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■春暉(5)

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(C)Eriko Kawaguchi 2015-03-22
 
8月25日。青葉は千葉まで出て行った。青葉が私費で千葉市内に建立した神社に管理者であるL神社の費用で御守授与所と、市の費用で駐車場が設置されたのを見に行ったのである。
 
朝一番の新幹線で出ていき、千葉駅で千里の運転するインプに拾ってもらった。桃香が助手席に乗り、後部座席に青葉と彪志が乗って神社に向かう。千里が所有している車はミラなのだが、ミラに4人で乗ると、神社に至る急坂で停まりそうな感じになるのが経験済みである。実際にミラで行こうとして本当に停まってしまったこともあるらしい(エアコンを切って再発進したとのこと)。このインプは千里の先輩からの借り物ということで、この神社に行く時はしばしば乗せてもらっているし、先日も八千代市から千葉市内まで乗せてもらった。
 
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「だけど、ちー姉がL神社の巫女さんをしてたなんて全然知らなかった」
と青葉は言う。
 
「千里はいろいろ隠しているよな」
などと桃香も言っている。
 
「うーん。別に聞かれなかったから言わなかっただけで」
「例のパワーストーンの御守りを提案したってのも、ちー姉なんでしょ?」
「そうだけど」
 
「千里、まだ何か隠していることがあったら、ここで言っておくように」
と桃香が言うと
「そうだなあ。琴美ちゃんのこととか?」
 
と千里が言うと、桃香は咳き込んで
「いや、いい。何も言うな」
と言った。
 
桃姉が浮気症なのは知っているけど、ちー姉ってそれを全部知っていて、放置しているみたいなんだよなあ、と青葉は千里の態度に疑問を感じた。ちー姉、桃姉に浮気されても平気なんだろうか??
 
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「あ、そうだ。桃香さん、就職内定、おめでとうございます」
と彪志が言った。
 
「ありがとう。広告関係の仕事なんて、自分の専門分野を全く活かせないし不満はあるんだけどね。まあ院卒の女子はなかなか仕事先が無いから仕方ない」
 
などと桃香は言っている。
 
「千里さんの方はなかなか決まらないみたいですね」
と彪志。
「うん。32連敗かな」
と千里。
 
「千里、真正直に性転換していることを言うんだもん。黙っていればバレる訳ないのに」
と桃香は言う。
 
「それはアンフェアだと思うから」
と千里は答える。
 
確かにちー姉って、アンフェアとか脱法的なことというのが凄く嫌いみたいだなと青葉は思う。高校時代、そして桃姉には内緒みたいだけど、大学3年の時までバスケットをしていたみたいだから、やはりスポーツマンとしての活動がそういう感覚を育てたのだろうかというのも青葉は考えてみた。
 
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だけど、ちー姉ってそもそも就職なんかする必要ないと思うけど!? 作曲家としての収入だけでも、結構あるはずだ。醍醐春海の曲って、そんなに売れている訳ではないみたいだけど、恐らく年収200万くらいはあるのではなかろうか。それなら、桃姉と共同生活をしていれば何とか食べていけると思うし、大学院を卒業して時間が取れるなら編曲とかの仕事も積極的に受ければたぶん年収は今の倍くらいにはなる。
 

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現地に行き、できて間もない駐車場の端に車を駐める。境内に入っていくと、真新しい授与所の建物の中に、L神社の巫女長・辛島さんが来ている。
 
「千里ちゃん、なんで巫女服を着てないのよ?」
などと言っている。
 
「非番ですから」
と千里。
 
「だけど私が転出した後は、千里ちゃんに巫女長やってもらおうかと思っていたのに」
「すみませーん。大学院出るから、普通の企業に就職予定なので」
 
この神社の巫女長を6年間務めた辛島さんが来年の春に夫の神職さんと一緒に他の神社に転出になるらしく、千里もそれに合わせるかのように来年春でL神社の巫女を辞めるのだという。
 

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千里が提案して製作されたというパワーストーンの御守りを見る。
 
「きれいだな」
と桃香が声を挙げる。
 
「うちの巫女さんが石の仕入れ先を厳選してくれたので」
と言って辛島さんが千里を見ている。
 
「原価が高くなってしまいましたけどね」
と千里。
 
全員でお参りした後、4人とも授与所の中に入ったが結構暑い。
 
「ここ空調は無いんですか?」
と桃香が訊く。
 
「冬は電気ストーブを置く予定」
と辛島さん。
 
「開放空間だからエアコンとか入れても仕方ないよ」
と青葉は言った。
 
「夏はここでの勤務はたいへんそうだ」
 
「そうだ。そのパワーストーンの御守り、8個セットでください」
と言って青葉が1万円札を出すと
 
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「神社の設立者さんにはタダで」
と辛島さんは言ったのだが
 
「辛島さん。代金を受け取ってください。多分これ購入しておかないといけないみたいだから」
と千里が言う。
 
「それって、この御守りを何かに使うとか?」
と桃香が言うと、千里は微笑んでいる。それで青葉が代金を払ってパワーストーンの御守りセットを受け取ったのだが
 
「これほんとにパワーが入ってる!?」
 
と青葉は言う。
 
「え? どれどれ?」
と言って辛島さんがそれを見る。
 
「あら、ほんとだ。きっと当たりなのよ」
などと言っている。
 
桃香は訳が分からない様子だが、千里は微笑んでいる。このパワー注入したのって、ち〜姉なの〜〜? ちー姉〜〜、私に何をさせる気?
 
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青葉はあくまでも「発売記念」にワンセット持っておきたかったのだが、どうもこの御守りを実際のアイテムとして使わなければならない案件が起きそうである。
 

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青葉は神社をお昼すぎに引き上げ、千里・桃香たちと一緒に4人で千葉市内のファミレスで食事をした。そのあと千里たちとは別れて彪志と2人で東京に出る。そしてローズ+リリーの新しいアルバムの製作をしているスタジオを訪れた。ここで青葉は七星さんと一緒にサックスを吹くことになっていた。
 
七星さんをはじめとするスターキッズのメンバーも来ている。青葉は七星さんと握手してハグした。
 
『眠れる愛』という曲を録音するのだが、譜面は事前にもらって練習していたので合わせてみるとすぐに合った。スターキッズの演奏とともに収録する。
 
「なんかスムーズに進むね」
と政子が言っている。
 
「青葉ちゃん、うまいもん」
と七星さんが言う。七星さんと青葉はおそろいのピンクゴールドのアルトサックスを使用している。
 
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「スコアが変わっていたのでちょっと焦ったんですけどね」
「まあその程度はよくある話」
 

「青葉〜、何か最近面白い話無い?」
 
などと休憩時間に政子が言う。
 
「面白い話というと?」
「誰かが性転換したとか、誰かが女装にハマったとか、誰かがおちんちん無くしちゃったとか」
 
「知りませんよ」
と言って青葉は苦笑する。この人の趣味もどうにもよく分からない。
 
「そうだ。青葉、こないだ和実と会った時に話したんだけど、10月の11-13日の連休に、クロスロードで集まろうかと言っていたんだけど」
と冬子が言う。
 
「その日なら大丈夫です。場所はどこですか?」
「伊香保温泉」
「群馬県でしたっけ?」
 
「北陸新幹線ってもうつながったんだっけ? 安中榛名駅がたぶん最寄りじゃないかな」
 
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「来年の3月開業です。今はほくほく線経由なので、多分高崎から行けばいいんじゃないかな」
 
青葉は不確かながらもあの付近の地図を頭に思い浮かべながら言った。
 
(実際には安中榛名は困った駅で、どこへもまともな交通手段が無い一種の秘境駅なので、長野方面から来てもやはり高崎まで行ってからバスなどに乗る必要がある)
 
「集まるのはどなたとどなたですか?」
 
「レギュラーは青葉が来られるなら全員来られると思う。ほかに知り合いの薫ちゃんって子。この子はバスケットボール選手で性転換手術済み。それから私の小学校以来の友人で奈緒って子。今医学部の4年生なんだけどね」
 
と冬子が言うと、青葉は考えるようにしてから言った。
 
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「私の友人のヒロミって子、連れてきていいですか?」
「女の子や女の子になりたい子ならOK」
「それが実は女の子なのかどうかが不明なんですよ」
「はぁ!?」
 

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東京から戻った青葉は、そのヒロミから
「ちょっとお願い」
と言われて、彼女の家に寄った。
 
「恥ずかしくて他の人に言えなくて」
と言うのを見てあげると、あの付近に軽い炎症が起きているようだった。
 
「夏で汗掻いてるのがいけないのかなと思ってこまめに洗うようにしてたんだけど、なかなか治らなくて」
などと言っている。
 
「これ、フェミニーナ軟膏を塗っておけばいいと思うよ」
「フェミ?」
 
知らないようなのでメモに書いて渡す。
 
「こういうデリケートゾーンのかゆみを緩和する薬だよ」
「あ、やはりそういうのあるんだ! ムヒとか塗ったら辛そうだしと思って」
「ムヒなんか塗ったら、死ぬ思いするよ!」
「うん。そんな気がしたから、やめといた」
 
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青葉はヒロミに10月の連休に一緒に伊香保温泉に行かないかと誘った。
 
「へー。MTFさんがたくさん来るなら行こうかな」
「その時、来るメンバーの中に医学部の学生さんがいるんだよ」
「うん?」
「ヒロミの性別問題に決着を付けない?」
 
と青葉が言うと、ヒロミは考えているようだったが、決意したように
「うん。私も自分の性別を確認したい」
 
と彼女は言った。
 

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ヒロミのお母さんが送っていきますよと言ったのだが、近くだから大丈夫ですよと謝絶して、青葉は夜道を歩いてバス停に向かう。
 
バス停のところに背の高い女性が1人立っていた。ところが彼女は青葉を見ると、ビクッとしたようにして慌ててバス停を離れる。
 
何だ?何だ?と思いながらも青葉は彼女が路地に入っていくのを見送り、バスの時刻を確認する。
 
あちゃー。30分もある。やはり送ってもらうべきだったかなと少し後悔した。お母ちゃんに迎えに来てもらおうかなと携帯を取り出した時、青葉の耳に微かな悲鳴が聞こえた気がした。
 
青葉は急いでそちらに走って行く。そこはさっきバス停で待っていた女性が入って行った路地である。途中に飲み屋さんが1軒あったが、その30mほど向こうに2つの影があった。
 
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「あんた何してんの?」
と青葉は少しおばちゃんっぽい声でそちらに呼びかけた。
 
女性を襲おうとしていた男がビクッとして、一瞬青葉の方を向いたものの、すぐに走って逃げて行った。
 
こちらが女子高生とみたら開き直っていた危険もあったが、暗くて分からないので、成人女性かと思い、分が悪いと思って逃げたのだろう。
 
青葉は倒れている女性に近寄ると
「大丈夫ですか?」
 
と普段のソプラノボイスで尋ねた。
 
ところが彼女は恥ずかしそうに顔を隠して
「ごめん。見ないで」
と小さな声で言った。青葉はその声が男の声だったので驚いたが、こう言った。
 
「大丈夫ですよ。私も男の娘だから」
「えー!?」
 

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青葉がたまたまポケットに入っていた飴をあげると、彼女はずいぶん落ち着いたようだった。見た感じ40歳くらいかな?どうも女装外出の初心者っぽい。
 
「あなた、本当に男の子なの?」
「戸籍上はそうです。もっとも身体はもう手術して女の子の身体になっちゃいましたけどね」
「すごーい」
 
「でもこういう路地とか夜にひとりで歩くの危ないですよ」
 
「私、あまり女装外出の経験がなくて。昼間は女装がバレそうで怖いから、取り敢えず夜間練習してたの」
 
「夜間の外出は今みたいに襲われたりして危険です。最初は怖いけど昼間に女装外出は練習したほうがいいです。一度出歩けば平気になりますよ」
 
「そうかしら」
「だって、私、言われるまであなたが男だなんて気付かなかったですから。あなたの見た目は完璧ですよ。もっと自信を持ちましょう」
 
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「ほんとに?」
 
青葉は彼女と一緒にバス停まで行き、バスが来るまで女装のテクニックなどをおしゃべりした。それで彼女もけっこう女の格好でいる自分に自信が持てたような感じであった。
 

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9月7日。青葉たちの合唱軽音部は、砺波(となみ)市を訪れた。ここで合唱コンクールの県大会が行われるのである。
 
中学の時は地区大会→県大会→中部大会→全国大会と4段階だったのだが、高校はぐっと参加校が少なくて最初から県大会である。それも昨年は15校が参加していたのが今年は12校に減っていた。しかも12校の内6校が25人に満たない「参考参加」を表すマークが付いている。つまり青葉たちの学校を含めて6校の争いということになるようだ。また、昨年は上位3校が中部大会に行けたのだが、今年は参加校が減ったことから上位2校の進出ということになったことが、事前に説明された。
 
「上位2校か。厳しいなあ」
「1位は今年もW高校だろうし。残り1枠を5校で争う形かな」
 
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そんなことを言いながらも、青葉たちは観客席で参加校の演奏を聞いていた。
 

前半に順位に関係無い「参考参加」の学校が6校歌った。中には結構しっかりした歌唱をする学校もあったが、そこは壇上に並んでいるのが14人しか居なかった。助っ人を頼んでも25人にできなかったのだろうか。もったいないなと青葉は思って聞いていた。
 
やがて正式参加の高校の演奏に移る。最初は昨年3位であったC高校である。奈々美たちの学校だ。課題曲の「共演者」を歌った後、自由曲「初恋の丘」を歌う。
 
「うーん。。。このアレンジは詰まらない」
と日香理が言う。
「原曲が難しすぎるからだよ。あの曲を素で歌いこなせるのはかなり歌唱力のある人だもん」
と青葉は言う。
「だからといって、この編曲は易しくしすぎている」
と日香理。
「音域もソプラノとアルトで分担しているしね」
と空帆も言う。
 
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元々のしまうららさんの声域が3オクターブあるのだが、この編曲では高い部分のメロディーをソプラノ、低い部分のメロディーをアルトが分担して歌っている。
 
「でも結果的にきれいにまとまっているよ」
と美滝。
「うん。そういう意味では無難にまとめている感じだね」
「C高校なら、もっと難しい曲でも行けそうなのに」
 
その次は昨年2位になった富山Y高校だった。こちらは自由曲には難曲として知られる「In terra Pax」を演奏した。
 
「歌いこなせてないよね」
「難しい曲は歌いこなしたら凄いんだけど、きちんと歌えないと結果的に不利」
「あ、今ピアノ間違った」
「いやこの曲はピアニスト泣かせなんだよ」
 
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