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■春音(8)

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Tさんは「ちょっと失礼」と言って患者の左手を握り、それから右手も握ってやはりという感じで頷く。
 
「重症なんですか?」と患者の友人は言うが、「これはヒーラーとか祈祷師とかの仕事ではないです」と青葉は言った。「これはお医者さんの仕事ですね」とTさんも言った。
 
「ヒーリングしたり祈祷したりすることはできますが、麻美さんの精神状態も気の流れも、とても良くて、どちらかというと、その良好な心と気の状態がこの難しい病気を快方に向けています。ですから、私たちがヒーリングなどをするより、お医者さんの治療をしっかり受けて、リハビリに励む方が、早く快復しますよ」
と青葉は笑顔で言った。
 
「私も同感です。世界でも40〜50人しか患者がいない未解明の難病ということではありますが、やはり病気にいちばん抵抗できるのは、本人のパワーなんですよね。あなたは、物凄くパワーがみなぎっていて、その状態は健康な人以上です。それだけのパワーがあるから、この難しい病気に対抗し、そして身体を快復に向かわせているのだと思います」
とTさんも落ち着いた口調で言った。
 
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「じゃ、ひょっとして麻美って、病変細胞の部分を除いたらすこぶる健康体?」
「ええ、とっても健康です。オーラもとても強いですよ。私、こんな『病人』
を見るのは初めてです。たいてい病気の人って、オーラは弱々しいのに」
と青葉。
 
「私が楽天的だからかなあ」
「ああ、性格も良い方向に作用しているでしょうね」とTさん。
 
「身体の中の気の流れもとてもスムーズです。ちょっと病変細胞のある場所を確認していたのですが、身体の中の気の流れの主流部分の近くにはもうほとんど病変細胞が認められませい。主流から離れるにつれ病変細胞の率が上がっているから、麻美さんは、実際問題として自己治療をしている感じですね。それと太い血管の近くも病変細胞が少ないですが、これはお薬の効果だと思います」
 
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「へー。もしかしてローズ+リリーの音楽が既に麻美をヒーリング済みだったりして?」
と患者の友人。
「ああ、そうかもです」
と青葉は笑顔で言った。
 
それでもせっかく来たからということで、Tさんが祈祷をする。病室の霊気の流れを確認して持参の座布団に流れに向かって座り、目を瞑り膝を叩きながら、祈りの歌を歌う。
 
冬子も政子も青葉にしても、こういう祈祷をしている所を見るのは初めてであったので「へー」という感じで見ているが、沖縄に住んでいてユタに接触した経験のある患者とその友人は、普通にその歌を聴いている。患者がとても気持ち良さそうにしているので、この歌は患者の心のパワーを正常化・増幅する効果があるみたいと思いながら、青葉は聞いていた。
 
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Tさんの祈祷の後、患者は「なんか健やかな気分」と言っていた。
 
祈祷の後は、今度は青葉がヒーリングをする。掌を身体から2〜3cm離した距離で身体と平行に動かす、いつものヒーリングで、政子・冬子は見慣れているが、患者も友人も、Tさんも「ほほお」という感じで見ていた。そして青葉は通常のヒーリングをしながら密かに「鏡」を起動した。病巣の中で、やはり内臓に近い部分が問題だと判断する。特に密集している付近に向けて光を照射する。
 
この「鏡」の使い方も、初めこの道具をもらった頃は強い光で付近の細胞をまとめて焼くような使い方しかできなかったのが、8年も使っていると、ビームを絞って細胞単位で1個ずつ潰していくような使い方ができるようになっていた。これだと患者の身体の負担も、とても小さく、患者は何かされているということ自体を自覚しない。
 
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更にある程度「鏡」で病変細胞を退治した後、今度はそういう病変細胞と戦っている免疫細胞に向けて「鈴」を作用させる。青葉が使う道具の中では一番歴史の浅い道具であるが、「鏡」でしっかり確認してから間違いなく免疫細胞だけに鈴を使いひとつずつ活性化させていく。ヒーリングの方は実はオートでやっているのだが、こちらの方は自分の感覚と頭脳をフル稼働させての治療であった。
 
青葉のヒーリングを受けながら、患者の女の子は、「身体の免疫細胞が活性化していくみたいな感じ」などと言っていたが、本当に活性化させているのである!
 
そして青葉はヒーリングを終えると「サービスで病変細胞を少し殺しておきました」などとサラリと言った。Tさんが「ああ、やはり。なんかしてるみたいだなとは思ったんだけどね」と言う。
 
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Tさんは「もし何かあったらすぐ駆けつけますから」と言って名刺を渡した。
「私が端末になって、川上さんのヒーリングを施すこともできますよね?」
「ええ。Tさんは物凄く優秀な端末みたいです」
と青葉は笑顔で言った。
 
ユタになる人の多くが、若い時に「カミダーリィ」と呼ばれる神懸かり状態になって、夢遊病患者のように歩き回る事態を経験しており、だいたい霊媒的な才能の高い人が多い。そういう人は霊的な端末としてもとても優秀なのである。
 
「私・・・その内退院できます?」と患者が訊くと
青葉は「あと1年10ヶ月」、Tさんは「あと23ヶ月」と同時に言った。
 
患者の友人が頭の中で考えるような仕草をして(1年10ヶ月を月に換算していたようだ)「あと22〜23ヶ月ですか。おふたりの意見がほぼ同じ時期を指しているから、そのあたりで本当に退院できるのかも」と言う。
 
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「高校は特例で卒業証書もらったみたいですけど、少し受験勉強して大学を目指すといいですよ」
と青葉は言った。
 
「ええ。実は私もこの春頃からそれ考えていたんです」
「どこか興味のある学部はありますか?」
「やはり看護婦さんかなあ。私、この5年間に看護婦さんにとってもお世話になったし。自分が元気になったら、恩返しで、お世話する方もしてみたい」
「いいと思いますよ。じゃ医学部の保健学科かな」
と青葉は笑顔で言った。
 

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お昼になり、昼食が運び込まれてきた時点で、青葉たちは病室を辞した。患者の友人さんも一緒に病室を出た。
 
「だけど陽奈さんも、入院以来ずっと麻美さんに付いてあげてるんですね」
と冬子が言う。
 
「そうですね。元々は私そんなに麻美と親しかった訳じゃないんですよ。どちらかというと学校ではあまり馬が合わなくて、感情的な対立とかもあったんです」
「へー」
 
「それが何となく同級生のよしみで見舞いしてて、ベッドのそばで儀礼的に話をしていたら、意外に話が合うかもって感じになっちゃって」
「へー」
 
「今では週末はいつもこの病院に来ているのが、私の生活習慣になっちゃいました」
「麻美さんの病状軽減には、私たちの歌も作用していると思うけど、何よりも陽奈さんの存在というのが大きいと思いますよ」
と冬子から言われて、陽奈は少し照れるような顔をした。
 
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その日の昼食は冬子のおごりで、陽奈さんも含めて5人で那覇市内のレストランで食べた。
「わあ、私まで頂いちゃっていいのかしら」
などと言いながらも陽奈さんは美味しそうに料理を食べている。患者本人も楽天的だが、この友人も楽天的な雰囲気。病気に負けないパワーというのは、この二人の二人三脚で出ているものかも、と青葉は思った。
 

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昼食の後、お昼頃に沖縄に到着していたスリファーズの春奈の許を訪れる。ホテルの部屋の中でヒーリングする。
 
「こんにちは、菊枝のヒーリングどうでした?」
「私、あの人に恋してしまいそう」
「あはは、あの人結構レズっ気があるから」
「あ?そうなんですか?」
「誘惑されませんでした?」
「誘惑というか何というか・・・・」
と言って春奈は赤くなる。青葉はその反応が読めなかった。クリちゃんを心地よく揉まれて逝っちゃったなんて言えないよーと春奈は思っていた。
 
「あの人、青葉さんの先生?」
「姉弟子です。実質先生に近い存在ですけどね」
「へー」
 
「でもコンサートもとうとうこの週末で完了ですね」
「ええ。最初はほんとに大丈夫だろうかと思ったけど、ケイ先生が色々配慮してくれたし、今回のツアーではMCは彩夏がしてくれてるし、毎回青葉先生や菊枝さんにヒーリングしてもらってるし、何とか最後まで行けそうかな、という気分になってきました」
 
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「良かった。あまり無理せずに頑張ってください」
「頑張ったら、無理します!!」
 

その日のスリファーズの公演は青葉も見学させてもらった。春奈が休み休みながらも、しっかり歌を歌っているので、青葉は微笑んで聴いていた。スリファーズの3人は、絶対音感(つまり平均律音感)を持っている春奈を中心に、彩夏・千秋の2人が春奈が出している音と(本人たちは意識してないようだが)純正律的に響くピッチの音を出しているため、ハーモニーがとても美しく聞こえる。
 
最初から楽器も純正律の音を出していて全てが純正律の世界になっているKARIONに近い心地よいサウンドだ。この年代でこれだけのハーモニーを出せるのは素晴らしいと青葉は思った。
 
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念のためコンサートが終わった後も30分くらいの軽いヒーリングをして、その日は昨日と同じホテルに泊まった。その日は青葉もこの高級ホテルの心地よい寝具でぐっすり寝て、青葉自身ここしばらくの疲れが取れる感じであった。
 
 
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