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■春声(5)
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(c)Eriko Kawaguchi 2012-05-20
6月の2-3日は青葉の岩手行きの日だった。ゴールデンウィークの後、青葉は5月下旬にも岩手に行ったのだが、彪志とはその直後の誕生日に会う約束をしていたので、彪志と接触のないままであった。しかし今回の岩手行きでは彪志が青葉のスケジュールに合わせて、宮城−岩手間を付き合ってくれた。
金曜日の晩の高速バスで青葉が仙台に出る。朝一番の新幹線で仙台入りした彪志がレンタカーを借りて青葉を大船渡まで運んだ。
彪志は5月に運転免許を取得したのである。
「まだ免許取り立てで下手だから、乗り心地悪くてごめんな」と彪志。
「ううん。乗り心地は問題無いよ。それより安全運転でね」
「うん」
「田舎って、アバウトなドライバーが多いから都会とは運転する時のモード変えないと怖いから」
「あ、その辺、分からないや。免許取ってからまだ市内でしか運転してない」
「脇道からの一時停止しない車が多い。交差点で直進車を差し置いて自分が先に右折しようとする車がいる。曲がるのにウィンカーつけない車が多い。右ウィンカー点けて左に曲がったりする。横断者がいるからと思って横断歩道で停止したら、その横から追い抜いて行く車がいる。赤信号になってから5秒くらいはまだじゃんじゃん車が通過する。制限速度40km/hの道は70km/hで、60km/hの道は90km/hで走る。制限速度で走ってたら、無茶苦茶煽られる」
「それ・・・日本なの?」と彪志。
「警察もさ、都会でどうでもいい軽微な違反を強引に捕まえたりせずに、少しは田舎の無法ドライバーたちを捕まえて欲しいよ」と青葉。
「ひぇー。でもさ、青葉、よくそんなの知ってるね」
「あ・・・・えっと、まあ、とにかく気をつけてね」
彪志は笑いながらレンタカーで借りたヴィッツを運転していた。
その日の仕事は3件であった。仕事中の移動は慶子の車を使うので、彪志は青葉が仕事をしている間、港に車を停めて寝ていた。
1人目は健康相談であったが、青葉が診てみたところ、霊障などとは関係無い単純な更年期障害であった。
「でも病院から頂く薬が全然効かなくて」
「お薬見せて頂けますか?」
青葉がチェックしてみると、ああ確かにこの人の体質にはこれは合わないと思った。
「私、医師の資格も薬剤師の資格も持ってないので、こういうこと言ってはいけないのですが、漢方薬の***と###が体質に合うと思います。仙台に知り合いの漢方薬店があるので、そちらで良かったら再度相談してもらえませんか?」
「はい。あの、今言われた薬の名前をメモか何かで頂けますか?」
「はい」
青葉は薬の名前を書き、漢方薬店の名前・住所・電話番号も書いて渡した。
2人目も健康相談であったが、確かに霊障と思われた。しかし呪いの類ではないようである。御自宅を見せてもらった。
「ここは持ち家ですか?」
「いえ。借家です」
「それなら、できるだけ早い引越をお勧めします」
「この家の問題ですか!」
「ここに引っ越してこられたのはいつですか?」
「あんた、何年前だっけ?」と旦那さんに訊いている。
「4年前だよ」
「体調が悪くなったのは?」
「3年くらい前から・・・・ああ、そういうことか」
「この家自体が新建材を使っていてシックハウスの問題もあります。それからこの付近一帯の土地が、周囲より少し低い場所にあって、悪い気が溜まりやすいんです。また、ここはT字路の突き当たりなので、風水的にも良くないです」
「霊障ですか?」
「霊障を起こしていた直接の原因となっていた霊は先程除霊しました」
「わあ」
「でも、ここに住んでいたら、またすぐ新たなのに取り憑かれます。それと取り敢えずシックハウス対策だけでもしましょう。換気扇を掛けたり窓を開けたりして、とにかく室内に空気をためないようにしてください。あと、影響を与える化学物質は空気より軽いので、2階の方が辛いです。できるだけ1階にいましょう」
「私、いつも2階で昼寝してた。窓は開けてたけど」
「日中は1階の居間でエアコン掛けて寝てればいい。お金より健康だよ」と旦那さん。
「1階の方が霊的な影響は受けやすいんです。それで2階で寝たくなったんでしょうね。でも2階にいるとシックハウスにやられます」
「難しい選択だ」
「ここの1階は仏間より居間の方が霊的影響は少ないです。ただ、この面の窓は開けないでください。カーテンも閉めて。金魚鉢を置くと少しだけ緩和されます」
「金魚! すぐ買ってきます」
「でも結局は、お引越しがいちばんの対策です」
「せっかくここは津波の害が無かったのになあ」
「そうですね。こういう高台で、もう少し明るい感じの所をお探しになったほうがいいですよ。ご主人はお仕事に出ておられるので影響が少ないのですが、奥様はずっと家におられるので、どうしても影響を受けますね」
「よし。引越を考えるか」
「引越し先の候補ができたら観てもらえますか?」
「はい」
最後の3人目の相談は新しく立てる家の図面をチェックして欲しいということであった。実際の建てる場所にも行き、見せてもらう。
「何かこの図面に違和感を感じて。でも専門家の書いた図面をどう直してと言ったらいいのか分からなくて」と依頼主。
青葉はその場所に図面の建物が出来た場合の気の流れをイマジネーションしてみた。ああ。。。。。
「ここは気が東から西へ流れているんです。道路の東側だからということで、玄関が西側にありますが、これが最大の問題ですね」
「じゃ、玄関を東側にすればいいですか?」
「東側の玄関は不便ですよね。ご主人の生年月日を教えてください」
教えてもらった日付から暗算で風水の本命卦を出す。これで本人の吉方位・凶方位が分かる。
「南でもいいです。この土地と図面なら、南側に庭ができますよね」
「はい」
「その庭に面して玄関を作ればいいです。明るい側に玄関が欲しいと言えば良いでしょう。あと、東側のここに窓を作ってと要望してみましょう。朝日が入ってくる窓っていいですからね。ここに窓があれば、そこから良い気が流れこんで来ますよ」
「よし、その線で変更してもらおう」
その日の仕事は16時で切り上げ、祭壇でリセットしてから彪志に電話をすると慶子の家まで迎えに来てくれた。
「青葉ちゃん、専用ドライバーが出来てよかったね」
「ええ。おかげで行動範囲が広がります」
彪志の車でそのまま一ノ関まで行き(乗り捨て)、彪志の実家を訪問する。
「どうも、ご無沙汰しておりました」
ここに来るのは3月以来、3ヶ月ぶりである。
その日は彪志のお母さんと一緒に晩御飯を作ろうと約束していた。メニューは焼き餃子である。先に皮を作る。小麦粉を練ってまるめて30分ほど寝かせておく。
その間に中身を作る。豚のバラ肉を青葉が包丁で細かく切っていく。それとお母さんが切ってくれたキャベツ・ニラと混ぜ、ニンニクと一緒に炒める。
小麦粉の塊を棒で伸ばし薄くして適当なサイズに切っていく。それで具を包んでいく。この包む作業はお母さんとふたりでやっていたが、彪志が興味深そうに見ていたので、彪志にも手伝ってもらった。
出来上がった餃子をフライパンで焼く。ごま油を敷き、まずは焦げ目を付けるように焼いて、片栗粉を溶いた水をそそぎ、蓋をして蒸し焼きにする。パリパリの餃子の出来あがりである。フライパンで3回に分けて焼いたが、焼けた分を食卓にどんどん運び、先にお父さんと彪志に食べてもらった。「美味しい、美味しい」と評判であった。
「青葉ちゃん、料理のセンス良いね」とお母さんから褒められる。
「高岡に来てから、母にたくさん教えてもらったので」と青葉もにこにこ顔で言っている。
「青葉はいつでもお嫁に来れるよね」と彪志は餃子をどんどん食べながら言う。
「私も、もう青葉ちゃんのこと、うちのお嫁さんと思っちゃおうかな」
などとお母さんは言っている。
「俺はもう青葉のことは自分の奥さんと思ってるから」などと彪志。
「おやおや」とお母さん。
お父さんもにこやかな顔をしている。
青葉は微笑みながら、自分でも餃子を食べていた。
夜21時頃まで、交替でお風呂に入りながら居間で雑談をしていた。お茶を入れて青葉が買ってきた富山県のお菓子を摘まみながら話す。
「でも実際問題として彪志が千葉にいると、一ノ関まで来る機会が減るかも知れないけど、時々彪志と一緒にこちらにも来てね」とお母さん。
「ええ。結局は今回みたいに、途中から彪志さんと一緒に来て、帰る時も一緒に途中まで帰るのが手かな、と」と青葉。
「どちらかというと、普段はその方法以外に青葉とデートする方法がない気もするんだけどね」と彪志。
「今回みたいに高速バスで往復する時は彪志さんに仙台に迎えに来てもらって、帰りも仙台まで送ってもらって。新幹線を使う場合は大宮から一ノ関まで一緒に乗って、帰りも大宮まで一緒に乗ってかなと。少しお金は掛かりますけどね。今日は変則的で来る時がレンタカー、帰りは仙台まで新幹線になりましたが」
「今回のレンタカー代・ガソリン代は経費で落ちるらしいしね」と彪志。
「70%だけね。仙台−大船渡が170km, 大船渡−一ノ関が70kmだから距離比。全額落としたら公私混同」
「たいていの自営業者はそのあたり公私混同やってない?」
「うん。でも祈祷師って、税務署から睨まれやすいのよ。特に私売上多いし。だから、そのあたりは厳密にやってるよ」
「偉いね」
「これ以外のデート方法としては、私が仕事のない週末に、東京か富山かにどちらかが行ってデートする手なんですよね。4月に1度私が千葉に出て行ってディズニーランドでデートしましたが」
「双方の中間点の越後湯沢か長岡でデートって手もあるけどね」
「越後湯沢よりは長岡かなって気もするなあ」
「私、18歳になったらすぐ免許取るつもりだから、双方車の運転ができると、信州で落ち合ってデートするのもいいよね。松本か安曇野あたりで。ただし3年後だけど」
「ああ、あのあたりも素敵よね」
21時半くらいに彪志と一緒に2階の部屋に入った。布団は一応2つ敷いてある。
「じゃ、寝よ」
「うん」
青葉は微笑んで服を脱ぐと、ひとつの布団の中に潜り込む。彪志も服を脱いで同じ布団に入った。熱い時間が過ぎていく。
「こういう形でのセックスも今日が最後かな・・・・」と青葉。
「いよいよ来月は手術だもんね」と彪志。
「手術の傷が治って体力回復するまでは、お口でしてあげるね」
「それ・・・とても楽しみかも」
「ふふ」
「でも、俺達って、遠距離恋愛だからいいのかも知れないね」
「どうして?」
「だって近くに住んでたら、俺、たぶん歯止めがきかない」
「そうかもね」
「でも、まだ青葉は中学生だもん。あんまりやりすぎたら結婚できる年齢になるまでテンションが維持できない気がして」
「そうね・・・でもセックスレスになっちゃっても構わないよ。愛してくれてたらセックスするしないは関係無い気もするしね」
「いや、したい」
「そうか」
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