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■春風(9)

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(C)Eriko Kawaguchi 2013-05-29
 
「そうだ! 青葉、ヴァイオリンも覚えない?」
と政子は唐突に言った。
 
「へ?」
「またその内、ゲリラライブとかやる時にさ、青葉もヴァイオリンが弾けたら楽器のやりくりが楽になる」と政子。
「じゃ、政子もフルート再度覚える?」と冬子。
「パス」
 
「でも、この子あげるよ」と政子。
 
と言って政子はヴァイオリンケースを持って来た。
 
「大学1年頃に主に弾いてたヴァイオリンなんだよね。でも私はこの子の能力限界を突破しちゃってるから、今後弾いてあげる機会があまり無さそうで。でも楽器は弾いてあげないと可哀想でしょ。ヴァイオリンやったことのない人なら、練習用に活用できると思うから」
 
「ちょっと失礼します」
と言って青葉はケースを開けるとヴァイオリンを取りだした。
 
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「きれいなヴァイオリンですね。一瞬ハンドメイドかと思ったけど、このニスの塗り方が人間の手では無理。機械加工ですか?」
 
「そそ。良く分かるね。その楽器は人間業ではできないようなことを機械にやらせて作った、ある意味究極の量産品」
「これ高そうです」
「値段は気にしない」
 
冬子が調弦してくれたので、それを手に取ると肩と顎ではさみ、一緒に入っている弓を当ててみる。
 
いきなり変な音が出て「わっ」と声を上げる。
 
「弓の当て方はこんな感じ。そして弓はこの角度で動かす」
と冬子さんが手を取って教えてくれる。
 
それで弾いて見ると、なるほど一応きれいな音が出る。
 
「あんた要領を覚えるのが速い」
と七星さんが感心して言う。
 
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「あ、ついでに私のフルートも持って行かない?」
と言って、冬子がフルートを出してくる。
 
「こないだ、青葉これきれいに吹けてたからね。元々は政子が中学時代に吹いてたフルートなんだけど、青葉になら、あげていいよね?」
と冬子が確認すると、政子は頷いている。
 
「このヴァイオリンとフルートを持って、震災後の東北にかなりたくさんゲリラライブに行ったからさ。私たちもローズ+リリーの活動を本格化させるから当面ああいうこともする余裕がなくなるし、誰か適当な人にこのセットあげられないかなと思ってたんだよね。青葉はある意味、被災者代表みたいなもんだし」
 
「そういう御趣旨なら頂きます」
「うん」
「ちなみにヴァイオリンの名前は『アルちゃん』、フルートは『ハナちゃん』という名前だから」
 
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「へー」
 
「ちなみに『アルちゃん』の前に使ってて、他の子にあげた初代ヴァイオリンは『イーちゃん』なんだ」
「中国語のイー・アル・サン・スーですか!?」
「そそ」
 

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翌日の午前中、結局冬子さんの家に泊まり込んだ七星さんに連れられ楽器店に行った。
 
「サックスはヤマハ、ヤナギサワ、セルマーというのが三大メーカーなんだよ」
「七星さんはどちらをお使いなんですか?」
 
「今メインに使っているのはヤナギサワ。セルマーを高く評価する人が多くて私も一時期使ってたんだけど、多分外れに当たったんだろうけどトラブルが多くて。私、ツアーミュージシャンとしての活動が多いから旅先でトラブると困るんだよね」
「ああ」
 
「それで国産のヤナギサワに乗り換えた。それに私指が小さいから、外人さんの身体に合わせて作られているセルマーより、国産品の方が結果的には相性も良かったみたい。青葉ちゃんも背が低いよね?」
「157cmです」
「じゃ、やはり多分、ヤマハかヤナギサワがいいよ」
 
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「学校の備品はどこのメーカー?」
「えっと、なんとかウィーンズってのでした」
「ロッカウィーンズか!」
「あまり良くないですか?」
 
「うーん。値段の割には良いと思うよ」
「ああ、なるほどー」
「そこより安いメーカーのはさすがに使わない方がいい」
「なるほど!」
 
「ところでアルトサックスでいいんだっけ?」
「はい。くじ引きでアルトの担当になりました。アルト3人、テナー1人、バリトン1人という5人構成です(アルト:青葉・立花・星衣良、テナー:真琴、バリトン:敏子)。ちなみに私がバリトン持ってみたら、サックスが私を抱えてるみたいだと言われました」
 
「なるほどね」
と言って七星さんは笑っていた。
 
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青葉はやっとマウスピースで音が出せるようになったというレベルなので七星さんに試奏してもらい、その音や雰囲気を見聞きして決めることにした。
 
ヤマハのYAS-875, YAS-875EX, それにヤナギサワのA-991, A-992 と吹いてもらう。
 
「ヤマハの音はファミレス、ヤナギサワの音は洋食屋さんって感じがします」
と青葉が言うと
「あんた、政子ちゃんみたいな表現するね」
などと言われた。食べ物にたとえて表現するのは確かに政子さんの得意技だ!
 
「でも確かにそうなんだよ。ヤマハは優等生。吹きやすいし初心者でも結構良い音が出る。ヤナギサワは個性がある。吹きこなすのに努力が必要だけど、可能性が深い。更に個体により当たり外れがある。今吹いた2つは比較的当たり」
 
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「七星さん、今並んでいる楽器を見て『選び』ましたよね」
「ふふふ」
 
「ヤナギサワにしようかなあ」
「青葉ちゃん、器用そうだから、短期間でヤナギサワを吹きこなせるかもね」
 
「宝珠さん、9937も在庫がありますが」と店長さんらしき人が言う。
 
「ああ」
と言って、七星さんは青葉に
「音聴いてみる?」
と尋ねる。
 
「はい」と青葉。
 
「仕上げはどのタイプですか?」と七星さんが店長さんに訊く。
「ラッカー仕上げとピングゴールドです」
「じゃ、両方吹いてみようかな」
 
店長さんが奥から2個サックスを持ってくる。青葉はそれを見た時、ピンクの方のサックスを「可愛い!」と思ってしまった。しかし七星さんは言った。
 
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「そのピンクゴールドはそれ1個だけですか?」
「あ、いえ。もうひとつありますが・・・・」
「そちらも見せて頂けます?」
「はい」
 
七星さんは2個のピンク色のサックスを見比べて、後から店長さんが持ってきてくれた方を選んだ。七星さんは、さっきヤナギサワのサックスは当たり外れがあると言っていた。たぶんこちらの方が「当たり」なのだろう。
 
七星さんが試奏する。
 
「私、このピンクのサックス、凄く好きになっちゃいました」
「ああ、そんな目をしてるなとは思った。これ買う?」
 
「あの・・・お値段はおいくらですか?」
「145万5300円です」
「きゃー!」
「3年ローンくらいにしましょうか?」と店長さん。
 
「ちなみにラッカーの方は 95万8650円です」
「いえ、やはりピンクゴールドの方買います。音が全然違ってたもん」
 
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「そう。金メッキはとても良く音が響くんだよ。本来は私みたいにソロ吹く人向きなんだけどね。ラッカーの方がアンサンブル向き。でもそもそもほとんど素人で集まって鳴らすバンドなら、どちらでも問題無いと思う」
 
「ですね。じゃ、これください」と青葉。
「はい。お支払いは?」
「カードで」
 
明らかに高校生っぽい青葉がカードでなどと言ったので一瞬店長さんは「ん?」
という顔をしたが、常連の七星さんが付いているので、大丈夫だろうと判断したようであった。
 
「はい。VISA, MASTER, JCB, AMEX ならOKです」
「では、これでお願いします。1回払いで」
 
と言って青葉が出した黒いカードを見て、店長は目を丸くした。
 
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「いや、私もそのカードは初めて見た。目の保養」
と帰り道、七星さんは言った。
 
「限度額が事実上無いのが助かるんですよね。フェラーリでも買えるよと言われたけど、そんなの買ったらさすがに決済できない。でもこのカード、リアルで使うことはあまり無いです。霊関係のお仕事してて、緊急に飛行機とか新幹線で移動なんてのはよくあるので、その時にオンライン決済するのに、よく使ってます。100万以上のを買ったのは初めて」
 
「なるほどねー」
 
「大金持ちのクライアントが、ある案件を解決した時に私に1000万円報酬をくれると言って、それはさすがにもらいすぎですと言って辞退したら、代わりにこれを作ってくれたんです。普通はカードって18歳以上でないと作れないみたいですけど、大金持ちは例外みたいで。あと年会費もその人が払ってくれています」
 
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「まあ、どーんとお金があれば、かなりの問題が解決するよね」
「ええ。逆に本来解決するはずのものが、わずかなお金が無いために解決できないものも多いです」
 
「青葉ちゃんの性別変更なんかも、そうじゃない?」
「そうなんです! この世界、性転換手術受けたいのに、お金が無くて受けられずにいる人多いです。それで年齢と共にどんどん身体は男性化していくし」
「辛いだろうね」
「私が手術を受けられたのは『聖少女』の印税のおかげですけどね」
「ああ」
 
その日はその後、いったん七星さんの家に行って七星さんが自分のサックスを取って来てから、冬子さんの所の事務所が借りっぱなしにしているという新宿のスタジオに連れて行かれ、そこで少しサックスの吹き方を指導してもらった。七星さんの使用楽器も青葉が買ったのと同じタイプの色違い、金色のA-9937GPゴールドメッキ仕上げであった。
 
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「わあ、同じ楽器でしたか」
「うん。でも私もピンクの方にすれば良かったなあ。この色可愛いよね」
などと七星さんは半ば羨ましそうに言っていた。
 
「でも私がこのサックス買えたのも、去年出した『Phantasia Ecostic』がヒットしたお陰だよ」と七星さん。
「ああ。20万枚ちょっと売れましたよね」
 
「うん、あと少しでプラチナに届く所で惜しい!と言われた。でもファン様々」
と七星さんは遠い所を見て言う。
 
「じゃ、またヒット曲出して、ピンクの方も買っちゃいましょう」と青葉。「うん・・・いいな、それ」と七星さん。
 
2時間ほど練習している内に、青葉自身も驚くほど、きれいな感じで音が出るようになる。
 
「あんた、本当に器用だね。冬ちゃんと似たタイプだわ。短時間でこんなに上達するって凄いよ」
 
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「いえ。七星さんが丁寧に教えてくださったし、あと七星さんが吹いておられるのを見て、その真似をしたりしてただけなので」
 
「うん。それを真似して演奏できるのが冬ちゃんと似ている」
 

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その後、冬子さんからお金もらっているからと言って一緒に日本料理店でお昼を食べたあと、午後は七星さんは用事があるので他に行くものの、スタジオでずっと練習していていいと言われたので、遠慮なくまた使わせてもらい、夕方冬子さんが迎えに来るまで、スタジオでひたすらサックスを吹いていた。
 
冬子はスタジオに来た時、法螺貝を持っていた。
 
「ね、ね、青葉、確か法螺貝吹けたよね?」
「ええ。吹けますけど」
「ちょっと教えてくれないかなあ。今作っているアルバムで、私法螺貝吹く必要があって」
 
「いいですよ」
「ちょっと吹いてみてもらえない? 私と青葉の間柄なら、同じ吹き口を咥えてもいいよね?」
「問題無いです」
 
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と言って青葉は冬子の持って来た法螺貝を吹いてみせる。一応ウェットティッシュで拭いてから冬子に渡した。
 
「うーん。こんな感じかな」
と言って、鳴らそうとするが、スーと空気が漏れてプーという小さな音が出るだけだ。
 
「えっとですね。こんな感じの口にして咥えるんですよ」
と口の形だけ作ってみせる。
 
それを真似してやってみて、また青葉が模範演奏を見せてあげるというのを何度か繰り返すうちに、やっとプォーという大きな音が出た。
 
「出ましたね〜」
「いや助かった。中学の時に友人からもらったんだけどさ。どうやっても音がまともに出ないから諦めてたんだよ。でも今回吹く必要が出てきたから、久しぶりに練習してみようと思って」
 
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結局スタジオで2時間ほど法螺貝の練習をしてからマンションに帰宅した。
 

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