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■春心(5)

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(C)Eriko Kawaguchi 2013-10-12
 
青葉は目が覚めたが、少し考えた。
 
母に電話する。
「お母ちゃん、ごめん。予定がまた変わっちゃって。明日も学校休む」
「お前、危ないことに関わってないよね?」
「うん。もう大丈夫だよ。後処理だけ」
「やはり危なかったのね?」
「ごめーん」
「じゃ、気をつけてね」
「うん」
 
続けて青葉は直江津駅の近くにあるホテルを楽天トラベルを通して予約した。女子高生がひとりで突然ホテルのフロントに行くとあれこれ詮索されそうだが予約があればあまり問題にされない。最初一瞬直江津駅で夜を過ごせないか、もし追い出されたら近くの公園か何かで野宿できないかと考えたのだが、母の顔が思い浮かんだのでホテルを取ることにした。(実際、直江津駅は夜間閉鎖されるので夜は過ごせない)
 
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それで青葉は22:16に直江津で《はくたか》を降りると、取り敢えずホテルに入り、シャワーを浴びて寝た。
 
その日の夢の中には呉羽が出てきたので驚いた。
 
『ヒロミ、どうしたの?』
『私・・・生理になっちゃった』
『でもヒロミ、前からナプキン買ってたよね?』
『あれはあの付近に炎症が起きたりした時に当ててたんだけど・・・』
 
『ヒロミは女の子だもん。生理が来るのは普通だよ。高校生になるまで来なかった方が変だったくらい』
『そうかな・・・』
 
『心配なら、婦人科に行って検査受けといでよ』
『行ってこようかな・・・・』
『うんうん。一度見てもらえば安心だよ』
 
『でも婦人科行ったらさ・・・』
『ん?』
『内診台に座らされるのかなぁ』
 
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『ああ、あれは恥ずかしいよねぇ』
『青葉も座った?』
『座った、座った。もう羞恥心を棍棒で殴って気絶させといた』
『あはは』
 
青葉は目が覚めてから、今のがいつもの「例の夢」なのか、単純な普通の夢なのか、判断に迷った。呉羽・・・生理になることあるんだっけ?????
 

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翌朝。2013年5月21日(火)。早朝にホテルをチェックアウトし、6:15の新潟行き快速列車《おはよう信越》に乗る。新潟行きではあるがその手前の長岡で下車して新幹線に新潟まで乗る。そして新潟で《いなほ1号》秋田行きに乗る。《おはよう信越》が新潟まで行くから、そのまま乗っていても良さそうだが、それをやると《いなほ1号》が発車した3分後に新潟に到着するという連絡なのである。青葉はできるだけ早く出羽に入りたかった。
 
鶴岡に到着したのは10:19だった。出羽三山行きのバスに乗り、1時間ほどで羽黒山頂まで来る。
 
降りて、取り敢えず三神合祭殿でお参りしようと思ったら、バッタリと馴染みの美鳳(みお)さんに会う。この人は会う度に色々な服を着ているが、今日は女修験者のような服装だ。
 
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「こらぁ、手抜き! ちゃんと随神門から登っておいでよ」
「ごめんなさーい」
「まあ、今日は遠くから来たみたいだから勘弁してあげるよ。その珠の使い方を知りたいんでしょ?」
「はい、お願いできますか?」
 
「取り敢えず歩こうか」
「ははは、やはり」
 
「荷物は預かっておくよ」
と美鳳が言うと、白い衣装を着た童女が寄ってきたので、着替えのバッグとサックスのケースを彼女に渡した。
 

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それで、三神合祭殿でお参りした後、美鳳さんに続いて山中に入る。美鳳さんは黙々と歩いて行く。青葉もそれに続いて歩く。
 
それで3時間ほど歩き回って、山中の小さな庵で休憩した。新鮮な湧き水を飲み、美鳳さんからおにぎりを1個もらう。
 
「青葉ちゃん、無茶苦茶パワーアップしてる」
「去年性転換手術を受けてから、自分でも驚くほどパワーアップしました」
「うん。それはあるみたいね。青葉ちゃんの場合、男性器が本来のパワーを出す邪魔をしていたから」
 
「やはり邪魔物だったのか・・・・」
「実際邪魔だと思ってたでしょ?」
「ええ。邪魔でした」
 
「でも青葉ちゃん、まだ本来のパワーじゃないよ。ちゃんと修行すれば今の10倍にはなる」
「え?そんなに?」
「私と一緒に、ここに5-6年籠もらない?」
「済みません。私、俗世間の生活を捨てられない」
 
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「あはは。ついでにその肉体も捨てちゃえば100倍になる。今捨てちゃう?」
「ごめんなさい。それは40年後くらいにさせて。私が今日実体のまま帰宅しなかったら母が悲しむし」
 
「うふふ。青葉ちゃんのこと悲しむ人が出来たのね」
「ええ」
「でも40年後でいいの? 孫の顔見たいなとか、未練ができるよ」
 
「うーん。。。。私、何となく自分は50歳くらいまでしか生きられない気がしてたんだけど」
「まあ、私は青葉の寿命知ってるけど、それは寿命が来た時のお楽しみでいいかな」
「はい、そうさせてください」
 

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休憩後、裸になって滝行をした。そして、美鳳は青葉をお互い裸のまま、ある洞窟の中に連れて行った。奥に神殿があり、ロウソクが両側で燃えていた。一緒にお参りする。
 
「青葉、試験に合格したから、もうその珠を使えるよ」
「試験だったんですか!?」
 
「青葉、この山にこういう洞窟が幾つあるか見当が付く?」
「53個ですか?」
「ふーん。53個までは分かるんだ?」
 
「ああ、もっと多いですか?」
「1000年くらい修行したらその先が見えるけど?」
「ではその内、お付き合いします」
「うん、楽しみにしてる」
 

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ふと気がつくと、青葉は随神門の前に立っていた。服も着ている。着替えのバッグとサックスも手に持っている。青葉は門の奥に向かって
 
「美鳳さん、ありがとうございました」
と御礼を言った。
 
やがて鶴岡行きのバスが来たので乗って駅前まで行った。もう夕方である。高岡までの切符を買い、時刻を確認して母に到着時刻を連絡する。
 
「高岡到着は23:38になるから。遅くなって御免ね」
「・・・・青葉、生きてるよね?」
「生きてなかったら電話できないよぉ」
「いや、青葉なら死んでいても電話くらいして来そうだから」
「多分生きてると思うけどなあ」
「じゃ、気をつけてね」
「うん」
 
18:20のいなほ14号に乗り、また例によって新潟から長岡まで新幹線に乗る。そして長岡から快速《くびき野6号》に乗って直江津まで。そして「いつもの」
列車《はくたか26号》で高岡に帰還した。
 
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翌日、2013年5月22日。青葉が学校に行き、放課後、まずは軽音の練習に出ると
 
「青葉、何か突然進化した!」
と同じアルトサックス担当の星衣良に言われた。
 
「東京で特訓してきたから」
「それで昨日・一昨日も休んだの?」
「あ、一昨日は別件。例のお仕事。昨日はその後処理」
「ああ、霊のお仕事か。でも高校卒業までは控えると言ってなかった?」
「目の前にある火の粉は振り払わないとね」
「ふむふむ」
 
「あれ?今日、呉羽は?」
「あ、呉羽も一昨日から休んでる」
「ふーん。風邪でも引いたのかな?」
「いや、性転換手術受けてたりして」
「そんなの受けるなら、夏休みとかに受けるでしょ。1ヶ月は出てこられないもん」
 
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「だけど青葉は性転換手術の1週間後に部活に出てきたね」
「しかも合唱のソロ歌った」
「あれは、私が歌うしかない状況だったから」
「いや、それで歌える所が、さすが青葉だよ」
 

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軽音の練習を1時間してから、合唱の練習をする。最初の30分はウォーミングアップを兼ねて、この時期は、いきものがかりの曲をたくさん歌っていた。
 
『Yell』『ブルーバード』『ありがとう』『歩いていこう』『花は桜、君は美し』
『コイスルオトメ』『風が吹いている』『SAKURA』『ふたり』『茜色の約束』
 
「でも何で、いきものがたりなんですか?」
「いきものがたり、じゃなくて、いきものがかり」
「え?」
「まだこういう人がいたのか」
「初期の頃、結構そういう間違いはあった」
「小学校でウサギとかの生き物をお世話する係だったんだよ、メンバーが」
「へー、そうだったのか」
 
「まあ、いきものがかりは部長の趣味だよ」と康江さん。
 
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日によっては、やはり和声の美しさを求めてKARIONの曲を歌うこともあった。『雪うさぎたち』『星の海』『水色のラブレター』『Crystal Tunes』『Gold Dreamer』
といった、KARIONの曲の中でもとりわけハーモニーの美しい曲である。
 
そういったウォーミングアップの後、大会用の曲を練習する。課題曲の『ここにいる』
と自由曲でKARIONの『海を渡りて君の元へ』。課題曲は女声四部の譜面が指定されているので、それで歌う。自由曲も作曲者の水沢歌月さん自身が女声四部に編曲して青葉に送ってくれた譜面を使用している。
 

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部活が終わってから、教室に戻り帰ろうとしていたら、純美礼が声を掛けてくる。
 
「青葉〜、まだこないだの七不思議探訪、終わってないよ」
「こんな時間からやるの〜?」
「夕方くらいが出やすいんじゃない?」
「本当に変なのが出たら、身の安全を保証できないよ」
「青葉がいるから大丈夫」
 
ということで、とりあえず、その辺りに居た、美由紀・日香理・徳代を誘って行ってみようということになる。
 
「あれ?ヒロミは?」
「今日は休み」
「じゃ、誰か男の子を適当に調達しよう」
 
なんて言っていたら、向こうから理数科の吉田君がやってきた。
 
「吉田〜、ちょっと私たちに付き合わない?」
「何?何?」
「吉田、手をつないであげるよ」
「ちょっと待て。何をさせる気だ?」
「男子禁制の所に連れてってあげるよ」
「はぁ?」
 
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事態を全然把握していない吉田君を連れて、6人で、この日は「研修館4階の一番奥の女子トイレ」というのを探訪に行った。
 
研修館の入口の所で守衛の人から
「君たちどこ行くの?」
と訊かれるが、徳代が
「こないだ入った時に忘れ物した気がするんで、見に行きます。ひとりじゃ不安だから友だちと来ました」
と言うと
「男子も1人入っているなら大丈夫かな。気をつけてね」
と言って通してくれた。
 
「おお、やはり男子は役に立つ」
「いや、だから何しに行くのさ?」
 
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