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■春暉(9)

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(C)Eriko Kawaguchi 2015-03-23
 
翌週の日曜日。青葉が自宅で勉強をしていたら、千里から電話があった。
 
「今から胚移植やるんだけど、お願いできる?」
「うん。そこ大阪だよね?」
「正確な位置を言うね。東経・・・」
と千里は正確な緯度経度を青葉に伝えた。青葉はその場所を地図で確認した。地図上に病院の名前が入っているのを確認する。
 
「今、奥さんはベッドに横になった。足を広げて楽にしてと言われている所。お医者さんが培養した受精卵を吸い上げたチューブを・・・・今膣に挿入した」
 
青葉は意識を向こうに集中する。千里の実況で向こうの状況がまるで手に取るように分かる。千里は物凄く優秀な発信器だ。ふつうの人と話していても、ここまで向こうの様子は見えない。さすが私のお姉さん!と思いながら相手に波動を送っていた。
 
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「今、受精卵が投入された」
と千里。
「誘導するよ」
と青葉。
 
青葉にはその瞬間、チューブの先から飛び出した受精卵が2個見える気がした。でも・・・1個は明かな欠陥品だ。これって精子の質がほんとに悪そう、と青葉は感じた。しっかりしている感じの1個に意識を集中して、その受精卵が無事、子宮粘膜に着陸するのをサポートした。もう1個も少し遅れて着陸したものの、そちらは1分もしないうちに剥がれてしまった。いったん着陸したものが剥がれたことで軽い出血がある。
 
青葉はその出血した部分を治療した。傷が広がると、無事な方の受精卵の成長にも影響が出る。
 
「まだ30分くらい安静にしているように言われている」
「1時間安静にしておいて欲しいんだけど」
「伝える」
 
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奥さんは結局処置室で2時間ほど休んでから帰宅したが、その間青葉はずっと向こうに気を送り続けたので、かなり疲れた。
 
「青葉、ありがとう。お疲れ様」
「ちー姉もずっとそちらの様子を発信してお疲れ様。でもこれはうまく行ったと思う」
「良かった」
「でも、ちー姉、元彼が奥さんとの間に子供を作るのサポートしても平気だったの? 私なら凄く辛いと思うのに」
 
「まあ私の子供だし」
 
青葉はこないだからずっと疑問に感じていたことを言ってみた。
 
「もしかして、使用した卵子は奥さんのじゃなくて、ちー姉の卵子?」
「まさか。私染色体上は男なんだから卵子がある訳ない」
「じゃ、使用した精子がちー姉のもの?」
 
「過去の試みで、貴司の精子と阿倍子さんの卵子ではどうしても着床しないのが確認済みなのよ。それで生殖細胞を他の人から借りることになった」
「だから体外受精なのか」
 
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「受精卵は2個投入したけど、1個はすぐ流れたでしょ?」
「うん」
「実は流れちゃったのが、阿倍子さんの卵子と私の精子を掛け合わせたもの」
「ああ」
「私の精子って弱いもん」
「だろうね」
「だから、着床したのは貴司の精子を使用したものだよ」
「その卵子は誰のもの?」
 
「内緒」
 
うむむむ!
 
「だけど、ちー姉がそばに居ることを、よく奥さんが承諾したね。夫の前妻なんて普通なら考えるだけでも不愉快な存在だろうに」
 
「私は病院内には居たけど、別室だよ。阿倍子さんの処置をしていたのは1階の処置室。貴司はその外の廊下。私は今2階の病室に居る」
 
「モニターででも見てたの?」
「まさか」
 
「だって細かい状況をレポートしてくれてたじゃん」
「そりゃ、こんなに近くに居たらそのくらい見えるよ」
 
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「ふつうの人は壁や床の向こうの様子なんて見えないんだけど!?」
「そうだっけ?」
 

師笠は久しぶりに座るW7系の運転席に心躍る思いだった。ローカル線の運転も楽しかったし、乗客とのふれあいがあって、鉄道員の原点に立ち返ったような気持ちになれた。でもやはりこの時速260kmの世界というのは快絶だ!
 
詳しい経緯は結局説明されなかった。しかし同僚たちの話をまとめると、だいたいこんな感じのようだ。
 
自分を含めて試運転中に誰かをはねたと言って新幹線を緊急停止させた運転士が10人出たらしい。その内自分を含めて最初の4人が他の運転区に飛ばされ、残りの6人も飛ばされなかったものの、試運転のスケジュールが空白になっていた。しかしこのような事件が相次ぐのはやはり何かおかしいということで、どうも凄腕の霊能者に密かに調査依頼が行われたようだということ。
 
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それでその霊能者がうまく怪異を処理してくれて、その後は同種の事件が全く発生しなかったため、やはり一連のトラブルはその心霊現象が原因だったのだろうということになり、飛ばされていた4人も元の新幹線チームに復職し、スケジュールが空白になっていた6人にも新たに試運転の日程が指定されたのだということである。
 
しかし世の中にはそういう不思議なものって本当にあるんだなあとあらためて師笠は認識を新たにしていた。
 
白山車両基地で運転を終え、乗務報告書を書いて提出してから控え室で休憩する。乗務中は切っておく携帯のスイッチを入れるとメールが来ている。
 
ギョッとして開くと、こんな文章が表示されていた。
 
《じゅんちゃーん。今度の日曜デートしない? また可愛い服買ってあげるからさあ》
 
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もう勘弁してよぉ!!!!
 
師笠は密かに穿いているショーツの中に後ろ向きに収納しているアレがぴくりと反応するのを感じた。
 

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10月11日(土)。青葉はヒロミとふたりで朝から特急《はくたか》と上越新幹線を乗り継いで高崎まで行き、そこで千里・桃香の乗るミラに拾ってもらい、伊香保温泉に入った。
 
他に来ていたのは、和実・淳、あきら・小夜子+2人の子供、冬子・政子+友人の奈緒である。
 
青葉は医学生である奈緒に、ヒロミの身体を調べて欲しいと依頼した。ヒロミは自分では手術とか受けた覚えがないのに、自分の身体がいつの間にか女の子になっていて、それなのに寝ぼけている時に男の子の身体になっているような気がする時もあると言った。実際どうなっているのだろうと思い、婦人科に行ってみたら「内診された上で異常なしと言われた」というのである。
 
青葉はヒロミの身体の異変に関しては自分の影響、土地の影響もあるかも知れないと言い、それで富山県から離れた地、青葉が近くに居ない環境で彼女の身体をチェックしてあげて欲しいと言ったのである。
 
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それで奈緒は冬子のフィールダーにヒロミだけを乗せて草津温泉まで行き、そこで彼女の身体を調べた。その結果、ヒロミは起きている時は女の子の身体だが、寝ていると男の子の身体に戻っているという結論に達した。但し男の子になっている時も、睾丸は認められないということだった。
 

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その奈緒の報告を聞いた上で、千里は
「草津温泉か・・・・」
と言った。
 
「何かそこにあるの?」
と冬子が訊く。
 
「ちょっと昔のことを思い出しただけ」
「そこで恋人と熱い一夜を過ごしたとか」
 
「雨宮先生って所在がつかめないじゃん」
と千里は言った。
「千里でも分からないんだ?」
と冬子が言う。
 
「ところが夜中に緊急に雨宮先生を呼び出さなきゃいけなくなってさ」
「うん」
「私が占ってみた訳よ」
「ああ、占うくらいしか探しようがないかも」
 
「雨宮先生の電話に掛けたって絶対出ないからデートしてる相手の女の子の電話に掛けた訳。そしたら、今草津温泉に居ると言われてさ」
 
「迎えに行ったの?」
 
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「快適だったよ。雨宮先生のエンツォフェラーリ」
 
「あれを運転したんだ!」
「他の人には指1本触らせないのに」
「私が勝手に持っていったから、先生怒ってたけどね」
 
「所在をちゃんと明確にしてない雨宮先生が悪いよ」
と冬子は言った。
 

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「この伊香保温泉に着いた時も、何だか懐かしそうな顔をしてたね、ちー姉」
「ここはインターハイで泊まったから」
「この付近でインターハイやったの?」
「会場は埼玉県本庄市」
「結構遠くない?」
「あの付近の宿泊施設の収容能力が足りないから、多くの学校が伊香保温泉に泊まったんだよ」
「温泉に泊まるのは合理的かも。身体を休められるもん」
 
「あの階段を毎日登り下りしたよ」
「ぎゃー」
「あれ300段くらいあるよね?」
「スポ根の世界だな」
「でもインターハイに出てくるくらいの学校はスポ根漫画真っ青の練習してるよ。ただ、漫画と違う所はさ」
「うん」
 
「変な特訓ってのは無いってこと。練習に王道は無い。地道に基礎練習を繰り返す。これが結果的にはいちばん上達する。冬たちもそうでしょ?」
と千里は言う。
 
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「うん。歌手や音楽家も地道に毎日毎日何十回も何百回も練習することでしかうまくならないよ」
と冬子も言った。
 
「やはり女装も何十回も練習すればいいんだよね」
と政子が言い出す。
 
「なぜそういう話になる?」
と冬子が呆れて言っている。
 
「1回や2回の女装外出だと恥ずかしくて自信が持てないだろうけどさ、何十回も女装で外を歩いている内に、女として行動する自分に自信が持てるんだよ」
と政子。
 
「まあ、それも真実かもね」
と千里も同意した。
 
青葉はこないだ会った40歳くらいの初心者女装っ子さん、少しは慣れたかな?などと思い起こしていた。
 

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2014年10月18日(土)。XANFUSの音羽(桂木織絵)が「XANFUSを卒業」したことが発表され、日本のポピュラー音楽界に衝撃が走ったが、その件で翌日桃香から連絡があったので、青葉は二度驚くことになる。
 
「じゃ音羽さんって、桃姉と昔恋人だったの?」
「うん。まあ高校の時ね」
「桃姉がレスビアンの道に誘い込んじゃったんだ?」
「千里には内緒で頼む」
 
ああ!もう私、このふたり双方から「桃香には内緒で」とか「千里には内緒で」と言われていることが随分増えているよ!!私もそろそろ何を言ったらいけないのか分からなくなって来たぞ!!!
 
「突然東京に転校していって別れたんだけど、それが歌手になるためだったなんて全然知らなかった」
 
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XANFUSなんて随分知名度があるのに。でも桃姉って国内の音楽は全く聞かないもんね。
 
「それで最初、織絵は高岡の実家にいったん帰るつもりだったんだけど、それだと絶対芸能記者が実家に押し寄せるだろ?」
 
「そうなるよね」
「それでしばらく札幌に住んでる千里の妹さんの所に身を寄せることにしたんだよ」
「ああ、玲羅さんね」
「青葉、会ったことあったよな?」
「私は会ってない」
「千里が性転換手術を受けるのにタイに行く時、成田で会わなかったっけ?」
「その時、私は富山で手術受けるのに入院していたし」
「あ、そうか!」
 
それで桃香が言うには、織絵が突然解雇されて物凄くショックを受けているので、心のヒーリングをしてやってくれないかということだったのである。
 
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それで青葉は20日(月)、学校を休んで朝から富山空港から羽田乗継で新千歳まで飛んだ。新千歳には玲羅が車で迎えに来てくれていた。
 
「初めまして」
「どうもどうも」
などと挨拶するが
「私たちって姉妹なんですよね?」
と玲羅が言う。
「そうそう。私、千里さんに妹にしてもらったから」
と青葉も答える。
 
青葉は玲羅の運転するセフィーロの助手席で、彼女と話していて、あ、この玲羅さんも少し霊感あるなと思った。やはり千里の霊感もベースとしては遺伝的なものがあるのだろう。
 

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「だけど玲羅さん、千里さんのこと、ずっとお姉さんと呼んであげてたんですか?」
 
「まあ本人がお姉ちゃんと呼んでくれと言うから。姉貴が高校生になった頃からかな」
「なるほど」
「でも実はそれ以前の段階で、私、惰性で『お兄ちゃん』とは呼んでいても、お兄ちゃんが男だって思ったことはなかったです」
「へー」
「お兄ちゃんって、なんで女の子なのに男の子のふりしてるんだろう?と思ってましたよ。裸になっても、おちんちんなんて付いているの見たことなかったし」
 
「そうですね。男の娘には、おちんちん無いんですよ、きっと」
 
青葉は笑いながら、そう答えた。
 

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