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■春遊(12)
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H南高校では9月2日(月)の始業式で生徒会長から女子バスケット部のインターハイ・ベスト4が報告されると凄い歓声があがった。しかしその後、校長から春貴が8月いっぱいで辞職したことが報告されると、騒然とした。河世・美奈子の2人は校長のところに抗議に行ったが、辞めたいと言うから辞表を受け取っただけだと言い、騒ぎを起こすと謹慎処分にするぞとふたりを恫喝した。
河世たちは「春貴先生を辞めさせないで」と生徒達に署名運動をしようとしたが、ほんとに一週間の謹慎をくらった。
校長は自分に忠実なK教諭を後任の女子バスケット部顧問に任命した。
K教諭は取り敢えず練習環境を見ようと思いフラミンゴに行ってみたが、入場できなかった!
「利用券を買うか年間パスをご提示ください」
自販機を見ると利用券は3000円もする!?(嫌がらせ:普段は100円)
それで五月に尋ねてみると
「奥村先生が個人で年間パスを買ってたんです」
と言う。
「それ幾らくらい?」
「15万円くらいですよ(さりげなく嘘つくね)」
「それ部費から払ってたの?」
「いえ奥村先生が個人で払ってたはずです。うちのバスケ部のほかに、水泳同好会も使ってましたから」
15万もする年間パスを個人で買っていた!?とK先生が困惑しているうちに、部員が全員退部して女子バスケット部が消滅した。
保護者の間でこの問題が議論になり、謹慎処分の取り消しと、X校長の解任を求める署名運動が始まり、あっという間に生徒の8割に相当する数の署名が集まって教育委員会に提出された。
教育委員会はX校長を呼び出した。
「君は前の学校でも解任運動が起きてるよね。君は校長に向いてないんじゃないの?」
インターハイの成績についてベスト4自体が凄いじゃんと言うと、校長は負けたのが3位決定戦だったこと自体に気付いてなかったようである。ただ121-1という得点差を見て頭に血が昇ったようである。1回戦か何かと思っていたようだ。相手もしばしばプロにも勝っているチームだと説明すると「そんな凄いチームだったんですか」と言っていた。
(準決勝とかまで行くような強いチームを作ったのならシゴキも酷かったろう。やはり辞めさせて良かった、とX本人は思っている)
校長が春貴を批判した諸問題についても教育委員会は春貴の主張を伝えた。
「しかし奥村君はそんなこと何も言いませんでしたよ」
「奥村先生が反論しようとしたら、口答えするなと言ったそうじゃないか」
「君は前任校でも**先生に同様のこと言ってたね」
その先生は他校に転任してもらっている。その前の学校ではXに酷く叱責された若い教師が自殺している。春貴も危なかった。偶然青葉に遭遇したのは強運である。
教育委員会はH南高校の教頭、横田先生など数人の教師に事情を聞いた。みんな
「奥村先生は授業も部活指導もほんとに熱心だった」
「生徒たちは奥村先生の授業は分かりやすいと言っている」
「水泳の元国体選手という特技を活かして水泳の授業でも模範演技を見せてくれていた」
「バスケ部をインターハイ本戦に連れて行っただけでなく、水泳同好会からも北陸大会進出者を出した」
「奥村先生の指導は“褒めて伸ばす”タイプで女子バスケ部には“先輩・後輩”などという言葉も無く、和気藹々だった」
などと言う。
そして多くの教師が
「校長は横暴だ」
といった声をあげた。
それで、Xは9月一杯でH南高校の校長の任を解かれることになったのである。教育委員会も解任の署名運動がなされたのが2度目だし、それ以前の教師自殺問題もあったので、とうとう本当に解任した。
Xはいったん学校に戻ると校長室から私物を取りだした。それで車に積んで帰ろうとした。ドアのところにわら人形が貼り付けてあったのてXは剥がすと、「こんな人形こうしてくれる」と言い、はさみで人形の首を切って草むらに捨てた。(馬鹿ですか?)この人形は清掃員に片付けられ焼却炉で燃やされることになる。
それで車を出そうとするが、エンジンが掛からない。バッテリーがあがっているのだろうか。JAFは会員期限が切れている。
「取り敢えずバスで帰るか」
と思い彼は徒歩で学校を出た。
国道を走る車のライトが波のようだ。彼はその波に吸い込まれるような感覚があった。
キキー!
という急ブレーキの音が彼が最期に聞いた音だった。
9月16日(月)、ひとみに4度目の生理が来た。ひとみは
「生理だからこちら使わせてねー」
と言って女子トイレに入り、ナプキンを交換した。女子たちは歓迎してくれた。
ひとみは18日まで女子トイレを使った。
9月19日(木)、生理も落ち着いたので、ひとみは今日からは男子トイレを使おうとしたのだが・・・・・
男子トイレに入るのを拒否された!
「女は女便所使えよ」
と言われて、入れてもらえない。
「どうしたの?」
「男子トイレに入れてもらえない」
「女の子は女子トイレを使えばいいんだよ。おいで」
と言われて、女子トイレに誘導された。
それで、以降ひとみは“学校でも”女子トイレを使うようになったのである。
ひとみは街などに出た時はいつも女子トイレを使っていたから、ひとみが男子トイレを使うことはもはや無くなった。
9月20日、俊美は予定日の一週間前なので、金沢市内の病院に入院した。
9月27日、俊美は女の子を出産し“郁恵”と名づけた。朝陣痛が始まり、午後には出産に至った。徹もみどりも朝からずっと付いててくれたので心強かった。俊美の両親も出産に間に合った。徹の両親は夜の到着になったが、孫の顔を見て喜んでいた。
俊美は10月4日(金)に赤ちゃんと一緒に退院した。俊美の産休は12月27日までである。
X校長の葬儀は自宅のある高岡市内の葬儀場でおこなわれた。首がちぎれるなど遺体の損傷が激しかったので先に荼毘に付して骨葬とした。
奧さんは、校長という仕事柄多数の弔問客があるかもと思い、広い部屋を借りたが、弔問に行ったのは教頭のみであった。校長に忠実だったK先生は弔問に来なかった(理由はすぐ判明する)。
告別式の最中、位牌が飛び、写真が倒れ、焼香の火が燃え上がるなどの異変があり、僧が
「これ以上は続けられない」
と匙を投げかけた。しかし40-50歳の尼さんがはいってくると何か呪文のようなものを唱えた。すると異変はおさまり、葬儀は何とか最後までおこなえた。尼さんはすぐ退出したが、奧さんは追いかけて行き「ありがとうございます。これを」と言って香典返しに用意していた袋を10個くらい尼さんに押しつけた。
青葉は真珠に
「ビール券もらったから」
と言ってビール券を30枚くらいあげた。邦生の同僚女子たちの週末宴会で有意義に?使われるだろう。
教育委員会はX校長の代わりに、この春に定年退職したものの、講師として砺波市の高校に勤めていたベテラン教師の岩本氏を来年3月までの校長として送り込んだ。
岩本新校長はまず河世と美奈子の謹慎処分を取り消し、ふたりは何も処分されなかったことになった。学校に出て来ていなかった日の分の授業時間については先生たちにお願いして補習をしてもらったりレポートを提出させて補った。
教育委員会は春貴に、校長が交代したから、H南高校に復帰しないかと打診したが、春貴は「今はボロボロなので」と断った。
春貴は新校長から私物の整理を頼まれたので、休日に行って整理してきた。クラス関係の書類は担任の先生に、バスケ部関係の書類は横田先生に、渡してくれるよう頼んだ。また4位にはメダルは無いが、頑張った選手達に渡して欲しいと言って15枚の“ステンレス”メダル(鐵メダル!)を託した。選手12人と、選手外でベンチに座った3人に渡されることになる。春貴が青葉に頼み青葉が千里に依頼して作ってもらったものである。実際に工作したのは九重。4という数字のみが入っている。青葉は16個作ってもらい1個は春貴自身にあげた。
前校長を轢いた車は逃走していたが半月後に捕まった。前校長に忠実だったK先生が逮捕され、懲戒免職となった。K先生は被害者が突然車道に飛び出してきて避けきれなかったと主張し、ドライブレコーダーからその主張は認められたものの、救護を怠って逃走したことはどうにも言い逃れできない。
結局春貴の補充で数学の先生・谷町先生と、K先生の補充で国語の先生・橋口先生が新任の先生から補充された。いかにも優しそうな谷町先生が新しい女子バスケット部顧問になったので、部員達も復帰して女子バスケット部は復活した。春貴は美奈子からの連絡で、フラミンゴの年間パスを谷町先生に譲り、女子バスケ部も水泳同好会も練習が続けられるようになった(実際は部員達は顔パス!で入場できていた)。それでバスケ部はウィンターカップを目指す。
また前校長は校長を解任されて一般の教諭としての退職金を受け取ることになるはずだったが、解任日前に死亡したため、校長としての退職金を奧さんは受け取ることができた!
奧さんは学校に駐めてあった校長の車を“自分で運転して”自宅に回送した。
春貴がH南高校の教師を辞めたと聞いて最初に接触してきたのはOGの高田舞花(晃の姉)である。
「先生、どこかに再就職するまでうちのコーチしてくださいよ」
舞花は同世代のバスケガール数人と一緒にクラブチーム555(ファイズ)を結成している。
「んじゃ身の振り方が決まるまで」
ということで彼女たちの指導をすることにした。
また春貴は舞花に10万円渡し、新バスケ部の打ち上げ費用に使ってくれるように言った。
「OGからの寄付なら部員達も受け取りやすいだろうから。足りなくなったら言って」
「分かりました。ありがたく使わせていただきます!」
「あと、晃ちゃんが卒業しても万一男に戻れなかったら私に連絡して。晃ちゃんのちんちんを預かってる神様に連絡が付くと思うから」
「分かりました。でもあの子も覚悟を決めて女になればいいのに」
オーリンは呟いていた。
「ひとみちゃんも礼音ちゃんも覚悟を決めて女の子になればいいのに」
ひとみは魔女っ子ちーちゃんが来ている時に訊いてみた。
「ちーちゃんのこと考えていた時、唐突に“オーリン”って単語が浮かんだんだけど、何だと思う?」
「あ、それぼくの名前。誰からも教わらずに気付くって、やはりひとみちゃん霊感があるよ」
「名前?じゃ“ちーちゃん”というのは?」
「役職名みたいなもんだね。総務係長とか営業主任とかいった類い」
「それで本名がオーリンなのか」
「ううん。本名は“アイン”といってカバラではこういう図形で表す」
と言ってひとつの図形を描いた。
カバラって何だろ?カバラ公爵??
「本名がアインならオーリンというのは?」
「正確にはサブネームなんだけど、まあニックネームみたいなものだね。この図形を紙とかに描いて、アインまたはオーリンと呼ぶか横笛で『アニトラの踊り』を吹けば、ぼく出てくるよ」
「横笛?」
「フルートとかファイフとか篠笛とか。縦笛の特にリコーダーはダメ。嫌いだから」
「へー」
「何か横笛持ってる?」
「ううん」
「じゃこれ1本あげるよ」
と言って彼女はアウロス製のプラスチック・ファイフをくれた。それほど高い物でも無さそうなのでもらっておいた。
「『アニトラの踊り』は分かる?」
「音楽の教科書に載ってたから勉強しとく」
それより横笛の音を出す練習しなくちゃ!
舞花の次に春貴に連絡してきたのが高岡C高校の矢作(やはぎ)先生であった。
「どうしたの?燃え尽きた?」
「いや、校長がさ、インターハイに出場するとか学生の本分を忘れた間違った行為だと言って、今すぐ辞表掛けというから書いた」
「何それ〜?学生は運動とかせずにお勉強してろとでも?」
「校長先生によると受験勉強とかMOSとかの勉強も間違った行為らしい」
「だったら何しろというの?」
「黙って授業に出席して静かに先生の話を聞いてるのが良いらしい。質問とかもNG。あれは授業妨害らしい。授業が終わったら即帰宅する。むろん塾とかに寄り道してはいけない」
「つまり無気力人間を作りたいんだ?」
「あの人の考えは伺い知れないね」
それで矢作さんが紹介したのが、“高岡P高校”という新設私立高校の女子バスケット部顧問の話だったのである。矢作さんがヘッドハンティングされたものの、自分は公立学校の教師を辞めたくないと言い、代わりに春貴を推薦したらしい。
面会した白石さんという理事長は言った。
「女子バスケ部をインターハイ・ベスト4まで連れて行った奥村先生が来てくださるのなら大歓迎ですよ」
念のため理事長は尋ねた。
「でもなぜお辞めになるんですか」
「生徒をインターハイに連れて行くとか学生の本分を忘れた誤った行為だと言われました」
「はあ?」
「校長先生によると部活も受験勉強も本分から外れた行為だそうです」
「じゃ何がしたいんです?」
「よく分かりませんね」
うちではインターハイも目指すし、大学進学も目指すと理事長は言い、心の整理が付いてからでいいから、ぜひうちに来てほしいと言われたので、前向きに検討することにした。
「そちらではどういう環境で練習しておられたんですか?」
「津幡に火牛スポーツセンターというのがあるんですが、その分館の体育館とプールが氷見にありましてね。そこを借りて練習していたんですよ」
「同等の物を建てさせましょう」
「大元を建てた所に依頼すると低予算で速く作ってくれると思います。播磨工務店といって中村建設の別働隊みたいな会社なんですよ」
「おお、中村建設さんの」
プライム上場企業(≒旧“一部上場企業”)はさすが信用がある。春貴が播磨工務店を推薦したのは、普通の建設会社にはあの規模の体育館を来春までに作るのは困難だからである。普通なら設計だけで半年かかる。播磨工務店ならフラミンゴの設計が流用できる(元々は津幡北体育館の設計流用)。春貴は南田社長の名刺も渡した。
(“津幡北体育館”はコロナ対策のために作られた。広い体育館に多人数集めると感染症が広まりやすいので、敢えて狭い体育館を多数(9棟)建てたものである。九重が間違って材料を1個分多く準備してしまったので千里はたまたま氷見に持っていた土地にそれを建てさせた。それがフラミンゴである)
しかしそれでフラミンゴと同程度の物が高岡P高校にも設置されることになったのである。
P高校では、新しい体育館のパンフレットも作り、準備委員会の曽根先生(運動部担当)は、石川・富山の中学3年生でバスケの強い女子を1本釣り方式で何人も勧誘した。女子バスケ部の顧問に、インターハイBEST4になったH南高校の奥村先生が就任予定という話に中学生たちは大いに関心を示した。
千里は春貴に言った。
「どこか温泉でしばらくのんびりしてから再度リブートしない?」
「ああ、そういうのもいいですね」
「私全国に幾つも温泉持ってるんだよ。熊本の“美男温泉”は、そこにはいると誰でも美男子になれる。女の子でも美男子になれるから春貴ちゃん男になれるよ」
「さすがに男には戻りたくないです」
「姫路沖の飛行場と遊園地だけの島にある女狐温泉。一周4kmの周回道路で雨の日もジョギングできる。365段の階段上り下りで毎日トレーニングできる群馬県伊香保温泉の温泉旅館“チーター館”、北海道の交通機関も無い孤島にある“おっぱい温泉”」
春貴は“孤島”というのに関心を覚えた。
「北海道に行こうかな」
「OKOK。連れてってあげるね。温泉の湯でプールも作ってるから毎日泳いで過ごせるよ」
「いいですね!」
「それから春貴ちゃん今生理周期メチャクチャでしょ?」
「ええ。実は」
「それも治してあげるよ」
「ありがとうございます」
月経をコントロールしているのは卵巣では無く脳下垂体である。春貴は元男の娘だったので、ここが壊れている。それを作り直す必要がある、これは千里(オーリンを含む)やきーちゃんなどにしかできない。春貴の身体は勾陳の手で性転換手術されていて卵巣や子宮は存在するが、脳下垂体が男の娘のままである。
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