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■春歌(7)

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「うーん。残念。去勢したらもっと高い声出るかな」
「男やめていいのなら、去勢どうぞ。スカート穿く?」
「いや、冗談冗談。スカートは穿いてみたい気もするけど」
「穿きたかったら、いつでも穿かせてあげるけど。去勢も病院紹介しようか?」
「川上先輩に言われると、ほんとにチョン切られそうな気がしてきた」
「今夜はしっかり手で押さえて寝ようね」
「そうする」
 
「自薦がいなければ他薦で」
と言ってみる。すると
 
「葛葉がいいと思います」という声が出た。
「えー?私、無理」と本人は言っているが、やはりピアノに合わせて歌わせてみる。
 
「行けるじゃん。D6まで出るじゃん」
「D6まで出るなら練習すればE6も出る」
「えー?今の音だって結構きつかったのに」
「声ひっくり返ってもいいから出してごらんよ。アーって、この音だよ」
と青葉がE6を出してみせる。
「アー  やだ。変な声になっちゃった」
「それを練習してたら変じゃない声になるんだな」と青葉。
「練習しようよ。ただし1日10分以内。それ以上やると喉を痛める」と美津穂。「あと、その声区出した後は、うがいしたり喉飴や蜂蜜とか舐める」と青葉。
「うーん。頑張ってみようかなぁ」
「よし、頑張れ頑張れ」
 
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ということでバックアップ・ソロシンガーとして葛葉を育てることになった。
 

11月15日。この日は彪志の誕生日なので、晩御飯が終わった頃の時間を見計らって電話を掛け「お誕生日おめでとう」を言う。ふたりはお互いに無料で通話できるので、電話をつないだまま、のんびりと話す。
 
(青葉の携帯は無料登録は3ヶ所までなので、千里・慶子・彪志への通話を無料で登録している。その他、母朋子と義理の姉になる桃香への通話は誰でも割+家族割の併用で無料にしている。彪志はもちろん青葉への通話を無料登録である)
 
「勉強の調子はどうですか?受験生さん」
「もう万全。合格確実」
「でも油断しないでね。あと風邪・インフルエンザに気をつけてね」
「もう先週インフルエンザの予防接種はしてきた」
 
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青葉も彪志も電話しながら、各々の勉強をしている。そんな様子を双方の母が微笑ましく見ていた。
 
「でも俺も18歳になって結婚できる年齢になった」
「私生まれた時から女だったら16歳で結婚できるのになあ。結局20歳まで結婚できなくてごめんね」
「まあ、どっちみち青葉が25歳になるまで待つ約束だからね」
「あと10年半だね」
 
その晩、ふたりはまた夢の中で逢うことができた。もちろんセックスしたが『わーい、9月以来、2ヶ月ぶりだ』などと言って彪志は喜んでいた。
 
『先月はフェラだけだったからね。フェラかセックスかどちらかしかできない時は、どちらがいい?』
『フェラ』
『即答するのね』
『当然』
 
『じゃ、今度からは夢で逢えたらセックスしないでフェラする?』
『やだ。セックスしたい』
『なんで?』
『気持ちいいのはフェラだけど、セックスしていると楽しい』
『そうだよね。セックスってコミュニケーションだもんね』
『うん』
 
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青葉の岩手行きは年内は12月3-4日でいったん終了し、次は年明けということにした。
 
年も押し迫って12月17日。その日はのんびりとショッピングモールに行き、母と一緒に買物したり、食事をしたりしていた。
 
母が本屋さんを見てくるというので、青葉が通路に置かれている椅子に座り、少し休んでいた所、見覚えのある女性が通りかかった。
 
「あら、川上さん」
「あ、鞠村先生!」
 
それは青葉がこの地で最初にお世話になったジェンダークリニックの先生であった。青葉の1枚目のGID診断書を書いてくれた先生である。
 
「こちらは買物?」
「ええ。母と一緒に出てきました」
「私は映画見に来たところ。あ、そうそう」
「はい」
「私ね、あの病院を先月末で辞めたのよ」
「あら」
 
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「何人かの友人のお医者さんと組んで、少し特徴のあるクリニックを年明けから立ち上げる予定というか現在機器などの設置作業中」
「へー」
「ジェンダークリニックもするし、東洋医学のクリニックとか、発達障害の子のクリニックとか、糖尿病の改善を目指すクリニックとか」
 
「何か面白いですね。かわごえクリニックの北陸版みたいな感じ?」
「ああ、あそこに似てるね」と言ってから先生は青葉の隣に座って声を落とし「SRS(性転換手術)もやるよ。そう高頻度じゃないけど」と言った。
「わあ」
 
「川上さんはSRSを受けられるメド付いた?」
「アメリカで15歳になったらしてくれるというところが見つかったんです」
「へー」
「そこの病院の倫理委員会の審査も通って認定証を頂きました。でも15歳にならないと予約もできないから、5月になってからですね」
 
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「ふーん、倫理委員会の審査を通ったのか・・・・」
「ええ」
 
「そちらの予約がまだだったらさ、うちで受けない?」
「え?」
「GIDの診断書2枚持ってて、アメリカで審査も通ってるんなら、15歳でも手術できると思うな。それにあなたさ」
「はい」
「Tが自然消滅しちゃったから、できるだけ早く手術しないとPとSが萎縮して、VやLを作る材料が足りなくなると思うの。そもそもTが自然消滅したということ自体、女性化が物凄く進んでいるということだし」
「あ、はい」
青葉は鞠村医師がアルファベットで省略したものが何かを考えながら聞いていた。(T=testicles 睾丸, P=Penis 陰茎, S=Scrotum 陰嚢, V=Vagina 膣, L=Labia 陰唇)
 
「これは、緊急性のあることだから、本来手術を許される年齢より早く手術する要件になるなと思ってたんだよね。ただ、あの病院じゃ、なかなかそれを上に納得させられないなという気もしてたんだけど。うちの病院なら、アメリカでそういうお墨付きもらってきたんだったら、やれるよ。ちなみにうちの手術担当医で予定している人はアメリカで何十件もSRSをやった経験があるから」
「凄い」
「3月まで今勤めている大学病院にいて取りあえず非常勤参加だけど、4月からはこちらの正式なスタッフになる」
「なんかジャストタイミング」
 
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「一応住所書いておくね。1月16日に開院予定だから、その後で1度、外来に来ない?」
「はい、伺います!」
「川上さん、英語が得意みたいだけど、それでも国内で受けた方が安心でしょ」
「ええ」
 
そんな話をしていた所で母が戻ってきて、先生と挨拶する。3人で近くのカフェに入り、先ほどの話を再度したら、母も国内で手術を受けられるなら、絶対そちらがいいと思うと言う。そこで、青葉は母と一緒に年明け、その新しくオープンする病院を訪れることにした。
 

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クリスマスイブ。市内の中学・高校のコーラス部が集まって市民会館でクリスマス会をする。中学生はお昼から、高校生は夕方4時からである。青葉たちの学校も、これに参加する。
 
1曲目は山下達郎の「クリスマスイブ」。最初の「雨は夜更けすぎに」の所はアルトがメロディーを歌い、「心深く秘めた思い」の所はソプラノがメロディーを歌う。アルトの見せ場のある曲なので、アルトの子たちが張り切っていた。
 
2曲目は「Silent Night」。1コーラス目はふつうに合唱する。2コーラス目で最初青葉がひとりで「Silent Night, Holy Night」と歌うと、それに続いて葛葉が「All is calm, All is bright」と歌う。その後は全員合唱になるが、青葉と葛葉は高音のオブリガードを歌い続ける。葛葉のソロパート・デビュー曲となった。
 
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葛葉は出番直前まで「できるかなあ」などと不安そうにしていたので、演奏が終わった後、他の1年生に「できた」「できた」と言われて、もみくちゃにされていた。
 

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クリスマス会が終わった後、青葉が帰宅すると、母がクリスマス用にショートケーキを2個買っていた。シャンメリーを開けて乾杯し、ふたりで1つずつケーキを食べた。青葉にとってはこういうクリスマスも初めての体験である。桃香たちにも電話を掛け、ハンズフリーでつなぎっぱなしにし、二元中継のクリスマス会を楽しんだ。
 
ケンタッキーのチキンとビスケットを食べる。「ケンタッキー久しぶり。そうそう。このチキン骨まで食べられるよね。どうやって揚げてるんだろ」などと言うので、母が
「特殊な圧力鍋で揚げるみたいよ。危険だから家庭ではやるなって」と答える。
「へー。でもこの味付けはコピーしてみたいな」
「うん。研究してごらん」
 
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その夜はご飯の後、お風呂に入って8時には「おやすみ」を言って自室に行く。
「あら、早いのね」
「うん、疲れたから」
 
そして青葉は本当にそのまま寝てしまった。
 

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その日青葉は彪志に「今夜は早く寝るように」とメールしておいた。夢で逢うためだ。
 
うーん。まだ寝てないかな・・・・と思いながら青葉がしばらく待っていると、少し離れた所に彪志の気配がした。よし。発見。青葉はそこに歩いて行き、ベッドに横になっている彪志にそっとキスをした。
 
『メリークリスマス』と言って彪志が目を覚ます。
『メリークリスマス』と青葉は言って、再度彪志にキスした。
 
『今夜は絶対会えると思ってた』
『うん。私ももう会える前提で色々考えてたよ』
 
『年明けたらすぐセンター試験だよね。教科多いけど大丈夫?』
『倫理を重点的にやってる。満点が狙える科目だから、合計得点で勝負のセンター試験では、うまく行けば超有利。でも大きく失敗すると辛すぎる。これは理系受験者の命運を分ける科目だよ』
 
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『数学、化学、生物は問題無し?』
『問題無し。一応毎日問題集を各々5ページはする』
『現国・古文・漢文』
『わりと行ける。要領で満点狙えるんだよね。国語って』
『英語』
『青葉〜、あとで電話するから少し教えて』
『OK。ヒヤリングの問題も出してあげるよ』
『うん。助かる』
 
なんだかその日は勉強の話ばかりしていた。年明けたらすぐにセンター試験。受験生はみな臨戦態勢である。
 
そんな話ばかりして『そろそろ起きようかな。じゃね』と青葉が言ったら『待って。まだセックスしてない』と彪志が言う。
 
『センター試験直前だけど、セックスとかしてて大丈夫?』と訊くが
『しないと、青葉のことが気になって気になって、勉強にも集中できない』
などと言うので
 
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『もう困った子ね、マイ・ダーリン』と言って彪志にキスする。そしてそのまま絡み合うようにベッドに入る。ふたりはいつの間にかお互い裸になっている。彪志が避妊具を装着した。そして青葉が濡れているのを確かめた上で、ゆっくり挿入。う・・・本当にこれ気持ちいい。
 
彪志はもう自分は青葉の身体に溺れてしまってるよなと思ったが、気持ちいいものは気持ちいい。青葉も彪志を受け入れながら、物凄く幸せな気分になっていた。大好きな彪志とひとつになれているというのが快感だし、自分が女として機能できているというのが嬉しい。そして物理的な快感も大きい。
 
彪志はその夜は少しゆっくりと出し入れを続け、10分くらい掛けて頂点に達した。ゆっくりしてもらったので、青葉も一緒に頂点に行くことができた。
 
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そしてふたりともそのまま深い睡眠に落ち込んでいった。
 
目が覚めたらもう12時半だった。でも青葉は彪志に電話を掛ける。すぐ彪志が取った。
「あらためてメリークリスマス」
「メリークリスマス」
「じゃ、ヒヤリングの問題、行っちゃうよ」
「待って待って、トイレに行って来てから」
「じゃ、準備できたら言ってね」
 
その夜はそれから1時間ほど、一緒に勉強を続けたのであった。
 

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年が押し迫ってくる。青葉は「お正月」というシステムを生まれて初めて体験した。
 
「去年まではどうしてたの?」と朋子が訊く。
 
「何もしてなかったよ。学校が休みの間は、友達から御飯とか分けてもらえないから、けっこう食うのにも苦労してたし、そんな行事とか考える余裕もなかった。貯金を少しずつ取り崩して私と姉ちゃんの食料確保してたのよね。でも気を付けてないと、お母さんが食料根こそぎ持ってっちゃうし」と青葉。
「お母さんも、青葉の持ってる食料が頼りだったのかもね」
「そうかもね。当時は恨んでたけど」
 
「じゃ、今年はまずおせち料理を覚えてもらおうかな」
「うん。頑張るね!」
 
黒豆を砂糖と一緒に長時間煮て柔らかくする。身欠きニシンを適当な大きさに切り、昆布を巻いて昆布巻きを作る。栗の甘露煮の瓶入りを買ってきてサツマイモのスライスと一緒に煮て栗きんとんを作る。
 
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はんぺんと卵を混ぜて焼いて伊達巻きを作る。レンコン・里芋・ニンジン・タケノコに鶏肉・こんにゃく・絹さやと煮て、筑前煮にする。赤・緑の寒天を買ってきて、缶詰のミカンを入れてミカン寒を作り、また白寒天と赤寒天を二層にして紅白の寒天も作る。
 
初体験のものが多いので、青葉は「面白ーい」などと声をあげながら、ひとつひとつの料理を作っていった。
 
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春歌(7)

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