広告:兄が妹で妹が兄で。(3)-KCx-ARIA-車谷-晴子
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■春音(3)

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この高校は普通科5クラスの他に、理数科・社文科の各1クラスがあり、青葉も東京外大を目指す日香理も社文科の志望であった。各々理学部や工学部・医学部など、あるいは法学部や経済学部・文学部などへの進学を希望する生徒を集めてゼミ形式などで少人数単位の指導がなされ、進学指導も熱心な分、合格水準も普通科より高くなっている。
 
「志望大学はどちらでしたっけ?」
「名大の法学部を想定しています。ちょっと今の成績では恐れ多いですけど」
 
本当は地元の大学ということで金沢大学の法学課程を考えているのだが、小坂先生から「大きく言っとけ」と言われていたのである。実際できるだけハイレベルの目標を持った方が、挫折した場合でもそれなりに実力が付くということを青葉はこれまでの魔術関係の勉強でも認識していた。
 
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「それは頑張って下さい。昨年はうちから名大に10人合格していますし、今年も20人ほど受ける予定ですから、やはり去年と同程度合格しますよ」
「はい。こちらの高校で鍛えてもらって、目指したいと思います」
 
ちなみに代ゼミの「合格難易度」の数値は金大法は77, 名大法は83。東大文1になると93という<雲の上>の世界になる。私立だと慶応法でも68で、国立の法学部が「狭き門」であることが分かる。国立が厳しいのは医学部になるともっと顕著になる。(医学部と法学部は元々設置大学が少ない。そのため、いわゆる「駅弁大学」とは医学部と法学部の無い国立大学、という見解もある)
 

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校長室での面談の後、ちょうど社文科・理数科の「ゼミ」が行われているということでそれを見学に行った。見学したゼミでは、理数科では Pascal を使ったプログラミングをテーマにして生徒が発表をしていた。社文科のほうでは裁判員制度について、その仕組みや課題などについて報告が行われていた。生徒が活き活きとした顔をして報告をしていて、青葉は「ああ、これいいな」
と思った。
 
その後、校内の施設を色々案内してもらう。芸術棟の音楽室に行った時
「そういえばコーラス部で2度全国大会に行ったんでしたね」
と校長から言われる。
 
「ええ。そのコーラス部の中核メンバーが私の他に2人、こちらを受けますので」
と言うと
「それは楽しみだ」
と校長は言う。
「こちらにも・・・コーラス部ありましたよね?」
 
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「ええ。コーラス部、ブラスバンド部、軽音学部、それに弦楽部というのがありますよ。音楽関係の部活では」
「わあ、ぜひコーラスやりたいです」
「うんうん。やはり勉強もして、部活もして、というのが良き高校生活ですからね」
と校長は青葉の反応に好感しているようであった。
 
その他、図書館、理科棟、体育館、武道場、講堂、研修館と案内してもらい校長室に戻ってまた少しお話してから、
 
「それでは来年春からよろしくお願いします」
と挨拶して帰った。
 
ただし公式には来年の2月に一応ちゃんと推薦入試を受けて合格手続きとなる。
 

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チアの練習は金曜日で終わる予定だったのだが・・・・
 
「やはり、今の状態ではまずくない?」
「いくら受験勉強中で時間が取れないと言っても、1,2年生に恥ずかしい」
「明日も少し練習しようか?」
という話になり、土曜日も少し練習することになった。体育館が部活で埋まってて使えないので、代わりにF公園に午前11時に集まり1時間くらい練習しようということになる。
 
「チアの衣装で集合するの?」
「それはさすがに恥ずかしい。私服で集まって、公園のトイレで着替えればいいよ」
 
「呉羽は女の子の服着ておいでよね」
「えー!?」
「だって、普段は女の子の服で出歩いてるんでしょ?」
「してない、してない」
「あ、じゃ女の子の服を持って来て、公園で着替えればいいんじゃない?」
「なんか趣旨が良く分からない、それ」
「取り敢えず、着てくるか、持ってくるかどちらかはしようね。女の子の服」
「うーん。。。」
 
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その日、青葉が帰宅すると「FAX来てるよ」と言われる。
 
○○医師からのFAXだ。カルテを切り貼りしてFAXしたものを更にFAXしたという感じである。ちょっと読み取りにくい文字もあるが、青葉は文脈で薬剤の名前を判断した。
 
「やはり・・・・」
青葉が思っていた通りの薬の名前がそこにあった。
 
すぐに電話する。
「こんにちは。川上です。FAXありがとうございました」
「うん。何か分かった?」
「****が怪しいです」
 
「えー!?」
「これ、毛生え薬ですよね」
「そうそう。投薬している薬の副作用で、患者は全部髪が抜けちゃってね。一応ウィッグ付けてたんだけど、そこはうら若き女子高生じゃん。恥ずかしいから、髪が生える薬が欲しいと言って、それで治療にあまり影響のないような薬で育毛効果のある薬を選んだんだよ。沖縄に行った時、△△君が笑って話していたのを思い出した」
 
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「これって、***のエキスでしょ。主成分は」
「うん・・・天然の成分って、意外な効果があったりするよね。でもなぜこれではないかと思ったの?」
 
「○○○○症候群の進行の仕方とか、発生メカニズムって、△△△△症候群に似てませんか? 症状の出方は全然違うけど」
と青葉は同じく難病ではあるものの患者が数万人単位でいる病気の名前を挙げた。
 
「ああ、それは昔から言われてて、実際△△△△症候群と共通の投薬も多いんだよ」
 
「ちょっと記憶で言うので、間違っているかも知れませんが、1年くらい前に確かロシアで、△△△△症候群の患者に###のエキスを投与したら、病状に改善が見られたという論文があった筈です」
「何?」
と○○医師は驚きの声をあげ・・・・すぐに端末で検索しているようである。
 
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「ごめん。###って、ロシア語では何というんだっけ?」
「%%%%ですよ」
「スペル教えて・・・・・よし、これで検索・・・・・これか!」
 
医師はブラウザの自動翻訳で論文を斜め読みしているようである。
 
「ロシアじゃなくてウクライナだね」
「あ、すみません」
「いや。でも論文はロシア語で書かれているよ。この研究結果、追試があまり良い結果出なくて、偶然ではないかということで、そのまま放置されてしまったみたいだね。効果の出た治験者もあったようだけど全く効果の出なかった治験者も多かったみたい。しかし再度研究してみる価値はあるな」
 
「***も###も同じ+++科の植物でしょ」
「川上君、今君は凄い発見をしてくれたよ」
 
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「私は祈祷師ですから、適当に勘で物を言ってるだけです。何の根拠もありません」
「いや。その勘ってのが、科学者には欠落しがちなんだよ。しかし、よくこんな研究結果を知ってたね」
 
「知人が幹部をしている宗教団体の関連会社で###を使った健康食品を出しているんですよ。その人が私の所にも売り込みに来て、その売り込み自体は丁寧にお断りしたのですが、その人が###は凄い。難病の△△△△症候群も治った、なんて言ってたので、ほんとかな?と思って、念のため、その時検索してみてたんですよね」
 
「あぁ・・・・そこで検索してみるのが川上君の凄さだよ」
 
「情報の一端に触れた時は、少しだけその一端を引っ張ってみておくんです。するとニューラルネットワーク(脳神経網)に刻み込まれる知識になるんです」
 
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「それって名言だね」
 
「ただの雑学の勧めです」
 

翌日の午前11時。青葉は少し楽しい気分で、私服のカットソーにプリーツ・スカートという出で立ちで、F公園に出かけていった。世梨奈と由希菜が既に来ていたが、他のメンバーはその後、ぼちぼちと到着する。
 
「みんな遅いなあ。もう10分過ぎ」
「あと来てないのは、明日香と・・・呉羽か」
「呉羽、女装するかどうかで悩んでたりして」
 
先に練習を始める。11:15になって明日香が「ごめーん。遅刻」と言って走り込んできた。すぐにトイレでチアの衣装に着替えて練習に加わる。
 
そして呉羽が来たのは11:22くらいであった。
 
「おぉ!!」
みんなが歓声をあげる。
 
「可愛いよ!」
「その格好で来たのに免じて、遅刻の件は問わないことにしよう」
 
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呉羽は、マリンルックのワンピースを着てきていた。頭には小型のハットを付けている。しかし本人は、物凄く恥ずかしそうにしている。
 
「チアの衣装は持って来てるよね」
「うん」
「じゃトイレで着替えて来て」
「うん。着替えてくる」
 
と言った呉羽が、トイレの入口の所でためらった感じで、最初男子トイレの方に入ろうとしたので、明日香が走って行って止める。
 
「こらこら、女の子が男子トイレに入ってはいけません」と明日香。
「えー、だって」
「この格好してきた以上、ちゃんと女子トイレ使いなさい」
「でも・・・」
「呉羽、こないだはちゃんと女子トイレ使ってたじゃん。女子トイレ慣れてないの?」と青葉。
 
「まだ女子トイレって3回くらいしか入ったことない」
 
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「じゃ今日が4回目ね。はい、そちらで着替えてきて」
「一番奥の個室が洋式で着替えやすいよ」
「分かった」
 
呉羽はそれでも恥ずかしそうな素振りで、恐る恐る女子トイレに入って行った。
 
「呉羽、この一週間でかなり女の子にハマったね」
「中学卒業と同時に男の子からも卒業しちゃったりして」
「ああ、そうなるように唆そう」
 

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その日の練習は始まりが遅れた分、少し遅くまでやり、12時40分に終わった。練習の後、普段着に着替えて、取り敢えず近くのスーパーに入り、フード・コーナーで、鯛焼きやアイスなど、思い思いのものを頼んでしばしおしゃべりする。
 
「でも今日1時間練習したので、かなり形になったね」
「うん。昨日までとは随分違うよ。見違えった」
「呉羽も見違えった」
「そうそう。凄い可愛い服持ってるね」
 
「うん・・・これ、こないだ東京に行った時に池袋で買った」
「へー」
「質問です。東京でこの服を買った時は、男の子の格好だったのでしょうか?女の子の格好だったのでしょうか?」
「・・・・女の子」
と言って呉羽はまた顔を赤らめて俯く。その仕草がまた可愛いので、みんなから
「可愛い〜」
「わあ。純情乙女だ」
などと言われている。
 
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「ねえ。月曜日から、女子制服で学校に出てきたら?」
「そんなの持ってない」
「私の姉ちゃんが一昨年この中学を卒業して、まだ制服を捨ててないよ。何かの時に私が予備に使えるようにってんで。あれ、もらってこようか?」
「いえ、いいです」
 
という感じで、その日は、みんな楽しく呉羽をいじっていた。呉羽はスーパーの店内でもトイレの男女表示の前で悩んでいたので、莉緒奈が手を引っ張って女子トイレに連れ込んでいた。
 

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翌日。10月7日(日)。青葉の中学の体育祭が行われた。
 
青葉が出る種目は、午前中に全学年全員参加の100m走、3年全員参加の七人八脚、午後から3年女子全員参加のダンス、そしてプログラム最後のスウェーデンリレーであるが、その他に午後1番に行われる応援合戦ではチアリーダーとしてアクションするし、それ以外の時間帯でも、1年生・2年生と30分交替で、各種目の応援をした。
 
100m走は6人で走って3位だった。一応賞状と記念品の鉛筆をもらう。
「青葉、もっと速いと思ってたのに」
と明日香から言われたが、
「私はどちらかというと長距離ランナーだから」
と言って笑っていた。
 
七人八脚では真ん中に入り、両隣は美由紀と世梨奈だった。
 
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チアとして各種目の応援は午前中に2回やったが、結構みんなノリが良くて、良い雰囲気で出来た。呉羽も完全に開き直ってミニスカを穿いた足を上げてアクションしていた。
 
「呉羽、親は見に来てないの?」
「うん。多分来てないと思うけどな」
「来ても、息子を認識できなかったりして」
「うむむ」
 
ちなみに、今日はチアの衣装は着たままで、競技に参加する時は、その上に体操服を着て、ミニスカなどはショートパンツの中に収めていた。呉羽もその方式だった。(この中学の夏用体操服は男女ともショートパンツ)
 

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お昼のお弁当は、美由紀・日香理と一緒に食べたが、それぞれの母が来ていて6人での食事になる。食べ始めた頃に、少し離れた所で呉羽がひとりで食べているのに気付いたので、美由紀が拉致してきて、一緒に食べることにした。
 
「呉羽ちゃん、チア可愛いかったよ」
などと日香理の母に言われて呉羽は照れていた。
 
「呉羽ちゃんの御両親はお仕事?」と青葉の母、朋子が訊く。
「ふたりとも商店勤めなんですよ。ですから日曜は出てこれなくて。小学校の頃からいつも運動会・体育祭は、ひとりでお昼食べてました」
 
「呉羽って、あまり男の子の友だちいないもんね」
「もしかして、こういう傾向あったから、男の子と友だちになれなかったのでは?」
「それは・・・あるかも」
 
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「こういうのをカムアウトしちゃったから、今度からは女の子の友だちと一緒にいればいいよ」
「う、うん」
と言って、またまた俯いて赤くなってる。
 
「ほんとに純情乙女だな」
と美由紀が少し呆れるように言った。
 

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