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■春心(1)

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(C)Eriko Kawaguchi 2013-10-11
 
「ほら、よくあるじゃん、学校の七不思議って」
 
その日の放課後、社文科同級生の純美礼は言った。
 
「ああ。初代校長の像が走り回るとか、音楽室のベートーヴェンの肖像画が笑うとか?」
と美由紀が応じる。
 
「テニス部の先輩から聞いたんだけど、こんな感じらしいよ」
と言って純美礼は七不思議を言い始めた。
 
「1.校舎裏手の枯滝に夜中行くと水が落ちている」
「2.旧校舎の左端の3階から4階に行く階段が夜通ると1段多い」
「3.体育館の用具室に放置されているピアノが勝手に鳴る」
「4.体育館横の使用されてない女子更衣室から人の声がする」
「5.研修館4階のいちばん奥の女子トイレに使用禁止の個室がある」
 
「ちょっと、ちょっと、そこのトイレ、こないだの合宿の時使ったじゃん」
「ああ、確かに使用禁止って貼り紙のある個室があったね」
「その個室がどうかしたの?」
「分からないけど、七不思議に入ってるってことは、何か出るんじゃないの?」
「きゃー!」
 
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青葉は微笑んでいた。こういう噂が広まれば、女子高生たちの恐怖心が雑多な霊を呼び寄せる場合もある。そもそも「空き部屋」というのは、色々なモノが溜まりやすいのである。今聞いた1〜4も、だいたいあまり人が行かない場所、風通しの悪い場所が多い。そういう場所も浮遊霊の溜まり場になりやすい。
 
「6.図書館に呪われた本があって、それを帯出した子は死ぬ」
 
「それ、怖い! なんて本なの?」
「分からない。それ知るのも多分ヤバイかも?」
「でも、うっかりそれ借りたらどうなるのよ!?」
 
「でもうちの図書館、蔵書が10万冊くらいあるから、そう簡単には当たらないんじゃない?」
 
「そして最後の7.夜中の0時に旧校舎玄関の大きな鏡の前に立つと、鏡の世界に引き込まれる」
 
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「すると、次にその前に誰か立つまで出られないっての?」
と青葉は笑いながら言った。
 
「そうそう!それそれ!」
 
「まあ、ありがちな話だよね」
 

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「ね、ね、その七不思議探訪しようよ」
と美由紀が言い出す。
 
「そういうの関わるの良くないよ。運気落とすから、止めとこうよ」
と日香理。
 
「運気が落ちる?」
と、話の輪には入っていなかったものの、傍で聞いていたふうの凉乃が訊く。
 
「だよね?」
と日香理が青葉に振るので、青葉は説明する。
 
「その手の怪談のある場所って、要するに浮遊霊が溜まりやすい場所なんだよ。うかつにそういう場所に行くと浮遊霊を拾っちゃったりすることもあるから、基本的には近寄らない方がいい。『触らぬ神に祟り無し』」
 
「へー。なんか、青葉ちゃんだっけ? そういうの詳しそう」
 
「そりゃ、この子、日本で五指に入る霊能者だもん」
「えーーー!?」
 
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「東北大震災で亡くなった人の遺体を1000体くらい霊査で発見したんだよ」
「1000人も見つけてないよ」
「500人くらい?」
「まあ、300人くらいかな」
 
「すっごーい!」
 
「じゃ、青葉ちゃん、連れて行けば大丈夫だよね?」
と凉乃は乗り気になっちゃってる。
 
「よし、行こう!」
と美由紀が言って、結局七不思議探訪に駆り出されることになってしまった。
 

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参加したメンツは、言いだしっぺの純美礼に、楽しそうな顔をしている美由紀と凉乃、美由紀と青葉が行くので結果的に付いてくることになった日香理、学級委員の徳代、そして行く途中で遭遇して「あんたも来い」と美由紀が徴用したヒロミである。
 
「ヒロミはこうしてると普通に女子高生だけど、実は男の子なんだよ。男の子がひとりくらい居た方が心強いじゃん」
と美由紀。
 
「えーー!? うっそー」
と純美礼と凉乃が驚いている。ヒロミは恥ずかしそうに俯いている。
 
「あれ?今気付いたけど、私たちも7人いるね」
「七不思議のそれぞれの場所でひとりずつ居なくなっていったりして」
「7ヶ所目で『そして誰もいなくなった』?」
「そういう怖いことは言わないようにしようよぉ」
と日香理がマジで注意している。
 
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最初に校舎裏の枯滝に行った。学校の裏は崖になっているのだが、ここに確かにかつて滝が落ちていたというのは分かる。しかし今は水は流れていない。
 
青葉はそばに寄って滝の跡に指を当てて触ってみた。
 
「ね、日香理、これ実際時々水が流れてると思わない?」
「どれどれ」
 
日香理も寄って触ってみる。
 
「うん。私もそう思う」
 
「ほんとに水が流れてる?」
「そもそも。ここ少し湿気ってる。それに、枯れたままの滝なら、ここに砂とか細かい泥とかが付着してると思うんだ。でもここ岩肌がきれいにしてる。ということは時々水が流れて砂の類いを洗い落としているんだよ。この湿気の雰囲気からすると、1日以内に流れたことがある」
 
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「きゃー!」
「やはり夜中に?」
 
「上に回ってみない?」
 

青葉たちはいったん学校の外に出て、回り道をして、崖の上の方に出る道に入った。10分くらい歩いて、枯滝の上の所に辿り着く。
 
「こうなってたのか!」
 
枯滝の上の部分は、小さな川がある。水は流れていない。しかし、その川の少し上流側に、豆腐屋さんの看板が出ていた。青葉は先頭に立ってそちらに行く。お店の人に声を掛けた。
 
「こんにちは。済みません、客ではないのですが、ちょっと教えて頂けませんか?」
「はい?」
 
「そこの川、水は流れてないようですが、もしかしてこのお店の排水とか流れてます?」
 
「ええ。毎朝、早朝から豆腐作りをするので、その時、排水をそこに流します。でも、環境基準が厳しいから、きちんと浄化して、ほとんど無害の状態にしたものを排水してるんですよ」
 
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「ここの川は昔はそもそも水が流れていたんですか?」
「ええ。昔は流れていたんですが、20年くらい前の大きな地震で水源が涸れてしまって、水無川になっちゃったんですよ」
 
そういう訳で、枯滝は、毎日早朝にこの豆腐屋さんの排水が流れているだけだということが判明した。
 
「あぁ、七不思議のひとつが消えちゃった!」
「豆腐屋さんが元だったとは」
「純美礼の苗字も豆腐だし」
 
「あら、あなた、豆腐さん?」
と豆腐屋さんの奥さんが尋ねる。
 
「そうなんですよね。名前が《スミレ》だから、小学生の頃は《豆腐ツミレ》って呼ばれてました」
 
「じゃ、豆腐さんが折角ここまで来てくれたし、あなたたちに豆腐デザートの試食品をあげるよ」
「わぁ、いいんですか!」
 
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遠慮するような子もいないので、ありがたく頂いた。
 
「美味しい!」
「プリンみたいー」
「これ、今度買いに来よう」
「よろしく〜」
 

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その日は坂道を登るので燃え尽きたので、他の探訪は後回しになった。
 
それで翌日の昼休み、旧校舎に行ってみる。ここは玄関の鏡と3階から4階に上がる階段に七不思議がある。
 
「鍵掛かってる?」
「掛かってないみたい」
「でも勝手に入っていいのかなあ」
「立入禁止とは書いてないし」
 
などと言いながら、玄関のドアを開けて中に入った。確かに正面に大きな鏡がある。
 
「ここに夜中の0時に立つと、引き込まれるってのね?」
「青葉、何か感じる?」
 
「ああ。ここは確かに異世界の出入口だよ。深夜0時とは限らないけど悪いタイミングでここに立つと、ちょっとやばい」
 
と青葉は言った。
 
「じゃ、これ本物?」
「きゃー!」
 
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「何か対策ある?」
と日香理が尋ねる。
 
「そうだねぇ」
と言いながら青葉は周囲を見渡す。
 
「あ、これだ。ちゃーんと対策されてたんじゃん」
と言って、玄関すぐの所の棚に倒れていた、小さな鏡を起こして、角度を調整した。
 
「これで怪異は起きなくなるよ」
「何?何?」
 
「多分、誰かこういうの分かってる人が、この空間やばいってんで、問題が起きないようにするために、この小さな鏡をここに置いたんだよ。この鏡がここにこの向きに立っている限りは、ここは安全」
 
「じゃ、これでこの不思議は消滅?」
「うん」
 
「でも、そしたらこの鏡に最後に閉じ込められた人はもう永久に出られないの?」
 
「閉じ込められるってのはさすがに無い。ちょっと頭がおかしくなるだけ」
「重大事故じゃん!」
 
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夜中に来ると段数が1段増えるという階段にも行ってみる。
 
「どう?ここ」
「うーん。。。。」
「段が増えるって、どこに増えるのかなあ」
などと言って美由紀が行きかけたので
「美由紀、ストップ!」
と言って青葉は停める。
 
「何、ヤバイの?」
「ここさ。まともに霊道が通ってるんだよ」
「わぁ」
 
「踊り場の所から4階に掛けての部分だよね?」
と日香理が言う。
 
「そうそう。良く分かるね」
「だって見るからに雰囲気が怪しい。よく美由紀、近寄ろうとしたと思った」
「むむ」
 
「お友だちでこういうの動かすの得意な人がいるから、頼めば動かしてくれるけど、動かしても何年かしたら勝手に元に戻っちゃうよ」
と青葉は言う。
 
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「じゃ放置?」
「どうせ、ここ誰も通らないし、放置でいいと思う」
 
「じゃ、この七不思議は消えないね?」
「消えないけど、霊道には関わらない方がいいよ〜」
 

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