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■春歌(8)

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お餅も自宅で作ってみようというので、餅搗き機を買ってきて、餅米を入れ撞いてみた。それから氷見漁港まで母の車で行き、寒鰤を買ってきた。
 
その日、桃香と千里が帰省してきたので、4人で鰤をお刺身で食べたが、今の時期の鰤は脂が乗っていて本当に美味しい。
 
「明日は照り焼きでもいいかな」
「年内はお刺身で食べられるよ。年明けてから照り焼きにしよう」
 
桃香が「お肉も食べたいな」などというので、牛肉を買ってきてローストビーフも作ってみた。
 
「青葉、料理上手じゃん」と桃香。
「お母ちゃんに、いっぱい教えてもらったから」
 
「桃香にも色々教えたけど、全然覚えなかったね」
「千里が料理はしてくれるから、無問題」
 
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「あんたたち、ずっと一緒に暮らすんだっけ?」
「うーん。取り敢えず修士出るまでは一緒に暮らすと思うよ。喧嘩別れしたりしない限り」
「あ、桃姉とちー姉が喧嘩するのはあり得ない。どちらかに恋人が出来ても、ふたりって、相手の恋を応援しちゃうでしょ?」と青葉。
「ああ、そうだと思う」と桃香。
「それに、ちー姉って、基本的に人と喧嘩しないタイプだもんね」
「うん。千里って我慢するんじゃなくて、全てを受け入れるんだよね。私にとっては天使みたいな存在だよ」
 
「その天使様に御飯を毎日作らせてるのね」と母。
「私、料理作るの好きだし」と千里は笑顔で言っている。
 

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新年。桃香が持ってきたウィスキーをお屠蘇代わりに飲んだ後、お雑煮を食べる。桃香が青葉にもウィスキーを勧めたが千里が止めたので、青葉はクリスマスの残りのシャンメリーを飲んだ。
 
石川県・富山県は東西の文化の境界線なので、お雑煮も様々な形式が混在している。朋子が作った雑煮は、焼いた丸餅に、鶏肉・かまぼこ・ゴボウ・ニンジン・ほうれん草が入った具だくさんの雑煮であった。醤油も味噌も入れず、だし汁だけである。
 
後で友達に電話して聞いてみたら、美由紀の家も具だくさんだったが餅は焼かない丸餅で味噌仕立てだと言っていた。日香理の家は具は無く餅のみ。餅は焼いた丸餅で醤油仕立てだと言っていた。他にも、切り餅を使う家、砂糖を入れる家、小豆を入れて善哉みたいにする家など、ほんとに様々な感じだった。
 
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朝御飯を食べた後で、初詣に行こうということになる。桃香・千里は今年新しい振袖を買っていたので、千里が昨年着た振袖を青葉に着せてあげた。千里が着付けをマスターしているので、桃香にも青葉にも着せてあげる。桃香も着付けは千里と一緒に勉強していたはずなのだが「もう忘れた」などと言っていた。母も娘たちに合わせて華やかな訪問着を自分で着て出かける。(帯は千里と朋子がお互いに相手のを結んでやった)
 
青葉は「こんな素敵な着物なんて着るの初めて!」とはしゃいでいる。
 
「これ、振袖って言うんですか?」
「そうそう。私の着てる訪問着と比べてごらん。袖丈が長いでしょ」
「あ、ほんとだ」
「袖を振って歩かないといけないから振袖っていうのよ」
「へー」
「成人式の時には自分用の振袖作ろうね」
「成人式の時に着るものなの?」
 
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「別に成人式とは限らないよ。未婚の女の子の第一礼装だから」
「ああ、じゃ、パーティーとかの類にも着て行けばいいんですね」
「そうそう。天皇陛下の園遊会とかでもね」
「天皇陛下の園遊会にお呼ばれすることはないと思うけど」
 
「でも私、着物の名前、さっぱり分からない」と青葉が言うと
「はい、千里、解説して」と桃香。
 
「第一礼装とされるのが、未婚の女の子なら振袖、既婚なら留袖」
「ああ」
「留袖でも、堅苦しい場所なら黒留袖、少しくだけた場所なら色留袖」
「へー」
 
「準礼装って感じのが、今お母ちゃんが着ている訪問着。訪問着も振袖・留袖と同じ『絵羽(えば)』という特殊な技法で模様が描かれている」
「ふーん」
 
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「訪問着の下が、付下げ、小紋。あと普段着の着物として、浴衣とか絣(かすり)とか、ウールや化繊の着物がある」
「だんだん分からなくなって来た」
 
「他に趣味のものとして紬(つむぎ)。高価だけど、普段着扱いだから、フォーマルな場所に着て行ったら、顰蹙を買う」
「難しい」
 
「振袖の模様も色々ランクがあって、高級品は手染めと言って、手作業で模様を描いてる。この手染めにも糊糸目・ゴム糸目・ダックと3ランクある」
「そろそろ分からなくなってきた」
 
「今青葉が着ているのは型押しといって、白い線に相当する部分を型で押して、それに沿って手で模様を描いたもの。但し型押しにもピンからキリまであって、これはピン、最上級の部類。手染めにかなり近いハイレベルの品」
「へー」
 
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「今、私と桃香が着ているのはプリンター染めと言ってインクジェットプリンタで模様をプリントしたもの。成人式用にレンタルで出ているような安い振袖は大半がこのプリンター染め。同じ模様の振袖を大量生産できるから、カタログで選んでカタログで見た通りのものを借りられるし、レンタル料金も安いけど、このクラスの振袖は実は買ってもレンタル料金と大差無い」
 
「え? なんでそれをレンタルするの?」
「なんでだろうね。とっても不思議だね。でもそういう量産品の振袖が、和服業界の売上を支えているからね」
 
「ああ、それは良いことかも知れないね」
「全部手染めの品ばかりでは、生産能力もあまり出ないし、庶民が気軽に手を出せない世界になっちゃうもん」
「うん。安い普及品があるというのは絶対大事なことだよ」
 
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お屠蘇代わりにウィスキーを飲んでしまったので、初詣には車を使わず歩きで出かける。桃香が「バレないから車で行こうよ」と言ったが、千里が「だめだめ。飲んだら乗るなだよ」とたしなめた。
 
「あ、じゃ飲んでない青葉が運転するというのは?」と桃香。
「免許持ってないからダメ」
と青葉は笑って答える。
 
「運転自体はできるよね?」と桃香。
「なんで、みんなそれ知ってるの? いつの間にか広まってるし」
と青葉は困ったように言った。
 
神社に来て、拝殿の前まで進み、二拝二拍手一拝でお参りする。最後の一拝の時、青葉はつい時間が掛かってしまった。
 
「何お祈りしてたの?」と桃香。
「何だかいろいろ考えちゃって」と青葉。
「いろいろ大変だろうけどさ、前向いて歩いて行こうよ」
「うん、ありがと、桃姉」
 
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「青葉にとっても私にとっても男の身体での最後のお正月だね」と千里が言う。「うん。来年はもう女の子の身体だからね」と青葉が言ったが、
「待て待て。ふたりとも既にもうほとんど女の子の身体だと思うぞ」
と桃香が突っ込みを入れた。
「千里なんて、私よりも胸でかいからな」
 
境内の茶屋で少し休んでいたら、美由紀が両親と一緒に参拝してきて、茶屋に寄った。双方の親で挨拶する。
 
「青葉〜、美しい振袖着てる!」と美由紀。
「美由紀のも可愛い着物じゃん。私、着物の種類よく分からないけど。ついさっき、この着物を振袖というんだというのを習ったところで」
「そうか。知らないよねぇ。ちなみにこれは小紋だよ。小紋という割には柄がけっこうでかいけどね」
「へー。あ、さっき着物のこと習った時にその単語出てきたけど、もうどんなのか忘れてる」
 
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美由紀が桃香たちの方にも向いて挨拶する。
「お姉さんたちのこと、いつも青葉から聞いてますよ。凄く楽しそうに話すから仲いいんだなあ、と思ってました」と美由紀。
 
「美由紀さんは一人っ子?」と桃香が訊く。
「東京に行ってる大学生の姉ちゃんがいるんですけどね。今年は帰省してこなかったんです」
「私も自分の実家には帰省せずに今年はこちらに来たしなあ」と千里が頭を掻いている。
 
「まあ、千里はもう男装できないから、息子としては帰省できないよね。でも、手術前には1度帰省してちゃんと手術すること言ってきなよ」と桃香。
 
「うん。そうする」と千里は答えたが、堅物の父が自分の性転換を認めてくれるとは到底思えなかった。
 
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1月14-15日はセンター試験が行われた。彪志は朝から新幹線で試験地に行き、試験を受けた。駅で降りた後、バス停に向かっていたら青葉から電話が掛かってくる。
 
「試験がうまく行くようにキスしてあげるね」
と言うと、電話の向こうでチュッという音がした。彪志は微笑んでこちらも自分の手の甲にキスをした。
 
青葉が電話を切るのを見て、朋子が微笑んで言う。
「もうラブラブだね」
「うん。もう今すぐ結婚したいくらい好き」
「結婚してもいいけど、まだ中学生だしね」
「せめて高校卒業してからだよね。結婚する前に身体も直さないといけないし」
「まあ、恋人時代も楽しいもんだよ」
「うん」
 

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1月16日。青葉は母・朋子と一緒に、新しくオープンした病院を訪れた。精神科の鞠村先生と、手術担当の松井先生に面談し、いろいろ話をした。執刀医というのでてっきり男性医師と思い込んでいたのだが、実際に会ってみたら女医さんだったので、青葉は驚いた。
 
これまでにもらっている2枚のGID診断書(内1枚は鞠村先生からもらったもの)と、10月にアメリカの病院でもらってきた診断書、倫理委員会の手術許可証を見せる。倫理委員会の書類で15歳以上であれば手術を許可するとなっているのを踏まえてこちらも5月の誕生日を過ぎてからしましょうと言われる。学校にあまり影響が出ないように夏休みに受けたいという希望を言うと、それでは夏休みに入ってすぐにやりましょうということになった。
 
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「私、切るのが大好きだから外科医になったのよねー。子供の頃とかお人形をバラバラにしたりお腹を切り裂いて中身出したりして叱られていた」
などと松井先生は言っている。ある意味怖い先生だ。よけいな所まで切られそう!
 
「おちんちん切るのも大好きよ」などとニコニコ顔で言う。
「以前盲腸で入院してきたMTFの高校生がいてね。盲腸のついでにおちんちんまで切ってあげたかったけど、我慢した」
 
「男の子のシンボルをチョキンと切り落として女の子に変えちゃう瞬間って、興奮しちゃうのよね」
などと言っている。これは相当危ない先生っぽい!
 
「松井先生は冗談はきついですけど、腕は確かですから。アメリカで100例以上、日本に帰ってきてからも20件ほどの性別適合手術(性転換手術の正式名)を経験しています」
と横から鞠村先生がフォローする。
 
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「そうそう。今までに120本ほどのおちんちんを切り落としてきたの」
「ほんとは私、今すぐ切り落としてもらいたいくらいです」
と青葉は答える。
「あなたみたいな美少女におちんちんが付いてるのって絶対何かの間違いだから今すぐ切ってあげたいけど、まあ夏まで待とうか」
と松井先生は笑顔で言った。
 
「でもね、おちんちんを切るってのは、そのおちんちんで封印されていたその子の女としての可能性を開放してあげるってことだからね」
その言葉には青葉も同意する。たしかにこれ封印だよな。
 
先生は手術方法もパソコンの画面に図解を表示させながら詳しく説明してくれた。
 
「基本的には膣の前壁を尿道粘膜で、後壁を陰嚢皮膚で形成します。そして陰茎皮膚を利用して、大陰唇・小陰唇を作ります。亀頭の一部を利用して陰核を形成しますが、この時、血管と神経をちゃんとつなぎますので、揉まれると快感があり、興奮すると少し大きくなる陰核になります」
「あ、その方法が好きです」
 
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「あなたの場合、萎縮しないようにかなり努力はしているようですが、それでもどうしても陰茎は小さくなっているので膣壁に使うには無理があります。外性器の形成に転用した方が良いと思います。あなたはタックをしているので陰嚢皮膚は常に引っ張られている状態で結果的にほとんど萎縮してないですね。それから、尿道粘膜を使うと、性的に興奮した場合にちゃんと濡れる膣になるメリットがあります」
 
「濡れるのと濡れないのではQOSL(性生活の質)がまるで違いますよね」と青葉。
「ええ。川上さんは交際している男性はいますか?」
これを中学生にちゃんと訊くのは偉いと思った。
 
「います」
「セックスしてます?」
「してます。今はだいたい素股でやってます」
「手術後、3-4ヶ月、回復が遅い人の場合でも半年すぎたら、膣内に男性を受け入れ可能になります。定期的に男性とセックスしていればダイレーションの頻度を減らせます」
「はい。シリコンの棒より、本物のほうが効果的ですよね」
 
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「そうです。精神的な面も大きいようですよ。私も患者さんにさせるのに自分でも体験してみようと思って、ダイレーターを自分のヴァギナに入れてみたことあるんですけどね、やはり男性のペニスを入れるのとはまるで感触が違うのよね。効果も違うと思った」
 
こんな実験を自分でしてみたなどというのは女医さんならではだが、でもこういうのを患者に言っちゃうのは大胆だなと青葉は思った。
 
Before/Afterの写真もたくさん見せてくれる。朋子は「ひゃー」などと言って写真を見ていた。
 
「この左のがこの右のになっちゃうんですか?」
「そうそう」
「凄い。なんかおちんちん無くなるとすっきりしますね」と朋子。
「そう。青葉ちゃんも、早くすっきりさせたいね」と松井先生。
「すっきりになりたいです」と青葉。
「こういう写真見てたら、おちんちんは邪魔物って気がしてきた」と朋子。「邪魔です」と先生は言い切った。
「サンプル見てたら、私も早くこういう形になりたい!って思っちゃう」と青葉。
 
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こちらの病院で手術してもらえることが決まったので、青葉はアメリカの病院に電話して、せっかく診断してもらったのに申し訳無いが、国内で手術を受けることにした旨を伝えた。向こうはビジネスライクな雰囲気でOK,OK.Take Care.と言っていた。
 
「でも、夏休み入ってすぐということになると、ひょっとして千里ちゃんの手術と同時期にならない?」
と病院を出てから朋子が言った。
 
「うん。前後して受けることになりそうな気がする。ちー姉の方が先だといいんだけどな。手術直後にヒーリングしてあげられるから。こちらが先だったら、自分のヒーリングが精一杯で、ひとのことまでしてあげる余裕無いかも」
「無理しちゃだめよ」
「うん」
 
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「でも、ちょっと変わった先生ね」と母が言う。
「絶対変人だと思う! でも結構いるよね。変人のお医者さんって」
 
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