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■春心(9)

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(C)Eriko Kawaguchi 2013-10-13
 
図書館の「呪いの本」を探すのは、結局夏休み直前の木曜日に実行された。参加したのは、純美礼・凉乃・美由紀・日香理・徳代・ヒロミ・青葉と、社文科の図書委員・彩矢、そしてその話を聞いて付き合うと言った3年生の図書委員長・佳珠子さんに図書館司書の海老川さん、という総勢10人である。
 
海老川さんもその噂は知っていたが、海老川さんがこの学校に来た5年前から今年まで、在学中に亡くなった生徒はいないから、都市伝説の類いだと思うとは言った上で、万一本当に危険な本があったら、撤去したいからと言って参加してくれた。
 
「死んでなくても性転換した生徒はいないかな?」
「在校中に性転換した子というのも知らないなあ」
「のろいで性転換することってあるの?」
「そんな話も聞いたことない」
 
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「だけどこの図書館の蔵書は10万冊でしょ? どうやって探す?」
「やはりそういう危険な本は何らかのオーラが出ているのでは?」
「やはり青葉の霊感頼りかな」
 
「先生、5年前から今まで亡くなった生徒がいないなら、例えばその間に一度も帯出されたことのない本をリストアップできますよね?」
と図書委員長が訊く。
 
「できる。それ、やってみようか」
というので、委員長と海老川さんはそちらの作業に取りかかり、他の8人は取り敢えず閲覧室内の本棚を見て回った。
 
「そんな危険な本はやはり書庫の中かなあ」
「いや、書庫の中にあれば事故的に借りられる危険は少ないと思う。私は閲覧室の中という気がする」
と日香理は言う。それは一理あるなという気もした。
 
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「しかし雲をつかむような話だなあ」
「魔術の本とかかな?」
「そんな本、学校の図書館には無いよ」
「意外に童話の本だったりして」
 
「それって、同じ本なら全部呪いが発生するもの? それとも特定の個体のみにそういう呪いが掛かったりするもの?」
 
「それは両方あり得る」
と青葉は答える。
 
「20年くらい前だけど、ある魔術の本でそういうの聞いたことある。古い本で当時日本に3冊くらいしか無かったらしいけど、その本を持つ人全員、怪異が起きて。やっかいなことに、その手の本って処分困難なんだよね。捨ててもいつの間にか本棚に戻るし、焼こうとしても事故が起きて焼け残る。持ってた人はみんなかなり苦労して処理したみたい」
 
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「どう処理するの?」
「あまり興味を持たない方がいい。感応するから」
「うむむ」
 
「その本はじゃもう3冊とも無くなったの?」
「分からないね」
「うむむむ」
 

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8人は最初まとまって歩いていたものの、その集団でおしゃべりしながら図書館の中を歩いていると、やはり本を読んでいる人たちに迷惑ということで2人ずつのペアになって行動することにする。何か違和感のあるものを見たら青葉にチェックしてもらうことにした。
 
純美礼と凉乃、美由紀と青葉、日香理とヒロミ、徳代と彩矢、という組合せになった。とりわけ勘の悪そうな子を分散させると自然にこういう組合せになった。
 
「青葉、5月から6月に掛けて毎週東京に行ってたけど、毎週彼氏と会ってたの?」
と美由紀から訊かれた。
 
「会ってたけど、したのは最初の1度だけ。後は帰りの新幹線を彼が越後湯沢まで付き合って、車内で1時間だけのデート。土曜の朝から日曜の夕方まで、私ひたすらサックス吹いてたからね」
「そのために東京に行ってたんだもんね。じゃできなくて彼氏、もやもやしてるんじゃ?」
 
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「まあ夏休みになるから、今度の21日はまた彼の所に泊まるけどね」
「土日は彼バイトか何か?」
「いや、またサックスのレッスン受けてくるから。今週末からまた4週。ただし8月10日は先生が、横須賀のサマーロックフェスティバルにサポートミュージシャンとして出演するから、その週がお休みで、最後は8月17-18日になるけどね」
 
「わぁ大変そう。お金も大変そう」
「うん。お金は無茶苦茶掛かるね。でも折角良いサックス買っちゃったから、頑張って練習しないと」
 
「青葉って、何か始めると集中してそれ頑張ってものにする感じ。ピアノを中学1年の時から始めたと言ってたけど、私が最初に青葉のピアノ聴いた時、充分上手いなあと思ったよ。まあ音痴の私が言っても説得力ないかも知れないけど」
「美由紀は耳は良いと思うよ。ただその自分が感じる音を出すのが下手なだけだと思う」
「つまり下手なんだな」
「まあ、それはそうだけどね」
 
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委員長と海老川さんのデータベース検索の方は対象となる本が8万冊以上あってあっけなく頓挫した。日香理や純美礼が
「この本はどう?」
と言って青葉を呼びに来た本は、特に問題無かった。
 
1時間ほど探索した所で、司書室で休憩する。
 
「やはり膨大すぎるなあ。図書館の本を学校の全員に毎週1冊ずつ借りてもらって行って、誰か死んだら、それがその本だって訳には?」
と純美礼。
 
「無茶な」
「そんなこと言ってたら、純美礼がそれに当たるよ」
 
すると青葉はハッとしたように言った。
「それ、行けるかも」
「えー!? 生徒に犠牲になってもらうの?」
「先生、こういうことしませんか?」
と青葉は海老川さんに言った。
 
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18時。閉館になるのを待つ。「調達」に行ってきた、美由紀・純美礼・徳代・ヒロミの4人が戻って来た。その「調達してきたもの」を、静かに閲覧室内に解き放つ。
 
「取り敢えず放置でいいよね」
「じゃ明日、朝1番に結果を」
「今日はお疲れ様でしたー」
 

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翌朝6時。青葉たち「七不思議探検隊」のメンバーが図書館に集まる。委員長と海老川さんも来ている。
 
「じゃチェックして回ろう」
「よし」
 
手分けして閲覧室内を探索した。
 
「みんな来て!」
と日香理の声がある。全員そこに集まる。
 
本棚の1ヶ所に大量に蚊の死体が落ちていた。
 
「確認できたから、蚊取り線香焚くよ!」
「お願いします」
「私もう5ヶ所くらい刺された」
 
「この場所確認するまでは蚊取り線香焚けないもんね」
 
本当は図書館の中で火を使ってはいけないのだが、今回は特別に司書教諭の許可も取って、図書館中10ヶ所で蚊取り線香を焚いた。
 

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「さて、ここに大量に蚊の死体が落ちていたということは、この付近だけど青葉、分かる?」
 
「この本だね」
と言って青葉は1冊の本を手に取った。
 
「ちょっと!触っても大丈夫なの?」
「私は大丈夫だけど、他の人は触らない方がいい」
 
それはただの**幾何学の本だった。
 
しかし何て禍禍しい気を放っているんだ。どうして昨日はこれに気付かなかったのかなと思うくらいである。触っている青葉の方にも何だか細々とした攻撃をしてくる。五月蠅いなあ・・・・と思っていたら、勝手に「珠」が起動して、強い波動を本に向けて放出した。
 
え!?
 
それで本が沈黙した!
 
うっそー!
 
過去に「剣」が勝手に起動して、熟睡していた青葉を襲おうとした生き霊を撃退したことはあった。この「珠」にしても、攻撃用の「道具」にはこういう癖があるのだろうか?
 
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青葉は本が沈黙した隙に急いで封印を掛けた。
 
「それ、禁帯出シールが貼ってある」
「こんな本、普通は禁帯出にする必要無いですよね」
 
「多分この本が危険だということに気付いた、昔の司書さんが禁帯出シール貼ったんですよ」
「じゃ、間違って誰かが借りることは無いんだ」
「良かった」
 
「でも危険なら、なぜ捨てなかったんだろう?」
「捨てることができなかったからだと思います。多分この本、普通に捨てても1週間程度でここに戻ってくると思う」
「嘘!」
 
「その本、どうする?」
「先生、この本は除籍してもらえますか?」
「うん」
 
すぐに司書室に行き、除籍しようとしたのだが・・・・
 
「その本、除籍済みになってる。データベース上は」
「ああ」
 
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「だったら、ますます借りられませんよね。登録されてないからシステムが処理できない」
「二重に安全弁を掛けたんだね」
 
「この本の処理は私に任せて頂けますか?」
と青葉は言った。
 
「うん、お願い」
「それから、あの本が立ってた所にはこの本を置いてテープで固定して誰も取り出せないようにしてください」
 
と言って青葉は自宅から持って来た聖書を渡した。母が某教団信者の友人から付き合い半分で先日買ったものだが、こういう用途には最適と思って持って来たのである。多分この聖書はそのために青葉の家に来たのだ。
 
「1ヶ月も置いておけば後は大丈夫ですから」
「了解」
 
海老川さんはその聖書をそこに置き、ビニールテープで固定した上で
「触るべからず」と書いた紙を貼り付けた。
 
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青葉は母に電話し、急用で高野山に行ってくると告げた。
 
「学校が終わってから?」
「学校は休む」
「あんた今学校にいるんじゃないの?」
「いるけど、ちょっとこれやばいから」
「またあんた危険なことしてんじゃないの?」
 
「うーん。やむにやまれぬ事情だったんだよ。大丈夫だよ。手順にのっとってやれば命に危険は無いはずだから」
「ねぇ。青葉の命は青葉だけのものじゃないから。あんたが死んだら私悲しいんだからね」
「うん。自覚してる。ごめんねー」
 
それで青葉は学校の備品のアルミホイルをもらって封印の上から三重に包み(アルミ包装→常備品の塩を振る→アルミ包装→塩を振る→アルミ包装)、海老川先生の車で高岡駅まで行って7:30のサンダーバードに飛び乗った。
 
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青葉はチケットを2枚買い、隣に誰も座らないようにした。大阪で南海に乗り換え、高野山まで行く。駅から歩いて瞬醒さんのいる★★院に到着したのはもう午後3時であった。
 
青葉が持って来た本を見て、瞬醒が眉をひそめる。
 
「なんつーものを持ってくるんだい?」
「ごめんなさーい。でも他に処理できる場所の見当が付かなくて」
 
「まあ、それ処理できる所はたぶん日本国内に3ヶ所くらいしかないだろうな」
 
まずは封印を再度厳重に掛け直す。それから瞬醒が用意してくれた山歩きの装備に着替え、ふたりで歩いて高野山中のある場所まで行った。
 
「凄い場所ですね」
「青葉ちゃん。何かで人を殺したりしたら、ここに持って来て放り込めば絶対バレないから」
「そうですね。そんな必要が出た時のために覚えておこうかな」
「でも普通の人はここに来ることはできても、ここから脱出できないね」
「まあ、無理でしょうね。脱出できないまま、数日以内に自分も一緒にブラックホールに吸い込まれてしまう」
 
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ふたりで真言を唱え、封印されたままの本をそのまま、そこに投入した。
 

★★院まで戻ったのは、もう19時過ぎである。
 
「あの本はなぜああいう状態になったのでしょう?」
「詮索はしない方がいいけど、誰かが他の呪いをあの本に移したんだよ、多分」
「ああ、そういうことか」
「もう元の呪いがどんなものだったかは分からないね。かなり古いものっぽい」
「古いなというのは感じました」
 
「今日はどうするの? 今から富山に戻れる?」
「無理です。今日は大阪あたりに泊まります」
「それがいいだろうね」
 
瞬醒さんが、お寺の若い僧(と言っても多分50歳くらい)醒環さんに言って、青葉を麓の駅まで車で送らせたので、それで青葉は大阪まで戻り、市内のホテルに泊まった。醒環さんは
 
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「瞬葉さん、最初気付かなかったけど、何か物凄いオーラ持ってません?」
と運転しながら言った。
 
「強いオーラをそのまま見せていると怪異に付け込まれやすいから、できるだけ隠しておくんです」
「でも隠せるのが凄いです」
 
「瞬醒さんも凄いですよ。少なくとも私より遙かに大きなオーラをお持ちです。多分。私も本気の瞬醒さんはまだ見たことないですから」
「うーん。凄い世界だなあ」
 
「醒環さん、今年の回峰には参加なさいます?」
「いえ、とても無理です」
「今年はけっこう初心者も参加しますよ。ちょっとだけでも参加なさると、勉強になりますよ」
「うーん。。。師匠に相談してみようかなあ」
 

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