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■春空(10)

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すると青葉が
「呉羽、けっこうおっぱいあるよ」
と言った。
 
「えーーー!?」
 
「本当はクライアントの秘密を勝手にバラしちゃいけないんだけど、これはもういいよね?」
と青葉は呉羽に問いかける。
 
呉羽は恥ずかしそうに頷いた。
 
「ほんとにおっぱい作っちゃったの?」
「ちょっと触らせろ」と言って明日香が呉羽の胸に触る。
 
「これバストパッド入れてるの?」
「入れてない」
「入れてないのに、この感触って・・・」
 
「どれどれ」と言って美由紀も触る。
「おお。Aカップはあるぞ、これ」
 
「青葉、ヒーリングしてあげたの?」
「ヒーリングというよりトリートメントだね。バストメイクの」
「わあ」
 
「ちなみに今のサイズなら、まだ逆トリートメントすることで胸を消せる。これ以上大きくしたらもう消せない。それと、今乳房だけじゃなくて、乳頭・乳輪も少し大きくなってるけど、これはもう元には戻せない」
と青葉は説明する。
 
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「実は秋頃から女性ホルモン飲んでたの。でもなかなか胸が大きくならないから、青葉に頼んでトリートメントしてもらった」
と呉羽。
 
「わあ、女性ホルモン飲んでたのか。じゃ、もしかしてもう男の子ではなくなっちゃった?」
「うん」
と言って呉羽は頷くが恥ずかしがるというより嬉しがっている雰囲気だ。こういう呉羽の表情も、みんなは初めて見た。
 
「そうか・・・じゃ。もう呉羽は本当に女の子なんだね」
 
「呉羽が高校の先生から何か言われたら、味方してあげようよ」
「うんうん。私も味方する」
 

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そんなことをしている内に、世梨奈と星衣良が一緒にやってきた。呉羽が女子制服を手にしているのに気付き
 
「あ、誰か貸してあげるの?」
と訊くと
「本人が作った」
というので
「へー、凄い! じゃ女子制服で通うわけ?」
「本人そのつもり」
「おお、頑張れ頑張れ!」
と応援する。
 
それで結局、女子全員が注目する中で、生着替えすることになる。
 
さすがにちょっと恥ずかしそうにしていたが、着て来た服を脱いで下着姿になり、ブラウス(制服の一部ではないが母が買ってきてくれていた)を着てセーラー服の上下を身につけ、スカーフを付けた。結び方が分からないみたいだったが、明日香がしてあげた。
 
「可愛い〜」
「似合ってる〜」
「誰がどう見ても、ふつうに女子高生だね」
 
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世梨奈と星衣良も「別室で」着替えてくる。
 
「これで全員だっけ?」
「いや、まだ美津穂が・・・」
 
と言っていたら、美津穂もやってきた。
「ごめん、ごめん。遅刻〜」
と言ってから部屋の中を見回し、全員T高校女子制服を着ているので、
「あれ、呉羽がまだ?」
と訊く。
 
「呉羽ならここにいる」とみんなが指さす先を見ると確かに呉羽なので
「わあ、呉羽も女子制服を着たんだ。誰か貸してあげたの?」
と訊く。
「本人が作った」とみんなが言うので
「えー! 凄い。とうとうその気になったか!」
と何だか喜んでいた。
 
美津穂も別室で着替えて来て、9人がT高校女子制服で揃った所で、明日香のお姉さんに頼んで記念写真を撮ってもらった。
 
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その日パーティーが終わって呉羽が(制服は脱いで普段着の女の子の服に戻って)帰宅すると、もう母が帰っていた。
 
「ただいま。おかえり」
「うん。おかえり。楽しめた?」
「うん。凄く楽しかった。お母ちゃん、ありがとう」
「うん」
「それで制服のことなんだけどね」
 
と言って呉羽は自分の勘違いで間違って女子制服を作ってしまったことをきちんと説明した。
 
「なーんだ、そうだったの?」
と言って母は大笑いした。
 
「でもそうしたら、その制服どうするの?」
「お母ちゃん、私この制服で通いたい」
「うん」
と言って母は笑顔で頷く。
 
「でもお父ちゃんに何て言おうか・・・」と母。
「お父ちゃんには・・・・しばらく内緒にできない?」と呉羽。
「そうだね。そうしようかなあ・・・。私もまだ心の整理が付かなくて。でもそれで通うなら、学校に言わなくちゃ」
 
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「それなんだけどね・・・私、女子として学校に登録されてるみたい」
と言って呉羽は状況を説明する。
「うーん。それも偶然の重なりか。でもそれでもちゃんと学校には話さないといけないよ。私一緒に学校に行ってあげるから」
「うん」
 

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翌29日金曜日。呉羽の母は仕事を休んで呉羽を連れてT高校に一緒に行った。母は決算前で忙しくて仕事は休めないと言っていたのに、それを休んで自分のために高校に行ってくれたことで、呉羽はちょっと泣いてしまった。母の愛情と優しさをあらためて感じた。
 
呉羽の母は、様々な偶然で息子が女子として登録され、うっかり勘違いで女子制服を作ってしまったという経緯を説明するとともに、実際問題として本人は女の子になりたいと思っており、女子制服での通学を希望しているとして、できたらそれを認めてもらえないだろうかと頼んだ。
 
学校側は驚き、緊急に校長・教頭・保健主事・生徒指導主事・新1年生学年主任・新1年生理数科の担任などで話し合いを持った。その結果(青葉のことで色々話し合って事前の下地ができていたこともあり)、本人が女性になることを望んでおり、保護者も認めているのであれば、女子制服での通学は構わないとのことで回答があった。
 
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そういう訳で呉羽は女子生徒に準じて扱われることになった。
 
「女子生徒として扱う場合、名前はどうしましょうか? 大政(ひろまさ)さんの普段使っている女性名は?」
「あ。ヒロミとか・・・カタカナで」と本人。
 
「では名簿などでは呉羽ヒロミさんということで登録しましょうか?」
「はい、お願いします」
 
こうして呉羽は様々な偶然・勘違いなどの積み重ねもあり、結果的に「ヒロミ」
の名前で女子制服を着て4月からT高校に通うことになったのである。
 

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呉羽がT高校に母と一緒に出かけて行き、性別問題で先生たちと話し合った日の早朝、青葉は難しい顔をして、サンダーバードの座席に身体を埋めていた。8時半に新大阪に付き、駅の玄関に出て電話をすると5分ほどで菊枝の車が来て青葉はすばやく助手席に乗り込んだ。
 
菊枝は無言だった。青葉も無言だった。
 
車は2時間ほど走って、和歌山県の山奥、ある寺院の前に駐まる。ふたりが車を降りた時、そのお寺の建物から瞬醒がやはり難しい顔をして出てきた。寺の中に入ると、ほかに2人の兄弟子、瞬嶺・瞬高も来ていた。寺の若い僧が入れてくれたお茶をみんなで頂きながら話す。
 
「今朝も、あったよな?」と弟子の中で筆頭格の瞬嶺が言う。
「ありました」と全員。
「だからお元気だと思ったんですが」と瞬高。
「それでも・・・だと言うのか?瞬花」と瞬嶺。
「はい。だと思います」と菊枝は答えた。「瞬花」は師匠から頂いた名前である。ちなみに青葉は「瞬葉」の名前を頂いている。
 
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「行ってみれば分かる」と瞬醒が言う。全員が同意する。
 
5人は瞬醒が用意してくれたお湯入り水筒とおにぎりを各自持ち、雪山用のシェルを着て、登山靴にはアイゼンを付け、ヒートグローブを付け、ピッケルに雪掻き、ハンマーなども持って重装備で師匠の庵へ向けて歩き出した。
 
雪で覆われた山道を1時間ほど歩いた後、道無き道に入る。道無き道というより冬山なので、雪を掻き分けながら氷を砕きながらの行程である。そもそもこの道が分かるのはここにいる5人くらいだが、冬期にここを突破したことのあるのは瞬嶺だけで、彼が居なければ勘の鋭い菊枝でも道に迷ったり崖に落ちたりしていたかも知れなかった。5人は日が落ちても雪山行程を続けて、21時頃にやっと瞬嶽の庵に辿り着いた。なお、この5人の場合は、視覚より超感覚的知覚で歩いているので、計器飛行する航空機と同じで、昼と夜の行動能力にはほとんど差が無い。
 
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「おぉ、待ってたぞ」と瞬嶽は言った。
「ご無沙汰しておりました」と代表して瞬嶺が言う。
 
そこにはこれまで何度も見た瞬嶽の姿が普通通りあった。
 
「ちょっと失礼します」と菊枝が言い、瞬嶽の身体に向けて手を伸ばす。その手は瞬嶽の身体を突き抜けてしまった。
 
「ん?物理的な接触を試みないと分からない?」と瞬嶽が訊く。
「済みません。修行不足なもので」と菊枝。
 
「いつ頃・・・こういう状態になられたのでしょうか?」と瞬嶺。
 
「今月上旬、上巳(3月3日)に師匠からの念で※※院大僧正へのお手紙を書きましたし、その頃は恐らくまだ普通の状態だったのではないかと思いますが」
と瞬醒。
 
瞬醒は夏期の間は瞬嶽との連絡係を務め頻繁に瞬嶽の庵を訪問しているが、さすがに冬期はここには来られないので、どうしても必要な場合、師匠からのテレパシーで外部への連絡などを受けている。毎冬3〜4通の手紙を書くらしい。
 
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「3月20日朝の師匠の気配と21日朝の師匠の気配が微妙に違っていた。だからその間だと思う」と菊枝が言う。
「気配の違い・・・分からなかった」と瞬嶺。
「右に同じ」と瞬高。
 
兄弟子たちの手前言わなかったが、気配の違いは瞬醒と青葉も感じた。3人で電話で話し合い、どうもこれは師匠に異変があったのではと考えたのだが、翌22日朝は20日の朝と同じような気配だったので、21日のは一時的な不調だったのかもとも思った。しかし28日の朝、菊枝が天を駈ける馬車に師匠が乗っている夢を見たことで、菊枝はやはり師匠は既に死んでいると確信した。そして瞬醒と青葉に連絡すると、それぞれ師匠の夢を見たというので、瞬醒も事態を確信した。そこで弟子筆頭の瞬嶺に連絡した結果、瞬高も含めて5人で行ってみることになったのである。
 
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「暦も時計も無いし日付は分からないけど、寝た時は地水火風に属していたが、起きた時は空に属していたよ」と瞬嶽。
 
「あの。。。。その地水火風に属していた身体はこの庵、あるいは回峰の路上にありますでしょうか?」
「念のため庵の周りも探したし回峰もしてみたけど見当たらないね。純粋にこの身体に移行したんじゃないかな?」
 
「師匠は長らく霞を食べて暮らしておられたので、きっと身体が徐々に地水火風から空に移行していたのだと思います。20日の夜にその移行が完了したのでは」
と瞬醒が言うと
「ああ、そうかも知れないね」
と言って瞬嶽は笑った。
 
瞬嶽はどうも生とか死というものを超越しているようだ。
 
「しかしこの身体は少々不便だね。依代が無いから、きちんと身体をまとめておくのにパワーを使う。寝てると少し霧散するから起きてから再度まとめるのがなかなか大変。回峰する時は素早く歩けるけど」
 
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「ああ。物理的な肉体は精神の良き依代ですから」
と瞬高が言う。瞬嶽の高弟の中で、理論的なことはこの人がいちばん見解が深い。
 

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弟子たちは瞬嶽と夜通し色々な話をした。
 
「ひとつ。師匠の誕生日を教えて頂けませんか?」
「古い話だなあ。僕はね。長谷川角行の没後ちょうど240年後に生まれたんだよ」
 
弟子たちは顔を見合わせた。
「明治19年(1886)6月3日であらせられますか?」
「ああ。僕は双子座。谷崎潤一郎と尋常小学校で同級生だったよ」
 
1886年生まれであれば祖母と同級生だった大船渡のお寺の住職が22歳で大学を出て住職になるための修行に入った時に81歳だったことになる。
 
「谷崎潤一郎、ということは東京の御出身ですか?」
「生まれたのは熊本県の宇土って所。御船千鶴子って超能力者として有名になった子がいたけど、あの子とは近所でね。同い年でもあったし小さい頃はよく一緒に遊んでいたよ。有名になりすぎて超能力を疑う世間の批判を苦に若くして自殺してしまった。あの子、繊細すぎたからなあ。僕は小学校1年の時に親が東京に出てきて東京市内で育ったんだよ。尋常小学校を出た年にその父親が亡くなってね。それで市内のお寺に預けられた。すぐに八王子の寺に移って、10代の頃は高尾山を走り回っていたよ。20歳過ぎてから比叡山に行って30歳過ぎてから高野山に移った。この庵に入ったのは88歳の時だね」
 
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「兵隊とかには行かれなかったんですか?」
「ああ。僕は目が見えないから丁種(事実上の不合格)だった」
「師匠・・・目が見えないんでしたっけ?」
 
「うん。僕は生まれつき目が見えないよ。御船千鶴子と遊んでた頃は、僕は目が見えないし、向こうは耳が聞こえないしで、周囲から見たら吹き出しそうなこともしてたらしいね」
「はあ・・・」
 
弟子たちは顔を見合わせた。弟子たちの誰もが瞬嶽が目が見えないなんて知らなかった。これだけの霊感を持っていれば、目が見えないことなど大したことなかったのかも知れない。
 
「目は見えなくてもお経とか紙に書いてある字や活版印刷の文字は指でなぞると読めるんだよね。オフセット印刷は読めないことないけど苦手。あと真言とかの類は一度聴けば覚えるから字は不要」
 
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瞬嶽の持つ物凄い知識というのは、あるいは目が見えないというハンディを補う類い希な記憶力によって積み上げられたものなのだろう。
 
「しかしお前たちが集まってくれて、少しだけ嬉しかったぞ。そろそろ行こうと思う。みんなで送ってくれるか?」
「はい」
 
弟子全員で観音経を唱えた。唱えている間に師匠の存在感は少しずつ薄くなっていった。
 
そして唱え終わった時、師匠は消えてしまった。
 
青葉は涙が出てきた。菊枝がそっと手を伸ばしてきて、ふたりは手を握りあった。
 

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