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■春心(8)

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「なんか凄い数のメールをやりとりしてるね」
「そうですね。月に100通は越えてるかも」
「きゃー。ほんとに知り合いなんだ!」
 
「あ、あった。あった。これがその御許可を頂いた直後のやりとりです」
「おぉ、凄い。北陸の地で水沢歌月を知っている人に会うとは思わなかったよ」
 
「まあ、歌月さんを知る人はたぶん12-13人くらいですよね」
「うん。その程度だと思う」
 
と言っていづみは笑っていた。
 

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いづみは、コーラス部の歌がもっと聴きたいと言ったので、紡希の伴奏で他に課題曲の「ここにいる」を歌った後、KARIONの『雪うさぎたち』『星の海』
『水色のラブレター』『Crystal Tunes』『Gold Dreamer』といった曲を連続して演奏したが、『Crystal Tunes』を歌っている最中、いづみは突然何かを思い付いたかのように、荷物の中からパソコンを取り出すと、何か打ち込み始めた。
 
ソプラノ最前面で歌っていた空帆がさっといづみの傍により
「電源使えますから、コード貸してください」
と言い、ノートパソコンの電源コードをコンセントにつないだ。
 
『Gold Dreamer』を歌い終わってもいづみがまだ書いているので、紡希は『Snow Squall in Summer』『星間旅行』『白猫のマンボ』『Shipはすぐ来る』
とKARIONの曲を弾き続ける。このあたりの曲は練習で歌ったことは無かったが、半ばうろ覚えで何とかちゃんと和声になるように歌う。音感の良い生徒が多いし、ソプラノは青葉と美滝、メゾ1は美津穂、メゾ2は公子、アルトは日香理と立花がしっかり音を出すので、音が分からない子はその音を聴きながら歌うことで、割とまとまる。
 
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しかし『白猫のマンボ』を歌っていたらいづみは笑顔になり、『Shipはすぐ来る』
になると吹き出してしまった。そしてその歌の途中で、書き上げたようだ。
 
紡希の伴奏が停まる。
 
「書けましたか?」
と空帆が声を掛ける。
 
「うん。きれいな詩が書けた。みんな、ありがとう」
といづみは言った。
 

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ちょうどそこに顧問の今鏡先生がやってきて、何か普段と雰囲気が違うので戸惑うが、青葉が説明すると
 
「わぁ、KARIONのいづみさん、本物!?」
などと声を上げる。
 
「はい、本物だと思います」
と本人。
 
それで握手したり、良かったらうちの部にサインをなどと言うので、青葉がもう1枚の色紙を出して「T高校コーラス部さんへ」という宛名のサインを書いてくれた。
 
部員の中に他にも握手を求める子、サインが欲しいと言って生徒手帳に書いてもらう子なども続出した。
 
「いづみさん、お時間大丈夫ですか?」
と青葉が心配になって声を掛ける。
 
「あ、そろそろやばいかも。高岡駅前を18:40のバスに乗りたいから」
といづみが言う。時計はそろそろ18時になろうとしている。
 
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「飛行機ですか?」
と今鏡先生が訊く。
 
「はい」
「だったら、私が富山空港まで車でお送りしますよ」
「わあ、いいんですか」
「なんかたくさんサイン書いて頂きましたし」
 
ということで、今鏡先生の車にいづみを乗せ、何となく流れで青葉も同乗する。いづみと並んで後部座席に乗り、学校を出た。
 

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いづみは青葉に気を許したのか、ここ数日、九州の壱岐から、長崎・博多・出雲・天橋立・福井・金沢と旅してきたことを語った。
 
「出雲大社は工事中でちょっと浮ついた感じだった」
「60年に1度の遷宮をしてますからね。どうしても落ち着くまでは仕方無いです」
「白兎海岸で、目の前に見える島がホントにウサギの形してるんでびっくりした」
「やはり、あれはあの島の形から、あの伝説が生まれたんでしょうね」
 
などと話している内に青葉は、いづみの気の流れが良くないのに気付いた。
 
「たくさん旅をなさってきたからでしょうけど、かなりお疲れになってますね」
「そうなんだよね〜。何か疲れが取れる方法あるかなあ」
「少しまたヒーリングしていいですか?」
「うん」
 
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すると青葉は、いづみの膝の付近から顔の上まで、ゆっくりと身体の線に沿って手を動かし始めた。身体との距離をだいたい3〜4cmに保ち、ずっと動かす。車が揺れるので時々身体にぶつかってしまうが、いづみもその程度は気にしない。
 
そしてそのヒーリングをしながらも青葉はいづみとおしゃべりを続ける。
 
「でも、君、凄くおとなっぽい。高校生と思えない」
「すみませーん。私、小学2〜3年生の頃から、あんたと話してるとおとなと話してるみたいだと言われてました」
 
「へー!早熟だったんだね」
「よく言えばそうですね。単に可愛げが無いだけというか」
「いや、君は可愛いよ」
 
などといづみは言う。
 

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やがて、18:30頃。富山空港に着く。車を無料駐車場に駐め、一緒に空港ビルに向かった。
 
ビルの中に入ろうとした時、向こうで手を振る40歳前後の女性が居る。
 
「あ」
と青葉といづみが同時に声を出した。その女性が寄ってくる。
 
「おはようございます、すずくりこ先生」
といづみが挨拶した。
「おはよう。確かKARIONのいづみちゃんだよね」
と田中鈴厨子さんは、笑顔で口話法で話し掛けてきた。
 
「はい。覚えて頂いていてありがとうございます」
といづみ。いづみは、耳の聞こえない田中さんが自分の言葉を唇の動きで読み取りやすいように、ハッキリと口を開け閉めして発音する。
 
「みすずちゃん(ゆきみすず:間島香野美)が、あんたたちのプロデュースをしてたから、KARIONのCDは、いつも見せてもらってたよ」
と田中さんは言う。
 
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「ありがとうございます。先生はこちらはお仕事ですか?」
「ノンノン。ここの可愛いヒーラーさんのヒーリングを受けに来たの」
 
「青葉ちゃんの?」
「そうそう。この子は日本で最高のヒーラーなのよ」
「えー!?」
「青葉さんの部活が終わるまで時間調整と思って空港内でお茶を飲んでて、そろそろ移動しようかなと思ってビルを出たら、本人が来るからびっくりしちゃった」
 

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結局今鏡先生も含めて4人でビル内に入り、いづみが飛行機にチェックインした上でお茶を飲んだ。
 
「ああ、いづみちゃんは創作旅行だったんだ?」
「ローズ+リリーが凄いアルバム出したから、負けてられないと思って」
「なんか凄い仕上がりだって、みすずちゃんも騒いでたよ」
 
この時の席は、今鏡先生と田中さんが並んで座り、向かい側に青葉といづみが座る形になって、田中さんがいづみと青葉の言葉を読み取りやすいようにした。
 
「取り敢えずたくさん詩は書きましたけど、まだ校正して言葉を突き詰めたいんですよね」
「だったら、お堂とかに籠もってみる?」
と田中さんは言った。
 
「ああ、そういうの良さそう」
「紹介してあげるわよ。私の親戚が住職してるお寺が千葉にあるのよ。街から離れていて静かだよ」
「わあ、助かります」
 
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それで田中さんは自分の名刺の裏に、そのお寺の住所電話番号を書いていづみに渡した。
「住職さんには私からメールしておくから」
「ありがとうございます」
 
「KARIONの曲は美しい。私は歌詞と譜面を見るだけしかできないけど、美しい歌だというのが分かるよ。みすずちゃんは、とにかくハーモニーが美しいし、いづみちゃんの声が透明なのも良いと言ってたな」
 
「あのハーモニーはKARIONの財産だと思っています」
といづみも微笑んで答えた。
 

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いづみを見送ってから、結局今鏡先生の車で、青葉の自宅まで、青葉と田中さんを送ってもらった。
 
「先生、ガソリン代は明日払いますから」
と青葉が言ったが、先生は
 
「今日は何だか凄い人に2人もあったから、お代はそれで充分」
と言っていた。
 

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母がもう夕食を用意してくれていたので、それを一緒に食べてからヒーリングをすることにする。
 
「聞こえる音の上限はやはり不安定みたい」
「突発性難聴は普通発症してから2週間が勝負といいますから。10年以上経ってますし。私のヒーリングも気休め程度に考えていてください」
 
「いや、気休めじゃないよ! 凄く調子いい。声も若くなったとみんなから言われているし」
「良かったです」
「こないだセールスの電話に出たら、お嬢ちゃん、お母さんいる?と言われた」
「良い傾向です」
 
「でも2週間かぁ。倒れた時、私ただの風邪の症状と思ってたからさ。ただ自宅で寝てるだけで、病院にも行かずにひたすら仕事してたんだよね」
 
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「仕事人間だとありがちですね。直接的にはウィルス性のものなんでしょうね。難聴になる直前風邪を引いてたという人は多いですよ。それで糖尿があると、元々末端神経の血行が良くないから」
 
「やはり基本は節制だな」
「カロリーコントロール頑張りましょう」
 

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「青葉ちゃんは大丈夫? MTFさんには、カロリーコントロールとホルモンコントロールの狭間で悩んでる人多いみたい」
 
「エストロゲンが血糖値を上げるから、本気で摂取カロリーを抑えないとダメなんですよね。それでホルモン剤を飲まないと今度は精神的に不安定になるから物凄くたいへんみたいです。元々人工的な秩序を作ろうとしてますからね。身体に無理が行くのはやむを得ないですよ。寿命が短くなるのは覚悟と言っている人もいますし。それでもホルモン的に男だった時からすると、凄く精神的に楽になったとおっしゃる方が多いですね」
 
「でもそれ自己管理がきちんとできる人でないと無理だね」
「その自己管理するだけの精神力が、ホルモンをちゃんと飲んでないと得られないんですよ」
「難しい! 青葉ちゃん頑張ってね」
 
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「まあ、私も冬子さんも女性ホルモンは体内で生産される分で間に合っているので製剤は飲んでないんですけどね」
「へ?」
 
「私は女性ホルモン一度も飲んだことないですし、冬子さんもここ2年くらい飲んでないはずです」
「体内で生産されるって、どこで? 卵巣は無いよね?」
 
「ああ。お医者さんも首をひねってました」
と青葉は微笑んで答えた。
 
 
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