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■春備(1)
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「え?ソフトボールって元々は室内スポーツだったんですか?」
と歩夢(遙佳の妹)が訊いた。
「そうそう。元は冬の間の野球練習用に、体育館でボクシングのグローブをホウキの柄で打って遊んでいたのが始まり。だから最初はインドアベースボールと言った」
と真珠が答える。
「ホウキで打つのか」
「ホウキに乗って空を飛べばクィディッチ(quidditch)になるけどね」
「ああ、ハリーボッターでやってたね」
「普通の人は空を飛べないからプレイ困難だな」
「きっとモップで遊んでた人たちがカーリングを考案した」
「でもなんでホウキで空を飛ぶんでしょうね」
「乗り心地悪そうなのにね」
「ドラえもんでしずちゃんが文句言ってたね」
「痛いよね」
「昔の人形劇か何かで電気掃除機で空を飛ぶ魔女が出て来たな」
「それは電源の確保が課題だ」
「長ーーい電源コードつなぐ必要があったりして」
「プロパンガスボンベと発電機積んでるんだよ」
「もはや飛行機の一歩手前だな」
「ジェットエンジンとケロシン積んでたりして」
「アフターバーナー吹かして音速越えたりして」
「おお。ソニックブームが」
「夜間飛行禁止になったりして」
「夜中にサバトやろうとしても夜間飛行禁止で誰も集まれない」
10月、ひとみの学校でも立山きららの“1人男女デュエット”が話題になっていた。
「あれひとみちゃんもできない?」
「できると思う」
といって、やってみせる。
(男声)
おお、きらめき。あなたのおうちはどこ?
(女声)
私のおうちは、とやまなのよ。深い山の奥にあるの。
(男声)
やっほー。デーデレコデン、ヤッホ、デデレコデン。
(女声)
やっほー。デーデレコデン、ヤッホ、デデレコデン。
(男声)
やっほー。デーデレコデン、ヤッホ、デデレコデン。
(女声)
やっほー。デーデレコデン、ヤッホホ。
「すごいすごい」
「デデレコデンってどういう意味だっけ」
「それは富山民謡の『こきりこ節』から来てるんだよ。きらめきちゃん富山県出身だから」
と言って歌ってみせる。
「こきりこの竹は七寸五分(ななすんごぶ)じゃ。長いは袖のかなかいじゃ」
「まどのサンサもデデレコデン、はれのサンサもデデレコデン」
「よく知ってるね」
「うちのお父ちゃんが富山の出身だから」
「へー」
「サンサって何?」
「特に意味は無いと思う。ただのハヤシ言葉だよ」
「オノマトペっぽい」
「ササラの音かもね。竹の板を多数紐でつないだ楽器」
「デデレコデンは太鼓っぽい」
「かなかいは?」
「邪魔になるということ」
「なるほど」
「七寸五分って何センチ?」
「23cmくらいだね。7.5×3.03。こきりこは2本の竹の棒を持って踊るんだよ。それが長すぎると邪魔になって踊りにくいということ」
「その棒の長さを歌に歌い込んでいるわけか」
「煌ちゃんの生まれた村は今では冬でも行けるけど50年くらい前までは冬になると村に通じる全ての道路が雪で通行止めになって半年間村に出入りできなかったらしい」
「凄い場所だね」
「よくそんな所で人間が生きて来たね」
「近くに湖を渡る船でしか行けない温泉、大牧温泉とか、合掌造りで有名な白川郷とかもある」
「秘境っぽい」
「船でしか行けない温泉ってサスペンスドラマに出て来たかも」
「推理ものの舞台としては魅力的だよね」
「きらめきちゃんは山の中の南砺(なんと)というところだけど、うちのお父ちゃんはそこから海のそばまで降りた高岡ってところ。大伴家持(おおとものやかもち)とかが居たところ」
「おお。歴史上の人物名が」
「春の苑(その)。紅におう桃の花、下照る道に出で立つ少女(おとめ)」
「おお」
「ああ、その歌歌った人か」
と何人かこの歌は知っていたようである。
「可愛い女の子がいたのね。口説いたのかな」
「というか帰宅したら奥さんが道まで出てきて『お帰りなさい』と言ってくれたのを読んだんだよ」
「おとめって奧さんだったのか!」
「可愛い奧さんだったのね」
「仲良かったんだろね」
礼音は宮下マネージャーと一緒に仕事をすることが多いのだが、登山の類いは体力の問題で本来はアクアのマネージャーである山村さんと一緒に行動する。礼音はある時彼に訊いてみた。
「以前リズムちゃんのシングルのMVでアクアが7人出てくるのあったでしょ?あれどうやって撮影したんですか?」
「あれは俺も困ったんだよ。アクアは2人しか居ないし、危険なシーンとかの吹き替えに使っている代理のカブまで入れても3人しか用意できないし」
ああ、アクアには葉月さん以外にも吹き替え役の人が居るんだなと思う。アクア映画にはスタントマンがやったとしか思えない凄いアクションシーンが時々ある。そういうのを担当する、容貌が似ていて身体能力の高い人が居るのだろう。3mの壁を乗り越えるとかあったし。
(残念!3mの壁を乗り越えるシーンを演技したのは本物のアクアM。アクアは黒鳥の32回転を踊れるように結構運動神経が良い。東尋坊で20mの崖から海に飛び込む(東雲はるこの代理)とか、天守閣の上から川に落下する(落差25m)とかの演技をやったのがカブ。天守閣から川に落ちるシーン撮影を見学した信濃町ガールズの新人たちが「ああいう演技もするんですか?」とビビっていた!)
「仕方無いから人間に化けるのがうまいイタチの男の子を7人集めてさ」
「いたち?」
「身体の小さなメスを使いたかったけど、あいつら全然人の指示を聞かんから、若いオスを使った。性転換手術して女に変えてやるぞと言ったけど、遠慮しますと言うから男の身体のままでセーラー服着てもらった」
やはりそっくりさんを7人使ったのかな。化けるって、メイクでアクアっぽく見えるように調整したのかも。もしかしたら少年探偵団で使ってるみたいな変装用マスクとか使ったのかも?
ところで今年の年末年始§§ミュージックの年越しネットライブは次のようにおこなわれた。
午前中 川泉パフェ・月城たみよ・広瀬みづほ・生駒クリス・上杉ユリア・麻生ルミナ・原町カペラ・花咲ロンド・川内みねか・ツイストクリーム・ピーチ&マロンなど
12:00 金風
13:00 立山煌
15:00 ロマン&ポルカ
16:00 恋珠ルビー
17:00 薬王みなみ
18:00 常滑真音
20:00 ラピスラズリ
22:00 Δ△
23:00 白鳥リズム
0:00 アクア(〜2:00)
今回、アクア・常滑真音・ラピスラズリ・立山煌の4組が2時間割り当てられた。
今回午前中の“プレステージ”を除いてお昼からの“本番”トップバッターを務めることになった金風とはヴァンドオ(vent d'or)のことである。
海浜ひまわりが
「あんたたちフランス語より日本語で言ったほうが格好良くない?」
と言ったので、漢字で書いてみた。今回は瀧廉太郎の『花』に始まって唱歌を1時間歌った。次のアルバムで音源化する予定である。
「え〜!?ぼく2時間歌うんですか?」
と予定表を見て、煌は言った。
「普段のライブでも2時間歌ってるでしょ」
と千里は言った。
「そうか。それと同じか。幕間ゲストとか誰か入れるんですか」
「アクアのライブでは、葉月のピアノでクラシック曲の演奏、トルコ行進曲・小犬のワルツ・ハンガリー舞曲、舞音ちゃんは信濃町オーケストラの童謡演奏、雨降りお月さん、月の沙漠、鞠と殿様、ラピスラズリはラピス第3のメンバーである鹿野カリナが洋楽カバー、そして立山煌の幕間は立山きらら」
「は?」
「きららちちゃんがゲストで出て来て歌えばみんな喜ぶよ」
「喜ぶかもしれないけど、ぼくは結果的に2時間休み無しですか」
「きららちゃんが歌っている間に休んでいればよい」
「無茶言わないでください」
「それで、きららちゃんを用意しといた」
と言って千里がカーテンを開けると、そこにドレスを着た“きらら”が立っていた。彼女は可愛く『こだまの記憶』を歌った。
「ぼくに良く似てますね。歌もうまいし声質も似てる。この人に幕間を歌ってもらうんですか」
彼女はかなり上手い。しかしそっくりさんにステージを代理させるというのは、ぼくが出るからチケットを買っている人たちへの信義に反するのではないかと思った。しかし千里さんは言った。
「何か勘違いしているみたいだけど、この子はそっくりさんとかではない。礼音ちゃんのコピーだよ」
「コピー!?」
「何なら裸にしてしらみ潰しに調べてみるといい。全部礼音ちゃんと同じだから」
「え〜!?」
「もちろん、ちんちんも付いてる。出番前に性転換手術受けさせてもいいけど」
「そんなことはしないでください」
礼音は彼女に極めてプライベートなことを幾つか質問した。彼女は全てに正しく答えた。
「どうやって人間のコピーなんて作るんです?」
「方法は秘密。但し人間のコピーは通常1年程度しかもたない。寿命が尽きると灰のようになって消滅する」
「うーん・・・」
「礼音ちゃんのビデオと彼女のビデオは誰にも区別できない。元々同じだから」
「でしょうね」
「そっくりさんとかではなく、礼音ちゃん自身が歌うのなら問題無いでしょ?」
「そうですね」
彼女の名前は礼音ちゃんが付けてあげてというので礼音は彼女に“くらら”という名前を付けた。
「前半歌った煌が山小屋に入る。その小屋からドレスを着たくららが出て来て3曲ほど歌う。その間に煌は後半の衣裳に着替え、喉を潤したりする。くららが歌い終わって山小屋に入る。そこから煌が出て来て後半の歌を歌う」
「見てる人は早変わりと思うでしょうね」
年末のライブはそのようにして実行されたのである。ただしくららの衣裳はドレスではなく女子高制服風の衣裳となった。
もっともファンから「きららちゃん2時間休み無しで歌うのは可哀想です」という抗議のお便りが何通かあったので、次回からのライブでは同じ富山県出身の麻生ルミナや越中トライアングルの3人(紺青セイラ・富山シール・有磯ポルト)が幕間を務めた。また、きららのステージを見たい人のため、前半と後半を煌ときららで分けるようにした。
2022年の年末長時間ドラマ『The天下』の視聴率が微妙であったことから2023年は年末の大型時代劇は製作されず、代わりに新人信濃町ガールズ12人が出演するコメディ映画『お江戸舞妓サンズ京都に行く』が製作された。
12人の舞妓が江戸から京都へ行くが1人ずつ死んだり行方不明になって居なくなっていくというストーリはありがちな話だとは言われたが、充分楽しんでもらえたようで視聴率も良かった。誰が最後まで残るかは出演者にも知らされておらず生き残ったメンバーは「最後まで残るとは思わなかった。びっくりした!」と言っていた。逆に最初にド派手に死ぬ役を演じたビデオガールコンテスト優勝者の生駒クリスは「あんたオーディション1位だったから最初に死ぬ役やらせてあげるね」と言われて「そんなあ」と思ったと言っていた。
多くの子は“消え方”は本人の希望をできるだけ取り入れたので、雪崩とか渦潮に巻き込まれたり、大統領に選出されたり、白馬の王子さまと結婚したり、キャデラックに乗ったプレイボーイにナンパされたり、クジラに飲み込まれたり、と色々であった。
それで2024年末は再び新人信濃町ガールズ12人を使って『博多舞妓サンズ金沢に行く』が製作され、またとても高い視聴率だった。
「来年は仙台から札幌だな」
「津軽海峡はどうするんです?」
「もちろん泳ぐ」
「舞妓の衣裳でですか!?」
「全員死亡したりして」
「そして誰もいなくなった、だな」
2024年の関門海峡は親切なお姉さん(高崎ひろか)のガイドで歩道トンネルを歩いた。みんなこういうトンネルがあったのかと感心していた。
§§ミュージックタレント総出演から新人の映画に転じた最大の要因は製作する10月に1ヶ月にもわたり、150人近いタレント全員のスケジュールを押さえるのが不可能になったことが最も大きい。アクアや舞音・煌はいつも忙しいし、レギュラー番組を持っている信濃町ガールズが増えている。
また、あけぼのテレビグループも1日たりとも休むことができない。鈴鹿あまめや夕波もえこが居ないと放送自体が成り立たない。
「制作費も桁違いだしね」
とゆりこは言っていた。大型時代劇は10億円規模の費用が掛かっていたが、舞妓サンズの番組はわずか数千万円でできた。敵役・悪役などで“暇な”信濃町ガールズやトラフィックのメンバーはほぼ全員出ていたし!
それに元々時代劇なんてほとんど男役なのに、それをほとんどが女子という§§ミュージックのタレントにやらせることに根本的な無理があった。
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