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■春歌(10)

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「じゃ、頑張ってね。私このまま帰るから」と言って青葉は離れようとするが
 
「あ、待って。千葉まで一緒に来たりしない?」と彪志は呼び止めた。
 
「うん。いいよ。じゃ、千葉駅まで往復してから帰る」
「時間大丈夫かな?」
「ちょっと確認するね」と言って、青葉はバッグの中からノートパソコンを取り出し、大急ぎで時刻を確認した。
 
「今から総武線に行くと1755の快速に乗れて、千葉着が1839。千葉からの帰りは1913の快速に乗ると東京に1954に着いて、東京2012発の上越新幹線に間に合う。これ10月に彪志と一緒に大宮まで来て乗り継いだ列車ね」
 
「じゃ、総武線に急ごう」
「うん。荷物持つよ」と青葉が言っていると、少し離れた場所で見守っていた和実が近づいてきて「私も手伝います」と言う。
 
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「あ、ありがとうございます」と彪志が戸惑いがちに言うが
「私の友達。東京までおいでよと私を唆した人」と青葉が説明する。
「あ、7月の葬儀でお会いしましたね」と彪志は思い出したように言う。和美のゴスロリの服で思い出したのだろう。
 
「ええ、名刺お渡ししておきますね」と言って、素早く彪志に名刺を渡すと、すぐに荷物を持って歩き出す。
 

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3人で新幹線改札を出て、通路を歩き、それから深い地下にある総武線ホームまでひたすらエスカレーターを降りて行く。
 
ホームに着いたら17:44発の快速が停まっていたが、青葉たちはこれを敢えて見送り、その次のに乗ることにする。やはり座って行きたい。そこで初めて彪志は和美の名刺を見た。
 
「喫茶店エヴォン本店チーフ。へぇ、喫茶店にお勤めですか」
「バイトですけどね。本業は学生なので」と和美。
「高校生ですか?」
「いえ、大学生ですよ」
「あ、済みません」
「△△△の理学部に通っています」
「わあ、優秀」
 
「この喫茶店はメイド喫茶なんだよ」と青葉。
「えー!?」
「でもいかがわしいサービスは無し。むしろ本格的なコーヒーとオムレツが楽しめる店」と青葉。
「飲食店営業ですから。お客様と3分以上会話してはいけないことになっています」と和美。
「カラータイマー付けてるんだっけ?」
「その案はあったけど採用されなかった」
「ウルトラマンか!」
 
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やがて千葉行き快速が入ってくる。青葉と彪志は手を振って和美と別れ、列車に乗り込み、並んだ席に座った。
 
「和美がちょっと用事あって昨日富山に来てたのよね。昨夜はうちに泊まったんだけど。それで今日の午後、ひとりで帰る予定だったんだけど、お昼に電話してきて、東京まで一緒に来ない?って誘惑されたの」
「わあ。で、誘惑されちゃったのか」
 
「うん。私もずっとリアルでは会ってなかったから寂しかったし。来月会う約束だったのに、節操無くてごめんね」
「ううん。俺もずっと会えなくて寂しかったから」
 
「先に言っておくけど、今夜も明日の夜も彪志の夢の中には行かないからね。試験前夜は熟睡して欲しいもん」
「分かった。半月後まで我慢だよね」
「うん」
 
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「あ、お勉強してて。私、そばで勝手におしゃべりしてるから」
「うん」
「それと、これ良かったらホテルで夜食に食べて。高岡で買ってきたパンだけど」
と言ってパンが5-6個入った袋を渡す。
 
「ありがとう。助かる」
 
彪志は単語集を出して見始める。青葉は友人の話題、ちょっとした出来事、岩手との毎月の往復の中で体験したことなど、様々な話題を出して、ひたすらしゃべりまくる。彪志は耳の半分くらいを使ってそれを聞いていて、時々思わず突っ込みたくなる所にだけ口を出していた。
 
途中から彪志は「青葉、問題出してよ」と言って、リーダーの問題集を渡す。問題文をきれいな発音で青葉が読み上げる。それに続く質問を日本語で書いてあるのに、わざわざ英語に直して彪志に投げかける。彪志はそれに対して日本語で答えていく。 
「食べちゃった」「Good. He ATE that apple」「よしよし」 
「電車」「No. She went by BUS」「あっそうだったっけ?」 
 
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そして千葉駅まで40分の旅はすぐに終わってしまった。
 
列車を一緒に降りる。出札口のところで握手する。
 
「頑張ってね。Good Luck!」
「うん。ありがとう。ジュテーム」
「ウォーアイニー」
 
彪志は駅前のコンビニでお弁当やお茶を買った後、タクシー乗り場に行きホテルの名前を告げてから、タクシーの車内で何だか集中できそうな気がしてきたのを感じていた。よし頑張るぞ。リアルでキスもできたし。心の中から活力が湧いててくる感触だった。
 
ホテルに着いてチェックインして部屋に入る。荷物を解くと自然に参考書を開く気分になった。最近、青葉のことばかり考えてしまって、参考書を開くのに30分くらい掛かることもあったのだが、さっきリアルの青葉と会ったお陰かなという気もする。
 
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勉強しながらお弁当を食べた。いったんお風呂に入ってからまた勉強を続ける。10時頃、小腹が空いてきたので、青葉からもらったパンを食べる。うん。何だか調子良い。1時間ほど勉強している間にパンを食べてしまった。ちょうどいい腹加減かな、と思う。あまり満腹になりすぎると眠くなってしまう。
 
その時彪志は空になったパンの袋の底に何か入っているのに気付いた。ん?レシートかな?と思って取り出す。
 
《頑張ってね。あなたの青葉より》
と書かれていた。胸がキュンとなる。
 
「ようし、頑張るぞ!」と彪志はその場で叫んだ。
 

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青葉は手を振って駅を出て行く彪志を見送った後、駅の表示を見て次に東京行き快速が出るホームに移動した(千葉駅の東京行き発車番線は不定で分かりにくい)。
 
せっかく千葉まで来たので、本当は千里たちの所に寄りたかったのだが、自分が千葉にいたら、そのこと自体が彪志の気持ちを乱してしまう。だから日帰りで帰るのが、今日彪志と会う絶対条件だということを母と話し合って決めていた。(その条件で彪志の母にも連絡承認済み)
 
ホームで東京行きを待っていた時、突然後ろから誰かに目隠しをされた。「だ〜れだ?」という声。
 
「桃姉!」
桃香は青葉をハグする。傍に千里も微笑んで立っていたが、そちらともハグし合う。
 
「母ちゃんから青葉がこちらに出てくると聞いたからね。時刻表眺めていたらきっと青葉は東京駅でUターンせずに千葉駅まで来るだろうと踏んだから、待ち伏せしてた。でもどのホームになるか分からないから結構動き回った」
 
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「ごめんねー。本当はお姉ちゃんたちの所に寄りたかったんだけど」
「ずっと青葉が千葉にいたら、彪志君、青葉に会いたくなっちゃうもんね」
「うん。受験生の気持ちを乱しちゃいけないから、すぐ帰ることにした。気持ち乱したりしたら激励に来た意味が無くなるもん」
 
「青葉、20:12の上越新幹線で帰る予定でしょ?」
「うん」
「21:40の新幹線に変更しよう」
「え?」
「長岡まで行って、急行きたぐに、に乗り継ぐ」
「あ・・・そうか。その連絡で帰ったこともあったんだった。忘れてた」
 
「この東京行きが19:54に東京に着くから、1時間半、私たちとデートね」
「うん!」
「きたぐにの到着時刻には、母ちゃんが青葉を駅まで迎えに来てくれるよ」
「わあ」
と言って青葉が微笑みを顔に浮かべていると
「よしよし。こういうので泣かなくなったね」と桃香に言われた。
「青葉って、こういう話をすると、すぐ泣いてたもんね」と千里も言う。
「お姉ちゃんたちと、おかあちゃんのお陰だよ」
と青葉は笑顔で答えた。
 
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青葉はすぐにJRの予約センターに電話して、帰りのチケットを取りなおした。やがて入ってきた東京行きに3人で乗り込む。ピーク時間帯を過ぎているので客はそう多くない。ゆっくりと座ることができた。
 
「恋をする時ってさ」と唐突に桃香が言い出す。
「相手を愛すること以上に、自分が相手の愛を受け止めることが難しいよね」
「えっと・・・」
 
「千里も青葉もその点同類だと思うんだけどね、相手から来る愛を瞬間的に拒否しちゃうんだよね。拒否されると相手は戸惑うんだ」
「それ以前にも言われたね」と千里は頷くように言う。
 
「彪志君はとっても優しいし、熱心だから、青葉が少々拒否しても諦めずに愛してくれる。だから、彪志君との仲は続いているんだろうけど、青葉はもっと素直に愛を受け入れないといけないよ」
「うん」
 
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「千里も青葉も自分の性別に対するコンプレックスが強すぎるんだよね。それが結果的に恋愛の場面で気後れになって出ている。それは良くない」
 
「ふたりとも外見上は完璧に女の子じゃん。裸にしたって女の子にしか見えない。それなのに自分が完全な女の子じゃない、なんて負い目を持ってる。それをやめなきゃね。ふたりとももう手術しちゃうんだし。手術が終わっても、自分は元男だったなんてコンプレックスを引きずっていたら、手術した意味さえ無くなる。だから、もう自分が男だったってことを忘れようよ」
 
桃香が珍しく熱弁を振るった。千里も頷いていた。青葉も「そうだよねー」
などと言いながら聞いていた。
 

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3人は東京駅に着くと、構内のカレー屋さんに入り、遅めの夕食を一緒に取った。
 
「私、お姉ちゃんたちと会うまで、カレーって給食で食べたり、たまにおばあちゃんに連れて行かれてファミレスで食べたりしていたのが少ない経験だったから、こう庶民的な食べ物だって認識が無かったんだよね」
 
「青葉の作るカレー、美味しいね。お正月にも食べたけど、味に深みがある」
「タマネギの炒め方の問題、カレーパウダーの調合の問題、あと何のチャツネを使うか、そのあたりでけっこう味が変わる。カレーって奥が深いよ。もっとも『こくまろ』で済ませちゃう時もあるけど」
 
「いつも手間掛けて作ってたら大変だよ。料理はいかに手抜きするかも大事」
と桃香が言うと千里が笑っている。
 
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「この1年で、随分料理のレパートリー増えたよね」
「うん。お母ちゃんから、いっぱい教えてもらったからね」
「もういつでもお嫁さんに行けるくらい鍛えられたんじゃない?」
「うん。私もそれに関しては結構自信があるよ。お嫁さん、やりたい」
 
「私はまだお嫁さんやる自信無いなあ」と千里。
「よし、私が鍛えてあげるよ」などと桃香が言う。
 
「でもお姉ちゃんたちも仲良いよね。結婚しちゃってもいいと思うのに」
「結婚すると千里が性別を変えられなくなる」と桃香がマジ顔で言う。「入籍しなくて事実婚でもいいんじゃない?」と青葉が言ったのに対して「それは既にしているかも知れん」と桃香が答えると
「そうだったの?」と千里が笑って言った。
 
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桃香と千里に見送られて新幹線の改札を通り、やがて入線してきた列車に乗り込む。指定の席に座ると、青葉は発車する前ではあったが、そのまま寝てしまった。彪志と睡眠時間帯をずらさないと絶対夢で逢ってしまうと思った。彪志頑張ってね。あ、でもさすがに今日は自分も疲れたな・・・・熟睡するから、後ろの人の誰か、長岡に着く前に起こしてね。そう呼びかけて青葉は深い眠りの中に入っていった。
 

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3月9日金曜日。14時に彪志の大学の合格発表がある。青葉は5時間目の授業中なので携帯は切っておいたが、5時間目が終わったところで電源を入れる。彪志からのメールが来ている。「合格☆」という短文メール。すぐに返信する。「おめでとう」。
 
青葉は微笑んでまた携帯の電源を落としたが、美由紀から抱きつかれた。
「彼氏、どうだった?」
「うん。合格してた」
「おめでとう」
「ありがとう」
すぐに寄ってきた日香理からも「おめでとう」を言ってもらった。
 
6時間目の授業が終わると、そそくさと荷物をまとめて帰り支度をする。日香理の所に行き「今日、クラブ休むね。(副部長の)美津穂に言っといて」と言う。「うん。行ってらっしゃーい。また明日」と日香理は笑顔で送り出してくれた。美由紀にも手を振って、学校を出る。
 
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自宅に戻ると母が夕食用におにぎりを作ってくれていた。
「わあ、ありがとう」
と笑顔で言う。
「よしよし。去年の青葉ならここで泣いてたね」
「もう泣かないよ」
と青葉は笑って答えた。
「じゃ、また明日ね」
「うん。ふたりをよろしくね」
 
母が高岡駅まで送ってくれた。車の中で彪志に電話する。
 
「おめでとう」
「ありがとう。今から来るの?」
「一ノ関に21:43に着くから」
「迎えに行くよ」
 

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