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■春心(4)

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「ああ、そちらもその手の話あるんだ?」
「青葉の学校にもある?」
「あるある。T高校の七不思議とか言われて。こないだからその内の5つまで友だちと探訪したよ」
「へー! まあ青葉が付いてれば安全だろうな」
「いや、私だって相手が悪ければやばいことになる」
 
「こっちは、その踏切とか、工学部内の池とか、医学部のそばの立入禁止になっている煙突のある煉瓦の建物とか、文学部の女子トイレとか、幻の教官とか、理学部放射線実験施設前の噴水とか、大学の東門とか」
 
「女子トイレは、トイレの花子さんみたいな?」
「似たようなものかも知れないけど、女子トイレの中で学生服の男の子を見るというんだよ」
「それ痴漢じゃないの?」
「鏡の中にしか見えないというんだよね」
「ふーん。それ多分ただの雑霊だと思う。気にしない方がいいよ」
「そっか」
 
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「幻の教官ってのは?」
「その講義を取ると、実際に講義のあるはずの教室に行っても誰も学生が居ないっていうんだよね。それで待っていても教官も来ない。それで学期末の試験も無いけど、ちゃんとCが付いて単位はもらえる」
 
「なんて素敵な教官。彪志も受けた?」
「いや、どの講義がその幻の教官の講義なのか先輩も知らんと言ってた」
 
「ただの都市伝説っぽい」
「かも知れん」
 
「東門って何かあるの?」
「いや、うちの大学には東門は無いはず」
「ふーん」
「正門、南門、北門はある。そして知らない奴も多いけど実は西門も存在する。でも東門は無いはずなんだ」
 
「でも見たことのある人がいると?」
「そうそう。東側の門を通ったとしか思えない状況に遭遇したと主張する奴がいるらしい」
 
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「いるらしい、という所が怪しい」
「それはある。この手のって伝聞の伝聞だから」
「オリジナルに辿り着けないこと多いよね」
「全く全く」
 

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「噴水ってのは、出ない噴水?」
「そうそう。去年通ってたピザ屋のバイトを終えて大学に行く時にはよくそばを通ってた。水はきれいなんだよ。鯉も泳いでる。でも噴水はあるのに水が出てない」
 
「水がきれいってことは、ちゃんと水は供給されているってことね?」
「だと思う」
 
青葉は唐突にその話が気になった。
 
「でも、使用されてない噴水なんて、珍しくもないのに何でそれが闇スポットってことになってるの?」
 
「それがさ。その出ない筈の噴水から水が出てるのを見た奴ってのが今まで何人かいるらしい」
「うん」
「その噴水を見た奴が全員、その後、聴覚を失ったというんだ」
 
その話を聞いた瞬間、青葉は背筋がゾクっとするのを感じた。
 
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「・・・・彪志、まだその噴水の傍を通る可能性ある?」
「えっと・・・無いことは無い。あのピザ屋は潰れてしまったけど、友だちのアパートとかに泊まった後、大学に行く場合は通る可能性ある」
 
「そこ見せて」
「え?」
「千葉に戻ろう。今夜泊めてよ」
「もちろん、大歓迎!」
 

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そのまま新幹線の改札口を出ようとしたら切符が引っかかる。駅員さんが来て取り出してくれたが、東京駅始発なので、戸惑った表情。
 
それで青葉が、乗る予定の新幹線が事故で遅れているので、《はくたか》が待っていてくれても高岡から先の連絡ができないので、今日の旅行を中止して、明日乗車するつもりだと説明すると、
 
「ああ、それは申し訳ありません」
と言って、入場取消の処理をしてくれた。
「明日乗る時は、念のため、駅員のいる所で説明して通ってください」
と言って特急券を返してもらう。
 
乗車券は途中下車扱いで大丈夫だろうけど新幹線の特急券は放棄になるだろうと思っていたので、ちょっと儲けた気分だった。
 
母に連絡し、急用ができたので明日帰ると告げると、気をつけてと言われた。母は青葉が何か危険なことに関わろうとしているのを敏感に感じ取ったような気もした。明日朝の学校への連絡を頼んでおく。
 
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そのまま総武線に移動して千葉まで行き、その夜は彪志のアパートに泊まった。何だか彪志が物凄く嬉しそうだった。3月以来2ヶ月ぶりだ。以前はもっと長い期間会えなかった時もあるのだが、夏休みまで「できない」と言われていたのが、今夜は「できそう」なので、そわそわしている感じ。青葉はそんな彪志を微笑ましく思った。
 

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彪志とちょっと気持ちいいこと(これってやっぱり女側も快感だよなあと思う)をしてから、まどろんでいた時、ビクッとした。
 
これ夢の中だよね?
 
そう自分の「定位」を確認してから、静かに、その気配のあった方を見る。
 
古風な貴族の女性のような服を着た、怖そうなお姉様がこちらを見ている。
 
『お呼びになりましたか?』
『私の所に来なくてもいいぞ』
とその女性は言った。
 
『姫様と事を構えるつもりは決してございません。むしろ姫様が、安寧に居られますように、調整できたらと思っています』
 
するとその女性はじっと青葉を見つめるようにしていたが、ふっと消えた。
 

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翌朝。自分と彪志に充分清めの塩を振ってから出かける。これは本体との対峙のためではなく、むしろ他の雑霊を遠ざけて、よけいな手間を掛けないためである。
 
大学構内に入ったが「ああ、乱れてるなあ」と感じた。高校以下の学校でこういう場が形成されることは稀だが、大学というのは、どうも変なスポットが出来やすい面を持っている気がする。
 
あまり気にしないように、また変な「もの」と目が合ったりしないように、気をつけて歩く。
 
やがて、その問題の噴水の所に辿り着いた。
 
「ああ、なるほどね」
「鯉とかもいるんだよね」
と言って彪志が池に近づこうとするのを手で制止する。
 
普通の場所なら彪志は危険な所には近寄らない勘を持っているが、その彪志でさえ、この場所ではその勘が狂うのであろう。しかしやっかいな場所だ!
 
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さて、何から手を付けようかとマジで青葉は悩んだ。
 

取り敢えず踵を返す。慌てて彪志が後に続く。
 
青葉は大学の外に出て、問題の場所のほぼ真東付近にある小さな神社まで来た。青葉は無言だが、彪志は何も言わずに付いてくる。
 
青葉はその神社にお参りし、それからさきほどの池に戻った。
 
「あれ?雰囲気変わった」
 
青葉がニコリと微笑む。
 
「あと2回、ここに来るよ。彪志、車を借りてくれる?」
「うん」
 

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大学の近くのレンタカー屋さんに行く。経費節減で軽を借りる。今回は誰かから依頼料とかもらえる訳でもないし!
 
青葉は携帯を取り出し、この付近の地図を出すと
「ここに行って」
と場所を示した。
 
「OK」
 
ということで、その店から30分ほどドライブして、とある神社まで来る。
 
「ああ、神社があったのか」
と青葉が言ったので彪志が驚く。
 
「どこに来るか知らなかったの!?」
「うん。場所だけ教えてもらった」
「教えてもらったって誰に?」
「ふふ。秘密。でも彪志は考えればきっと分かる」
「うーん」
 
青葉が彪志にその神社の境内で「これと思った石」を5個拾ってと言い、それを拾うと、また大学構内に戻る。池のそばに車で乗り付けた。青葉は彪志に車から降りないように言い、青葉が5つの石を持って降りる。
 
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そして、池の中の5ヶ所に、慎重に場所を選ぶようにして石を沈めた。
 
「ごめん、今度はちょっと私に運転させて」
と青葉は言う。
 
「捕まっても知らないよ」
「まあ警察に会った時は会った時で」
「じゃ会わないことを祈って」
 
ということで、今度は青葉が運転してまた30分ほど走って車を停めた。そこには大きな沼か湖かがあった。
 
「これ**沼だっけ?」
「どうだろう。まあ詮索する必要は無いけど。貝殻が無いかなあ。3つ欲しい」
「探してみる」
 
彪志が水際をかなり歩き回る。
「あ、あった」
と言って拾ってくれる。
 
10分ほど掛けて、小さな貝殻で、それも少し割れているものだったが3つ確保した。
 
「こんなんでいいかな?」
 
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青葉はじっと見ていたが
「行ける」
と言い、ふたりは車に戻る。
 
レンタカー屋さんに車を返してから、大学構内の池に戻る。青葉は池の周りの選んだ場所3ヶ所に、その3つの貝殻を1つずつ埋めた。
 
「なんか今急にここ明るくならなかった?」
と彪志は訊いたが、青葉はニコっと笑っただけで、何も答えない。
 
そして自分の携帯で電話をする。
 
「こんにちは〜。あ、私が電話してくるの分かりました? すっごーい。やはり私たち愛し合っているのね」
などと、彪志が聞き過ごせないようなことを言っている。
 
「うん。そうそう。これだとあれでしょ? だから、5mくらい上空に移動できます?  わ!動いた! ありがとう!!! 御礼は振り込んでおくね。うんまた。愛してるよ!」
 
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と言って電話を切る。
 
「出雲の直美さん?」
と彪志が訊くと
「うん」
と青葉は笑顔で頷いた。
 
「解決した?」
「そうだなあ。彪志が大学院を出る頃まではもつと思うよ」
「その先は?」
「彪志が関わる可能性無いなら放置」
「うむむ」
 
「こんなの根本的な解決は無理だもん」
「ああ」
 
「じゃ、お姫さま、またねー」
と青葉は池の方に向かって手を振り、大学を後にした。
 

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その夜、昨日から1日遅れで新幹線デートを楽しんだ後、越後湯沢から金沢方面への《はくたか26号》の座席に揺られながら眠っていたら、夢の中に昨夜の姫様が現れた。
 
『こんばんは』
『確かに少し楽になった。ここ40年ほどちょっときつかった』
 
『40年前にあの噴水の池が出来たんですか?』
『噴水の水が止まったんだよ。石油ショックとか省エネとか言われて。あの水が流れていれば、あのあたりの気は悪くなかったのだが。それに放射線施設の方から怪しい気がたくさん流れてくるから』
 
『放射線自体はしっかり遮蔽されているだろうけど、気までは調整できないかもね。そういうこと分かる人が設計してない限り』
 
『礼にこれを取らせる』
 
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と言って、姫様が青葉の方に手を伸ばした。受け取る。真珠のような珠だった。ふと気付くと姫様の姿は消えていた。
 
 
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