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■春心(10)

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大阪に着いてから母に「作業」が無事終わったことを連絡するとホッとした様子であった。
 
「ほんとに危ないことに関わらないでよね」
「うん。でも今回は、あの高校の生徒の誰かが犠牲になる危険があったんだよ」
「まあ、古い学校には色々あるのかも知れないね」
「ところでお母ちゃん、相談があるんだけど」
「うん?」
 
翌日は本当は東京で鮎川さんのサックスのレッスンを受ける予定だった。しかし急に高野山まで来たので、そのサックスを取りに戻ることができない。
 
「分かった。じゃ、私がサックス持って東京に出るよ。ついでに桃香の所に寄ってこよう。夏休みだし」
「ごめーん。助かる」
 
それで、翌日青葉は大阪からまっすぐ東京に入る。母は朝一番の飛行機で東京に出てスタジオで直接青葉と合流した。母が鮎川さんに会って挨拶すると、かえって鮎川さんの方が恐縮していた。
 
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「あれ?先生、もしかして昔ドリームボーイズのバックで踊っておられませんでした?」
 
Lucky Blossomのフロントパーソンをしていたのより、ドリームボーイズのバックダンサーだったというのを覚えているのがさすがミーハーな朋子である。
 
「ええ。1年もやってなかったんですけどね。覚えていてくださってありがたいです」
 
母は結局鮎川さんにサインをねだって、手帳に書いてもらっていた。
 

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母が桃香たちに会いに千葉に行った後、1ヶ月ぶりのレッスンを受ける。
 
「青葉ちゃん、1ヶ月の間に凄く進歩してる」
「毎日吹いてただけですから」
「充分、アマチュアバンドで吹いて恥ずかしくないレベルだよ」
「でもまだまだ先は長いです。頑張ります」
「私も教え甲斐があるなあ、こんなに進歩してくれると」
 

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翌日夕方のレッスンが終わった所で母から連絡があり、結局桃香・千里・彪志と青葉・母と5人で食事をすることにし、青葉も千葉市内に移動した。
 
「お母ちゃんたちはどこか行った?」
「私はこの2日間、この子たちの部屋をひたすら掃除してたよ」
「面目ない」
「ああ、桃姉たちの部屋って、物の積み方が芸術的だから」
「本棚も1個新しく買って組み立てて、床の本をかなり収納した」
 
「積み上げてある本の下の方にあるのを、上手に上のを崩さずに引き抜くもんね。桃姉って」
「まあ、あれはだいぶ練習したね」
「じゃ、だるま落としの名人ですね」
「うん、あれも得意」
 
「千里さんは、もう身体の方は大丈夫なんですか?」
「うん。だいぶ調子よくなったよ。青葉のお陰だけど。まだ手術前の6割くらいのパワーで運用している感じだけどね。全然徹夜できないし」
 
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「学校出て仕事始めたら徹夜作業とかもあるだろうけど、学生やってる間はできるだけ徹夜しないようにした方がいいよ」
と母も言っている。
 
「青葉は明らかに手術前よりパワーが上がっている」
と桃香が言う。
 
「青葉は普通の人とは違うから比較しちゃダメですよ」
と彪志からまで言われる。
 

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「青葉はまた毎週出てくるの?」
「うん。お盆過ぎまでは。でも東京に着いてから帰るまでひたすらサックス吹いてるから千葉まで行けないや。ごめん」
 
「彪志君とはデートしてないの?」
「帰りの新幹線で越後湯沢まで同乗してる」
 
「それお金掛かりそう」
「青葉、それ彪志さんの切符は往復青葉が買いなよ」
と桃香。
 
「買ってるよ」
「私が自分で買うと言ったんですが、学生なんだから無理しないでと言われて」
と彪志。
「青葉だって高校生なのに」
「今継続的に受けてる仕事で毎月かなりの報酬もらってるから」
「かなりもらえるって、かなり大変な仕事なのでは?」
 
「でも新幹線の中ではセックスしにくいだろ?」
「しないよー、さすがに新幹線の中では」
「トイレにふたりで入ればできないか?」
「お姉ちゃんたちしてるの?」
「1度したことあったな」
 
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千里が困ったなという顔をして笑っていた。
 

その夜は母は桃香の所、青葉は彪志の所に泊まり、翌日7月22日一緒に新幹線と《はくたか》で富山に戻ることにした。
 
それで22日の朝、彪志と一緒に朝御飯を食べていたら電話が掛かってくる。
 
「おはようございます、冬子さん。台湾公演お疲れ様でした」
「ありがとう」
 
冬子たちは7月20日(土)にローズ+リリー初の海外公演を台北でしてきたのである。
 
「凄く盛り上がったみたいですね」
「毎年はできないけど、また来たいと思ったよ。私は中国語さっぱり分からないから政子がMCで何を話してるか、全然見当も付かなかったけどね。痛たたた」
 
最後のは、きっと政子さんが電話中なら悪戯し放題と思って何かしてるなと青葉は思った。
 
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「それでさ、昨夜ちょっと用事があって、古い友だちの鮎川ゆまに電話したら、青葉、今ゆまさんからサックス習ってるんだって?」
 
「はい。5月から6月に掛けて集中的に習って、また今月から来月に掛けて集中的に習います」
「ゆまさん言ってたけど、もうプロ並みに吹けるらしいね。凄いね。この春から練習し始めたのに」
「まだとてもプロのレベルには遠いですよ。アマチュアバンドならやれると言われましたけど」
 
「それは青葉が調子に乗りすぎないように控えめに言ったんだな。ゆまさん、もうプロと名乗ってもいいくらい吹けてると言ってたよ」
「褒めすぎです」
 
「それでさ、そんなに吹けるなら青葉、私たちのライブにちょっと出ない?」
「へ?」
 
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「来月2日に富山で私たちライブやるからさ。そのオープニングにちょっと出てくれないかと思って」
「私なんかが出て何するんですか〜?」
「一度、『聖少女』の共同作曲者・リーフさんを紹介しておきたかったんだよ。今回のツアーは私たちにとって、ここ3〜4年の総決算の意味もあるから」
 
『聖少女』は2011年夏に制作された曲であるが、冬子がこの曲を書く直前に青葉がヒーリングをしている現場を目撃し、霊感の少しある冬子はその青葉のヒーリング波動を無意識のうちに曲の中に取り入れてしまったのである。そのため、この曲を聴くと、間接的に青葉のヒーリングを受けているかのような効果が出る。
 
そのことを指摘された冬子が、青葉をこの曲の共同作曲者としてJASRACに登録。CDがミリオンセラーになったため、青葉は凄い金額の印税を受け取ったのである。
 
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「そういうことでしたら出てもいいです」
「了解。じゃシナリオをまとめてそちらにメールするから」
「はい。でもそんな所で吹くんだったら、私必死に練習しなきゃ」
 
「最初に『越中おわら節』を私の胡弓で弾いて、その後青葉に『聖少女』をサックスで吹いてもらいたい」
「分かりました。頑張ります」
 
そういう訳で青葉はローズ+リリーのライブのオープニングアクトに出演することになったのである。
 

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当日。指定された時刻に予め送ってもらっていたバックステージパスを持って会場裏口に行く。スタッフさんに入れてもらい楽屋に行くと、冬子と事務所スタッフの松島さん、レコード会社の担当者・氷川さんが来ていた。挨拶するが、冬子が
「昨年秋のスリファーズ・ツアーで、春奈ちゃんのヒーリングをしてくれた凄腕ヒーラーさん」
と紹介すると、驚いていた。
 
「女子大生?」と松島さん。
「いえ、高校生です」
「北川から話には聞いていたけど、こんなにお若いとは」と氷川さん。
 
「今日はマリさん・ケイさんのヒーリング?」
「それはいつも頼んでいるけど、今日の出演者。この人が《リーフ》なんです。オープニングでサックス吹いてもらいます」
と言うと、
「えーー!?」
とまた驚かれる。
 
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更に冬子が
「この子4オクターブの声域持ってるんです。物凄く歌うまいですよ」
と言うと
「それは歌を聴いてみたい」
と氷川さん。
 
「青葉、松原珠妃の『硝子の迷宮』を歌ってごらんよ」
「はい」
 
超広い声域を持つ松原珠妃の実力を誇示するためにドリームボーイズの蔵田孝治が書いた曲でアルト声域の一番下より低いE3から、若くて優秀なソプラノ歌手にしか出ないA6まで使う恐ろしい曲だ。当時この曲がカラオケで歌えたら芸大の声楽科に合格するなどという伝説も生まれた曲である。しかし青葉は、そのとんでもない曲を難なく歌ってしまった。
 
本当に驚いたような顔で聴いていた★★レコードの氷川さんが
 
「ね。君、うちのレコード会社からデビューする気ない?」
と訊いた。
 
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その内、今日のゲストコーナーで歌う、双子のアイドル歌手・鈴鹿美里が付き人代わりのお母さんと一緒にやってくる。冬子が、青葉をふたりに紹介するが、青葉は
「ファンなんですー」
と言って、握手をしてふたりのサインをもらっていた。
 
「この場だから言っちゃっていいよね」
と冬子は言う。
 
「えっと・・・」
「リーフちゃんはMTF。既に性転換手術済み。20歳になるまで戸籍上の性別は変更できないけど、学校では完全に女子生徒扱い」
と冬子。
 
「えーー!?」
鈴鹿美里だけではなく、ふたりのお母さんや氷川さん・松島さんもまた驚いている。
 
「で、鈴鹿美里のお姉さんの鈴鹿ちゃんの方もMTFだけど、小学5年生の時から学校では女児扱いで、今中学にも女子制服で通っている」
と冬子。
 
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「ああ、やはり鈴鹿さんの方でしたか。友だちの間でもどちらが男の子だろうというので意見が真っ二つに分かれていたのですが」
と青葉。
 
「凄いね。パスしてると言うんだっけ? ケイさんもだけど、鈴鹿ちゃんも、リーフさんも、みんな元男の子だったとは思えないよね。女の子にしか見えない」
と氷川さんが本当に感心しているふうであった。
 
「鈴鹿ちゃん、このリーフちゃんがこないだ言ってた病院で手術してもらったんだよ」
「あれ?でも高校生さんですか?」
「そう。医学的にひじょうに珍しい事例ということで、特例中の特例中の特例で手術が認められたんだよ。普通は特例でも18歳以上」
「ですよね」
「公演が終わった後、その病院に行ってみる?」
「ええ、ぜひ」
と鈴鹿は自分の母の方を見ながら言う。お母さんも頷いていた。
 
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「ところでマリさんは?」
と青葉が訊く。
 
「遅いね。あの子も遅刻魔というか、そもそも時間という概念の無い世界で生きてるからなあ」
と言って、冬子は携帯で事務所の『桜川さん』を呼び出した。
 
「どうですか?」
「今**まで来たところです。あと15分くらいで会場に到着します」
「すみません、よろしくお願いします」
 
普段は、冬子は政子と一緒に行動しているのだが、この日は政子が富山市内で買いたいものがあると言ったので、念のため事務所スタッフの桜川悠子さんを付けておいたのである。
 

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やがて公演が始まる。今回のツアーでは各地でそれぞれその地にちなんだオープニングを工夫していた。富山公演では、最初ケイ(冬子)の胡弓でマリ(政子)が、越中おわら節を踊るという趣向になっていた。
 
おわら節の基本である「平踊り」を2回踊った後で、ケイの胡弓が『聖少女』の前奏を奏でる。マリがその歌を歌い出す。
 
そして間奏の所になった時、青葉は愛用のピンクゴールドのサックスを持ち舞台に出て行って、ソロパートを演奏した。ステージに出て行くと凄い拍手で迎えられるので気持ちが昂揚する。
 
これ気持ちいい!
 
気持ちよくなるとサックスも冴える。青葉は何だか普段以上にうまく吹けている気がした。
 
間奏が終わって、またマリが歌い始めるが、青葉はケイが胡弓で弾くメロディに音の厚みを付けるかのように、サックスを吹き続けた。
 
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演奏が終わるとケイが
「『聖少女』の共同作曲家、Leafさんでした」
と紹介する。
 
それで大きな歓声と拍手をもらい、青葉は観客に向かってお辞儀をすると舞台袖に下がった。
 

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青葉が下がるのと入れ替わりに、今日の伴奏に入る宝珠七星さんが出て行く。七星さんは青葉とハイタッチし
「今日の出来は凄かったよ」
と笑顔で青葉に言った。
 
「リーフさん、こういう舞台の経験はたくさんあるの?」
と氷川さんに訊かれる。
 
「中学時代に合唱コンクールで全国大会まで行きましたから」
「なるほどー。でもサックスも本当に上手いね〜」
「いやお恥ずかしいです。この春から練習し始めたばかりなので」
「うっそー! 充分プロのレベルだよ。もう3〜4年やってるのかと思った」
 
「習っている先生からは『アマチュアバンドのレベル』と言われたんですが」
「ヤマハか何かの教室に通ってるの?」
「いえ。毎週東京に出て、鮎川ゆまという先生に習っています」
 
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「鮎川ゆまって、Lucky Blossom?」
「はい」
「すっごーい。鮎川さんのお弟子さんか! そりゃ鮎川さんから見たらアマチュアと言われるかも知れないけど、鮎川さんがプロと言うのは、今日の伴奏の宝珠さんとか、鮎川さんの先生の雨宮三森とか、そのレベルくらいだよ」
 
と氷川さんは言っていた。
 

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