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■春音(11)

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青葉は「鈴」を起動して、美由紀の頭脳の中のニューラルネットワークに意識を集中する。空間認識を司るのは・・・・ここだ。ここと・・・・数学的な把握は・・・・ここか。この間にリレーションを作ってあげればいいんだよね?
 
「鈴」を青葉のイメージの中で可能な限り巨大にして、それによって周波数をぐっと低くする。まず一方のネットワークでいったん鳴らす。そしてもう一方のネットワークでも鳴らす。同じ周波数の鳴動を経験したことで、両者のつながりができやすくなったはずだ。
 
『魔法掛けたよ』
『サンキュー。あ、気のせいかな。PとかQとかの記号見ても、そんなに嫌な気分がしない』
『良かったね』
『よし、頑張るぞ!』
『うんうん。ファイト!』
 
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青葉は微笑んで美由紀の傍を離れた。美由紀が「気のせいかな」と言ったが、実際問題として、こういうのは「気のせい」の部分が大きいのである。多分鈴の作用より、青葉が魔法を掛けてあげたということで、美由紀の意識が変わったはずだ。
 

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季節はめぐって12月となる。11月末に行われた期末試験の結果が出そろい、進路について三者面談が行われる。
 
日香理の場合は、高校を出た後の進学希望する大学について、本人が東京の某国立大学を希望しているのに対して、親は地元の国立大学でいいじゃない、などという意見の不一致はあったものの、T高校の社文科を受験するという点では親子間の妥協が成立していたため、大学についてはまた高校在学中に考えましょうよと担任が言ったこともあり、基本的には円満に終了した。
 
青葉の場合は、そもそも既にT高校社文科に内々定しているので、話は高校に進学してからの勉強の仕方や生活などに関するものが主であった。性別問題についてはT高校側が、青葉が性転換手術済みでもあるし、あまりにも完璧に女子なので「何も配慮しません。普通に女子生徒として扱います」と言っているということを先生が伝えると、母も「ああ、それでいいです」と言って笑っていた。
 
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青葉の「お仕事」について先生が「霊的な仕事は可能なら少し絞った方がいい」
と言い、母もそれに同意だと言った。青葉は双方から言われると「確かにそちらに振り回されて勉強する時間がなくなると辛いし」と言い、何らかの形で仕事を絞り込む方策をとることを約束した。
 
美由紀の場合は、そもそも親が近隣の高校の難易度を全然把握しておらず、親は近くのL高校でもいいと思っていたものの、娘がT高校に行きたいと言っているので、そう遠くでもないし、それでもいいかなと思っていたなどということだったが、現在の美由紀の成績ではボーダーラインだと言われ、私立の併願を勧められた。
 
「でも、お嬢さん、ほんと頑張りましたよ。1学期末の成績では絶対無理という感じだったのに、この4〜5ヶ月間で物凄く成績を上げましたからね。2学期の期末テストも、校内で10位以内に入ってますし」
と先生が言うと親は
「ああ、確かに最近よく勉強してるなとは思ってました」
などと言う。現在テレビはずっとカバーを掛けていて、パソコンや携帯も没収していることについては、先生も「家庭でそれだけ協力してくれるというのは素晴らしいことです」と評価してくれた。
 
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ここまで来たら可能性は微妙でもT高校を受けてみようということについて、三者の意見が一致する。ランクを落としてM高校あたりを受けるのであれば私立併願する必要も無いが、T高校やそれに準じる水準のC高校なら、中学浪人するハメにならないように学費が少し大変ではあるが私立併願した方が良いという先生の意見に親も同意したので、その方向で進むことになった。
 
もっと大変だったのは呉羽だった。呉羽の父は、息子の勉強のことについて全く把握していなかったようで、T高校の理数科を志望しているということも全然知らなかった。
 
「T高校は電車に乗って通学になるじゃん。L高校なら歩いて通学できるのに」
などと父から言われたが、自分は医者になりたいから、T高校の理数科に行ってたくさん勉強したいというが「そんな医学部なんて金の掛かる所にはやれん」
などと言い出す。それで呉羽が「医学部でも国立は、他の学部と学費が同じ」
と説明すると、それも知らなかったようで「へー!」と驚いた様子だった。
 
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予定時間を大幅にオーバーしつつ、先生は父の説得を続けた。彼の成績は良いので、県内随一の難関であるT高校理数科にも充分通る可能性があるし、万一落ちても普通科が併願できるので普通科には風邪など引いたりしない限り、彼の成績ならほぼ確実に通るということ。T高校からは国立大学の医学部に毎年何人も入っているということ、T高校に通っていれば塾などまで行く必要は無いし、今は公立高校は授業料が実質無料で、補習代とかは幾ら幾ら程度、そして国立大学医学部は他の学部と同額だし、彼が希望している大学なら自宅からも通学可能だから、本当に費用が掛からないということまで説明して、やっと父は彼のT高校理数科受験を認めてくれた。
 
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なお、C高校にするかT高校にするか迷っていた明日香と星衣良は、いづれもT高校を狙うことにした。またC高校志望と言っていた勉強会のメンツ世梨奈は、担任から「2学期になってから急成長したから、今のままならT高校でも行けるかも」と言われ、最終的な決断は2月の願書提出時点ですることにした。世梨奈は内申書的には美由紀よりずっと条件が良いのである。
 

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そして12月16日・日曜、最後の模試が行われる。この模試は多くの受験生にとっては、志望校決定の材料ではなく、むしろ本番試験の予行練習としての意味合いを持つ。年明ければ、もう私立高校の推薦入試が始まる。
 
青葉は美由紀が試験終了後、とても良い顔をしていたので、ああこれだと美由紀とまた高校も一緒に通えるかな、という気持ちになった。
 

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その夜、青葉はまた「夢」を見ていた。
 
あ・・・またいつもの夢だ。今日は誰の夢だろう? と思っていたら、T高校の制服を着た女の子が鏡をのぞいている。あれ? 日香理かな?紡希かな?あるいは美由紀がもう合格した気になってるのかな? と思ったら意外な人物だった。
 
『呉羽、可愛いじゃん』
と呼び掛けられて、呉羽は慌てていた。
 
『あ、青葉か。びっくりした』
 
呉羽は青葉たちのグループの勉強会にほぼ毎回参加しているが、そのメンバーとは、最近ようやく名前で呼び合うのが自然にできるようになってきていた。
 
しかし呉羽の夢に侵入したのは初めてだ。私、男の子の夢にはあまり侵入しないんだけど、呉羽はやはり私の心の中では女の子に分類されてるのかな?
 
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『高校入ったら、こっちの制服で通学するの?』
『できたらいいなとは思うけど無理だろうな』
『なんで? 自分は女の子だから、こちらの制服を使いますって宣言しちゃえばいいよ。私のことで、T高校の先生たち、かなり性同一性障害について勉強してくれたみたいだから、きっと受け入れてくれるよ』
 
『うーん。学校の前に親を説得できない』
『ああ』
 
『親は僕が時々女の子の服を着ていること全然知らないから』
『時々どころか最近、下着はずっと女物だって言ってたね』
『うん。体育のある日以外は女の子下着つけて学校に行ってる』
『よくバレないね』
『僕が洗濯して干して取り入れるから』
『ああ、両親共働きだし、そういうの全部呉羽がするのね』
『うんうん』
 
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青葉は少し考えていた。
 
『呉羽としてはどうなの?女の子の服を着たいの?女の子になりたいの?』
『女の子になりたい。実はね・・・こないだ青葉に教えてもらった輸入代行店で女性ホルモン買っちゃった』
『へー。もう飲んだ?』
『飲んじゃった。飲み始めて最初の数日はなんかすごくオナニーしたくなっちゃってたくさんしたけど、その後はもうしなくてもいい感じになって。もう1ヶ月くらいオナニーはしてない』
 
『ふーん。何飲んでるの?』
『ダイアン35のジェネリック』
『ああ。男の子を辞めるのにはいちばんいいホルモンだね』
『でもこれではおっぱい大きくならないみたい』
『おっぱい大きくしたかったら、プロゲステロン飲まなくちゃ。もちろんエストロゲン飲んでる前提でね』
『そうだったのか』
 
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『もしかして医学部志望ってのはお医者さんになって自分で自分を手術して女の子になるためとか』
『それは考えたことあるけど自分の手術はさすがに無理だと思う。でも、お医者さんになってお金貯めて性転換手術受けたい、みたいな気持ちはある』
『ああ。確かにふつうの人にとっては性転換手術代を貯めるのも大変だよ。高すぎるからね』
 
『青葉はそんな経験無い? 僕自分であれを切っちゃおうとしたことある。勇気がなくて切れなかったけど』
『それはこういう傾向の子、みんな経験してると思うよ』
『やはりそうだよね・・・』
 

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その時、青葉はちょっと親切心を起こしてしまった。
 
『私が切ってあげようか?』
『へ?』
『この夢の中でだけど(ふふふ。夢の中限定で済むといいね)』
『ああ・・・性転換手術されちゃう夢は何度か見たことある』
『じゃ今夜ももう一度そういう夢を見よう』
『あ・・・うん』
 
『そこの手術台の上に寝て』
 
見ると近くに手術台があり、上に無影灯が付いている。
『えー?でも・・・・』
『おちんちん必要?』
 
『おちんちんは別に無くてもいい』
『おちんちん使ったオナニーできなくなるけどね』
『オナニーはもうしないと思う。女性ホルモン飲み始める前もずっと止めたいと思ってたけど、どうしても止められなくて辛かったんだ、しちゃう度に凄く悲しい気分になってたから、女性ホルモンのおかげですごく楽になった。勉強も進むようになった』
 
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『ふーん。じゃ、おちんちん無くなってもいいね?でも無くなるとお婿さんになれないよ』
 
『お婿さんになるのって想像がつかない。花嫁さんになる夢は見たことあるけど』
『おちんちん付いてたら花嫁さんになれないよ。やはり取っちゃおうよ』
『そうだなあ・・・・』
『要らないものをくっつけてても邪魔なだけだよ。おちんちん付いてたら、女の子パンティ穿いても、盛り上がりができちゃうでしょ?』
『うん。なんかみっともないよね』
『じゃ取っちゃえばいいのよ』
『えーっと』
『私に任せて』
『うん』
 
呉羽は不安げな顔で手術台に横たわった。
 

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青葉は呉羽を寝せたまま、スカートを脱がせ、パンティも脱がせて下半身裸にしてしまう。パンティはレースたっぷりのエレガントなのを穿いてる。呉羽の趣味だろうか。
 
男性器が露わになる。ふふ。こんな可愛い子にこんなものが付いてるなんて許せない。取ってあげよう。などと思ってから、これ松井先生と同じ発想じゃん!と思って心の中で笑ってしまった。まずは陰毛をきれいに剃ってしまう。まるで小学生のおちんちんみたいに毛の無い状態になった陰部を見て、呉羽がわあぁなどと言っている。
 
『麻酔打つね』
『うん』
『手術経過が分かるように下半身麻酔でしてあげる』
『えー?全身麻酔じゃないの?』
『これ夢の中だからさあ。全麻しちゃうと、呉羽の存在がこの夢の中から消えてしまって、手術できないのよ。痛くはないから』
『分かった』
 
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ほんとうは全麻しても夢から消えないのは経験済みなのだが、このあたりは単なる青葉の趣味である。
 
『それに手術されてる所を見たら、医者になるのにも勉強になるよ』
 
『ちょっと待った。青葉って手術経験あるの?』
『夢の中での手術なら今まで10回くらいしてる。リアルでも実は1度経験ある』
『へー!』
 
性転換手術は初めてだけどね、と心の中で付け加える。
 
青葉は呉羽に硬膜外カテーテルを入れ、下半身麻酔を掛けた。硬膜内まで針を入れて麻酔を掛けるのはこれまで何度もしているのだが、硬膜外は初めてだ。しかしうまく行った感じである。
 
『ここ感じる?』
『感じない』
『ここは?』
『感じない』
『じゃ始めるよ』
『ね。目を瞑っててもいい?』
『問題なし』
『じゃ目を瞑ってる。やはり自分が切られてる所見たら気分悪くなりそうだもん』
 
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ああ、それが普通の感覚だよねー。私はきっと異常なんだ。
 
青葉はまず陰嚢の中心線に沿ってメスで切開し、中に入っている睾丸を袋から取り出す。そして精索をハサミでちょきん!と切ってしまった。睾丸はゴミ箱に捨てる。ふふ。これで呉羽をこれ以上男性化させてしまうものは無くなったよ。きっと(リアルでも)ヒゲは生えなくなるよ。呉羽まだ体形がそんなに男っぽくないから、とても女の子らしい女の子になれるよ。
 
それから陰茎の皮にメスを入れ、皮を剥いでしまう。更には尿道も本体から分離して、更に切開して短冊状にする。それから亀頭を切り離し、陰茎海綿体は根元からチョキンと切り離してこれもゴミ箱に捨てた。
 
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