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■春歌(3)

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「青葉や冬子さんはもしこの付近で生まれてたら、男踊りじゃなくて女踊りを覚えてましたよね」と美由紀が言うが
「覚えるのは両方覚えたと思う」と冬子。
「祭りでは女物の浴衣を着て、女踊りをしたろうけどね。ね。両方踊れる人、けっこういますよね」と言うと、
 
「あ、踊ってみせようか」とお母さんの友人夫妻の旦那さんの方が立って踊り始める。オーナーさんが胡弓を弾く。
 
最初は直線的な動きの多い男踊りだ。跳ねる動作、かかしのように片足で立つ動作、さらにはサービスでトンボ返りもしてみせる。手の動きがピシッ、ピシッとしていてとても男性的で格好いい。しばらく踊ってから、
「じゃ、性転換しまーす」
と一言言うと、踊りが突然女性的になった。
 
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柔らかな手の動き、身体の動き、しなやかで曲線的な女踊りである。何だか色っぽい!
 
「えー!?」と思わず美由紀と日香理が声を挙げた。
 
「日常的な動作でも、男っぽい動作・女っぽい動作って、けっこう頭で考えて演出したりもできるもんなんだよね」
「考えればできるけど、習慣になってる部分もありますよね」
 
「うん。宝塚の男役の人とかも男性的な仕草が身についてるから、つい出ちゃう時があるなんて言うしね。私や青葉みたいな種族は、だいたい小さい頃から女の子意識があったから女の子の仕草ができるけど、青葉は特別として私みたいに女性志向をある程度の年齢まで隠してた子は、男の仕草と女の仕草の両方ができる代わりに、うっかり男の仕草が出ちゃう場合もあるね。特に疲れている時は危ない。そういうのを恋人に見られると『こいつ、やっぱり男か』なんて思われるから要注意だよ」
と冬子は笑いながら言っていた。
 
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「ケイさん、踊ってみます?」と今踊った人。
「やってみようかな」
と言うと、冬子はまず歌に合わせて女踊りを踊る。通常の「平唄」なので、比較的シンプルな踊りである。
 
「凄い凄い。練習したことありました?」
「いえ、踊りは初めてですよ」
「さすがプロ歌手ですね。振り付けをすぐ覚えられる」
 
続けて同じ平唄で男踊りの方も踊ってみた。
「ほんとに要領よく覚えちゃいますね」
「私、民謡に関しては8割歌手って、新潟の民謡教室の先生に言われました」
と冬子。
「8割?」
 
「どんな民謡聴いても、私ってすぐそれを真似して歌っちゃうんです。素人が聴いたら一発でコピーできたように聞こえるけど、その民謡知ってる人の耳には8割の出来に聞こえるって」
「ああ、でも8割できたら大したもんですよ。だけどその8割と10割の差が分からない自称民謡の達人ってのも、この世界には多いんですよ。真顔で私は全国の民謡を200種類歌えるとか言う人がいますから。おわらだって、佐渡おけさだって、モノにするには最低でも4-5年は掛かりますよ」
「そうでしょうね」
 
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「でもこの踊りなら、青葉ちゃんたちもすぐ出来るでしょ」
「8割踊りですね」
「そうそう。やってごらんよ」
と言うことで、青葉・美由紀・日香理も少しずつ教えてもらいながら踊ってみた。
「あ、何となく行けた!」
 
その場で輪になって、オーナーさん、オーナーの妹さん、冬子、青葉たち3人で「輪踊り」の形でしばらく踊った。何だかそんなところも観光客に写真を撮られる!
 
そして、その夜最後の街流しでは、冬子も青葉たち3人もお母さんの友人夫婦の後について踊りながら30分ほど町を歩いたのであった。むろん、冬子も青葉たちも女踊りであった。
 
「この瓢箪(ひょうたん)の唄ってのが、おしまいだよという合図なんですか?」
「そうそう。♪浮いたか瓢箪、軽そに流るる。行先ぁ知らねど、あの身になりたや。これでおしまい、という合図」
「面白いですね」
 
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「ああ、私も流れる瓢箪になりたいなあ」と突然日香理が言った。
「世の中、自分の意志で切り開いていかないと行けないことが多いけど、時には流されるままってのも、ある意味楽だよね」と美由紀。
「まあ、いつもフルパワーで頑張ってたら、すぐ力尽きちゃうもん。いざって時に頑張れるように、普段は流れ任せってのもありだと思うよ」と青葉。
 

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翌週9月10日の土曜日。また青葉は金曜日の晩の長距離バスを使って岩手に行った。先々週行った時は彪志の模試とぶつかったので会うのを遠慮したのだが、今回は彪志の学校が10-11日の2日間文化祭ということで、仕事が早く終わったらそちらに行こうと言っていたのだが、うまい具合に11日の午後2時頃に仕事は片付いたので、いつものように慶子に一ノ関まで送ってもらい、彪志の学校に行った。
 
さて、彪志はどこに居るかな? 青葉は校門をくぐった所で、目を瞑って彼の波動を探した。「生きてる人」を探すのは、青葉は大得意である。「こっちだ」
と小さく呟くと、体育館の方に歩いて行く。今日は彪志が学生服を着ているだろうからと思い、それに合わせて自分の学校の制服を着ていた。
 
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中に入ると、舞台では何か演劇が行われていた。青葉はほとんど迷わずに歩いて行って、やがて男女数人のグループがいるところで彪志を肉眼で見つけた。すぐ後ろまで行き、肩をトントンとする。
 
「わ、青葉。気付かなかった」と彪志。
「お邪魔して済みませーん」と笑顔で青葉は周囲の子たちに挨拶する。
「誰?妹さん?」
「彪志の彼女です。初めまして」
「わあ、可愛い彼女。あ、こないだメールしてた相手ね」
「あ、うん」と彪志は照れている。
 
結局青葉がそのグループの会話の輪の中に入る形になったが、あれこれ訊かれる。
「中学生? でも見たことない制服」
「今富山県に住んでるんです。今年の3月までは大船渡に住んでいたんですが」
「ああ、震災で引っ越したのね」
「ええ」
「富山県じゃ、凄い遠距離恋愛になっちゃったね。こちらへは時々来るの?」
「ええ。ちょっと用事があって月に2回来てます」
「じゃ、月に2回会えるんだ?」
「先々週は会えなかったんですよね。彪志さん模試だったから。今回は1ヶ月ぶりです」
 
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「キスした?」
「はい」と青葉は笑顔で答える。
「セックスした?」
「はい」と青葉はこの質問には少し恥じいりながら答えた。
「わあ、進んでる!」
彪志は頭を掻いている。
 
一緒にいた集団の特に女の子たちから「詳しく聞きたい」などと言われ、みんなで模擬店の喫茶店に移動した。
「彪志、彼女の分はちゃんと出してやれよ」
「そりゃ出すよ」
 
「ちゃんと避妊してる?」
「ええ、彪志さん、ちゃんと付けてくれます」
「でもどこでセックスするの?」
「私の家で1回、お友達の家で1回、列車の中で1回しました」
「列車の中って大胆」
「夜中だから車掌さん、回ってこなかったし」
「あ、車掌さんは『やってるな』と思ったら、そこ飛ばして検札とかは後回しにするらしいよ」
「現場見たくないもんね。車掌さんだって」
 
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「あと2回、夢の中でしました。こちらが気持ち良かったかな」
「夢の中か。確かにそちらの方が気持ちいいかもね」
「夢の中だと妊娠の心配も要らないよね」
「でも彪志さん、ちゃんと付けてくれましたよ」
「へー」
 
「いや、その夢ってのが俺も同じ夢を同時に見てるの」と彪志。
「えー?」
「俺と青葉はしばしば同時に同じ夢見てて、この1ヶ月の間にも5回夢で逢ってるんだよね」
「じゃ、彼女が鈴江君とセックスする夢を見ている時は、鈴江君も彼女とセックスする夢を見てるんだ?」
「うん。別にセックスばかりしてる訳じゃないけど」
「ええ。だいたいおしゃぺりして時間を過ごすことが多いです」
 
「不思議な縁があるんだね」
「鈴江君、霊感あるからかな」
「青葉の霊感がまた半端ないから」
 
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「へー、霊感強いんだ。ね、ね、私の守護霊誰だか分かる?」とひとりの女の子。青葉はその子を見ていたが
「守護霊さん、3人いるけど中心になってるのは、お姉さんじゃないかな。生まれる前に亡くなってる」
 
「凄い! ほんとに私の前に流れちゃった子がいたらしいのよ」
「その人が、生まれてこれなかった自分の代わりに、自分の妹を守ってあげているみたい」
 
「ね、ね、私の守護霊さんも見て」
 
などという感じで、彪志と青葉の関係の話から、いつしか霊視大会になってしまった。
 
1時間ほどのおしゃべりの後で、やっと解放してもらって彪志とふたりで校内を散歩した。やがて校舎の裏手の倉庫のかげで座って話をする。
 
「何時の列車で帰るんだっけ?」
「一ノ関駅を18:06のはやて。ここを17時には出なくちゃ」
「じゃ、30分くらいおしゃべりできるね」
「うん」
 
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「お勉強はちゃんとしてる?」
「うん。先々週の模試の結果はまだ出てないけど、かなりの手応えがあった」
「頑張ってね」
「かなり先だけど、青葉はどこの大学に行くつもり?」
「私は地元の富山大学か金沢大学だと思う。お母ちゃんのそばに居たいんだ」
「青葉にとって初めての家族だったろうしね」
「・・・・うん」
 
「俺は多分、東京近辺に住むと思うんだ。その時は出て来てくれる?」
「もちろん。結婚したら彪志と同居するよ」
「お母さん、寂しがるかな」
「それまで10年間、親孝行するつもりだから」
「うん」
 
もうそろそろ時間というところで周囲に目が無いよなと思ってキスをした。でもキスを終えたところで数人の生徒に拍手をされた。
 
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「あ、鈴江君、富山県から鈴江君の彼女がひとりで来てるって言ったら、小野寺先生が駅まで送ってってあげるって」
「わあ、それはありがたい」
 
小野寺先生のタントの後部座席に乗せてもらい、一ノ関駅に向かった。
 
「あなた、ひとりでいつも来るの?」
「ええ。地元の大船渡に用事があるので来るのですが、その帰りに一ノ関に寄って鈴江君と会っています。でも先々週は模試だったから会えず、今度の25日も模試だし、来月上旬の連休は連休明けに中間試験だから遠慮して、結局、次会えるのは10月下旬の連休です」
 
「遠いとそんなものよね−。ふだんはメールや電話?」
「ええ。鈴江君の携帯から私の携帯に掛けた通話は月390円で定額なので、しばしば夜中につなぎっぱなしにしたままお互い勉強してます」
「うんうん。スカイプは使わないの?」
「寂しい時は使いますけど、スカイプで顔見ながら話してると、お互い勉強も停まっちゃうから、週に1度、原則1時間ってことにしてます。鈴江君の受検が終わるまでは」
「そうね。今は勉強優先だよね」
 
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「大船渡で被災して家族みんなで富山に引っ越したの?」
「あっと・・・」
「先生、青葉は震災で家族をみんな亡くしたんですよ。お父さん・お母さん、お姉さん、お祖父さん、お祖母さん、5人亡くなったんです」と彪志。
「きゃー」
「それで、知り合いのお姉さんが私を保護してくれて。そのお姉さんのお母さんに後見人になってもらったんです」
「そうだったの。大変だったわね」
 
「だから、私にとっては鈴江君は一番の親族みたいなもので」
「正式に婚約した訳じゃないけど、双方の家族に交際を認めてもらってるし、俺も青葉とは将来結婚するつもりでいます」
「そうだったの。大事にしてあげてね」と先生。
「はい」と彪志。
「でも受検勉強も頑張ってよね」と青葉。
「うん」
 
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駅で先生に御礼を言って一緒に下りて、彪志は入場券を買い、一緒に中に入り、新幹線ホームまで行った。
 
「彪志のお友達も、先生も私の性別には気付かなかったみたい」
「青葉は女の子だろ?」
「うん」
「みんな、その通り女の子だと思ってたんじゃない?」
「そうだよね」
「自分の性別について不安がるのはやめようよ。もう青葉は年齢誤魔化してでもさっさと性転換手術受けちゃった方がいいな」
「そうかもね・・・・ほんとに誤魔化して受けちゃおうかな」
「それかいっそ自分で手術しちゃうとか」
 
「できないこともないとは思うけど、できたら手術経験のあるお医者さんにやってもらいたい。それに自分で自分を手術している最中に万一意識を失ったらやばすぎる」
「確かにすさまじくやばいね」
 
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「でも青葉って何でもできるね。注射もうまいし」
「それ医師法違反だから」
「車の運転もうまいし」
「それもナイショにして。18歳になったら免許取りに行きたいから」
「飛行機の操縦もできたりしない?」
「さすがに自信無いなあ」
 
やがて新幹線が入ってくる。青葉はまわりの目は無視して、すばやく彪志にキスをすると、笑顔で手を振って列車に乗り込んだ。
 

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