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■春空(6)

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『この真珠の物理的な出所をご存じですか?』
『仙台市内で津波で亡くなった20代の女性住職の遺品。正座して観音経を唱えながら津波に呑まれた。そして死ぬ間際にこの数珠の数の108倍の命を救ってと願った。青葉の所に3粒来たのは、その人の誕生日が未雨の誕生日と同じであったことと、青葉が多数の人の命を救ってくれることを期待してのこと。他の真珠も色々な方面で人の命を救ってくれそうな人の所に行っている』
 
『じゃ私324人助けなきゃ』
『青葉は既に今まで221人の命を救っている』
『そんなに助けたっけ??』
 
『青葉、北海道の越智さんの仕事をかなりしてるでしょ。あの関連で青葉のお陰で死なずに済んだ人が今までに52人いる』
『へー』
『離島でお医者さんの命を助けた。あれで間接的に助けた人が現時点でも34人』
『ああ』
 
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『一昨年の地震の時は山の上にいて、雪崩が怖いから下山しようかと言う先生を停めたでしょ。あれ下山していたら、下山の列に津波が来て青葉自身も含めてほぼ全員死んでいたよ』
『えー!?』
『というのもひとつの《見方》。真実は神様にだって分からない』
『・・・・・』
 
守護霊がこんなに会話に応じてくれるのも珍しい。たいていは短い示唆とかをもらえるだけだ。
 
青葉は守護霊からのメッセージを受け停め、再び立ち上がった。
 
『うちの姉は今どこにいるのでしょうか?』
『分かってる癖に』
 
青葉は頷いた。そして自分がひとりではないのだということを改めて認識した。そうだったんだ。。。。。曾祖母が自分の守護霊団にいるみたいだというのは曾祖母が亡くなって2年程経った頃から認識していた。今きっと・・・父も母も祖父母も、そして姉も、きっと自分のそばにいる。でも・・・そういう霊界のことより、もっと大事なものが自分にはある。
 
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青葉はそばにいる彪志の顔を見てニコリと笑った。彪志がドキっとした顔をする。
 
私・・・きっと彪志との間に子供を作る。たくさんの先祖から遺伝子を受け継いで、今自分がある。そして自分の遺伝子を受け継いできっとたくさんの子孫が生まれていく。師匠はお前なら産めるから根性で産めなんて言ってたなあ。
 
私、男としての生殖能力は放棄しちゃったけど、何となく女としての生殖機能がどこかに眠ってる気もするんだよね〜。私、生まれる時に女としての機能をどこかに忘れて間違って男の機能を持って生まれて来ちゃったんじゃないかなあ。私の「生理」ってその印かも。なーんて、松井先生に言ったら一笑に付されるだろうけどね。
 
男女両性器を持つ場合は法的な扱いが全く変わるので、女の子として完璧すぎた青葉はMRIで綿密に「女性性器の痕跡」などが無いか検査されている。少なくとも手術前の医学的な検査では青葉に女性性器やその痕跡(残存子宮など)は存在していなかった。
 
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青葉は彪志にキスをした。
 
それからあらためて3人で海に向かって黙祷を捧げ、それから般若心経を詠唱した。彪志も唱和してくれる。再度海に向かって黙祷し、青葉たちは海岸から引き上げた。
 

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富山県の公立高校の入試は3月12,13日なのだが、岩手県は7日に既に終わっている。そこで、岩手の友人たちはみんなゆとりがあるため、青葉が今日こちらに来ると聞いて、早紀が「うちに来て〜。泊まってって〜」と言っていたので、そちらまで彪志の母の車で送ってもらった。
 
入試打上げ・兼・青葉迎撃オフという感じの夕食会となった。早紀・青葉の他に、椿妃と柚女が来ている。夕食のメニューは早紀がお母さんと協力して作ったオードブルで、鶏の唐揚げ、春巻き、フライドポテト、エビチリ、ミートボール、煮豚などである。
 
「みんなどこの高校に行くの?」と青葉は訊いた。
 
「私は隣町のT高校。合唱が強いみたいだから。多分通ってる」と柚女。
「へー」
「私は素直に地元のF高校。同じく多分通ってる」と椿妃。
「私は内申書的にF高校は無理と言われてG高校。あそこ落ちる人は多分いない」
と早紀。
 
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「内申書的に無理って・・・・まさか内申書を知らなかったとか言わないよね?」
「ピンポーン♪ 12月の三者面談で初めて聞いた」
「それはうかつすぎる」
「何科に行くの?」
「情報科。それ以外の選択はあり得ん」
「まあ農業継ぐなら農業科、お嫁さんになるなら家政科、だろうけどね」
 
「しかし、みんなバラバラか」
 
「咲良は素直に八戸市内の高校らしい。今日が合格発表だったらしいけど、通ってたって。今朝連絡あった。結構な進学校みたい」
と早紀が言う。
 
「うんうん。こちらにもメール来てた。でも私が行く学校も進学校だよ。1年生の内から補習あるみたいだし」と青葉。
 
「富山は学区制あるの?」
「一応4学区に分かれているけど、隣の学区までは通えるから、西端学区と東端学区の子以外は、概ね好きな所に行ける」
 
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「青森県は学区無いらしい。岩手も学区は廃止して欲しいなあ」
「岩手は細かく別れてるよね。今の時代、残っている県の方が少ない」
「学区のせいで随分優秀な人材が潰れてると思うよ」
 
「うちの中学のトップの子は盛岡の私立高校に行くって」と柚女。
「そうそう。学区制があると優秀な子は私立に行くしか無くなるけど、親が貧乏だと私立も無理だからなあ」
 

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しばし進学のことで話が盛り上がった後、震災で犠牲になった友人のことで少ししんみりと話をした。
 
「ほんのちょっとした運命の綾だよなあ、助かったか死んだかって」
「うん。私も震災から半年くらい、自分は本当は死んでるのではと思うことあった」
「○○ちゃんのお母さん、なんでうちの娘だけが・・・って泣いていたよ」
「理由も原因も因縁も無い。全てを無差別に奪っていく。あまりにも無残すぎる災害だった」
 
「私小さい頃にさ」と青葉は初めてその話を友人たちにする。
「ある所で修行してて、自分自身が川の流れに流れて行ってしまったのを見たんだよね」
「へ?」
「で、あれは何ですか?と指導してくれていた人に訊いたら、あれは自分の《普通の人生》だって言われた。その時、私は《普通の人生》を捨てて、今みたいな《少し変わった人生》を選択したのね」
 
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「《少し変わった人生》じゃなくて《大いに変わった人生》だと思う」
「そこ茶々入れない」
「へいへい」
 
「それでさ、その時言われんだよ。《普通の人生》を選択したら私は13歳で死んでいたって」
「へー!」
 
「今になって考えてみると、私は《普通の人生》だと震災で死んでいたのかも」
「あり得るね、それ」
 
その時、青葉は「震災の時に雪崩を避けようと下山していたら全員死んでた」
という守護霊が言ったことばを思い起こしていた。
 
「しかし青葉が男の子している姿は想像できんな」
「全く。中1の時にたまに学生服着ている時も、男装女子にしか見えなかったし」
「えへへ」
「だいたい学生服着てても、女子トイレ使うし、女子更衣室使うし」
「あはは」
「女湯にも一緒に入ったね」と早紀が言うと
「えー!?」と柚女が驚いている。
 
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「また入りたいね」
「じゃ今年また一度行こうよ。夏休みとかに咲良も呼んで」
「そうだね」
 

その日は早紀の家に泊めてもらい、翌12日は朝から慶子の所に顔を出して、少し気になっていた案件を、直接クライアントの家を訪問して処理した。それから慶子の車で一ノ関まで送ってもらおうと思っていたら、££寺の住職・法嶺から電話が掛かってきた。
 
「青葉ちゃ〜ん。そちらの用事は済んだ?」
「あ、はい」
「じゃ、昨日言ってた件。檀家回りを手伝ってよ」
「えー!?あれ本当にやるんですか?」
 
「青葉ちゃん用に女性用の法衣も取り寄せたからさあ。業者さんが今朝一番に届けてくれた」
「うーん・・・」
 
そういう訳で、青葉は慶子の車で££寺に送ってもらい、真新しい法衣を身に付け、袈裟を借りてその上に羽織った。何かお経を読んでみてと言われたので観音経を暗唱する。
 
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「おお。法満よりうまいじゃん。うちにお嫁に来ない?」
「済みません。もう私、婚約者いるので」
「それは残念。あ、婚約者って男の人?女の人?」
「男の人ですよ〜。私、女の子には興味無いです」
「あ、そうだろうね」
 
そういう訳で、その日の後半は大船渡市内で20軒ほどの檀家を訪問して震災で亡くなった人の御遺族のため、お経をあげた(数が多いので1軒10分+移動時間5分という慌ただしさ)。
 
いやに若い、しかも女性の僧侶が来たので、不安がっている感じの家もあったが、青葉が美しい節回しでお経を読誦すると「おっ」という感じの雰囲気に変わった。
 
中には数軒青葉を知っている人もあった。
「あれ? 今日はお坊さんなの? あ、いや尼さんか?」
「はい。私、住職の資格を持っているし、££寺さんとは親戚なので。ちなみに私、去年手術して本当の女の子になったから、尼さんですね」
と笑顔で言うと
「へー!」
と言われる。お経をあげると
「凄い。何だかとても聞きやすかった」
などとも言われた。アナウンサーの訓練を受けていることで言葉がより明瞭になった感もあるなと青葉は思った。
 
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その日回った内の一軒は、コーラス部の先輩で学校から高台に避難する最中に津波にやられて亡くなった人の家であった。震災の日の昼休みまで青葉はその子と一緒に練習し、またおしゃべりして冗談なども言い合っていた。青葉は涙が出てくるのを抑えてお経を読み切った。そこのお母さんは
「後輩の青葉ちゃんに供養してもらって、あの子も幸せだと思います」
と言って涙を浮かべていた。青葉はお母さんの手を取って
 
「○○さんは今はもう安らかな状態にありますよ。そしてお母さんや妹2人を守ってあげると言ってます。その姿は無くても、みなさんの傍にいますから、みなさんも頑張って下さい」
と言った。
 
つい、自分の本職の方が出てしまった感じではあったが、お母さんは
「あぁ、やはり。あの子が近くにいるみたいな気がしてたんです」
と言っていた。
 
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結局夕方19時頃まで檀家回りをして20時くらいに寺を出て、それから慶子が一ノ関まで送ってくれた。彪志の家を訪問して
「ごめんなさい。結局こんな時間になってしまって」
と言うが、お母さんは
「お仕事だもん。特に今日は津波で亡くなった人のおうちをたくさん訪問したんでしょう? お疲れ様でした」
と言っていた。
 
その夜、彪志はしたくてたまらない顔をしていたが
「ほんとに御免。今日は体力無い。おやすみ」
と言って、青葉は寝てしまう。
 
朝目が覚めてから、まだ寝ていた彪志を誘って1回だけHした。彪志は青葉がさっさと眠ってしまったので昨夜はもう我慢できず自分でしてしまったいたらしい。それで逝くのに時間が掛かった。
「ああ、朝まで我慢すべきだった」
などと悔しがっていた。
 
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その日は午前中彪志の家で過ごし、お昼を食べてから彪志の母の車で花巻空港まで送ってもらった。今日は水曜日で、大阪のアナウンススクールに出席するのである。
 
14時の便に乗り15時半に伊丹空港に着いて電車で新大阪に出る。教室は20時からなので、3時間半ほど待つことになる。青葉は近くのカラオケ屋さんに入りローズ+リリーの曲を大量に予約投入する。それをBGMに、持参の毛布をかぶって仮眠した。
 

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19時頃、携帯に着信があって目が覚める。美由紀からだった。美由紀は入試が終わったので、携帯を返してもらったのである。
 
「あ、おはよう。美由紀」
「おはよう?? 今ブラジルにでもいるの?」
「ううん。大阪だよ。今回もハードスケジュールだなあ」
「大阪?あれ?岩手に行ったんじゃなかったんだっけ?」
「岩手に行ったよ。震災で亡くなった人の家を回ってお経あげてきた」
「へー! そんなこともするんだ?」
「今日はいつものアナウンススクールで大阪だよ」
「あ、そうか」
 
「美由紀、試験はどうだった?」
「なんか凄く感触良かった。分からなかった問題はほとんど無かったし。多分通ってるんじゃないかなあ」
「それは良かった」
「青葉〜、念のため、合格してるかどうか占ってよ」
「はいはい」
 
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青葉は荷物からタロットカードのケースを出すと、そのまま箱の中からタロットを1枚引きした。
 
が、1枚引いたつもりが2枚飛び出してきた!
 
「ワンドのエースに、ワンドの3。間欠泉みたいに突然勢いよく沸き上がるパワーに運命の転換。ギリギリセーフって感じ。スレスレで合格してると思う」
「やった!」
 

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そのまましばらく美由紀とおしゃべりしている内に次第に目が覚めてくる。やがて19時40分になったので「じゃ、またね」と言って電話を切り、カラオケ屋さんを出る。そして駅近くにあるアナウンススクールに出た。
 
4月からは新設の金沢校に行くので大阪校に出るのはこれが最後になる。こちらに出たのはわずか6回ではあったが、クラスメイトの中には結構仲良くなった子もあったので、今回が大阪教室への出席は最後だというと名残を惜しんでくれた。
 
1時間のレッスンを受け、友人たちと握手したりハグしたりして、学校を出た。いつものようにお茶やおにぎりなどを買い、高速バス乗場に行く。そして22時の阪急バスで富山に帰還した。疲れが溜まっているのでバスの中でもひたすら寝た。
 
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