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■春空(5)

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(c)Eriko Kawaguchi 2013-03-02
 
青葉がT高校の面接を受けた日、美由紀の方は私立R高校の合格発表があった。もちろん合格していたが、入る意志がある場合、納付金の半分をすぐに収めなければならない(残り半分は公立高校の入試結果発表日が納付期限)。半分と言っても結構な額なので、ためらってしまうのだが、これを納付しなかった場合は、公立に落ちた時に行く所が無くなってしまう。
 
美由紀は「私絶対T高校通るから、収めなくてもいいよ」と言ったが、親は心配して「やはり納入しようか。公立に通ったら無駄にはなるけど」と言う。
 
それで青葉の所に電話が掛かってきた。
 
「私がT高校に通るかどうか、青葉、占ってよ」
「占いでいい訳?」
「だって青葉の占いなら信頼できそうだもん」
「えー、そんなの責任持てないよ」
 
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とは言ったものの、青葉は美由紀の家まで行き、筮竹で易を立てて占った。
 
山雷頤(さんらい・い)の四爻であった。
 
「努力の時ってことですね。気を抜かなければ吉です。之卦(ゆくか)が火雷噬盍(からい・ぜいごう)になるので、噛み砕いてそれを栄養にするということ。つまり、あと一踏ん張り勉強すれば、その成果が実になって、ボーダーラインを越えられるということです」
 
「合格できる?」
「できる。但し、今から試験日までラストスパートで勉強を頑張るのが条件」
と青葉は断言した。
 
「よし、お父ちゃん、納入金は払わなくていいよ」
「ほんとに大丈夫か?」
「だって青葉が言うから間違いないよ」
と美由紀が言うので
「あっと・・・占いはあくまで占いなので自己責任でよろしく」
と青葉は改めて言った。
 
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そして結局、美由紀は納入金は払わないという選択をした。これで公立高校の入試は「背水の陣」で臨むことになる。
 

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青葉の方は、面接の結果は18日に所属中学への連絡ということになっていたが郵便なので翌日の到着である。19日に青葉は先生から「合格」と伝えられた。
 
「おお、一足先に合格を決めたか」
と言って、みんなから祝福される。他にも同級生で数人、あちこちの高校に推薦で合格した子がいて、それぞれ祝福されていた。
 
そして一般入試を受ける子は26日に願書を提出。試験日は3月12,13日となる。世梨奈は結局T高校に願書を出した。C高校かM高校かで迷っていた奈々美もC高校に願書を出した。
 
試験日まで青葉たちのグループは毎日勉強会を重ねた。実践試験形式でのテストも何度か重ねる。
 
「だけど本当にみんなしっかり実力付けてきたね」
「やはりみんなでやってるのが凄く効いてる感じ。ひとりではここまで頑張れなかったよ」
「美由紀は本当に合格できるかもね」
「うん。そのつもりで頑張る」
「呉羽はもう完全に女の子になっちゃったね」
「私、呉羽と身体が接触してても何も意識しないよ」
「そうそう。触った時の感触が凄く女の子っぽい」
「呉羽、高校入学前に性転換しちゃいなよ」
「えっと・・・・」
 
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「よし、あと少し、ほんとにラストスパートで勉強頑張ろう」
 
なお、勉強会はだいたい学校が終わった後、毎日19時くらいまでしていたのだが、青葉の提案で、美由紀主宰のT高校勉強会も、奈々美主催のC高校M高校勉強会も、3月9日・10日の土日から、17時で打ち切り、メンバーにも22時には寝て朝6時には起きるリズムにするように勧めた。遅くまで勉強していて当日試験に遅刻したりしたら大変だし、試験前はむしろ体調を整えることを考えた方がよい、という趣旨だった。
 
「今更1%の知識を積み重ねるより、体調を20%アップした方が絶対良い点数取れるから」
と青葉は言い、日香理も「それ大手予備校とかでも言われてること」と言った。
 

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3月11日・月曜日。
 
明日は公立高校の入試である。勉強会は今日も(短時間)行われるのだが、青葉は日曜日の勉強会まで出たものの、この日は学校も休んで、朝一番のはくたかに乗り、新幹線を乗り継いでお昼に一ノ関まで来た。大宮からは彪志も同行した。そして一ノ関の駅前から彪志のお母さんの車に乗せてもらい、大船渡に入る。
 
この日行われる、東日本大震災の犠牲者追悼式に出るためであった。青葉は特に市から招待状をもらっていた(別に交通費は出ないが)。
 
会場の周辺で、早紀や椿妃たち友人と落ち合い、色々話している内にまた涙が出てきた。
 
会場で市長などの献辞の後、14:46にサイレンが鳴り、黙祷を捧げた。
 
和実たちは同じ時刻に石巻で黙祷しているだろう。冬子たちも石巻に行くと言っていたが、同じ石巻市内でも多分別の場所だ。
 
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会場では多数の献辞の後、4人組の歌唱ユニットXUXUによる献歌が行われていた。それを少し聴いたところで青葉はひとりで会場を出た。彪志には後でまた合流すると告げておいた。
 
お寺に行き、両親・姉・祖父母の墓の前に立った。ここにはひとりで来たかったのである。同じ敷地内で隣にある八島家の墓(曾祖父母や大叔母が眠る)に参った後、新しい墓の前で合掌して目を瞑ると、遠い世界に心が飛んで行く。青葉はそこで10分くらい合掌していた。
 
「おや、青葉ちゃん、こちらに戻って来てたの?」
声を掛けられて振り向くと、寺の住職・川上法嶺だ。この人は祖父・雷蔵の又従弟に当たり、祖母・市子とは中学の同級生である。考えてみれば自分の苗字・川上というのは、このお寺の住職の家系の苗字なのである。
 
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「今朝富山を発ってこちらに来ました。ご住職、今日はお忙しいのでは?」
「なんか凄まじいね。朝から何十軒回ったか。息子たちと手分けして回っているけど、もう回った所を覚えてない。今、いったん戻って来てお布施とか献納されたお菓子とかお花とかお米とかを置いた所で、これからまた15軒くらい回る」
「大変ですね」
 
「あ、そうそう。瞬嶽さんは元気?」
「元気です。昨年のゴールデンウィークには師匠の庵にお邪魔して、回峰行を一緒にしましたが、パワフルですね」
「わあ、回峰行とかするんだ!」
「1日に60kmくらい歩くのを毎日続けているそうです」
 
「凄いな。。。ね、ね、あの人、実際問題として何歳なの?」
「それは誰も知らないんですよ。一番近くに居て連絡係をしているお弟子さんの瞬醒さんも知らないと言っています。100歳は越えてるんじゃないかとは思うんですけどね」
「やはり越えてるよね」
 
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「電話とかでの連絡はできませんが、私にしても姉弟子の山園にしても、毎朝師匠の気配を感じますから生きているのは確かです。あの気配を感じない日が来たら、それが師匠の命日です」
「ああ」
 
住職は頷いた。
 
「そうそう、噂に聞いたけど、青葉ちゃん、本当の女の子になっちゃったの?」
「ええ。昨年夏に手術して完全に女になりました」
「凄いね! でも僕も君のことを男の子だと思ったこと無かったしね」
「ありがとうございます」
 
「ね・・・ふと思ったけど、ひょっとして青葉ちゃん、住職の資格持ってたりしないよね?」
「持ってますよ。師匠から因果を頂きました」
「おお!」
と住職は言ってから
 
「だったらさあ、檀家周りの手伝いしない? ホントに今週は大変でさ。手が足りないんだよ。君も川上一族のひとりだし」
「あはははは」
 
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お墓参りをした後は、彪志に連絡して車で拾ってもらう。それからまず内陸部の住田町某所へ行ってもらった。
 
「ここが父の遺体が見つかった場所です」
そこは崖崩れが起きて、父もその下敷きになっていたのだが、今はもう復旧工事がなされてきれいになっている。
 
「結局、お父さんはどんな仕事をしていたか分からないのね」
「ええ。どうも複数の仕事を掛け持ちしていたようです。木材の売買もしていて、震災の時はその仕事をしている最中に崖崩れに巻き込まれたようです」
「ああ」
 
青葉は父が亡くなる瞬間のビジョンも見ていた。崩れてくる土砂に巻き込まれながら、父は最初母の名を呼び、そして「未雨、青葉、済まん」と言った所で土砂に押しつぶされてしまった。
 
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震災直後の頃は、物心付いた頃から自分に暴力ばかりふるっていた父を心の中に受け入れていなかった。しかし今はもうとうに許している。
 
彪志と彪志の母の3人で、数珠を手に持ち、黙祷を捧げた。青葉が般若心経を詠唱し、彪志も唱和した。
 

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続いて海岸まで戻り、大船渡市内でも北側の某所まで行った。母の遺体が見つかった場所である。
 
「お母さんのボーイフレンドの方も遺体は見つかったんだっけ?」
「母の遺体発見の翌月に見つかりました。身寄りがない人なので私がお寺の住職さんとふたりで葬儀をして。私は子供の頃から何度か御飯とか食べさせてもらったし、恩があるので、うちの墓には入れられませんけど、私が永代供養料を払ってお寺で遺骨は管理してもらっています」
「青葉ちゃん優しいね」
 
母たちが亡くなった時のビジョンも見ている。母は海の近くに住む祖父母の安否を気遣い、彼氏に頼んで一緒に助けに行こうとしていたのだ。しかし、間に合わずに津波に呑み込まれてしまった。祖父母を放置していれば自分たちは助かったかも知れない。だからこそ青葉は彼氏の方も供養するのである。
 
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ここでも3人で合掌し、黙祷してから般若心経を唱えた。
 
母たちが亡くなった場所から1kmほど先に祖父母の家があった(現在は更地で土地は青葉に名義が移っている)。祖父母の遺体が見つかった場所から考えてふたりは実際問題としてこの家に居て津波に呑まれたものと思われる。ふたりとも足が不自由で、特に祖父は震災前1年くらいから半ば寝たきりに近い状態になっていたので、逃げるのを諦め、最後の時間を一緒に過ごす道を選んだのだろう。
 
ふたりが手を握り合って津波に呑まれるシーンだけ、青葉はビジョンで見ていた。
 
曾祖母が亡くなって母も崩れて行った後、頼りになる肉親というのは祖父母だけであった。小2から中1までの間、このふたりが事実上、未雨と青葉の保護者だったのである。色々な思いがあらためてこみあげて来る。
 
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彪志が
「青葉、涙を流していいんだよ」
と言った。
「うん、ありがとう」
と言って微笑もうとしたが、微笑みにならず、青葉は泣いてしまった。彪志が抱きしめてくれた。
 

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それから自分の家のあった場所にも行ってみた。元々この近くに曾祖母が住んでいて、その家では霊感がハンパにある祖母の妹に良くないというので少し離れた場所に別宅を建てたものである。曾祖母が亡くなった翌年、曾祖母の家の場所は道路開発に引っかかり、市に売却した。青葉たちが住んでいた家の方は元々は曾祖母から遺産相続した祖母の名義であったが、父が銀行からお金を借りて、祖母から買い取ったので、父の名義に移っていた。持ち家があることで父の仕事上の信用度が上がることと、年金だけでは生活が苦しい祖父母の生活の足しにするため、そういう操作をしていたらしい。
 
震災の後、青葉は両親に関する遺産相続について相続拒否の手続きを取った。乱れた生活をしていた両親がいくら借金をしているか調べようも無かったので相続するのは危険すぎたためである。青葉たちの家の土地は、現在は駐車場になっている。競売で取得した不動産会社がアパートを建てようとしたようだが、入居者の見込みが取れなかったらしい。
 
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ここでは特に追悼するものは無いのだが、青葉はその駐車場に軽トラが2台駐まっているのを見て、感無量だった。
 
最後に再び海岸に出て、姉が死んだ場所に行った。姉は震災当時高校に居たので、他の生徒と一緒に高台に逃げていれば助かったはずなのである。しかし姉のボーイフレンドが「津波見に行こう」と誘い、愚かにもふたりは海岸に行った。そして津波にのみ込まれてしまった。
 
青葉はこのボーイフレンドのことだけは許せない思いであった。姉は亡くなった時妊娠していた。その問題もあって、この件に関してはどうにも怒りが込み上げてきていたのだが、この日青葉がその場所に立って海を見ていた時唐突に全てを許してもいい気がしてしまった。
 
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「私、姉ちゃんとその彼氏のこと、許してあげようかな」
と青葉が言うと、彪志の母が
「うん。そうしてあげなよ」
と言った。
 
その時、突然新たなビジョンが青葉の脳内に再生された。
 
それは津波に呑まれてしまった次の瞬間の姉の映像だった。姉は「嫌だ。こんなの。誰か助けてよ!」と叫んだものの、水に呑み込まれてしまうと、早々に諦めてしまった。そして「青葉ごめん」とひとこと呟くように言ったが、その時、姉の目に涙が浮かんだ。そしてその涙がズームアップしていき、青葉が手にしていたローズクォーツの数珠に付けた3個の針水晶のひとつに重なって消えた。
 

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瞬醒さんがこの真珠を「姉の形見」と言っていたのは、これが姉の涙だったからなのか。。。。
 
青葉はその場に立って居られなくなって、座り込んでしまった。
 
「青葉!」
慌てて彪志が青葉を抱き抱える。
 
「あ、大丈夫。でも少しそっとしといて」
「うん」
 
その時、青葉自身の守護霊が青葉に少し強い調子で声を掛けた。
 
『惑わされるな』
『え!?』
『世の中に《真実》というものは無い。様々な《見方》があるだけだ』
 
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