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■春音(5)

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(c)Eriko Kawaguchi 2013-02-24
 
体育祭の後は、代休の月曜日の後、火曜日から通常の授業が始まる。
呉羽はそれまでと同様に学生服を着て学校に出てきて
「女子制服じゃないの〜?」
と男子からも女子からも言われて、頭を掻いていた。その日は勉強会の日でもあったので、勉強会の席でも、みんなから「女の子すればいいのに」などと言われていた。
 
なお、体育祭の後から、志望校はC高校だけど一緒に勉強したいと言った世梨奈が勉強会のメンツに加わった。一度奈々美も来たのだが、奈々美は
「このレベルには付いていけん」
と言って、1回でリタイアした。
 
「じゃ、奈々美、自分と同レベル程度の子を集めて勉強会したら?」
「そうだなあ。呼び掛けてみるか。世梨奈も一緒にやらない?」
「んーー、じゃ私は掛け持ちしようかな。このレベルの中で鍛えられるのも捨てがたいし」
 
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「だけど呉羽は女の子の服を着てくればよかったのに」
「そうそう。学校に女子制服で来る勇気がなくても、友だちの前では女の子でいればいいんだよ」
 
「うん・・・でも実は女の子パンティ穿いて来た」と呉羽。
「おお、よしよし。ブラジャーは?」
「今日は付けてない」
「明日からは付けてきなさい」
「うーん。でも僕、胸が無いから」
 
「『私』と言いなさい」
「えっと・・・・私、胸が無いから」
「女性ホルモン飲むといいよ」
 
「青葉、ホルモン剤売ってる所紹介してあげなよ」
「私はホルモン剤は飲んでないけど、売ってる所は知ってるよ」
「そんなの飲まない、飲まない」
「取り敢えず、これ売ってる所のURL」
と言って、青葉は輸入代行店のアドレスをメモで渡す。呉羽は一瞬迷ったようだが、メモを生徒手帳に挟んだ。
 
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「おっぱい大きくしたいでしょ?」
「したくない、したくない」
「全然大きくする気無いの?」
「うーん。。。ちょっとだけ」
「素直に『私、おっぱい欲しい』と言いなよ」
「うーん。。。」
「おっぱい大きくしないと、競争でゴールに飛び込む時、不利だよ」
「えーっと」
 
「恋の競争する時も、同じくらい可愛い子同士なら、胸の大きい方が勝つから」
「そういうもの?」
「呉羽、男の子の感覚分からない?」
「それが実はよく分からなくて」
「ああ、女の子感覚なのか」
 
「呉羽、恋愛対象は?」
「えっと・・・女の子が好きだけど」
「へー。男の子を好きになったことはないの?」
「・・・・ある」
「ああ、バイなんだ?」
 
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「女の子とセックスしたことある?」
「・・・・ある」
「えー!? 凄い。男の子とセックスしたことは?」
「どんなのが男の子とのセックスなのか分からない」
「ああ。じゃ、それっぽいことしたことはあるんだ?」
呉羽はまた俯いて顔を赤くした。
 
「もう、呉羽純情すぎるよ〜」
 

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水曜日。青葉は学校の授業が終わると、学校近くの駅まで走って行って電車に飛び乗り、高岡駅からサンダーバードに乗り継いで19時半に新大阪に到着する。そして、そのまま駅近くのビルで開かれている、アナウンススクールに出席した。
 
青葉がアナウンサー志望というのを聞いた、冬子たちのレコード会社の部長さんに勧められて来年の春から金沢で新開講するアナウンススクール(週1回の授業)に入ることになったのだが、その前に今年度いっぱいは、新大阪の教室に月1回出て、基本的なことを学ぶことにしたのである。
 
青葉が出席したのはいちばん初心者向けのフリータイムコースで、口の開け方や発音・イントネーションの基本を学ぶようになっていた。生まれは関東ではあるものの、仙台弁・南部弁系(気仙方言)の地域で育ち、ここ1年半は北陸弁地域で過ごしている青葉にとって、標準語イントネーションは結構抵抗があるものであったが、新大阪教室なので関西弁地域で育った人が多く、みんな標準語のイントーネーションがうまく出せないことから、他の生徒さんたちとも、お互い親近感があった。そもそも北陸弁のイントネーションは関西弁に近い部分も多いので、逆に生徒さんたちの話す関西弁が伝染しそうな気もした。
 
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20時から21時までの授業を受けた後、少し生徒さんたち(10代の生徒が多い)と交歓して、ついでに何人かと携帯のアドレスも交換してから、コンビニでおにぎり・パン・お茶を買って、22時発の富山行き阪急バスに乗る。
 

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新大阪の高速バス停でバスが来るのを待っていた時、青葉はふと何かの気配を感じてあたりを見回した。しかしその気配の出所はよく分からなかった。
 
ハードスケジュールで動いているのですぐに深い眠りに入ってしまう。しかし、深く寝たので、バスが草津PAに着いて開放休憩になった時、まだそんなに時間は経っていないのに目が覚めてしまった。このバスの開放休憩はここだけなので、まだ朝には遠かったが、トイレに行ってきて、水分補給で烏龍茶を買って飲みバスに戻ろうとして・・・また青葉は何かの気配を感じた。
 
見回すが、それらしき視線のようなものは無い。
 
ん??
 
青葉のこれまで10年間拝み屋をしてきた勘が「何かある」と告げる。開放休憩の時間はそんなに長くないので、取り敢えずバスの自分の座席に戻り、それから、目を瞑ってゆっくり考えてみる。
 
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新大阪でも何か感じ、今この草津でもまた感じた。
 
ひとつの可能性は、乗客の中に何か関わりのある人物がいる場合。青葉は動き始めたほぼ満員のバスの中にそっと霊的なソナーを向けてみる。ここで「素人」
ならこのソナーに特別な反応をする。逆に「プロ」なら反応を抑制する。どちらにしても普通に反応する人と区別できる。もし何か悪意なり意趣を持っているのに「普通に反応」できる人がいたとしたら、その人物は超大物である可能性もあるが、今は取り敢えずそこまでは考えない。
 
運転手さん、交替の運転手さんも含めて、全員探査してみたが、怪しい感じの人は無かった。
 
もうひとつの可能性。それは自分の持ち物の中に、何か問題のあるものがある場合。
 
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青葉は自分が持っているものをひとつひとつ思い浮かべてみた。
 
通学用のカバン、教科書・ノート類は昨日学校に置きっ放しにして身の回りのものと宿題だけ入れたリュックを持って、サンダーバードに飛び乗っている。宿題・・・怪しくないよな?(朝起きてからしよう) アナウンススクールのテキスト、ノート・・・問題があるとは思えん。洗面道具と化粧水・手鏡・生理用品などを入れたポーチ・・・いつも持ち歩いているものだし。筆箱は愛用の品。中に入っているボールペンやシャープペンも普段使いの品ばかり。
 
うーん。。。自分の身につけている服を考えてみる。今着ているブラ&ショーツのセットはしまむらで買ったものだし、学校の制服セーラー服上下は別に問題無いだろうし、上に羽織っているパーカーはイオンで買ったものだし。ハンカチとポケットティッシュはキャンドゥだ。
 
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うーん。。。。。
 
5分くらい考えていて、青葉はただひとつ見落としていたものに気付いた。
 
携帯電話!
 

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メールが来てないか確認する。日香理と明日香、それに早紀から1通ずつ来ていた(美由紀は受験勉強のため携帯没収中)が、ごくふつうの雑談メールである(朝起きてから返信しよう)。あれ?と思う。彪志からメールが来てない。いつもなら夜バイトに行く前にメールくれるのに。そう思った時、彪志からもらったウサハナのストラップが赤く光っているような気がした。
 
これか!!
 
最初、彪志が自分に恋しいという気持ちを念じたのかも知れないと思った。しかし「赤く光る」というのは危険信号だ。
 
青葉は千葉にいる彪志のことを霊的に探索してみた。
 
「やばい!!!」
と思わず青葉は口に出してしまった。それくらい焦った。
 
青葉は携帯に表示されている時刻を見た。
 
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間に合えば良いが・・・・
 
彪志宛にメールを送る。
 
《超危険。仮病使ってもいいから、今すぐ早引きして店を出て》
 

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30分後、彪志から返信があった。
 
《他ならぬ青葉からの警告だから無理言って早引きした。結構文句言われたけど。何があるの? そうそう。今夜は仮眠で寝過ごしそうになっていつものメールできなかった。ごめんね》
 
《メールは無問題。何があるかは、明日の朝のニュース見れば分かるよ》
 
そう返信して、青葉は心を再度鎮め、眠りに就いた。
 

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朝5時すぎに砺波駅南に到着する。青葉はここで降りて城端線の始発を待つつもりでいたのだが・・・・駅の所に母の車があった。
 
青葉は微笑んでそちらに行き、窓をトントンして乗せてもらった。車が出発する。
「お母ちゃん、ありがとう。わざわざ迎えに来てくれたのね」
「ここで1時間待ちだからね。待っている間に眠り込んじゃったら遅刻」
「確かに」
「いったん、おうちに戻るから、寝てなさい」
「うん」
 
青葉は素直に返事をすると、後部座席でまた眠りに就いた。ああ、自分もこのシチュエーションで泣いたりしない程度には「暖かい心」に慣れてきたな、と睡眠の世界に落ちていきながら思った。
 

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6時頃自宅に着く。目を覚まし、母に御礼を言って車から降りて、一緒に家の中に入る。あらためて携帯を見てメールをチェック。彪志からメールが来ている。
 
《もうびっくり。ピザ屋さんでガス爆発。詳細はまだ不明》
 
《俺が早引きしてから20分くらい後に、変な客が来て店内に乱入。強引にガスの栓を全部開けたらしい。取り押さえようとしたが、その前に加熱中のオーブンから引火して爆発。副店長と先輩が軽い怪我。乱入した変な客が重傷》
 
《しかし何だか悪い気がするよ。俺だけ都合良く難を逃れて》
 
青葉は返信した。
 
《こういう状況で『俺ラッキー』とか言うんじゃなくて先輩に悪いなんて思う彪志が好き。軽傷で済んだのは私が護りを送り込んだから。結果的には彪志が関わってたから軽傷で済んだようなものだから、気に病まなくていいよ》
 
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そして、千葉まで飛んで行って彪志の先輩を護ってくれた、自分の眷属さんに『お疲れ様』と心の中で言った。彼は返事代わりに右手で○のサインを作り微笑んだ。青葉は母に入れてもらったコーヒーを飲みながら宿題を始めた。
 

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10月20-21日の土日は文化祭であった。
 
青葉はコーラス部で体育館のステージに出場する。これがコーラス部での最後の活動になる。
 
体育館のステージに出場するのは、コーラス部、プラスバンド部、演劇部、英語部(英語劇)、のほか有志の個人やグループによる出演がある。バンドを組んで演奏をした人たち、個人や2〜3人組で歌を歌った人たち、スピーチをした人、2人組で登場して漫才をした人たちなどもいた。また高岡は「万葉の里」
と言われているため、浴衣を着て箏の伴奏に合わせて万葉集の歌の朗読をした人たちもいた。
 
このような有志による出演は土曜か日曜のどちらか1回であるが、コーラス部、プラスバンド部、演劇部、英語部、のステージは土日に1回ずつである。
 
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1日目のステージでは部長でもある青葉が指揮をして(指揮しながら歌も歌う)『立山の春・愛』と『フライングゲット』を歌った。さすがに指揮しながらソロまで歌うのは難しいので、ソロは『立山の春』では葛葉が、『フライングゲット』では葛葉と1年生の鈴葉が掛け合いで歌う。
 
しかし2日目のステージでは指揮に関して葛葉に提案する。
「葛葉〜。今日は私も最後のステージだからソロ歌わせて」
「ええ。歌ってください」
「指揮しながらは歌えないからさ。今日は葛葉が指揮してよ」
「えー?私が指揮ですか? でも文化祭の2日目の指揮をした人は翌年部長をやらされるという巷の噂があるんですが」
「そんな噂は初耳だなあ」
 
などというやりとりはあったものの、葛葉は指揮を引き受けた。
 
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そうして2日目のステージが来る。青葉はこのコーラス部で1年半活動した。昨年は『島の歌・幸い』のソロを歌い、全国大会まで行き、9位に入賞した。そして今年は『立山の春・愛』のソロを歌い、全国大会で3位に入った。但し青葉が歌ったのは地区大会と中部大会までで全国大会では葛葉が歌った。もっとも3位に入賞したおかげで表彰式で再度歌う機会が与えられ、そこでは青葉が歌ったのであったが。
 
そしてこの文化祭。1日目は葛葉がソロを歌い、2日目では自分がソロを歌う。最初は中学まででコーラスはやめるつもりだったが、全国大会まで行ったことで、また新たな意欲が湧いている。結果的には葛葉は高校では自分のライバルになるかも知れない。ライバルを育てるのもまた不思議な充実感がある。
 
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『立山の春・愛』が葛葉の指揮で歌唱スタートし、最初は他の子と一緒に普通のソプラノのパートを歌う。指揮をしている葛葉も指揮しながらソプラノ・パートを歌っている。そして途中からソロパートが始まる。青葉はしっかりした歌い方で、この部分を歌った。
 
メロデイアスで表現力を要求されるパートだ。多少のざわめきを含んでいた体育館の中が、青葉がソロパートを歌い出した所からシーンとなる。みんなが自分の歌を聴いてる。快感!!
 
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