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■春空(8)

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「だいたい10日くらい掛かるんですけど、あなた早めに来たから一週間くらいで出来るかも知れません。出来たらお電話しますね」
「はい、よろしくお願いします」
 
それで呉羽はお店を出た。
 
そして帰る途中でふと変な事に気付いた。ん?なんかスカート丈とか言われた??うーん。。。気のせいだよね。ズボン丈と言われたのを自分がスカート穿きたいからスカート丈と聞こえたんだろうな。
 
と思ってから。。。。あぁ。。。スカートの制服着たいなぁ・・・と呉羽は思い、はぁと大きく溜息を付いた。
 

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公立高校の合格発表が19日火曜日にあって、中学の卒業式は22日金曜日なのだが、その間は曖昧に事実上の自由登校の雰囲気で出欠も取られなかった。青葉は20日は朝から出てきたのだが、教室に誰も人がいないので!?と思う。3年生の別のクラスの副担任の先生が通り掛かり、青葉を見て
 
「あら、川上さん、あなたまさか公立落ちたんじゃないよね?」
 
などと訊いた。どうも今日出てきている子は公立に落ちてしまって、その対応を中学の先生と話し合いたい子だけのようであった。(どこかの二次募集に応募するかあるいは定時制や単位制高校への進学を考えるか)
 
明日香に電話してみたら「ああ、誰も出て行かないよ。特に今日は。青葉〜、一緒に制服の採寸に行かない?」などというので、青葉は結局曖昧に学校を早引きして、明日香たちに合流する。商店街のウィンドウを眺めながら散歩して、高校の指定店に行き、採寸をしてもらった。
 
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「でもT高校の制服、可愛いなあ」
「このスカーフが独特だよね〜」
「でもセーラー服は中学だけで高校はブレザーなのかと思った」
「どうも、伝統校だけはセーラー服を守ってるみたいなんだな」
「へー」
 
「ね、ね」と世梨奈が切り出す。
「呉羽さ、女子制服作ったりしてないよね?」
「ああ。どうだろう? 私たちだいぶ唆したけど、まだそこまで勇気無いんじゃないかなあ」
「ああ、多分男子は勝手に作れないと思うよ」と紡希が言う。
 
「最近変な目的のために高校の女子制服を買おうとする男とかいるらしくてさ」
「ふーん」
「身長185cm, ウェスト89とかのセーラー服を買おうとする輩がいる訳よ」
「えっと、そういう女子高生もいるかもよ」
「うん、まあ本当に女子高生ならそれでもいいけどさ」
「ちょっと想像してみた。ちょっと勘弁してくれと思った」
「身長164,体重51の有岡君がセーラー服着るなら許してあげるけど」
「ああ、あの子顔立ちも優しいしね」
 
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「それで学校から各指定店に合格者のリストが渡されていて、そのリストに無い人は注文できないようになってるんだよ」
「へー」
「じゃ呉羽が女子制服を作るためには高校にそれを認めてもらうしかない訳か」
「親にもまだカムアウトできてないってことだし。道のりは遠いかもね。でも高校卒業までには女子制服になるかも」
「ああ。呉羽はそういうコースって気がするよ」
 

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「あ、そうそう。高校に合格したらみんなで温泉に行こうなんて話あったじゃん。あれ、いつにする?」
 
「あ、その件なんだけどね」と美由紀。
「例の温泉旅館やってる親戚に聞いてみたんだけど、春休み中は客が多いから、もし良かったら4月の中旬くらいにできないかというんだけど」
「ああ、それはいいんじゃない」
 
「高校は新入生合宿とかは無いの?」
「えっとね、K高校とS高校はやらないって。他の公立5校・私立3校はあるらしい」
「日程確認できるかな」
「うん、聞いた」と言って明日香がメモ帳を開ける。友人の多い明日香はどうも事実上の同窓会幹事になりつつあるようだ。
 
「D高校は4月の4-5日、M高校は6-7日、L高校は9-10日,J高校は11-12日。H高校は13-14日。この5高は同じ施設使うから日程がずれる」
「なるほど」
「T高校とC高校、R高校は各々校内の施設を使って10-11日」
「なるほど」
「それからT高校とC高校は新入生抜き打ちテストがある」
「おっと」
「分かってるんなら抜き打ちじゃないじゃん」
「新入生へのお知らせとかには書かないし学校でも言わないから。でも毎年ある」
 
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「ああ」
「先輩とかから聞いた結果、T高校もC高校も合宿の翌日にやる。12日だね」
「ということはそれまではしっかり勉強してた方が良いということか」
「合宿の翌日が抜き打ちテストか。なかなか楽しいスケジュールだ」
 
「となると、第2週なら大丈夫かな」
「平日だよね?」
「うん。月曜から木曜までのどれか。15〜18日。それなら市内の高校に進学した子はだいたい動けるし、旅館も平日は一昨年やってた感じで、ほぼ貸切りに近くなる」
「じゃその日程で他の学校に行く子たちの意向を聞いてみるよ」
 
「なんか大人数になりつつある?」
「うーん。話がなんだか広がりつつあるのよね。実際。40人くらいになったりして」
「きゃー」
 
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21日は卒業式の前日ということで、多くの生徒が学校に出てきた。卒業式の予行練習などする。要するにふつうの授業は無い。まだ行き先の決まってない数人の子をみんなで励ましたりした。
 
「しかし奥村君がC高校を落として行き先未定というのは驚き」
「12月頃までT高校受けるかC高校にするか迷ってたくらいだからね。でも試験の当日体調崩したらしいよ」
「ああ。一発勝負の怖さだよね」
「まさかC高校には落ちるまいと思って私立併願しなかったらしいのよね」
「入試の点数が悪いから公立の二次募集は厳しいだろうと先生から言われたって」
「そうか。公立の二次募集は、一次で受けた時の入試の点数で判定されるから」
 
「私立のH高校が二次募集あるから、それを受けることを先生から勧められたけど、まだ迷ってるって」
「でも他に選択肢無いのでは?」
「そうなんだよね」
 
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「でも人間って選択肢の無い時にも迷うよね」
 
しかし冬子さんが言ってたな、と青葉は思う。
 
歌手はライブの本番のみが評価される。練習でどんなに良い音を出していてもライブ本番の出来が悪ければ、その程度の歌手と言われる。レコーディングスタジオでは最高の演奏ができるのに、観客を前にすると音程を外したり、失敗を重ねる歌手もいる。そういう人は、本当はちゃんと歌えていても、CDの音は電気的に補正してるんでしょ、などと言われてしまう。
 
冬子さんと政子さんは「本番に強い」とか「ハプニングに強い」と言われるけど、それはただのラッキーを重ねたものではない。本番に最高の実力が出せるように体調の管理をし、テンションのピークがそこに行くように睡眠時間なども調整をしているという。
 
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受験などもしばしば試験の前日まで必死に勉強したりする人もあるけど、本当は必死に勉強するのは試験の数日前で停めておいた方がいい。そして最後の数日はむしろ体調を整えた方が良い。自分の最高の実力を出せる身体にするために。
 
そのため、女子勉強会のメンツは試験の前3日間は22時就寝6時起床の
生活パターンにシフトして、無理しないようにした。美由紀なども結果的にはそれがラストスパートになったのではないかと青葉は思っていた。
 

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そして卒業式当日になる。
 
朝はみんなざわざわしているが、並んで体育館に入り式が始まるとみんな気が引き締まる。教頭による開式の辞の後、寺田先生がピアノを弾いて国歌斉唱。そして卒業証書授与となる。卒業生がひとりずつ名前を呼ばれて壇に上がり校長から卒業証書をもらう。青葉も青葉たちの組の女子の4番目で名前を呼ばれ校長から証書をもらった。
 
「いつも頑張ってるね。今の調子で歩みを停めないように」
と校長から声を掛けられた。
「ありがとうございます。これからも頑張ります」
と笑顔で答えた。
 
全卒業生に証書を渡した後、校長の式辞、来賓の祝辞と続き、在校生代表で生徒会長が送辞を読むと、卒業生代表で元生徒会長の子が答辞を読んだ。
 
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その後、1年の子のピアノで森山直太朗の「さくら」をみんなで斉唱する。最近は結構卒業式で使われる曲らしい。その後、2年生の子のピアノで校歌を斉唱した。
 
教頭の閉式の辞で卒業式を終了する。退場して各々の教室に戻る。
 

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小坂先生から、お話がある。たわいもない話といえば話だが、小坂先生の授業はこれで終わりである。そう思うと涙が出てきた。先生にはたくさんお世話になった。お葬式にまで来てもらったし。
 
卒業の記念品を渡すのにひとりずつ名前を呼ばれ、先生から受け取った。青葉は感極まって先生にハグしてしまった。
 
「よしよし。青葉ちゃん、いつも元気にしてるけど、たまには泣いたりしてもいいんだからね」
と言って頭をなでなでされると、本当に涙が出てきた。
 
青葉が先生とハグしたので、既に自分の席に戻っていた美由紀がまた出てきて「先生私も〜」と言ってハグしていた。その後、女子は半分くらいの子が先生とハグしていた。
 
「いやあ、卒業生とこんなにハグしたの、私教師を15年やってて初めて」
などと先生は笑っていた。
 
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記念品はセラミックペン先の顔料ボールペン、赤と黒のセットであった。何だかとても持ちやすい。
「これひょっとして良いボールペンかなあ」と美由紀が言うと
「これ多分セットで2000円くらいしそう」と日香理が言う。
「あ、100円ショップとかにあるものとは違うという気はしたけど」
 
そして解散になった。多分この中の女子の半数くらいとは来月の「温泉オフ」?で顔を合わせることになるだろうけど、この中にはもう一生会うことのない子もいるかも知れないなと思うと、また涙が出てきそうな気がした。
 
最後の授業が終わって、まだざわざわしている時に、2年生の葛葉が教室まで来た。
「先輩〜、これコーラス部からの記念品です」
と言って、青葉や日香理など、このクラスのコーラス部員に何か包みを渡してくれた。
「わあ、ありがとう。開けて良い?」
と言って開けると、何だか可愛いコーヒーカップだ。
「わあ、大切に使うね。ありがとう」
と御礼を言った。
 
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「先輩たち、高校でもコーラス頑張ってくださいね」
「うん。葛葉たちも頑張ってね」
 
と言って握手して別れた。
 

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その日の午後は紡希と平林君を中心とした有志で主宰して、小坂先生と副担任の先生も招き、市内のファミレスでささやかなお茶会をした。8割くらいの生徒が参加し、保護者も何人か出てきていて先生たちと挨拶していた。
 
「奥村君は出てきてないね」
「ああ、彼ね、金沢の私立のE高校に二次募集があるから、それを受けると言って、今日その試験があるんで卒業式終わってすぐ、向こうに行ったって」
「へー。越県かぁ」
 
「二次募集があるのは普通科だけど、学期ごとにある校内の試験で進学科、更には特進II,特進Iと移動できるらしいのよ。それで特進Iまで行くの狙うって」
 
「へー。その進学、特進1,2ってどう違うの?」
「どこかの大学に入りたい子が進学科、国立やMARCH・関関同立狙うなら特進、更には医学部あるいは旧帝・旧六・早慶狙いが特進I」
 
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「マーチ?かんかん??」
「MARCHは(M)明治・(A)青山・(R)立教・(C)中央・(H)法政。関関同立は関西大・関西学院大・同志社大・立命館大。旧帝は東大・京大・東北大・九大・北大・阪大・名大。旧六は新潟大・岡山大・千葉大・金沢大・長崎大・熊本大」
「お・・・覚えきれない!」
 
「でも彼なら特進Iまで浮上できるよ」
「うんうん。それで東大理3狙うって言ってたって」
「おお!それは頑張って欲しいね」
「理3とは大きく出たね」と明日香。
「何?理3って?」と美由紀。
 
「東大は他の大学と違って教養部というのがあって、新入生は最初そこで学んで2年してから各学部に振り分けられるのよ。理3は教養部の中の理科3類と言って、医学部に行く人たちが学ぶ所。要するに、東大医学部を狙うってこと」
と日香理が説明するが、美由紀は
「なーんだ。それなら最初からそう言ってくれればいいのに」
などと言っている。
 
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「でもそのくらい高い目標持ってた方がいいよ」
 

翌日はT高校で合格者説明会が開かれた。
 
多くの子が中学の制服を着て、保護者同伴で出てきている。中にはもう既にT高校の制服を着ている子もいたが、恐らく推薦の内定が出た時点で頼んで作ってしまった子か、あるいは先輩から制服を譲ってもらった子であろう。青葉も美由紀や明日香たちと同様、中学の制服を着て、朋子に付き添ってもらって出てきた。
 
しかし中には制服を着ていない子もいる。青葉や明日香は呉羽を見て、うっと思った。
 
「あんた、その格好で来たの?」と明日香が呆れたように言う。
「これ変かなあ?」と呉羽。
 
呉羽は白いブラウスの上に黒いレディスっぽいセーターを着ていて、ボトムは紺色のタイトスカートである。女学生らしい清楚な服装ではあるが・・・
 
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「いや、だから女の子の格好で良かった訳?」
「入学式は制服で来るよ」
「まあ、それがいいだろうね」
 
 
 
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