかと思い
 
「じゃ、それでお願いします」
と言った。
 
「取り敢えず裸になりましょうね」
と言われ、服のボタンに彼女が手を掛けた。
 
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20分後、師笠は目の前に立っているセーラー服の美少女をぼーっとして見つめていた。嘘。可愛いじゃん! 信じられない!!
 
目の前にあるのは大きな鏡である。そこにセーラー服の少女が映っているというのは、つまり、そういうことである。
 
師笠は担当の女性にまず裸にされてベッドに寝かされ、足の毛とヒゲを全部剃られた。それから女物のショーツを穿かされるが、そんなもの穿かされると立ってしまう。すると女性はアイスパックをあれに当てて強制的に鎮めてしまった!
 
「うちは射精行為は禁止なんです。ごめんなさいね」
と言っていた。
 
しかし射精できなかったことで、師笠の興奮はよけい高まった気がした。
 
ショーツの上にガードルを穿かせて立ちにくくする。ブラジャーを付けられ、中にシリコン製のパッドを入れられる。触った感触がまるで本物のおっぱいのようである。
 
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それからフェミニンなキャミソールを着せられ、その上に白いブラウス、そしてセーラー服の上下を着て、リボンを結んでもらった。頭にはショートサイズのウィッグをかぶせられる。それから顔にメイクをされたが、女学生風ということでナチュラルメイクである。
 
「濃厚なメイクをすると学生らしくないので」
と担当の女性は言った。
 
そしてそこまでできたところで鏡の前に立たされたのであった。
 
師笠はずっとずっと心の奥に眠っていた何かが目覚めるような感覚を覚えていた。
 

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「こんなに可愛くなるとは思わなかった」
と師笠は思わず感想を言った。
 
「あなた見た瞬間に、この人素質があるって思ったわよ」
と女性は言う。
 
「俺、女装とかしたこと無かったから」
「今、あなた女の子なんだから、《わたし》って言いましょうよ」
 
「えっと」
「ほら、頑張って」
「わたし、こういうの分からなくて」
 
と言ってから師笠はかっと真っ赤になった。
 
「可愛い! でもちゃんと《わたし》って言えたね」
「ハマっちゃったらどうしよう?」
 
「あなたハマりそう。私と似たタイプという気がするもん。私も最初は友だちに連れられて東京のエリザベス会館ってところに行ってね。最初は女の子の服を着る度に立っちゃったわ。そして20年後、こうなっちゃったのよ。今ではもう立つようなものは存在しないけどね」
 
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へ?
 
「あのぉ・・・まさか、あなた・・・」
「え? 私、元は男だったのよ」
「うっそー!!!!」
 

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「5年前に手術して戸籍も直したから、今はもう女だけどね」
「ひぇー」
 
と言ってから師笠はおそるおそるきいた。
 
「手術って?」
「性転換手術よ」
「それって、どうやるんですか?」
「それは男にはあって女に無いものを切り取って、女にはあって男にはないものを作るのよ」
 
「じゃ、もうちんちん無いんですか?」
「うん。代わりにちゃんとヴァギナ作ってもらったよ。うちは風俗じゃないから、そこを見せることはできないけどね」
 
えー?性転換手術って、ヴァギナ作っちゃうの?チンコ切るだけかと思ったよ。
 
「あのぉ、割れ目とかは?」
「もちろん、あるわよ。ヴァギナあるのに割れ目無かったら入れられないじゃん」
「割れ目ちゃんがあるなら、見た目女と同じじゃないですか」
「だから、そういうふうにするのが性転換手術だから」
 
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「・・・じゃ、男とセックスできるんですか?」
「もちろん」
 
知らなかったぁ!!
 
「あなたもそのうち手術して女になりたくなったりしてね」
 
うっ・・・・。それって自分が怖い気がする。
 

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ティータイムということで、彼女(彼?)に連れられてダイニングに行く。
 
見るからにゲッという感じのおばちゃんになってる同僚を見て、気分が悪くなりそうだったが、かろうじて我慢した。しかし彼が師笠を見て言った。
 
「師笠? お前すげー可愛くなるじゃん、ね、ね、俺の愛人にならない?」
 
愛人〜〜〜!?
 
「可愛い服買ってやるし、お手当もあげるからさ」
 
可愛い服!?お手当!??
 
師笠は目の前がクラクラとした。
 
「取り敢えず今晩、ちょっとこれから遊ばない? ね、外出してもいいですよね?」
 
「外出は4時間以内でお願いします」
と係の人が言う。
 
「ね、ちょっと外出して、食事でもしてからホテル行かない?」
 
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ちょっと待ってくれ〜〜〜!!
 

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