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■春空(4)

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その後、冬子たちから「行方不明の楽譜を探している」と聞いて、青葉は「じゃ探しましょうか」と言い、雑多な物が満ちあふれている部屋に行く。波動を確認するために、ふたりの手書きの譜面を1枚見せてもらう。青葉はそれと似た波動のある場所を探した。
 
「あ、ここにひとつある」
「それからこれ」
と言って、地図の間にはさまっていたもの、パンフレットが積まれている中にあったものを青葉は取り出す。そして、ベランダに積み上げられた雑誌の束の中からも1枚譜面を発掘した。
 
「うっそー!! これがいちばん欲しかった譜面」
「あぶなーい。これは完璧に捨てるところだった」
「よかったですね」
と言って青葉は微笑む。
 
青葉は更に4枚の譜面を発見した。
 
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「料金は1枚10万円でいいです」
「ぶっ」
「捜し物も料金取るの?」
「捜し物は本職みたいなものです」
「ああ、そういえばそうだった」
 
「お金持ちからはたくさん取る主義ですから」
「了解。振り込んでおくね」
「よろしく」
 

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翌日は午前中、花村唯香の実家を訪れた。お見舞いを兼ねてダイレクトにヒーリングをするためである。ヒーリングの時、クライアントを裸にするので、彪志には遠慮してもらい、新宿で待機してもらった。
 
冬子・政子と一緒に3人で訪問すると、お母さんが「いろいろお世話になっております」と恐縮したように言った。
 
「青葉さんのヒーリングで凄く楽になったみたいで」
 
実際には手術の直後にしたのは松井先生の手術の仕上げなんだけどね、と青葉は思う。性転換手術では、陰核や陰唇などは当然周囲の組織と縫合するし、特に陰核はしっかり血管や神経をつなぐが、膣は原理的にそういう作業が困難なので自然治癒を待つことになる。しかも傷の面積が圧倒的に広い。その部分で青葉は血管・神経をつなぎ、周囲の組織と固着させていった。こんな作業は将来マイクロマシンによる手術のようなものが出来るようになるまでは、医師には困難である。
 
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そういう作業を、青葉は自分の身体、そして和実・千里・春奈の身体でも行ったし、手術から既に3ヶ月経った時点で会った冬子の場合は、おかしな結合をしている所をいったん「剣」で切った上で、再度正しいつなぎ方に変えてあげた。
 
しかし唯香の場合、そういう基本的な作業はもう完了しているので、今日するのは純粋なヒーリングである。青葉は唯香にパンティを下げさせ、お腹の服を少しめくって「仮想子宮」から陰部に至る付近を露出させて、その上で手を身体と平行に動かす「気の調整」を行った。唯香が気持ち良さそうにしている。こういうヒーリングは非接触式マッサージのようなものだから、受けている側はとても気持ち良い。
 
「でもかなり顔色がいいね」
「青葉さんのお陰です。でもこれ他人には言わないことが条件なんですね」
と唯香。
「そうそう。希望者が殺到したら、私パンクしちゃうから」
と青葉。
「特に今受験の最中だもんね。そろそろ内定通知だっけ?」
「まだこれからです。13日に面接を受けて、結果通知は18日になります。でも正式な合格発表は3月19日だから、それまでは私は公式には休養中です」
 
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「でも、私みたいな無茶言う人に頼まれてこうして仕事してる」と冬子。「だから特に内緒で」と青葉は笑って答えた。
 

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唯香の家を出た後は、いったん新宿に出て彪志と合流する。冬子・政子と4人でお茶を飲んでから別れた。青葉は彪志とそのまま新宿でデートを楽しむ。
 
「何時の新幹線で帰るの?」
「今日は飛行機で帰る。試験前だから身体の負担ができるだけ小さい方がいいとお母ちゃんから言われた」
「ああ、確かにそれがいい」
「20時の飛行機に乗るから、18時くらいに羽田に移動する」
「じゃ羽田まで付いていく」
「うん」
と言ってから青葉は思いついたように
「ね、ね、面接の練習相手になって」
「ああ」
「どこかカラオケ屋さんに入ろうよ。それで彪志、面接官になって色々質問してよ。想定問答集持って来てるから、それに沿って訊いて」
「OK、OK」
 
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カラオケ屋さんに入り、密室なのをいいことにまずはキスしてから面接の練習をする。
 
「名前と出身中学、性別と受験番号を言って下さい」
「性別までは訊かれないと思うけどなあ」
「答えなさい」
「川上青葉、◎◎中学、性別・女、受験番号37です」
「確かに性別女ですか?」
「えっと男に見えますか?」
「証拠を見せなさい」
「証拠って?」
「胸を見せるとかお股を見せるとか」
「そんなの見ようとする面接官はセクハラです。訴えますよ」
 
最初から脱線ぎみの面接官である。
 
「本校を志望した動機は?」
「先生たちが指導に熱心で、生徒も意欲が高い生徒が多いと聞いたからです」
「好きな教科・嫌いな教科」
「好きな教科は英語です。嫌いな教科は特にありません」
「好きな人はいますか?」
「それを訊くのはセクハラです」
 
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「高校卒業後は、進学希望ですか?就職希望ですか?」
「大学への進学希望です」
「どこの大学に進学したいと思っていますか?」
「名古屋大学の法学部です」
 
「えー?名古屋に行っちゃうの? 富山から離れるなら関東圏においでよ」
「できるだけ大きく言っとけと中学の先生に言われたのよ。東大文1はさすがに恐れ多いし、一橋法でもとても私の頭では通らない。あんな所に行けるのは、冬子さんの彼氏みたいな凄く頭の良い人だよ」
「青葉も充分頭いいと思うけどなあ。どう考えても俺より頭の出来がいい」
「そぉかなぁ?」
 
「うーん。社会に出てからはどんな職業に就きたいですか?」
「アナウンサーを志望しています。実際この秋から大阪のアナウンススクールに月1度通っていて、4月からはそこと同系列で金沢に新規開講するアナウンススクールに毎週1回通うことにしています。法学部を志望するのも、マスコミ関係で活動するのに政治の仕組みについて学ぶとともに、弁論を鍛えたいと思っているからです」
 
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「何歳頃結婚したいですか?」
「それ訊くのもセクハラです」
 
そんな感じでカラオケ屋さんでの時間は楽しく?過ぎていった。
 

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2月13日(水)。推薦入試の面接が行われる。青葉は中学の制服を着て、T高校へと出かけた。最近はどこの高校も優秀な生徒を推薦で取ろうとする。ここに来ている子もだいたいハイレベルの子が多いのだろうと、青葉は控室で思った。日香理や呉羽も成績優秀だから、推薦を選択できるはずだが、どちらも実力でT高校に入れるというのを実証して親にアピールするという目的があるので、ふたりとも一般入試を選択している。
 
やがて自分の順番となり、面接室に入った。
 
「失礼します」と言って戸を開け、きちんと閉めてから席まで歩いて行き、着席する。膝をきちんと揃えて背筋を伸ばす。中学名と氏名、受験番号を言う。
 
この学校を志望した動機、高校生活でどういうことをしたいか、将来の夢、自分の長所と短所、また中学でどのような活動をしてきたかなど質問される。全て想定問答の範囲なので(彪志面接官にも訊かれて答えたことばかりだ)、しっかりと答える。試験官の先生たちは青葉の答えに頷いていた。
 
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「何かそちらから質問などありますか?」
と訊かれる。これは面接でありがちな質問だが、訊かれた方は戸惑う質問のナンバーワンである! しかしこれも想定問答集の範囲である。
 
「そうですね。ご縁があって合格させて頂いた場合、入学までに準備しておいた方が良いこととか、学習しておいた方が良いことがありましたら、お教え下さい」
 
試験管は頷き言った。
「やはり中学での学習範囲の再復習をしておいてください。それが高校での勉強の基本になります。それから受験前は勉強のために生活時間が不規則になっていたかも知れませんが、可能な限り朝型の生活時間に戻しましょう」
 
「分かりました。ありがとうございます。頑張ります」
「これで質問は終わりです」
「ありがとうございました。それではよろしくお願いします」
 
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しっかりとお辞儀をしてから立ち、ドアの所まで歩いて行き、面接官に向かって一度礼をしてからドアを開け外に出て、また礼をして閉める。
 
面接終了!
 
青葉はふっと大きく息をついた。内々定しているといっても緊張する!!
 
 
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