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■春波(5)
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9月中旬、春貴がP高校の白石理事長と話した時、体育館を建てるのに春貴は播磨工務店を推薦したが、理事長は聞いたことの無い会社だったので帝国データバンクのデータベースで調べてみた。
すると、“朱雀”という会社の子会社のようである。しかしその朱雀がよく分からない。非公開企業のようである。しかしそのわりに資本金が巨大である。企業調査会社に照会してみたら翌日東京の詳しそうな調査員から電話があった。どうも一般にはあまり知られていないが、知る人ぞ知る会社のようである。
「あそこはオーナーグループで全ての株を独占してて資金が充分あるから、株式を公開する必要が無いので公開してないんですよ。それに運営に口出されたくないということで」
と言われた。
「なるほど。でも資本金大きいですね」
「匿名出資組合で全株を占有しているんですよ。出資者は東北の人が多いみたいですよ。元々は出羽神社・氏子衆の親睦団体のようなものだったようです。だから資産を管理していればいいだけで、儲ける必要が無いんですよ。それで広告とかもしない」
ということだった。
変な宗教なら怖いがお寺や神社なら大丈夫だろう。
「全国で数百の製材所とか小規模製造会社を吸収合併してますが、ほとんどが資金難や後継者難だった会社の救済合併なんですよ」
「へー!」
「助け合いの精神というのが会社の大きなポリシーみたいです」
「なるほど」
「浮浪者を集めて家畜の世話をさせたり、高校中退者に家具作りの訓練したりもしています」
「偉いですね」
「食品関係を扱い海外からコーヒーや紅茶を輸入しているほか多数の農場や家畜飼育場を持つ朱雀フード、建設関係の播磨工務店、全国40の都道府県のほか北欧やカナダにも森林を持つ朱雀林業と朱雀製紙、などが主な子会社ですが、そのほかに、呉服の雅、小売り業のプリンセスグループやフォーランドグループ、姫路製鉄グループ、紀南鉄道など多数の公開企業の大株主ですね。あけぼのテレビの出資者のひとつでもあります。富山県ではウィングライナーをムーラン交通と共同で運用してますよ。元々ムーラン・グループとは親密な関係にあるようです。“儲けない”という企業ポリシーも似てますし」
「おお。中村建設とも関係あるんですかね?」
「朱雀の会長と中村建設の社長が古い知り合いみたいです。それで中村建設が受けた仕事を播磨工務店に丸投げすることもあるようです。主として急ぐ仕事とか危険な仕事を担当するようです。凄く高い技術を持つ専門家集団なんですよ。ただあまりに安いから、同業他社の仕事を奪わないように広告とかはしないし、事務所も目立たない所に構えています」
「ほほお」
どうも信頼しても良さそうだなと思い春貴からもらった社長の名刺に電話すると、女性の秘書さんが出て、すぐ営業担当者を向かわせますということだった。翌日社長の息子さんという1級建築士の肩書きを持つ20代?の男性が来た。
「うちは木造住宅からダム建設まで色々手がけてますから」
ということだった。住宅はユニット工法が主流なので、だいたい一般的な相場の1/10くらいの価格で施工すると言っていた。関連企業の朱雀林業の所有林から切り出した木材を使うので安くできるのだという。
「一般の材木屋さんがはいれないような山奥から専用のドローンで木を切り出すので、凄く安く材木が入手できるんですよ」
「なるほど。ドローンですか」
それで安くできるのか。住宅ユニットもほとんどロボットが製造しているらしい。低価格の理由はハイテクにあるわけだ。コンクリートも現場打ちをせずPC(プレキャストコンクリート)を使うので品質も安定するしコストも小さく速い。また速いから人件費が掛からずまた安くなると言っていた。
理事長が施工例を見たいと言うと、津幡北体育館に案内してくれた。ここの火牛スポーツセンターの運営者自体が朱雀のグループ企業らしい。
「ここはコロナ対策で建てたんですよ。広い体育館に人をたくさん集めると伝染病が広まるから敢えて狭い体育館を多数建てたんですよ。ここは練習をするための体育館で試合を見せるための体育館では無いから観客席も作らなかったんです」
「なるほどー」
学校の体育館なんて、まさにそれでいい。
「これ全部1個1ヶ月で建てましたから」
「1ヶ月で体育館が建つんですか!」
「うちは鉄骨同士を熔接より丈夫に短い時間でくっつける圧接という特殊な技術を持ってましてね。それで短時間に鉄骨を組み上げるんですよ」
「へー」
「更に関連企業に鉄鋼屋さんがあるから安く材料が手に入りますし」
「こういう大規模な工事もよくなさるんですか」
「大規模というと、ダムを数百個作ってますし、小さな島を丸ごと温室化したこともありますよ」
「島をまるごとですか」
「学校のグラウンド程度の小さな島でしたけとね」
「へー」
お代は完成した後からでいいと言うし、今日見せてもらった津幡北体育館がH南高校バスケット部が使っていた体育館の原型だと言うので、建ててもらうことにした。するとほんとに1ヶ月で外形が完成し、内装にはいったので、びっくりした。使用されている鉄骨も太いものだし。
「丈夫そうですね」
と言ったら
「いえ、この体育館は“柔らかく”造ってます」
と言われた。柳に枝折れ無しの原理で、地震が来たら敢えて建物を揺らすことで地震のエネルギーを吸収する考え方なのだというので感心した。
「但し揺れた時とかでも落下事故を防ぐため、柵の間隔は人間の頭のサイズより狭く作っています」
「ああ、そういうの大事ですね」
理事長はほとんど思いつきで尋ねた。
「おたくなら、野球場に屋根を付けるのにいくらくらい掛かります?」
「どのくらいの広さですか」
それで建設が進む野球部専用グラウンドに連れて行った。
「屋根の材料は?」
「雪をよけられれば安いのでいいですよ」
「ドーム球場みたいなのだったら50億くらいですが、安いトタンなら3億円で造りますよ」
「トタン!」
野球場の屋根をトタンで覆うなんて思いもよらなかった!しかし確かに安くできそうだ。見た目はあまり良くないかもしれないけど。
「トタン屋根を支える鉄骨は橋を作るのと同じ要領でお互いに支え合うようにします。古い日本のお寺や神社と同じでほぞなどを使って遊びを持たせ、金属の膨張でも地震でも壊れないようにします」
「屋根には自然に雪が落ちやすいカーブを付けますし、表面を超撥水加工して雪が付かないようにします。このあたりは、北海道の島で経験してますから。何なら一度見にこられますか」
「ぜひ。北陸は11月中旬から3月くらいまで、ひたすら雪か雨が降るので半年間野球の練習ができないのが悩みなんですよ」
「だったら取り敢えずトタン屋根でもいいかもですね。お金ができたらいい材料に交換すればいいですよ」
「3億円なら出しますからバスケ部の体育館が終わったらやってもらえません?来年の冬が来るまでに工事が終わればいいですよ」
「やりますよ。正確な期日は再計算が必要ですが半年あれば余裕で大丈夫です」
理事長はジェット機とヘリコプターで鹿涙島で島が丸ごと温室化されているのを見に行った(ジェット機もヘリコプターも自社運用と聞いて感動していた)。それで鹿涙島の温室を見て、こんな大型構造物が造れるところなら大丈夫だろうと考えた。更には、北鹿島で棚田が丸ごと温室化されているのもみせてもらった。ついでに温泉にも浸かってきた。
朱雀の会長とも会ったが若い女性なのでびっくりした。
話している最中に電話が掛かって来て会長は何か外国語で応答していた。
「今のは何語ですか?」
「チェコ語ですよ」
「チェコの会社とも取引があるんですか」
「チェコにも森林を持っているんですよ。それとチェコで藺草(いぐさ)の栽培をしてましてね」
「へー!」
「でも私はただの管理者なんですよ。出資者は山形方面の資産家集団なんですよ」
と会長さんは言っていた。
「ほほお」
鹿涙島では公共サービスから見放された環境で水も電気も自給しているという話にも凄いと思った。水は海水を淡水化し、電気は風力と太陽光で起こしているらしい。同様のことは瀬戸内海の孤島でもやっているという。
「潮力発電もやってみたんですが、貝殻の付着ですぐダメになりました」
「難しいもんですね」
そのあと11月くらいまで換気なり暑さ対策なども話し合った末、4億円で屋根取り付け工事を発注した。
また理事長と朱雀側の話し合いで、ウィングライナーの支線を建築して、新高岡駅と高岡P高校前を結ぶことにした。高岡駅からの直行便も運行して、あいの風とやま鉄道や万葉線からの乗り換えの便も図る、P高校の生徒には安価にパスを発行する。
高岡P高校の校舎は高岡市南部に鋭意建設中で12月に竣工予定である。一般教室は既に8月までには完成しており、その後は特別教室棟・体育館・図書館などの建設を進めていた。
この建設地のすぐそばに高岡市立Z高校というのがあった。同校は2025年度からは生徒を募集しないことになっており、現在の在校生が卒業したら2027年3月で廃校になることになっている。
10月初旬の風の強い日だった。職員更衣室付近から出火した火事はあっという間に燃え広がり、校舎が全焼してしまった。校舎は古い木造建物でスプリンクラーどころか火災警報器も無かった(違法っぽい)。
市はP高校に打診した。
「この後どうするかは改めて検討するが、しばらくP高校の校舎を貸していただけないでしょうか」
P高校は“禁煙”を条件に許諾して、中間テストもP高校の校舎で実施された。P高校が禁煙を条件にしたのは、新しい校舎にたばこの臭いをしみつかせられたくない問題に加え、現時点で火災原因は不明であるものの、タバコの不始末を疑ったからである。
市は急遽玄関前に喫煙室を作ってそこ以外では禁煙とし、当面運用することにした、
花田瞳美は高田晃に尋ねた。
「ルミさん、インターハイの時、春貴先生の隣に座って何かチェックしてましたでしょ?あれ何をしてたんですか?」
「スコアを付けてるんだよ。公式のスコアシートとかもあるけど、時代の流れはタブレットのアプリで付けること。まずこのアプリをダウンロードするといいよ」
と言って晃はバスケットのスコア付けアプリを教えてくれた。
そして晃の自宅に行き、実際の試合の録画を見ながら付け方を実演してくれた。
「ここで大事なのがここに表示されている各選手の連続稼働時間なんだよ。これが長くなってる選手がいたら交替を助言する。実際に交替させるかどうかは試合の流れとか各選手の体力・体調にもよるから結構な政治的判断が必要だけどね」
「政治的判断かぁ」
「春貴先生はその判断が絶妙だったよ」
「春貴マシックですね」
「あとハナちゃんE級コーチの資格取りなよ。通信で取れるから。そしたらアシスタントコーチとしてベンチに座れるし」
「あ、私来年度以降は選手になれない自信あります」
長崎のひとみは10月の衣替え以降、ずっと冬服セーラー服で通学していた。トイレは女子トイレだし、更衣室も女子更衣室を使う。
オーリンはひとみに訊いた。
「ひとみちゃん、戸籍も“ひとみ・女”に変更してあげようか」
「嫌だ!」
「でもひとみちゃん、男でパスポート作っても、ひとみちゃん女の子にしか見えないから、出入国審査ではねられて海外旅行できないよ」
「海外旅行?」
「まあ戸籍をどうするかはゆっくり考えなよ」
「うん」
母ちゃんが勝手にぼくの性別と名前変更しそう!
その母は、ひとみが毎日セーラー服で学校に行くので、
「とうとう私の娘になってくれたね」
と嬉しそうに言っていた。ぼくが小さい頃から「私の娘になってよ」と言ってたもんなあ。
「あんた、もしどうしても男の子に戻りたかったらその胸が入る学ラン作ってあげるけど」
「ぼく学ラン着てったら『何ふざけてそんなの着てる?ちゃんとセーラー服着て来なさい』って叱られる気がする」
「じゃもう戻らなくていいね。戸籍の性別と名前も変更しようか」
「それはもう少し待ってくれない?」
「うん。あんたの気持ちの整理が付いた時でいいよ。お嫁さんになるまでに直せばいいしね」
お嫁さんか・・・ぼくやはりお嫁さんになるのかな。
学校にセーラー服で行くので、音楽教室にもそのままセーラー服で行くようになった。レッスンメイトたち(多くが女子)は
「セーラー服似合ってるよ」
「女の子にしか見えない」
と言った。トイレも最初彼女たちと一緒に庶子トイレにはいり、その内ひとりでもはいるようになった。先生は特に何も言わなかったが
「松山さん、発表会にドレスで出たこともあったね」
と言っていた。
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