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■春歌(4)

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青葉が彪志の学校の文化祭に行った翌日、出雲の友人霊能者・直美の夫、民雄から電話が掛かってきた。
 
「青葉ちゃん、君の性転換手術をしてくれるかもって所を見つけたよ」
「え、ほんとに? どこの病院ですか?」
「アメリカの病院。アメリカって、州によっていろいろ法律が違うし。ここの州は医療に関するルールが比較的ゆるくてね。妊娠中絶なんかもこの州ではフリーだから、この州に来て中絶していく人もかなりいるんだ」
「ああ」
 
「それで、そこの州立病院で性転換手術をけっこう手がけているお医者さんがいてね。ここでは15歳以上なら親の同意があって、委員会の審査に通れば手術してくれる」
「わあ」
「君、誕生日は5月だったよね。だから来年の5月すぎたら手術受けられるよ」
「嬉しい」
「取り敢えず、診察と委員会の審査受けに行かない?」
「はい」
 
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母に話した所、実際に手術を受けるかどうかは別として、とにかく診断だけでも受けてみようということになり、渡航手続きを取ることにした。
 
母は2年前に韓国旅行に行ったことがあったのでパスポートを持っている。桃香と千里も一緒について行くと言ったので、青葉・桃香・千里の3人がパスポートを申請した。
 
青葉の本人確認書類には少し悩んだ。ふつうは健康保険証と学生証で作れるのだが、青葉の学生証は性別が女になっている。戸籍の性別と同じものでないと使用できないので、どうしようと言っていたら、中学生以下の場合は、健康保険証と、親権者の本人確認書類で良いということであったので、朋子が運転免許証を提示して受け付けてもらった。
 
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青葉のパスポートも千里のパスポートも性別が M になっている。青葉は千里と早くこれを F にしたいね、などと電話で話した。
 
英語に最も堪能な青葉が直接向こうの病院と電話で話して、渡航は10月上旬ということになったので、青葉の10月8-10日の岩手行きはキャンセルとなった。
 

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9月の下旬、先日引っ越し先の住宅の件で相談を受けた、美由紀の伯母さん・都古さんから連絡があった。
 
「私の友だちでね、どうも身体の調子が悪くて、病院で見てもらうんだけど原因らしきものが分からないって人がいるの。ちょっと見てくれないかしら?」
「取りあえず生年月日、出生時刻、生まれた市町村名を聞き出してもらえますか?」
「待っててね」
 
都古さんはいったん電話を切ってから5分後に掛けて来た。
「****年**月**日、**時**分、氷見市生まれ」
「分かりました。ちょっと見てみますね」
 
青葉はホロスコープと四柱推命の命式を作り、双方をチェックしたが、あまり問題になるような点は見つからなかった。ノートパソコンを持って直接会いに行った。また先日と同様の仕事着(巫女服)を着た。詩子さんという人だった。
 
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「お腹のこの付近が痛いんです」
「肝臓付近ですね」
「ええ、お医者さんもそうおっしゃって検査されたんですが、肝臓にも近くの膵臓とかにも異常は見当たらないって。神経的なものかもと言われて、お薬をいただいたんですが、全然効かないんです」
 
「けっこう多いんですよね。自覚症状があるのに病変が認められないケースって。そのお薬はいったん中断しておいた方がいいと思います」
「うん。私ももう1ヶ月くらい飲んでない」
 
青葉は詩子を霊査してみるが、特に何かに取り憑かれているということもない。ただ、何かよく分からない「影」のようなものが見られる。これは何だろう?
 
「ご自宅にお伺いしてもよろしいですか?」
「ええ」
 
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と言って、詩子さんの車で自宅に向かおうということになる。その車の駐まっている駐車場まで行ったところで青葉は絶句した。
 
「原因が分かりました。この車です」
「えー!?」
 
「この車を買ったのはいつですか?」
「3年前です。あ。その後だわ、体調が悪くなったの」
 
「事故車?」と都古さんが訊く。
「ですね。人を轢いてますよ」
「きゃー」
「この車は放棄した方がいいです」
「すぐ廃車にする!」
 
取りあえず足が必要なので、ご自宅までその車で移動し(青葉が自分と都古さんと詩子さんに清めの塩を振った)、ご自宅をチェックした。
 
「この家は特に大きな問題は無いですね。家の中をひととおり見させていただいていいですか?」
「ええ」
 
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寝室にお邪魔した時、枕元に置かれていたランプに目を留める。
「このランプは?」
「えっと4年くらい前にがらくた市で買ったんだけど・・・やばい?」
「ここに置いてたら運気を下げますよ。運気が下がった結果、変な車を買っちゃったのかも」
「何かのろいのランプとか?」
「前使っていた人が重い病気で亡くなっています。かなり苦しんだみたいで、その念が残っています」
「これどうしよう?」
「袋に入れて、塩を振って閉じて、そのまま燃えないゴミに」
「分かった!」
青葉が持参していた清めの塩を半分詩子に渡した。
 
詩子さんは早速ランプを処分し、また車もすみやかに廃車の手続きを取り、代わりの車を青葉にチェックしてもらって買った。その結果、詩子さんのお腹の痛みはケロッと治ってしまった。詩子さんはお礼と言って青葉に10万円もくれた。
 
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そしてこの後、詩子さんはあれこれ友人知人などの相談事をしばしば青葉の所に持ち込むようになるのである。
 

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10月6日の木曜日。青葉は性転換手術をしてくれるかも知れないというアメリカの病院でとりあえず診察を受けるため、朋子・桃香・千里とともに渡米した。成田空港で落ち合ってロサンゼルス行きの航空機に乗る。出国手続きの時に、青葉と千里が「性別が違う」と言って咎められたが、桃香が「このふたりニューハーフなんです」と言ったら納得してもらえた。しかしアメリカでの入国審査の方が大変であった。(成田を午後発の飛行機で到着は日付変更線を越えるので同じ日の朝になる)
 
千里の方は(日本の)運転免許証を持っていたので顔写真を照合され、また男声も出せるのでそれを出して男であることを何とか証明したが、青葉は免許証は持っていないし男声が出せない。学生証には写真が添付されているが、性別が女になっているのでパスポートの性別と違うと言われる。
 
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「裸になりますから、それで確認してください」と青葉は言って、別室で全裸になった。こういう場合にそなえてタックを外していたので、男性器を認められて、やっと男であると納得してもらえた。しかし青葉の身体が、確かに男性器は付いているものの、バストもCカップあるしウェストもくびれていて完全に女性体型なので、最初係官が『やはり君は女じゃないか』と言ったほどであった。男性器を主張してみたが、本物か?作り物をくっつけているのでは?などと言われて、かなりいじくり回された。係官はかなり長時間青葉の身体を検査していたが、最終的に男と認めてはくれたものの、あまり納得していない感じであった。
 
「ね、アメリカで性転換手術を受けて帰国する時は、もう身体で証明するのが不可能だよ。どうする?」と桃香から言われる。
「ほんとにどうしよう!?」と青葉もホントに悩んでしまった。
 
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アメリカの国内線の航空機に乗り、病院のある州へ行く。空港からはバスで目的地に着いた。
 
日本国内でもらっている2枚のGID診断書を見せるが、病院独自の検査もあれこれと受けた。また自分史についても詳しく聞かれた。お医者さんは最初
 
「え?君ほんとにMTFなの。手術済み?」
などと言った。青葉が手術は済んでいないこと、でも女性ホルモン優位になっており、それで自然にバストも発達し、睾丸は自然消滅済みであることも語る。医者は信じられないというふうに頭を振って、しかし丁寧に検査をしてくれた。「東洋の神秘です」などと青葉はジョークで言うが、それに対して医師は「その東洋の神秘で、卵巣や子宮も勝手に出来ちゃったりしてね」などとジョークを返した。
 
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血液検査やMRI、また心理的な検査など丸2日掛けてチェックされた。青葉が英語ペラペラなので、心理的な検査なども通訳不要でスムーズにできた。朋子も話を聞かれたが、朋子はあまり英語が得意ではないので、千里が通訳をかって出て話が進んだ。
 
「あれ?今気付いたけど、あなたもGIDですね。Post-op?」
と2日目になって初めて千里の性別に気付いた医師が言う。
「いえ、Pre-opです」
「あなたも手術希望ですか?」と先生から言われたが、千里は
「あ、すみません。私は既にタイの病院で来年の夏手術することにしていて予約済みです」と答えた。
 
7日の夕方近くまでたっぷり検査され、担当の医師以外にも何人かの医師やカウンセラーから話を聞かれ、心理テストのようなものもあれこれされた。最後は担当医からあらためて手術方法に関する説明を受ける。15歳以上でないと予約自体が入れられないらしく、こちらの病院で手術を受けたい場合は、15歳になってから申し込んでくれと言われた。そのあと、1時間ほど半ば雑談的に担当医とあれこれ話をした上で、診察・審査終了となる。結果は来週中に直接郵送しますといわれた。
 
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せっかくアメリカに来たんだからと病院の検査が終わった翌日8日土曜日はカリフォルニア州にある本家ディズニーランドにみんなで行って、しばしの休日を楽しんだ。
 
帰りは9日日曜日の午後の便に乗ったが、到着は日付変更線を逆に越えて10日月曜日の夜20時すぎになった。例によってアメリカでの出国手続きで千里と青葉のふたりがまたまた「性別が違う」と言われ、今回はふたりとも別室で裸になる羽目になった。日本での入国手続きの方は、わりとすんなり行った。
 
「でも、自分の性別問題がこんなにやっかいだってこと、あらためて認識した」
と青葉はほんとに疲れた様子で言った。
 
その日は千葉の桃香と千里のアパートで4人で泊まりである。2DKなので、桃香と千里は奥の4畳半でひとつの布団に寝て、6畳のほうには、ふたつ布団を敷いて青葉と朋子が寝る。
 
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「それは私もだよ。ふだんは女として埋没して生活してるから、あらためて、ああいう場で性別を問題にされるとふだん考えてもいないことで大変だった。私、夏にもう手術が終わったら速効で戸籍の性別変更するよ」
と千里。
 
「いいなあ。私は手術してもらっても戸籍を変更できるのは5年後だもんなあ」
「その間に外国に行く用事ができたら大変だね。どうやっても青葉が男ということを証明することが不可能だよ」
「ほんとに!」
 

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翌11日。もう連休が終わって学校は始まっているが、青葉は今日まで学校を休むことにしていた。富山へは夕方の新幹線で帰還するので、それまでの時間を利用して、青葉は千里・桃香と一緒に、あきら・小夜子夫妻の家を訪れた。3人が行くというので、朋子もついでに付いてきた。
 
先月10日、ふたりの間に赤ちゃん、みなみちゃんが生まれていたので、見せてもらいに行ったのである。青葉たちは生まれた日すぐにお祝いのメールを送り、共同でベビー用品なども贈っていた。
 
この日は火曜日で美容室もお休みなので、あきらも在宅であった。和服好きだけあって、あきらは小紋の服を着ている。小夜子の母も紬(つむぎ)の着物だが、小夜子自身はまだ出産後充分体力を回復していないので、ゆったりとした服を着ていた。
 
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「わあ、可愛い!」とみんな声をあげる。
 
「女の子ですか?」
「生まれた時は男の子だったんだけど、お医者さんに頼んでおちんちん切ってもらったから、もう女の子だよ。出生届けも女で出した」
「えー!?」
「冗談、冗談。生まれた時からおちんちんは無かったよ」
「びっくりしたー」
 
「抱いてみます?」などと小夜子が言うので「いいんですか?」と言って、青葉と千里が、そっと抱かせてもらった。桃香は「私、優しく扱う自信がないからパス」などと言っている。
「自分の赤ちゃんは抱かなきゃいけないよ」と朋子が言うが
「千里に抱かせる」と桃香は言っている。
 
「何か赤ちゃん抱いてると、凄く幸せな気分になりますね」と青葉。
「まだ産んじゃだめよ。中学生の出産は早すぎるからね」と桃香。
「うん。ちゃんと避妊してるよ」と青葉は答える。
 
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「でも、私自分が結婚できるとも思ってなかったから、ここにこうやって自分の遺伝子を受け継ぐ子がいるの見て、もう天にも昇る思いですよ」とあきら。
「みなみちゃん、耳の形があきらさんそっくり」
「それ、みんなから言われてます」というあきらは本当に嬉しそうだ。
 
小夜子の母がお茶を入れてくれて、青葉たちが持参した和菓子をみんなで一緒に食べる。
「ケーキにしようかとも思ったんですけど、あきらさんたちの顔を思い浮かべたら、和菓子になりました」
「私たちいつも和服だもんね」
「会社には洋服ですよね?」
「うん。さすがに付下げ着てコンピュータの端末叩いてたら、みんなに引かれそう」
「でも和服着て営業に出たら、けっこうインパクトあるかも」
「あるかもね!」
「あきらさん、絣(かすり)で美容院に出る?」
「一度出たことありますが、あまり実用的じゃなかったんで、ふつうのカットソーとスカートに戻しました」
 
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「でも美容室で男物の服なんて着ていきませんよね」
「もうそれは長いことしてないなあ。今の美容室に移ってからは一度もしてないと思う」
「もう美容室のホームページでも性別ちゃんと女って書いてありますもんね」
 
「もうひとり子供できた後は性転換してもいいからね」などと小夜子が言っている。「うーん。あまりその気は無いんだけどなあ」とあきらは頭を掻きながら答えていた。
 
来客があって小夜子のお母さんが席を立った時、桃香が唐突に訊いた。
 
「あきらさん、男性としてセックスする時って、男性感覚ですか?」
「えっとね。たぶん、千里さんもそうじゃない? 相手に感情移入して、自分が相手を受け入れているような感覚になっている」とあきら。
「ええ、私もそういう感覚ですね」と千里も微笑みながら言った。
 
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「つまり物理的に男としてセックスしてても、心理的には女としてセックスしてるのか」と桃香は千里の顔をチラッと見ながら言った。
「男の肉体は自動的に動いている感じで、心は女性側に同居してるんですよ」
 
「でも私のはタマ取っちゃったし気の流れも外してるからもう立たないからね」
と千里は言う。
「でもさ、青葉。その空っぽになってる男の肉体の中に、私が感情移入したらこちらの勝手に動かせないものかな?」
「さあ。それは実験してみて」と青葉は笑って言う。
「よし、今度やってみようよ、千里」
千里は何も答えずに笑っている。
 
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