[携帯Top] [文字サイズ]
■春遊(8)
[*
前p 0
目次 #
次p]
「それに湯の児温泉には素敵な湯があるのよ。そこに入ると誰もが美女になるんだって。そこに入ればたとえ男の子でも美女になるから、あんたも本物の女の子になれるよ」
「え〜!?」
「お祖父ちゃんも美女になっちゃうけど、もう50年以上男をやってきたから、もうちんちん無くなってもいいでしょ」
え?ぼくはいいとして、お祖父ちゃんまで女になっちゃうの??一家全員女に?アメリカで一家全員性転換した家族があったらしいけど。
「でもその湯にはいったら男が女になっちゃうって、それ男湯にはいるの?女湯にはいるの?」
男湯に入るのだったら、女が男湯にはいっている状態が起きる。女湯に入るのなら、男が女湯にはいって行くのかという問題がある。
「きっと入口は男湯で出口は女湯なのよ」
「持ち物は?」
「自動回送されるとか」
なんか益々無理が出て来ている気がする。
車は長崎自動車道(九州横断自動車道西側)から九州自動車道に進み、南九州自動車道にはいって、お昼すぎに水俣(みなまた)ICを降りた。途中広川SAで1時間ほど休憩した。SAではもちろん女子トイレを使った。
湯の児温泉の“美女旅館”駐車場にいれる。母が宿帳を書いたが、母はこう書いた。
松山等 男 54
松山春子 女 53
松山手毬 女 34
松山ひとみ 女 14
ぼく女にされてるけど、まあいいか。
部屋にはいってくつろぐ。祖父は祖母を相手に囲碁をやっていた。ポータブルの囲碁盤を持って来ている。母は雑誌を見ている。ひとみは持参のカシオトーンを弾いていた。
「あんた今度の発表会何着るの?ドレスにする?」
何でドレスとか着ないといけない?
「制服で出るよ」
「ああ、セーラー服着るのね」
「男子制服だよ!」
「私が許してあげるから女子制服着ていいよ」
「許してくれなくてもいい!」
旅館はwi-fiも使えるようだったので、少しニンテンドウ・スイッチもした。夕方、太刀魚(たちうお)釣りに行こうと言われ、4人で舟に乗った。
お祖母ちゃん・手毬とひとみはたくさん釣れたが、お祖父ちゃんは全然だめだった。
「ここの太刀魚はオスばかりかも知れん。だから女の釣り針だけに掛かるんだ」
とお祖父ちゃんが言っていた。
太刀魚釣りから戻ると、いよいよお風呂に行く。男が女になるとかジョークとは思うけど、少しドキドキ。母が言った。
「もうちんちんからはおしっこできなくなるから、最後の男の子式おしっこしておいで」
それでトイレに行った。男子トイレに入ろうとしたが追い出されて女子トイレにはいった。
ひとみがトイレから戻ると家族4人でお風呂に行く。ガイドに添って歩いて行くとやがてお風呂があったが、女湯だけ??
お祖父ちゃんが、女湯入口の所に座っている仲居さんに訊いた。
「すみません。男湯はどちらですか?」
「そちらの渡り廊下を通って美男旅館に進んでください。そちらの男湯をご利用ください」
「ありがとうございます」
それでお祖父ちゃんは渡り廊下に行った。
「さ、私たちはこっちはいろ」
と言って、手毬、祖母、ひとみの3人は女湯と書かれた暖簾をくぐった。入口の仲居さんがバスタオルと浴衣をくれた。
ちーちゃんの声が聞こえる「緊急に一時的に女の子にするよ」
それで身体が変化した。ひとみは祖母・母と並びのロッカーを開けて服を脱いだ。普通に女子中学生の身体がそこにある。それでタオルを持ち浴室にはいった。中にはたくさん裸の女の人が居たけど、女湯は2度目なので、気にしない。
洗い場は母の隣に座る。
それで髪を洗い、身体を洗う。そして浴槽に浸かる。
「ここの湯はぬるぬるするね」
と祖母が言った。
「アルカリ温泉だね」
と母が言う。
「肌の新陳代謝を促すから、昔からこういう湯を“美人の湯”と言うんだよ」
それが“美女温泉”の正体だったのか。
「でもここは女湯しか無いのね」
「戦前は混浴だったのよ。でも戦後保健所から、男湯と女湯を分けなさいと指導された。でも土地が狭くて増築できなかった。それで、隣の美男旅館と提携して、美女旅館の女湯と美男旅館の男湯を相互利用することにして、渡り廊下も作ったのよ」
「なるほどー。そういうことだったのか」
それで10分くらい浸かってからあがり、旅館の浴衣を着た。それで部屋に戻った。母が言った。
「あんた普通にしてた」
「普通で無きゃ何なのさ」
「女の人の裸を見て変な気分にならないんだっけ」
「多分好きな人の裸以外には反応しないと思う」
「ああ、それなら問題無い」
と言ってから母は言った。
「でもあんた胸がかなり大きくなってるよ。4月に買ったブラでは小さいと思う」
「ぼくも最近よく育ってる気がした」
「帰りにブラ少し買って行こう」
「うん」
その日の晩ご飯は釣ったばかりの太刀魚を刺身にしてもらったが、凄く美味しかった。
それで帰り、熊本ICでいったん降りて郊外のショッピングモールに寄った。母と一緒にランジェリーコーナーに行く。それで売場のお姉さんにサイズを測ってもらった。
「これはB75ですね」
「B!?」
「じゃそのサイズを3つください」
「待って。Bだなんて」
「Aがきついようだなと思ってたんです」
「A80でもはいるけど、お嬢さん身体が細いからBのほうがいいですよ」
お嬢さんってもしかしてぼくのこと?
しかしそれで母はB75のブラを3枚買ったのである。1枚はその場で着けた。
「あんた生理も来たから胸も発達してるんだよ」
とブラを着けてくれながら母は言っていた。実際そうかも知れない気がした。卵巣が頑張ってお仕事してるのだろう。母はキャミソールも買ってくれてブラの上にはそれを着せてアンダーシャツは回収した。
「あんた学校にもアンダーシャツじゃなくてキャミソール着て行きなさいよ」
「え〜!?」
「だって体育の時とか身体測定の時に男みたいな下着着てたら恥ずかしいよ」
次はセーラー服着てけと言われそう。
また母は着物コーナーで可愛い紫陽花柄の浴衣を買ってくれた。
「女の子はいろいろ可愛い服を着せられるからいいわぁ」
などと言っていた。ぼくもう既にお母ちゃんの“娘”扱いみたい。
礼音は数人のガールズに拉致されて都内の一軒の家にやってきた。
「失礼しまーす」
「どうぞー」
それで中にはいると、彼女たちに連れられて“女湯”と書かれた引き戸を通った。
スマホを入瀬ホルンに預けてから、ロッカーを開けて服を脱ぐ。そしてガールズたちと一緒に浴室に移動した。
ここに来たのは、海浜ひまわりのアドバイスによるものである。礼音を一般の温泉に連れて行った場合、“立山きらら”を知っている一般の人に出会うとまずい、ということになり、ここを使うことにした。
ここは姫路スピカの自宅である。姫路スピカと従姉の竹中花絵、Δ△(ドリームトライン)の南田容子、バックバンド乙女地区のメンバーが住んでいる。さっき返事をして玄関を開けてくれたのは南田容子である。
そしてここはツアー・ミュージシャンなどを泊められるように共同浴場が付いているのである。それほど多人数の利用を想定したものではないので定員は男女10人くらいずつである。今回礼音を拉致してきたのは、麻生ルミナ、紺青セイラ、西浜ももこ、南里くりこの4名で、礼音に緊急呼び出しがあったような場合に備えて入瀬ホルンにも付いてきてもらった。まじめそうで計画に反対しそうな、入瀬コルネは入れてない。
浴室では5つある洗い場に5人が座り、身体を洗った。そして浴槽に浸かる。
「これで私たち、一緒にお風呂に入った仲ね」
「まあいいけどね」
8月19日に、ひとみは3度目の生理があった。きれいに28日周期で来ている。
そして下旬、ひとみは花火大会があって誘われたので、先日買ってもらったあじさい柄の浴衣を着て出て行った。
「おお、ひとみちゃん可愛い浴衣着てる」
「みんなも可愛いじゃん」
それでみんな、マスクをした上でバスに乗って会場の近くまで行った。
「凄い人混み」
「まあ行ける所まで行こう」
みんなで歩いて行っているうちに花火はもう打ち上がり始める。
「きれいだね」
「だけどひとみちゃん、ますますおっぱいが成長している気がする」
「A着けてたけど小さすぎると言われてBに買い直してもらった」
サクラちゃんが胸に触る。
「うん。これはAでは小さすぎ」
「日本人女性のバストはBが多いのになぜかAカップのブラジャーが一番売れるらしいよ」
「自分のバストサイズが分かってない人が多いんだね」
「男がAを買うからAが一番売れてるんだったりして」
「男はAで足りるかも」
「お相撲さんならEくらい必要かも知れないけどね」
「お相撲さんは巨乳が多いよね」
「相撲協会にブラジャーを売り込もう」
夏休みには様々なアーティストのネットライブが行われた。立山煌自身も8月18日(日)にネットライブをしたが、その他に8月24日(土)の薬王みなみのネットライブ幕間にも“立山きらら”が登場して3曲歌った。
ところで康太のワイシャツだが、結局ゴミの布紐類廃棄用の袋の中から発見された。どうも、洗濯物が誤ってお祖父さんのところに行ってしまい、お祖父さんは、サイズの合わないワイシャツがあると思い、古着の廃棄用の袋に入れてしまったということのようであった。
しかし着てみると胸がはいらないことが判明する!それで先日ゆめタウンで買ったゆとりのあるワイシャツのサイズのものを通販であと2着買うことにした。9月3日(火)に届くということだったので、9月1日(日)のピアノ発表会と2,3日の学校はゆめタウンで買ったワイシャツで乗り切ればいいなと彼は思った。洗濯できないが3日くらいはまあいいだろう。
ところがである。
9月1日の朝、醤油の瓶が倒れて、そのワイシャツに掛かってしまったのである。
「わっ」
「着替えて着替えて」
「その着替えが無いんだけど」
「あ、そうか」
母は少し考えてから言った。
「発表会はセーラー服を着ていくかブラウスを着ていくかしかない」
「ブラウス着てく」
セーラー服よりずっとマシだ。
それで音楽教室の発表会にはブラウスとズボンという格好で出て行きショパンの『別れの曲』を弾いたのである。同じレッスンクラスのエリちゃんに言われた。
「今日はブラウスなんだ?」
「朝からワイシャツに醤油こぼしちゃって」
「でもそのズボンも女子用だよね」
「実は男子用は入らない」
「こないだの花火大会で可愛い浴衣着てた」
「見られてたのか」
「松山君、女の子の服似合うし性転換しない?そしてレッスンにもセーラー服で出ておいでよ」
「あはは」
「女の子名前はあるの?」
「ひとみ、かな」
「ひとみちゃんって呼んであげるね」
[*
前p 0
目次 #
次p]
春遊(8)