広告:性転換―53歳で女性になった大学教授-文春文庫-ディアドラ・N-マクロスキー
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■春声(9)

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(c)Eriko Kawaguchi 2012-05-21
 
時間を戻して日本時間の16時(タイ時刻14時。千里の手術が始まる2時間前)、青葉は笑顔で、母と彪志に手を振り、手術室に運び込まれた。硬膜外カテーテルは既に設置されている。
 
「じゃ、麻酔しちゃいまーす」と明るい声の松井先生。
「はい。よろしくお願いしまーす」と同じく明るい声の青葉。
「何か音楽流す?」
「あ、持ち込みですが、そこのローズ+リリー、ローズクォーツをひたすら掛けてください。特に聖少女は必ずローテーションに入るようにして欲しいんですが」
「へー。ファンなの?」
 
「ケイとお友だちです」
「わあ、そうだったんだ! MTFつながり?」
「はい、そうです。それに聖少女は私も、共同作曲者のひとりとしてクレジットされてるし」
「えー!?」
と言って松井医師は看護婦が手にした聖少女のCDの裏面をのぞき込んでいる。
 
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「あ、この作曲者が『マリ&ケイ+リーフ』って書かれている、このリーフが君?」
 
「私のペンネームです。この曲には私自身のヒーリングの波動が入っていて、体調維持・回復にいいんです」
「いいこと聞いた」
「今日の手術代金も聖少女の印税から出てます」
「おお、すごい!」
 
「さて、麻酔は効いてきたかな。ここ感触ある?」
「無いです」
「ここは?」
「無いです」
「じゃ、手術、はーじめーるよっ!」
「お願いします」
 
「さあ、楽しい楽しい手術」と言う松井医師はほんとうに楽しそうである。人間の身体を切り刻むのがほんとに好きなのだろう、と思い青葉は微笑む。手術する付近は鏡を介して青葉に見えるようになっている。
 
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「メス入れるよ」
「よろしくー。自分が性転換される手術の様子って絶対1度しか見られないものだから、私もとっても楽しみ」
「うんうん。性転換は2度3度はできないからね」
 
あらかじめ切開する場所にペイントされた予定線に沿って松井医師がメスを入れていき、青葉の股間と性器を、まずは「解体」していく。
 
「ほんとに平気そうね?」と松井先生。
「ええ。麻酔も掛かってるし、第三者が手術されてるの見てるのと同じです」と青葉。
「なるほどね」
「でも松井先生、切り方が凄くうまい。それに正確。刃を入れる深さが安定してるし」
「ふふふ。褒めて褒めて」と先生。
「松井先生、天才ですね」と青葉。
「うん。よく言われる」と松井医師は本気で答えている。
 
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脇で手術の様子を撮影している鞠村医師も微笑む。そして鞠村医師は、これ、音声を記録しないモードにしといて良かったと思っていた。こんな会話、他の医師には聞かせられない。そばで見守っている麻酔科医は少々呆れていた。
 
手術は順調に進行していくが、松井医師と青葉は、半ばおしゃべりでもするかのように、いろいろな会話をしていく。ふたりの会話は主として日本語であるが、時折英語やドイツ語の会話になることもあった。日本語でも英語でもドイツ語でも青葉が医学用語を巧みに使うのを聞いて、鞠村も麻酔科医も驚いていた。
 
「君、何ヶ国語できるの?」と松井先生。
「さあ。数えたことはないです。必要に応じて勉強していたから。魔術関係の本って、実に様々な言葉で書かれているんですよ。特にその国や地域のローカルな秘術とか、そこの古い言葉で書かれていたりするから。たぶん現代では誰も使用者がいないような言語まで勉強しました」
「なるほど」
 
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やがて、青葉の陰茎がきれいに解体されてしまう。皮膚、尿道・尿道海綿体、陰茎海綿体、亀頭に分離されている。
 
「ふつうの人なら自分のおちんちんがこう解体されていくの見て気分が悪くなると思うんだけどね」と松井先生。
「私、普通じゃないですから。でも先生も普通じゃないですよね」と青葉。「うん。私、天才外科医だから」と松井先生。
「ほんと天才ってのは先生のオペの様子見て納得しました」と青葉。
 
「ありがと。さて、あ・お・ば・ちゃーん、今からおちんちん切りますよ〜」と先生。「はーい。お願いします」と青葉。
 
「チョキン」と言って、松井医師は青葉の陰茎海綿体を身体から切り離した。
 
「わーい。これでもう君、女の子になっちゃったよ」と先生。
「やったー!」と青葉。
「じゃ、これ捨てちゃいまーす。ぽい」
「バイバーイ、私のおちんちん」
 
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ふたりのやりとりを聞いて、鞠村医師と麻酔科医が思わず顔を見合わせて不覚にも笑ってしまった。手術の助手をしている看護婦さんたちからも微笑みが漏れる。
 
このあたりで手術は折り返しになる。男性器の解体が終了したので、この後はひたすら女性器を作っていく作業である。
 
「ここにトンネル掘っちゃうよ〜」
「でもそのトンネルって行き止まりなんですよねー」
「うーん。君、子宮が無いから、それだけは残念だねー」
「50年後くらいには子宮まで作れるようになってるかなあ」
「さあ。でも子宮まで作るとしたら、何を材料にするかが問題だよね」
「iPS細胞かな」
「あ、なるほど。じゃ卵巣もできるんじゃない?」
「卵巣は難しいですよ。癌化しやすいから、100年掛かると思う。卵子だけなら多分20年後には作れるでしょうけど」
「あぁ。そうかも知れないね。はい、トンネル掘削完了」
「次は内装作業ですね」
 
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「そうそう。これはこうやって形を作るんだよ」
などと説明しながら、松井医師は膣の形を作っていく。
 
「じゃ、埋め込んじゃうよ−」
「ほんとのトンネル工事と似てますね」
「うんうん」
 
「で、取り敢えず詰め物っと」
「早く、そのヴァギナ使ってみたいなあ」
「青葉ちゃん、回復力凄そうだから、たぶん3ヶ月後には使用可能だよ」
「彼氏の誕生日が11月なんですよねー。誕生日祝いにさせてあげようかな」
「ああ、それいいんじゃない?」
とても中学生との会話ではない。
 
「次はクリちゃん作っちゃおうかな」
と言って松井医師は亀頭を小さく切り取り、陰裂の前端付近になる予定の場所に設置して、顕微鏡を見ながら神経と血管をつないでいく。
 
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「あ、先生」
「ん?」
「そのクリちゃん、少し動かせます? 後ろに0.1mmくらい」
「このくらい?」
と顕微鏡で確認しながら医師は指を動かす。
 
「はい。それでOKです。その方が神経がたくさんつながります」
「へー。君、組織のつながり方を透視できるんだ?」
 
「はい。それができなきゃ、気功での治療はできません。透視というより、エコーに近いです。見えるんじゃなくて組織からの反射で干渉縞に近いものを感じ取って位置関係を把握します」
 
「なるほど。凄いな」
と松井先生は感心している。
「じゃ、サービスでもう少したくさん血管つないであげる。普通は2本しかつながないんだけどね」
「ありがとうございます」と青葉が微笑む。
 
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その後手術は尿道口の設置、小陰唇と大陰唇の形成と進んでいった。
 
「わあ、まるで魔法みたいです。自分のがこういう形になっていくなんて、まるで夢みたい」
「うん。私は女の子になりたい子に夢を与える魔女。でもこれもう夢じゃなくて、現実だからね。逆に男の子の形には戻れないからね」
「はい。この形を自分の心の中にきちんと受け入れることが性転換の最後のステップですよね」
「うんうん。心の問題がいちばん大きいよね」
 
手術はおしゃべりに夢中になった松井医師がたびたび手を停めたりしたこともあり、3時間ちょっと掛かって、19時すぎに終了した。
 
「はーい。これで完成」
「ありがとうございました!」
 
「これ、麻酔が切れたら猛烈な痛みが来るけど、少し寝ておく?」
「あ、睡眠薬の処方は不要です。自分で少し寝ます」
「了解。しかし、こんな楽しい手術は私も初めてだったわ」と松井医師。「たくさん勉強になりました」と青葉。
 
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「勉強はいいけど、青葉ちゃん、闇の手術で性転換まで手がけないように」
と松井先生。
「手術したいって子がいたら、先生を紹介しますよ」と青葉。
 

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手術室から運び出され病室に戻った青葉は、部屋で待っていた彪志と母に笑顔で手を振る。
 
「あんた大丈夫なの?」と母。
「うん。結局ずっと起きてた。でも疲れたから少し寝るね。彪志キスして」
「うん」と言って彪志が青葉の唇にキスする。
 
「お母ちゃん、ちー姉の方は?」
「予定が遅れたみたいで1時間くらい前に手術が始まった」
「そうか。今やってる最中か」
「でも、あんたは千里のことは考えないで、自分のことに集中しなさい」
「うん。私自身が回復しないと、向こうまで手が回らないから。ちー姉には申し訳ないけど、最初は自分優先」
「そうだよ」
 
「じゃ、寝るね。おやすみなさーい」と言って青葉は眠りに就いた。
 
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青葉は40-50分眠るつもりだったのだが、実際には1時間半以上寝て、起きた時に壁の時計を見ると、もう21時すぎだった。
 
ちょうど電話が掛かってくる。母が取る。
「うん。うん。分かった。そちらも大事にね」と言って切る。
 
「ちー姉、どう?」
「今、手術が終わったって。無事成功」
「了解」
 
青葉は「さて」と思う。とにかく猛烈に痛い。自分の表情にロックを掛けたので、母や彪志はこの表情から自分が猛烈な痛みに苦しんでいることに気づかないだろうが、とにかく痛いものは痛い。
 
自分をヒーリングしなくちゃと思うのだが、あまりにも痛すぎてパワーがまるで出ない感じである。
 
青葉はナースコールをする。
「済みません。かなり痛いので、鎮静剤か何か処方していただけませんか?」
 
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麻酔医がやってきてくれて、青葉の状態を確認する。
「これ、物凄く痛いよね?」
「はい、痛いです」
「君を見ていると全然平気そうだから」
「平気なのと痛いのとは別ですから」
「凄い精神力だなあ。少し強いの入れるよ」
「ありがとうございます」
 
しかし麻酔医が処方してくれた薬のおかげで、とりあえず青葉は身体全体のバランスを回復することができた。「よし、これが第一歩」
 
ヒーリングを始めようとするがやはりパワーが出ない。
『困ったな』
と思う。青葉がどうも実際にはかなり痛がっているようだということに気づいて彪志が手を握ってくれた。
「ありがとう」
あ、さすが彪志だ。助かる。ちょっとだけパワーが出るよ、これ。青葉は手を握られているとそこからエネルギーが流れ込んできて、自分の体力が回復していくのを感じる。やっぱり彪志に来てもらってよかったなあ。
 
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パワー回復と共に感覚が研ぎ澄まされてていく。今まで聞こえてなかった母と彪志の心の声が聞こえるようになった。母が心配している様、そして彪志の愛を感じた。わあ。ふたりともありがとう。。。。
 
そう思った時、脳内に「着信」があった。
『手術終わった?』
菊枝からのダイレクト・メッセージだ。
『終わった。今回復中』
と返信する。
 
『私の筆ペン使って』と菊枝。
 
あ! 青葉はそれを思い出した。3月に岩手で一周忌をした時、来てくれた菊枝から、筆ペンをもらったんだった。
 
「彪志。私のいつものバッグの中に、筆ペンが入っているはずなの。取ってくれない?」
 
「筆ペン?だめだよ。青葉。今お仕事とかしたら。何か記録することがあったら俺が書いてやるから」
「違うの。依代(よりしろ)なの」
「あっ、そういうこと? 分かった」
 
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彪志が筆ペンを取ってくれる。
「彪志、悪いけど1時間くらい、私に触らないでいてくれる? ちょっと大きなパワーを通すから。彪志はまだこのパワーに耐えられないから、私に触ると、回路が壊れる」
「うん。そばで見守ってるよ」
 
青葉は菊枝の筆ペンを左手に持ち、精神を集中した。
 
よし、ハニーポット起動!
 
その筆ペンは菊枝が愛用していた品なので、菊枝の依代(よりしろ)になることができる。これを通して、菊枝のパワーを分けてもらえるのだ。
 
凄っ! どんどんエネルギーが流れ込んでくる。凄まじいパワーだ。これだけのパワーがあれば自分をヒーリングできる。
 
青葉はまずは自分の新しいヴァギナから修復作業を始めた。
 
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