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■春風(2)

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「でも私、この子がこんなことになってるって全然気がつかなくて」
と呉羽の母。
 
「いや、私たちもびっくりでした」と日香理。
「この子、時々女の子の服を着てるみたいだな、とは思ってたんですが」
と呉羽の母。
 
「夏頃から女の子同士で始めた勉強会に、ちょっと悪戯心で引き込んだんですけどね。女の子の中に男の子がひとり混じっているような空気が無かったです。以前から、男の子にしては話しやすい相手だとはみんな思ってたけど、勉強会していて、わあ、この子、男の子というよりはむしろ女の子だって、みんな感じてましたよ」
と青葉。
 
「でも女の子の服を着て参加するようになったのは、かなり後の方だよね」
と美由紀。
「そそ。それ以前にもみんなで一緒にイオンとか行く時、ふざけて女の子の服を着せたりはしてたけどね。自主的に女の子の格好で来るようになったのは11月頃からかなあ」
と日香理。
「でもふざけて女の子の服を着せても全然違和感無いから、この子絶対普段から女装してるって、みんなで噂してました」
と美由紀。
 
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「あと、呉羽って話し方が女の子なんだよね」と日香理。
「そうそう。だから声がそんなでも、聞いている側は女の子が話しているように聞こえてしまう」と青葉。
 
「最近、家ではずっとこんな感じの話し方だよね」と呉羽の母。
「うん」
 
「私たちの前でもそんな感じで話すようになったのは年末頃からかなあ」
「でも実は小さい頃から、その話し方は、こっそりやってたらしいですね」
 
呉羽は恥ずかしそうに俯いている。その件はお母さんの手前、みんなで締めあげて、鳥の羽でくすぐって、はかせたとは言えない。
 

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翌日9日の2時間目には身体測定が行われた。女子は視聴覚教室、男子は物理実験室で体重・身長・胸囲・座高の測定、視力検査、聴覚検査、校医による診察などが行われた。呉羽は別途ひとりで1時間目のうちに測定と診察を受けたようであった。
 
問診票に既往症や入院などの履歴を記入する。青葉は面倒なので昨年の性転換手術に伴う入院については記入しなかった。「生理痛・生理前症候群」については「特に問題なし」、「生理の乱れ」は無しと記入した。この手の問診票にしては妊娠を尋ねる項目が無いなと思ったが、高校生でそこまで訊くとよけい苦情が入るからかなとも思った。
 
服をめくって校医の先生から聴診器を当てられる。問診票と身体測定結果をざっと見て頷いている。
 
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「身長157cm 体重47kg か。まだ身体が成長期なのかな。胸は割とあるね」
「はい、中2の春はAカップだったのに、ここ2年でかなり大きくなりました。身長も7cm伸びてるし」
「ほお。中学生でそれだけ伸びるのは珍しいね。でもこの2年でそれだけバストも成長したのなら、身長の伸びはそろそろ止まるかも知れませんね」
「あ、はい」
 
青葉は中学1年の時までの栄養状態がよくなかったため、それで成長が全体的に遅れていることを感じていた。しかし確かに身長の伸びはあと1年程度で停まるかもしれないなという気はした。
 
「貧血とか起こすことはない?」
「あ、それは経験無いです」
「生理は乱れない?」
「ええ、乱れません」
 
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健診が終わってから教室に戻る。先に美由紀と日香理が戻っている。
 
「ね、ね、青葉さ」
「ん?」
「生理の乱れとか問診票にはどう書くの?」と美由紀。
 
「乱れることは無いから、生理の乱れは無しと書くよ」
「うーん。。。確かに乱れることは無いか」
「うふふ」
 
「でも青葉、ナプキン入れ持ってるよね」と日香理。
「入れてるよ」
と言って、ポーチの中から取りだして日香理に見せる。
 
「わ、普通にパンティライナーとナプキンが入ってる」
「私、実際28日周期くらいで出血があるんだよね。そう量は多くないから軽い日の昼用があれが充分。パンティライナーはその前後に使う」
「それって生理じゃん!」
 
「病院で経血の成分を検査されたことあるけど、普通の女性の経血と同じだと言われた。先生、首をひねってたけどね。何かの病変があったらいけないからというのでMRIで検査もされたけど異常なし」
 
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「やはりきっと卵巣と子宮があるんだな」
「私さあ」
「うん」
「誰も信じてくれないだろうけど、自分ではその内子供が産めるような気がしてて」
「ああ、青葉なら産めるかも知れない気がするよ」
と日香理がマジメな顔で言った。
 
「でも私のヴァギナって人工のものだから、赤ちゃんの頭のサイズが通過できないんだよね。赤ちゃんの頭は10cmくらいあるのに、私のヴァギナは伸びてもせいぜい4cmくらいまでしか広がらない。でっかいおちんちんが何とか入るサイズ」
 
「おちんちんのでかいのって4cmもあるんだ?」と美由紀が驚く。
「そうみたい」
「私の彼の、本人が一度測って測ってとか言うから測ってあげたら横幅3.2cmだったよ。長さは15cmだった。彼、体格的には小柄だから、身体の大きな男の子だとそのくらいの子もいるだろうね」と日香理。
 
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「おお、そういう実践的な情報は貴重だ」と美由紀は喜んでいる。
 
「でもまあ、帝王切開という手もあるでしょ」と日香理。
「うん。それしか無いかもなとは思う」と青葉は答える。
 
しかし青葉はどこかで帝王切開の現場を見ておかないといけないな、などと考えていた。だって、それ自分で手術しないといけない確率大なんだもん!でもお腹の上に体重掛けて子宮から押し出す所は彪志にやってもらわなくちゃねー。
 

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3時間目の授業が終わった後、美由紀・日香理と一緒にトイレに行ったら、トイレの前で呉羽が何だかもじもじしている風なのを見る。
 
「どうしたの?」と美由紀が声を掛ける。
「あ、えっとトイレに行こうと思って来たんだけど・・・」と呉羽。
「もしかして、女子トイレに入る勇気がなくて、ここでもじもじしてるとか?」
と青葉。
 
また呉羽は恥ずかしそうに俯いている。
「おお、可愛い」などと美由紀は言い
「じゃ、一緒に入ろう入ろう」と言って呉羽の手を取ると、一緒に女子トイレに入った。
 
「呉羽、別に女子トイレに入ったことない訳じゃないんでしょ?」
「うん、まあ・・・」
「折角女子高生になれたんだから、もっとしっかり女の子ライフ楽しもう」
 
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「うん、でも列ができてるような所にはあまり入ったことなかった。人の少なさそうな所探して入ってたし」
「まあ女子トイレに列ができるのはデフォだから頑張って慣れよう」
「うん」
 

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6時間目は理数科・社文科の合同で男女別に体育だった。また3人でおしゃべりしながら更衣室の方に向かっていたら、呉羽と空帆が並んでいるのをキャッチし、そのまま一緒に歩いて行く。
 
女子更衣室の前まで行ったところで、呉羽が「じゃ、また後で」と言って向こうの方に行こうとする。美由紀が飛びつくようにして停める。
 
「どこに行く? まさか男子更衣室に入るつもりじゃないよね?」
「まさか。その先の教材準備室で着替えてと言われてるから」
 
「別にそんな所行かなくても私たちと一緒に着替えようよ」
「えーっと」
 
「ささ、おいで、おいで」
と言って美由紀が手を引っ張って女子更衣室に連れ込んだ。
 
「私たちとおしゃべりしながら着替えていれば、誰も変に思わないよ」
「うん。呉羽、女の子なんだから、普通にここで着替えればいいんだよ」
 
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呉羽は恥ずかしそうにしながらも服を脱ぎ始める。
 
制服の上、ブラウスと脱ぐと、ブラジャーをしている。
 
「おお、結構大きいんだね」
と言って空帆が胸を触っている。
 
「これ、ブラジャーはBカップ?」
「うん。B75付けてる。ちょっと隙間があるけど」
「へー、アンダー75か」
「その隙間、夏くらいまでには無くなるよ」と青葉。
「青葉が言うなら間違い無いな」
 
体操服の上を着た後、スカートを脱ぐ。ショーツが顕わになるが、特に変な盛り上がりなどは無い。
 
「ああ、上手に処理してるね」
「うん、まあ」
 
「これなら、女子更衣室で着替えても全然問題無いじゃん」
「いつもこちらで着替えようよ」
「でも・・・・」
「女の子の下着姿見て興奮する?」
「まさか」
「じゃ問題無いね」
「呉羽は女子更衣室で着替えるということでOKだね」
 
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そういう訳で、呉羽は、なしくずし的に美由紀たちで毎回女子更衣室に連れ込まれることになった。
 

翌日10-11日は校内の施設・研修館を使って新入生合宿が行われた。定員400名の2階大ホールを使い、富山大学の先生など外部の講師による講義が行われた。図などは講師が用意しているPowerPointの画面をプロジェクターで大きなスクリーンに投影し、講師はマイクで話す。
 
1日目の午前中は、万葉の里・高岡に関する講義、国際社会と外国語によるコミュニケーションに関する講義が行われた。お昼を食べた後、午後からは食の安全性に関する講義、スポーツのメンタル・トレーニングに関する講義が行われ、1日目の最後はT高校の先生が講師となって、男女に分かれて性教育の講義が行われた。男子は大ホールをそのまま使い、女子は定員200人の1階の小ホールに移動した。そちらでもPowerPointとプロジェクターを使って講義は行われた。
 
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席が自由なので、私たちは勉強会のメンツ(青葉・美由紀・日香理・美津穂・明日香・星衣良・世梨奈および呉羽)、そして空帆の9人で固まっていた。女子として性教育の授業を受けるというのを呉羽が恥ずかしがっていたが、呉羽には必要なことだよ、と言って半ば拉致するかのように連れてきた。
 
色々な中学から来た子がいるので、先生は女性器・男性器の構造や月経の仕組みなど基本的な話から始めて、そして性交と妊娠の仕組み、更には様々な性的行為(オーラルセックス・アナルセックス・及び身体の様々な場所を使った非侵入型の性行為など)についても説明した。オーラルセックスの説明には、一部の生徒から「うっそー!」なんて声が上がっていた。やはり結構うぶな生徒もいるようである。また子宮頸癌ワクチンの摂取に関する説明も行われた。
 
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女性器の構造や月経の仕組みを説明する所で呉羽が俯いているので「ほらしっかり見てなきゃ。呉羽も手術したらこういう形になるし、その内月経も始まるから」
などと言って、スクリーンの方を向かせる。
 
「私、月経来るのかな・・・」と呉羽が戸惑うように言うが
「ああ、高校生にもなってまだ来てない子は珍しいだろうけど、その内来るから心配しないで」と青葉が言うと
「そ、そうなの?」と、やはり困惑するような返事。
 
「青葉は生理あるよね?」と明日香が訊くと
「もちろん、ちゃんと毎月来てるよ」と青葉は笑顔で答えた。
 
空帆が少し不思議そうな顔をしていた。
 

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