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■春風(6)
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これでも元々のコーラス部11人と軽音部7人というので、もう少し増やしたいというので、青葉たちは徴用を試みた。
「明日香〜、星衣良〜、世梨奈〜、あんたたち音痴じゃないよね?」
「うん、音痴ではないけど」
「じゃ、コーラス部に入ってよ」
「9月まででもいいからさ」
「うーん。9月までならいいか」
「ついでにあんたたち管楽器できない?」
「へ?」
聞いてみると、明日香は小学校の吹奏楽部でトランペットを吹いていたというので、即トランペット隊に組み込んだ。星衣良はウィンドシンセを練習したことがある(但し挫折したらしい)というのでサックス隊に組み入れ、世梨奈はフルートが吹けるということだったので、そのままフルート担当ということにした。
美由紀が「私、音痴だけど手伝えることある?」と言ったので、ピアノの譜めくり役として徴用することにした。
青葉たちはもうひとり徴用を試みた。
「紡希さあ、ピアノ凄くうまいよね」
「うん、まあ。少しは自信あるかな」
「ねね、コーラス部のピアノ弾いてくれない?」
「えー? 私勉強に集中したい。私、東大理1狙ってるし」
「9月まででいいからさあ。1年生の内はまだ少し余裕あるじゃん」
「何なら大会とその少し前の練習だけでもいいよ」
「ちょっと噂に聞いたけど、今年はコーラス部に入ると、もれなく軽音部にも参加という話が」
「ああ、それは紡希に関しては免除するよ。ピアノ担当の康江さんに歌の方に参加してもらって、少しでも歌う人数を増やしたいんだよ」
「そうだなあ、青葉たちには恩義があるし。じゃ、練習も時々でいいのなら、やってもいいよ」
「サンキュー、助かる!」
そういう訳で、コーラス部は紡希にピアノを任せて、康江さんは本番では歌で参加することになった。
更に、美滝が練習には参加できないけど、本番とその直前練習くらいだけなら歌ってもいい、という子を4人見つけてくれた。それでコーラス部は25人で大会に出られることになった。
合唱大会の高校の部は参加人数が歌唱者40人以内ということにはなっているのだが、最低について規定は無いものの25人未満での参加の場合は、よほど優秀でない限り、事実上採点対象にしてもらえない。これを俗称「参考参加」と言うらしい。25人以上だと「通常参加」になるので青葉や美滝はほっとした。
敏子部長は
「通常参加できるなんて嘘みたい!3年生までやってて良かった」
などと感激していた。
この高校のコーラス部はここ5年ほどずっと10人前後で、参考参加だったらしい。
木曜日。美由紀の親戚の温泉宿を使った、久々の「青葉鑑賞会」が行われた。但し、青葉はもう性転換手術して完全に女の子の身体になってしまったので、今回はそれを再確認するのはあるものの、実質参加者の関心は、女体疑惑がささやかれる?呉羽に移っていた。
参加者は中学の時の同級生などが20人ほど、更に話を聞きつけて参加希望した、空帆と須美もいた。学校がバラバラなので、結局送迎バスで、氷見線の越中国分駅・越中中川駅・高岡駅・北陸本線福岡駅・城端線戸出駅の5箇所で参加者を拾ってもらい、温泉まで行った。
約1ヶ月ぶりに会うメンツもいて、あちこちでハグし合う姿が見られ
「こら、危ないから車内で立つな」
と幹事役の明日香から注意されていた。実際ハグしたつもりがバスが揺れてキスしてしまった子もいた。
呉羽が女の子になっていたことを知らなかった子も何人かいて
「うっそー!」
「いつの間に!?」
といった声があがっていた。
「ね、呉羽、女子制服着てるけど、まさか女湯に入らないよね?」
「いや、それを女湯に連れ込んで観察しようというのが今日のメインテーマ」
「そうだったのか!」
「性転換済みの青葉の裸体を鑑賞するものとばかり」
「私の身体は前菜で、呉羽がメインディッシュね。でもヒロミちゃんと呼んであげて」
「ヒロミ?」
「そそ。学籍簿には呉羽ヒロミで登録されてんだよ」
「すっごー!」
「でも私たちだけじゃなくて、他の泊まり客もいるのに、呉羽を女湯に連れ込んでも大丈夫?」
「あ、全然問題無い。新入生合宿でも呉羽は女湯に入って、女子生徒の部屋で寝たから」
「へー!」
「おっぱいもちゃんと出来てるしね」
「ほほお」
「下の方は?」
「どうなっているのかは事情により非公開らしい」
「ふーん」
「でも少なくとも男性機能はもう存在しないらしいよ」
「なるほどねえ」
「秋頃からずっと女性ホルモン飲んでたらしいから、もう男性機能は消えてしまったみたいね」
「じゃ、もう赤ちゃん産めない身体になっちゃったの?」
「私、最初から赤ちゃん産めないけど」と本人。
「ああ、呉羽まだ生理来てないらしいのよ」
「生理が来てないと赤ちゃん産めないね」
「でも呉羽、こないだお風呂で見た時はけっこうバスト膨らんでたから、そろそろ生理も始まるかもね」
「おっ、早く生理来るといいね」
「生理来たら、赤ちゃん産めるようになるよ」
「彼氏とHするときは、ちゃんとコンちゃん付けさせなきゃダメだよ」
「そそ。生理来てなくても、セックスしたので生理始まるケースってあるらしいよね」
などと言われて、呉羽はまた赤くなっている。
「可愛い!」
「純情!」
などという声があがっていた。
旅館の部屋は4人部屋を6つ確保していたが、とりあえずひとつの部屋に集まり持参のおやつを食べながら、しばらくおしゃべりする。
呉羽の話題もあるにはあったが、やはりお互いの高校の様子を情報交換していた。
「へー。じゃC高校の先生たち凄く燃えてるんだ?」
「今年富山X高校の進路指導していた先生が転任して来たんだよ」
とC高校に通う奈々美が言う。
「凄い。県内のトップ高じゃん」
と世梨奈。
「それでその先生を中心に、進路指導の体制やシステムが一新されて。おかげで、こちらは来週から1年生も朝の補習が始まるよ」
と奈々美。
「すごっ。T高校は連休明けからの予定なのに」と明日香。
「なんかT高校に追いつけ、追い越せみたいなムード」と奈々美。
「実際問題としてC高校に行った子の中には元々素質はあるけど、あまり勉強してなかった子たちがいるだろうから、その子たちが伸びると本当にT高校を追い越すかもね」
と日香理。
「へー。M高校は部活が少ないんだ?」
「一時期は30くらいあったらしいけど、生徒がそもそも600人しかいないのに、そんなに部があったら、ひとつの部あたりの人数が悲惨じゃん。部活をやる子は1〜2年でも全体の3割程度だし。それで3年前に生徒会の代表と学校側とで協議して、部は体育部5つ、文化部4つだけになって、それ以外でどうしてもやりたい人は同好会で、ということになったんだよ」
と燿子。
「T高校がまさにその悲惨な状態だなあ。全校で900人くらいなのに部が40あるもん」
と日香理。
「それって、2〜3人しかいない部もあるのでは?」
「T高校なんて、勉強に集中したい子が多いだろうから、部活する子の率がかなり低そうだし」
「うん。2人とか酷い所は1人なんてのもあるみたい」
「1人!?」
「それ、部と言えるの?」
「ただの個人活動では?」
「ああ。応援部は3年生1人だけで新入生の入部者もいなかったと言ってたね」
「応援部はみんな入りたがらないだろうね」
「3年生1人しかいないのなら、この秋には自然消滅か」
「うちはコーラス部が新入生入れても11人、軽音部が新入生入れても7人だったから、両方合同で、軽音の大会と合唱の大会に出ることにした」
「ああ、助っ人頼まなきゃ、大会にも出られないよね。うちは元々の吹奏楽部と軽音部と合唱部と太鼓部が合体して音楽部になっちゃったんだよ」
「ああ、こちらも数年後にはそうなるかも知れんなあ」
「うちの弦楽部も本来はストリング・オーケストラにしたいという野望はあるらしいけど新入生入れて4人で、仕方無いから弦楽四重奏やるなんて言ってた」
「まあ四重奏になれてよかったね」
「弦楽二重奏だと寂しいね」
ある程度おしゃべりした所で、みんなでお風呂に行こうということになる。
呉羽は逃げ出したいような顔をしていたが、美由紀と明日香にしっかり両脇を固められて、女湯へと連れて行かれる。
「美由紀、今日のお客様はあまり多くないんだよね?」
「うん。私たち以外には女性客は敬老会の団体が入っているくらいだって」
「ああ、でも他のお客さんもいるなら、騒がないようにしなきゃ」
「まあ、呉羽が逃げようとしない限りは大丈夫でしょ」と明日香。
「いや、さすがにもう開き直ったから逃げないよ」と本人。
「よしよし」
みんなで「女湯」と書かれた赤い暖簾をくぐる。
全員の注目を集めながら、美由紀に促されて呉羽は女子制服の上を脱ぎ、ブラウスを脱いだ。
「へー、結構胸あるね」
「B75だって」
「秋頃からホルモン始めたって言うんでしょ? 半年でよくこれだけ育ったね」
「ああ、青葉がトリートメントしてあげてたみたいね」
と美由紀。
「なるほどー」
「私も中2の時、おっぱい小さかったのが青葉にやってもらったおかげで2ヶ月くらいでAカップからCカップになったもん」
と日香理が言う。
「すごっ」
お股の付近をタオルで隠しているのは不問にすることにして浴室に入る。
各自からだを洗ってから、また浴槽の中で集まっておしゃべりする。
「青葉は手術前から、堂々と偽装したお股を見せてたけどね」
と美由紀。
「でも青葉って、それで小さい頃からやってたみたいだから、経験の長さが違うよ」
と明日香。
「青葉、いつ頃から女湯に入ってたの?」
「えっと、小学6年のゴールデンウィークに温泉に行った時が最初かな。その頃から胸が膨らみ始めたから。それ以前は胸無いから女湯には行けなかったよ」
「でも小学4年生くらいなら、胸が全然無い子もいるよね」
「まあ確かに」
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