広告:オトコの娘コミックアンソロジー-~小悪魔編~ (ミリオンコミックス88)
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■春声(4)

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「子供産みたいか?」
「産みたいです」
「根性で産め。お前ならできる」
「はい」
と言って青葉は微笑んだ。
 
回峰行は28日の午後から始めて6日の午前中まで9日間に及んだ。師匠は最後にこう言った。
 
「青葉。ジェット機を自分の身体で受け止めようとするな。大きな物は大きな物に処理させろ」
「ほんとですね! 肝に銘じます」
 
もう山を降りようとしていた時、瞬醒さんが庵にやって来た。
 
「どうも御無沙汰しておりました」と青葉。
「青葉ちゃん、美人になったね」と瞬醒。
「また、お世辞を」
「師匠にこれ頼まれたのでね」
と言って、青葉に小さな水晶の玉を3つ渡す。たくさん針が入っている。
 
「青葉ちゃんが使っている数珠に取り付けるといいよ。元々糸が通せるようになっているから」
「ありがとうございます。これは?」
 
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「訳あって、うちの寺に納められた数珠の一部なんだけど、これを受け取った瞬間、青葉ちゃんの顔が浮かんでね。師匠に相談したら3粒だけ青葉ちゃんに渡せと言われたんだけど、玉置に持っていかなければいけない気がして。それで昨日持って行った。持って行く前は透明な水晶だったのに、玉置に持って行ったとたん、針が入った」
 
「あそこは凄いパワースポットですからね」
と青葉は頷いて言う。
 
「そういう訳で、君が持っていなさい」
「分かりました」
と青葉は言い、その場で自分の数珠にその3個の玉を取り付けた。
 
「青葉、その内の2個は君自身のお守り。もうひとつはお姉さんの形見」
と瞬嶽が言った。
「お姉ちゃんの・・・・・」
思わず青葉の目から涙がこぼれた。
 
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瞬醒と一緒に師匠の庵を辞して山を下りた。
 
「青葉ちゃん、10日ほど何も食べてないでしょ?」
「山の空気をいっぱい食べました」
「その状態でいきなりふつうの御飯食べたら吐くから」
「あ、そうかも」
「今夜はうちのお寺のお粥でも食べていきなさい」
「いただきます!」
 
瞬醒さんのお寺にお邪魔して、お粥というより重湯のようなものを頂いた。
 
「あ・・・・胃腸が動いている」
「胃腸さんも、久しぶりの仕事で張り切っているようだね」
と言って瞬醒さんは笑っている。
 
「あ、これもあげるよ」と言って、白い袋を渡してくれる。
中を見たら、ここのお寺で一般向けに出しているお守りのようである。
 
「使い方は分かるかな?」
「はい。これは分かります」
と青葉はにこやかに言った。
 
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5月6日夕方の電車で高岡に帰還した。翌7日、青葉は1日学校を休ませてもらって、この件に関する「整理整頓」をした。学校が終わったくらいのタイミングで美由紀の携帯にメールして呼び出した。
 
「青葉、いつ帰ったの?」
「昨夜帰ったけど、私これ片付けないと学校に出て行けないから、今日はもっぱら状況のとりまとめをしていた」
「わあ、ごめん」
 
「N君のお母さんに頼んで、明日N君のお兄さんふたりにも来てもらうことにした。全員まとめて処理しないとやばいんだ。もう関わってしまっている美由紀もね」
「わ、わかった。じゃ、私明日学校休む」
「悪いけど、そうして」
 
青葉は美由紀と一緒にN君の家に行き、N君と高校生のお兄さん、そしてお母さんに、青葉がここまで調べたことをまとめて報告した。大学生のお兄さんは明日大阪から戻ってくる予定だ。
 
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「でも、そういう事情で呪われたとしたら、逆恨みもいいところじゃない?」
と美由紀。
「人の恨みって、たいていそういうもんなんだよ」と青葉は言う。
 
「それから大事なことですが、この手の呪いは7代先までと言って、掛けられてから7代先までが有効で、そこで終了します。N君たちがそのちょうど7代目です。ですから、N君たちの子供には、どっちみち、もう呪いは及びません」
「ほんと? それなら何か希望が出てくるよ」
 
「N君たちに掛かっているものの処理については明日説明します」
 

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青葉は朋子にも車を出してもらい、翌日、N君の一家4人、美由紀とともに7人で一緒に、とある神社まで行った。そこの拝殿でふつうにお参りした後、あまり一般には知られていない、細い道を歩き、そこの奥の宮まで行った。何やら大きな鏡のような岩がある。
 
「そこに立って頂けますか?」
「はい」
「向こう側の山に、光る岩が見えますよね」
「あ、確かに」
「こことあそことは元々対で作られているんです。こちらの鏡岩と向こうの鏡岩とで合わせ鏡なんですよ」
「えー!?」
 
「合わせ鏡は魔界への出入口にもなります。みなさんに掛かった呪いを魔界の向こうに飛ばします。みなさん、長年この呪いに苦しんできましたよね」
「はい」
「もう、こんな呪いどこかに行ってしまえ」と念じてください。
 
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N君一家4人が目を瞑って何かを念じている。その時、青葉が自分の数珠を握り何かを素早く唱えたのを美由紀は聞いた。
 
「あれ?何か心が軽くなった気がする」とお母さん。
「俺もそんな気がする」とN君のお兄さん。
「何か少しふわふわした気分。風船の糸が取れたみたいに」とN君。
大学生のお兄さんも何か不思議な感じの顔をしている。
 
「さあ、帰りましょう。もう大丈夫ですよ」
 
みんなでN君の家まで戻る。青葉は「失礼します」と言い、神棚にお参りすると、その左端に持参した高野山のお守りを置いた。
 
「それではみんなで最後の仕上げに豆まきをします」と青葉が言う。
「豆まき? 節分のみたいな」と美由紀。
「そうそう」
「よし。やろう」とN君が乗ってくる。
 
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みんなで思いっきり声を出して「鬼は外」「福は内」と言いながら、青葉が持参した大豆を家中に撒いた。
 
「この大豆はどうしますか?」
「これは食べずに外に掃き出していただけますか? 外に掃き出した後はふつうにゴミに出していいです」
「了解です」
 
ということで、みんなで掃除をして大豆を掃き出す。そしてそれをゴミ袋に入れた。次のゴミの日に出す。
 
最後に青葉は神棚の端に置かせてもらった高野山のお守りを回収した。
 
「みなさん、これでこの呪いはこの一家からは取れました。でも気をしっかり持って生きてください。弱い気持ちになると、変な物に付け込まれます。通常の心理なら、生きている人間の方が死んでいる霊より強いんです。悪い霊は、弱い心や邪な心が大好きです」
と青葉は言った。
 
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N君の家を辞した青葉・美由紀・朋子は近くの甘味処に入り、3人でお汁粉を食べた。
 
「そのお守りで最後は処理したの?」と美由紀。
「そうそう。これはジェット洗浄機のようなもの。神棚はコンセントみたいなものだから、そこを電源として借りた。呪い自体はあの神社に処理をお願いしたんだけど、家の中を掃除しないといけなかったから」
「へー。でも、それお寺のお守りでしょ?神棚で使えるの?」
「私は使っちゃうけどなあ」
「アバウトだね」
 
「うん。うちのひいおばあちゃんは、天照大神は大日如来の娘で、えびす様は虚空蔵菩薩の兄ちゃんで、とか話してたし。まあ、そうやって育った私だから」
「何か世界観が・・・よく分からん」
 
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「そのお守りはまた掃除機として使えるの?」と母。
「ううん。あれでパワーを使い切ったから、実質もう空っぽ。後で総持寺さんに納めてくる」
 
総持寺は高岡市内の真言宗のお寺である。(輪島市にある同名の曹洞宗大本山とは無関係)
 
「でもこれで呪いは無くなったし、N君と堂々と付き合えるんじゃない?美由紀」
 
「すぐってのも何だし。少し時間を置いてからまたアタックしてみるよ」
「そうだね。向こうもその方がちゃんと考えやすいかもね」
 
「だけど今回の処理にゴールデンウィークにお師匠さんの所に行くのが必要だったのね」と母。
「そうそう。私自身が身を清めないとできなかったのと、お師匠さんのパワーを少し貸してもらったのと」
「あんた、こちらに戻って来てからも何も食べてなかったし」
「そうなのよ。食べる訳には行かなかったんだ。このお汁粉が実質11日ぶりの食事」
「ひぇー!? その間、断食だったの?」と美由紀が驚いて言う。
 
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「霞(かすみ)を食べて修行してたよ。霞も慣れると美味しい。あと1回だけ重湯を食べた」
「なんとか天の修法とか授けられたの?」と美由紀。
「そんな漫画みたいなものは無いよ」と言って青葉は笑う。
「でも何の真言かよく分からない真言をたくさん覚えさせられたよ」
「それはきっと何とかの秘法なんだよ」と美由紀。
 
青葉も、恋の応援で関わってしまったけど、ほんとに大変だったなと思っていた。でも、きっとこれでふたりは良い恋人になれるかな・・・・・
 
と思ったのだが、世の中はそう甘くも行かず、美由紀の恋は結局叶わなかった。呪いからフリーになったN君は翌月、新しい彼女を作り、その子とラブラブになってしまったのである!
 
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「悔しーい!あんなに苦労したのに。七代先まで恨んでやろうかな」と美由紀。
「そんな恨みとか不毛だよ。他の彼氏を見つけた方がいいよ」
と青葉と日香理は言った。
 

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青葉が奈良に行って山中で修行をしていたゴールデンウィーク。千里は桃香に強く言われて実家に帰省し、両親にこの夏、性転換手術を受け、手術後は戸籍上の性別も女性に変更することを話した。
 
千里が女性の姿で実家を訪れた時点で父は仰天した。そもそも最初は自分の息子として識別できなかった。そしてそれが息子の「変わり果てた姿」ということが分かると、「心中してやる」と叫んで、床の間に飾ってあった日本刀を取り出し千里を斬ろうとした。千里もさすがに慌てて逃げる。
 
母が「父ちゃん落ち着いて」と言って必死で止め、妹が「姉貴、取り敢えず逃げて」と言って、荷物を持って一緒に家から飛び出して、偶然通りかかったタクシーを停め、千里をタクシーの中に荷物ごと押し込んでくれたおかげで、殺人事件になることだけは回避できた。靴は置いて来てしまったが。
 
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父が落ち着いた頃合いを見計らって、千里は母の携帯に電話して少し話し合った。
 
「お父ちゃん、お前を勘当するって言ってるけど」
「うん。理解してもらえるとは思ってなかったから、それは構わない。それからああなっちゃったから言いそびれたけど、手術前に戸籍を分離するから」
「どうして?」
 
「性別を変更する時はどっちみち戸籍は強制的に独立になるのよ。でないと続柄が訳分からないでしょ。私が女になっちゃったら、妹は長女なのか次女なのか、って問題にもなるし」
「あっそうか」
「でも、性別変更での分離という形になる以前に分けといた方がスッキリする」
「確かにね。でも、手術代って高いんじゃないの?大丈夫?」
 
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「うん。それは大丈夫。バイト代貯めてるから。私、バイト先と学校行く以外、遊んだりもしないし」
「偉いね。手術はいつ受けるの?」
「7月の中旬。今月中には正確な日付が確定すると思うんだけど」
「決まったら、私の携帯にメールででもいいから連絡して。私、神社に手術の無事をお祈りに行くよ」
「ありがとう」
 
「父ちゃん、あんな感じはたぶん変わらないと思うけど、私はあんたの事は自分の子供だと思ってるからね。男とか女とか関係無く」
「お母ちゃん、ありがとう」
千里は涙が出た。
 

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5月22日は青葉の15歳の誕生日であった。平日ではあるが、彪志と桃香・千里は大学の授業を午前中で切り上げ、午後の新幹線を使って高岡まで一緒に来てくれた。
 
美由紀たちも昨年はサプライズ・パーティーにしたのだが、今年はちゃんと事前に告知して青葉の家に集まってきた。今日のパーティーの出席者は青葉・朋子・桃香・千里・彪志、美由紀・日香理・明日香・奈々美・世梨奈・美津穂という11人である。
 
青葉が15本のろうそくに点いた火を吹き消した後、桃香が
「ケーキを11等分できる人?」と言うと、「私できるよ」と千里が言った。
「青葉、コンパスと定規貸して」「うん」
 
ファックスから1枚PPC用紙を取り出すと、そこにまずコンパスで円を描く。
 
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千里はそのコンパスの開きのまま円周上で円弧を切り取って行き、円を6等分にする。その6等分した円弧のうちのひとつの両端からまたコンパスで円弧を引いて半分に分割し、そこからまた最初のコンパスの開きで60度ずつ離れた点をプロットした。
 
「凄いな。あれ・・・これ12等分だよ?」と桃香が点を数えて言うと、千里はニコっと笑い、円をハサミで切り取り、12等分の線の所で折り目を入れていく。そして折り目のひとつをはさみで円周から中心に向けてハサミを入れた。
 
「これでできあがり」と言って、ハサミで切った隣同士の扇形を重ねてしまう。「ああ!」と青葉が声をあげた。
 
「12等分して、ひとつ重ねると11になるんですね。凄い」
と日香理と美津穂が感心している。
千里は重ねた所がずれないようセロテープで留めた。
 
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明日香は「何か凄いことしたんだっけ?」と状況が分かっていない様子。
 
千里はそうやって作った11等分用の紙をケーキの上に置き、ナイフの先で印を付けていった。そして印をベースにきれいにケーキを11等分して、各自のお皿に置いていった。
 
「お、すごい。ちゃんと11個に別れてる」と、皿に盛られたケーキを見てから美由紀は感嘆の声をあげた。
 
「改めてハッピーバースデイ」と言い、去年と同様に千里が持ち込んだシャンメリーを開けて乾杯し、みんなで青葉の誕生日を祝った。
 
その日は美由紀たちが青葉と一緒に帰宅し、青葉は座らせておいて美由紀・日香理・明日香・世梨奈の4人で協力して今日のパーティーの料理を作った。明日香はふだんあまり料理をしないということで「へー、そうやって鶏の皮を剥くんだ?」などと感心したりしながらも、頑張っていた。
 
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そうやって出来たのが、鶏の唐揚げ、フライドポテト、オニオンリング、照り焼きミートボール、ポテトサラダ、巻き寿司(スライス済み)、アスパラのベーコン巻き、などといったメニューだった。
 
「わあ、美味しそう」
と歓声があがり、みんなで食べる。飲み物はノンカロリーのものがいいという要望が多かったので、朋子が朝からウーロン茶を大量に湧かして冷ましておいた。
 
「青葉、性転換手術の日程は決まったの?」と明日香。
「うん。今日決まった。7月18日。20日の終業式まで欠席する」
「へー」
「最初終業式の終わった後で25日かなと思ってたんだけど、他の手術との兼ね合いで少し早くしてもいいかと言われて、期末試験が終わってればいいかな、ということにした」
 
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美津穂が手帳をめくりながら確認して言う。
「コーラス部の県大会が15日、中部大会が29日」
「うん。県大会は歌えるけど、中部大会は葛葉に頑張ってもらわないといけないかも」
「そんな大手術の10日後じゃ、さすがの青葉も歌えないでしょ」と日香理。「葛葉を育ててて良かったなあ」と美津穂。
葛葉は最近 F6 まで安定して発声できるようになっていた。今年の自由曲のソロは E6 までしか使わないのだが、F6まで使う昨年の曲でも行ける。
 
「千里姉ちゃんの手術と同じ日なんだよね」と青葉。
「お姉さん、何か手術を受けるんですか?」と明日香。
「私も性転換手術なのよ。ちょうど同じ日に」と千里。
「え? お姉さん、男になっちゃうの?」
「違う違う。私、今男の身体だから手術して女の身体になる。青葉と一緒」と千里。「えー? お姉さんも男?」と明日香・世梨奈。
「全然そんな風には見えないのに!」
 
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「このふたり去年も前後して去勢したしね。同じ日に性転換するとはさすがの私も思わなかった」と朋子。
「1日で兄弟から姉妹になっちゃうんだ」
「既に私はふたりとも娘としか思ってないけどね」と朋子は微笑んで言う。
 
「手術は同じ場所ですか?」
「私はタイ、青葉は射水市」と千里。
「そんなに遠距離で、付き添いはどうするんですか?」
「私がタイまで付いてく。青葉にはお母ちゃんも付いてるし・・・」と桃香。「俺もその日はこちらに来るよ」と彪志。
 
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