[携帯Top] [文字サイズ]
■春備(4)
[*
前p 0
目次 #
次p]
1月19日(日)。金沢の芳雄がまた男子制服を着て街で“冒険”していたら、同じ学校の女子制服を着た子と一瞬目が合った。
「あちゃあ、こういう格好をしてる所知ってる子に見られたか。まあいいや」
と思ったのだが、芳雄は最初相手が誰か分からなかった。
「もしかして・・・神谷君?」
「寺下さん、そういう格好似合うね」
「神谷君もそれ似合ってる」
「ね、一緒に映画見に行ったりしない?映画代、私が出すから」
と神谷君が誘う。
「いいよ!」
それで芳雄はその日女装のクラスメイトと一緒に『サンセット・サンライズ』を見に行って、逆転デートをしたのであった。神谷君はチケットを買う時は、性別曖昧なささやき声を使っていた。また神谷君が映画代を出してくれたので、芳雄はポップコーンとかハンバーガーとかを買った。芳雄は12月にお父ちゃんが来てお年玉をくれていたので懐に余裕があった。なおトイレは彼は女子トイレを使っていた。芳雄はもちろん男子トイレを使った。
「寺下さん、男の子名前とかあるの?」
「ぼくは芳雄。神谷君、女の子名前は?」
「照代」
なおふたりはこれは友だち同士の付き合いで“恋愛要素無し”ということで同意した。
「だって同性同士だし」
と神谷君。
「そうだね。同性同士だし」
と芳雄。
“同性”の意味がお互い違う気もしたが、まあいいや。
オーリンが彼に興味持ったかもしれないけど、知らん!
「ん?誰かぼくの名前を呼んだ?」
などと言ってオーリンがねぼけ眼に傘を差して歩き出すと、派手に黒人の女の人と衝突した。
「Sorry」
とオーリン。
「ごめんねー」
と女の人。
「ダメだ。今日は調子が悪い。うちに帰って寝よ」
とオーリンは思った。
「嘘!?なんでこんなものが付いてるの?」
と(元)女性は言った。
「面白い。それで僕の穴を突いてよ」
とパートナーは言った。彼は先日“電話を掛ける”までは男だった。
「あんた妊娠するかもよ」
「その時は産んであげるから」
「ほんとに妊娠しても知らないよ」
芳雄と神谷君が映画を見た後、一緒に街を歩いていたら
「あれ?芳雄君だ」
と声を掛けられる。芳雄は今日は何て日だ?こんなに知り合いに遇うなんてと思う。今朝のテレビの運勢、乙女座は12位だったからなあと思った。
「あ、千里おばさん。こんにちは」
父ちゃんの“奧さん”だった。
「お友達?」
「はい、お世話になっています。神谷と申します」
と神谷君が挨拶する。
「もしデート中なら無粋だけど、君たちお昼は食べた?」
「いえ。デートとかではありません。同性だし」
と芳雄。
「確かに同性というか“類友”みたいね」
と千里さん。
千里さんの言う“同性”の意味がまた違うし!
でも千里さんは一瞬で神谷君の性別も見抜いていたようだ。神谷君は充分パスしてると思うのに。
「君たちお邪魔じゃなかったら、ごはんおごろうか」
「はい、いただきます」
それで、芳雄たちは千里さんに連れられてカラオケ屋さんに入った。
「君たち好きなの頼んでね」
それで芳雄はサンドイッチ、神谷君はピザを頼んだ。
「君たち適当に歌ってね」
と言って千里さんがリモコンを神谷君に渡した。
「発声法の練習に歌はいいんだよ。会話の声より歌の声のほうが、男の声、女の声を出すの、出しやすいから」
「練習法は色々あるけどみんな言ってるのは『ある日突然出た』というんだよね」
「あ、それは聞いたことあります」
「20歳頃までにたくさん、女声を練習するといいよ。今は理解のある会社も多いから声が何とかなれば女の子として就職できるかもよ」
「頑張ります」
「千里おばさん、こちらはお仕事ですか?」
「うん。能登支店で呼ばれてちょっと来た」
「ああ、全国企業ですか」
と神谷君が訊く。
「うちの会社は北海道起原の会社と栃木起原の会社と兵庫起原の会社が合同したんだよ」
「へー」
「どこも後継者が居なくて『あんた社長やって』って押しつけられた」
「わっ、社長さんでしたか」
「ほぼ名前だけだけどね。仕事は社員たちが勝手にやってるから」
「へー」
千里の主な仕事は“両替”である。日本円でもらった代金をお酒に交換する!千里は“交換レート”がいいらしい。
2人はごはんを食べながら2時間ほど歌った。芳雄は男性歌手の歌、神谷君は女性歌手の歌をたくさん歌っていた。
そろそろ帰ろうかという時、神谷君は言った。
「私ここで着替えて帰ろうかな。こういう格好してると、お母ちゃんが不愉快みたいだし」
「いいんじゃない?芳雄君、君も着替えるといい」
「はい」
それで2人とも着替えた。
芳雄は言った。
「そうだ。祖父母の家、ほんとうは千里おばさんが建て直してくださったんでしょ?ありがとうございます」
「災害の時は助け合いだよ。私は材木屋さん経営してるから。あの家は安い材料使ってるから実はあまりお金掛かってないんだよ。50年住む家でも無いだろうし」
「そうですね。50年は使わないかな」
それで男の服に戻った神谷君と女の子の服に戻った芳恵は千里さんと一緒にカラオケ屋さんを出た。
お弁当のアイゼン、バイトさんたちの会話。
「金沢市内に不思議なカラオケボックスがあるらしい。そこに男女のカップルで入って2時間ほど歌って出てくると、男女が逆になってるんだって」
「男の子になりたい女の子を捕まえないといけないな」
ひとみの母は言った。
「紙の健康保険証が廃止されてマイナンバーカードに統一されるのよ。あんたのマイナンバーカードも申請したいから、その前に戸籍の性別を変更しようよ」
「春くらいまで待ってくれない?」
「いいけど」
オーリンはひとみに言った。
「ひとみちゃん、もうそろそろ戸籍の性別を変更しようよ。気が向いたらこれに記入して、ここにお母さんの署名もらって、この封筒に入れて机の上に置いといて。ぼくが全部手続きしとくから」
それで彼女は“性別訂正届け”という紙をくれた。
ぼくどっちみちもう法的には女の子にならないといけないみたい、とひとみは思った。
まあいいか!
ぼく女の子でも何とかやっていけそうな気がするし。
幼稚園の頃「将来何になりたい?」と聞かれて周囲の女の子たちが
「およめさん」
とか言うからぼくまで
「およめさん」
って言っちゃって
「うん。こうちゃんはきっとおよめさんになれる」
とか言われたなあ。
「こうちゃんやさしいから、いいおよめさんになるよね」
手毬はひとみの部屋で“性別訂正届け”という紙を見た。親権者欄以外は記入済みである。
「ごっこかな?」
などと言って微笑み、手毬は親権者欄に署名して、封筒に入れ机の上に置いた。
その日オーリンは芳雄の部屋に出て来て
「お腹空いたぁ」
というので、芳雄はシルベーヌのファミリーパックをあげた。
「ありがと。これも好き」
と言って食べている。
「オーリンって相手の性別を変える前に必ずその人と握手したりするよね」
「肌の接触が生じることで相手の構成中枢のパスワードをゲットするからね」
「ぶつかつただけで性転換させちゃうのは?」
「あれは暴走状態の時。お酒に酔ってたり半覚醒だったり」
「子供がお酒を飲んではいけない」
「ぼくは飲まないけど、お姉ちゃんのアイン・ゾフやアイン・ゾフ・アウルが飲むと、ぼくら三姉妹は体液を共有しているからぼくまで酔う」
銀色姉妹のソフィアが食事をしなくても生きているのも同じ原理である。
「万一妊娠中の女性を性転換させたらどうなるの?」
「妊娠中および1歳未満の子供がいる場合は赤ちゃん保護のため性転換は作動しない。赤ちゃんが生まれて1年後に自動的に男に変わる」
「へー」
1月20日(月)、春貴はPHVのアクアを受け取った。それで自宅の充電プラグで充電してみたのだが、日常の買い物やプールなどへのお出かけでは全くガソリンを使わず充電した電気だけで済んでしまうので、凄いと思った。しかもその電気は太陽光パネルが作っているのだから、原価ゼロである!ガソリンを使うのは遠出する時だけということになりそうである。
1月24日(金)の霊界探訪では、各地の初詣、鏡開きの様子、煌と行った佐世保(美しき天然・眼鏡岩・世界最古の土器が出土した洞窟、福石観音、七ツ釜鍾乳洞、西海橋、針尾無線塔、ハウステンボスなど)、定点観測、ドイルの妊娠レポート(4ヶ月)などをレポートした。
七ツ釜は這って進む所をヘッドカメラで撮してレポートしたが
「凄い場所だ」
と結構な反響があった。
「探検ですね」
と遙佳が言っていた。
また佐世保のお菓子“九十九島煎餅”と佐世保独楽の視聴者プレゼントをした。
1月27日(月)、真珠と邦生は人工授精をおこなった。邦生の冷凍精液を1本解凍して真珠の子宮に投入した。順調にいけば10月に赤ちゃんに会えるはずである。
1月29日、青葉は“5ヶ月目の戌の日”なので、腹帯を着けた。明恵がしっかり撮影していた。1月20日から5ヶ月目にはいっていた。
P高校の理事長は南田設計士に相談した。
「今野球場の工事のために設置している仮の屋根ですけど、あのレベルでいいからテニスコートにも屋根を付けてくれないかという声があるんですが。コート自体はクレイコートですが、雨に強いアンツーカーです」
「ああ。だったら、帆布では強い雨が降ると無力だから、テーフルクロスみたいな、ビニールコーティング生地を使いましょうか。どうしてもコーティングが剥がれるから10年くらいで再塗装するか張り替える必要はありますが」
「それでいいです!」
野球場の屋根取付の余った予算を使うので安いほうがいい。
テニスコートは野球場の後でその方式で屋根が付けられることになった。野球場の屋根は高さ80mであるが、テニスコートは14mで造ることにした。材料費が安いので、費用は技術料のみで1面あたり1000万円程度、これに壁も付けて3000万もあれば充分ということであった。4面分お願いし、一面ずつ進めることにした。これは工事中も他のコートは使えるようにするためである。
高岡P高校、野球部専用グラウンドの屋根取付工事だが、1月16日にまた1/5、1月30日に1/5設置され、もう3/5くらいまで、できてしまった。
理事長は南田設計士が「半年あれば充分」と言っていたのを思い出した。理事長は“4月から半年”と思ったのだが、実は打ち合わせした11月から半年で5月くらいまでにできたりして!?
その日芳恵はクラスメイトのゆりちゃんの傘に入れてもらって、神谷君はやはりクラスメイトの佐藤君の傘に入れてもらって、バス停のほうに歩いて行っていた。曲がり角で、芳恵と神谷君がぶつかった。
「ごめん」
「ごめん」
「ね?佐藤君どっち行くの?」
「僕は金沢駅方面。森田さんは?」
「私は野々市駅方面」
「じゃ」
ということで、芳恵と神谷君は入れ替わった。芳恵(芳雄)が佐藤君の傘に、神谷君(照代)がゆりちゃんの傘に入った。
「寺下“君”、こないだ男子制服着てる所見た。わりと似合うね」
「えへへ。お父ちゃんが買ってくれたんだ。そのうち学校にも着て来ようという計画」
「いいと思うよ!」
「立って小便するのはできるようになった」
「すごいじゃん!」
「神谷“さん”、こないだスカート穿いてるところ見た。可愛いじゃん」
「学校の女子制服もメルカリで落とした。今女の子っぽい声を出す練習中」
「へー。頑張ってね」
少し歩いてから佐藤君が呼びかけた。
「森田さーん、良かったら傘を交換しない?」
ゆりは自分が持っている傘を見てから
「そうだね」
と言って彼と傘を交換した。
お弁当のアイゼン、バイトさんたちの会話。
「雨の日に男の子と女の子が傘差して歩いてるんだって。それで曲がり角でぶつかると男女入れ替わるらしい」
「『転校生』型だな」
「傘を差しているというのが目新しい要素だな」
「ついでに傘の模様も入れ替わるらしい。男の子が持ってた傘は女の子が持ってた傘の模様になり、女の子が持ってた傘は男の子が持ってた傘の模様になる」
「複雑な交換が起きてるな」
芳雄はオーリンを呼んで言った。
「まずこれをあげるね」
「おお、これはチョコパイではないか」
「期間限定の甘王入りだよ」
「何か頼まれそうだけど、食欲には勝てん。もらうね」
「どうぞ」
「いただきまーす」
と言って美味しそうに食べている。
「それでさ、ぼくのクラスメイトの近藤さんが、こないだの雨の日からおまたに変な物ができて困ってるらしいんだよ、何とかしてあげてよ」
「OKOK。その子の写真か何かある?」
「この子」
と言って芳雄はスマホを見せる。
「それと木下君がちんちん紛失したらしくて困ってるらしいんだよ。彼も助けてあげてよ」
「気が進まないなあ。でもチョコパイもらったから仕方無い。取り敢えず本人に会ってこのまま女の子になることを勧めてみる」
「うん。取り敢えず会ってみて」
きっと本人に会えばオーリンも気が変わるだろう。
「ちなみにオーリンのせいじゃないよね」
「こないだの雨の日はぼく寝てたよ。その前の雨の日は外人の女の人をうっかり男にしちゃったけど、後でちゃんと女に戻した」
やはり怪しいな、と芳雄は思った。
[*
前p 0
目次 #
次p]
春備(4)