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■春回(11)
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「いつ頃から練習再開なさいます?」
「練習は再開しているんですけどね。まだリルちゃんたちには遠く及びません。頑張らなくちゃ」
と青葉は言ったが、一緒にコーチとして付いてきている南野里美が言った。
「7日に800mで競争したら、もう多江・リルと横一線でしたよ」
「すごーい。もうそんなに復調してるんですか?」
「まあ社会人選手権までリハビリを続けますよ」
「頑張ってください」
記者さんが青葉の泳ぎを見たいと言うので、紗織を里美に見ていてもらい、(女性ばかりなので)その場で着替えて、水中スタートで軽く一往復してきた。記者さんの顔がマジである。
「もうほぼ復調しているのでは」
「まだまだ調子は6割程度ですよ。まだ飛び込みもできないし」
「社会人選手権で8割、日本選手権で9割、パリ(五輪)で十割でしょ?」
と多江が言った。
「パリ行けたらいいなあ」
「私たちも負けませんからね」
「うん。頑張ろう」
7月15日(土)、バスケット地区リーグの1日目、この日は高岡地区北部の試合が行われる。
この日は午前中に1回戦、午後から三決と決勝が行われたが、H南は1回戦は控え組、決勝はレギュラーを出してどちらも快勝。高岡地区北部1位になって明日の1位リーグに進出した。1回戦では日和も出したが、彼女もパスの中継点として活躍した。彼女には相手が誰もマークに付かないのでパスを通しやすいのである。(その分、彩とかに2人付く)
この日はみんなで“水車饅頭”(大判焼き)を食べた。
また腹ごしらえできたところで、小矢部市のスポーツ用品店に行き、先日オーダーを入れていたオーダーメイドのバッシュを受け取った。早速フラミンゴで練習に使ったが
「プレイしやすい!」
と、みんな感動していた。
翌日日曜日は、1位リーグ、2位リーグ、3位リーグが行われる。1位リーグでは北部1位のH南高校、中部1位の射水E高校、南部1位の高岡C高校が総当たり戦をする。
第1試合、H南vs射水Eは控え組で出て行き、30点差で勝った。第2試合、高岡C高校戦はレギュラー組+高田晃で出て行く。スコア付けは優に、選手の出場時間チェックは弘絵にやってもらった。百合もベンチに置き、晃の動きをよく見て守備の時、どう動くべきかを勉強してもらった。
それにしても晃は相手のシュートをよく防いだ。そもそも晃がゴール近くに立っているだけで相手は中に切り込んでのシュートが撃ちにくそうである。
「練習の時もよく思うけど、ルミさんって立っているだけで威圧感がありますよね」
「それこそがセンターの役割だね。攻防は気合の勝負なんだよ」
晃がよく守るので、相手の得点は低く抑えられる。向こうは守備がうまいので、こちらもスタータークラス以外は中に入ってのシュートを撃てない。それでこちらの得点も低めである。結局42-63で勝ち、1位リーグで優勝できた。
この日は“きときと寿し”でお寿司をたくさん食べた。
「でも新しいバッシュ凄いです。急速反転とかしても足に来ないから、それでマーカーを振り切れるんですよね」
「ビナかなりフリーになってた」
大学4年生で、和栄や希望の同級生男子・岡安俊夫は、その日卓球部の打ち上げで金沢市内のY温泉に泊まった。インカレ予選がベスト8まで行き「来年こそはベスト4を」と言って3年生以下に引き継ぎ、4年生は引退する。この後は卒論と就活一色となる。岡安は通信会社に内々定をもらっており、そこに行くつもりだった。
宴会で少し飲み過ぎて、眠ってしまった。夜11時頃目が覚めてお風呂に行ってこようと思う。タオルと着替えを持って大浴場に行った。むろん男湯に入る。ロッカーを開けて服を脱ぎ、浴室に入る。頭を洗って身体を洗って浴槽に浸かった。
小学校5年で卓球を始めて以来の様々なできごとが思い出される。合宿で女子の宿舎に忍び込もうとして凄い叱られたなぁ。あの時はなぜそんなに叱られるのか意味が分かってなかった。高校の時の甘酸っぱい恋の想い出。あの子からは結局一度もバレンタインをもらえなかった。でも手を握って歩いたほんの100mの道。
一方では中学の時、男子の先輩にキスされたこともあるので、自分はバイなのかも知れないという気もする。女装趣味は無いつもりだけど、夏の間はスカートを部屋着として穿いていることもある。スカートを穿くため足の毛は剃っている。スカートを穿く時は下着もショーツである。但しスカートで外出する勇気は無い。
そんなことを思っていた時、近くでおばちゃんが勢いよく水音を立てて湯船に入ってきた。なんでこのおばちゃん、男湯に入ってくるんだ?と思う。“今だけ男”?まあいいや。そろそろあがろうと思って俊夫は浴室を出た。
仲居さんからバスタオルと浴衣を受け取った。自分のロッカーを探すが見付からない!?おかしいなあと思って身体を拭いて取り敢えず裸に浴衣を着た。
ロッカーが見付からないので部屋に行って着替えようと思う。
しかしその部屋が見付からない!?彼は通りがかりの仲居さんに尋ねた。(以下略)
岡安は大学で水野希望に声を掛けた。
「水野さん、ちょっと相談があるんだけど」
「なあに?」
「ここではちょっと何だから、ホテルにでも行かない?」
「いきなりホテルなの!?」
順序というものがあるでしょ?食事して、ドライブして、とか。
「あ、いや決して変なことはしないから」
それで岡安と希望はホテルに行った。そして岡安が服を脱いだのを見て希望は絶句した。
「岡安君、性転換手術しちゃったの?」
「それがさ」
と言って、彼はあの夜のできごとを語った。希望はこれはコイルさん(千里)の担当だなと思った。それで電話をする。
「男性の友人が気が付いたら身体が女になっていたらしいんです。彼を男に戻すことできません?」
と希望が言うと、コイルさんは「彼を連れてうちにおいでよ」と言った。それで彼にわざと可愛いワンピースを着せてお化粧もしてあげてからラクティスに乗せ、高岡市内の千里さんの家に行った。
岡安があの夜のできごとを語ると千里さんは旅館名をメモした上で
「取り敢えず男の娘に戻してあげるよ」
と言い、彼に白ワインと“鶏のマレンゴ風”の食事をあげる。ひとつの部屋を開けて彼に部屋付きのお風呂に入ってからドレスを着てベッドで寝るように言った。
「目が覚めた時は男の娘に戻ってるよ」
「ありがとうございます!」
彼が部屋の中に消えてから希望は千里に訊いた。
「男の子じゃなくて“男の娘”なんですか?」
「本人の潜在的な願望を叶えてあげるんだよ」
「まあちんちんがあれば無問題かな」
千里は希望に言った。
「さて、希望ちゃんは女の子に戻してあげようか」
「お願いします!」
さて、春貴はインターハイ本戦の登録メンバーを次のように定めた。
4 山口夏生(3) 154 SF(サマー)
5 竹田松夜(3) 155 PF(パイン)
6 原田河世(2) 165 C(キュー)
7 綾野美奈子(2) 158 SG(ビナ)
8 鶴野五月(2) 152 PG(メイ)
9 砂井梨央(3) 163 C(ペア)
10 菓子弥生(3) 161 SF(マーチ)
11 山口一恵(3) 158 PG(ワン)
13.水森彩(1) 161 SG(アヤ)
14 中沢優(1) 162 PG(ナカ)
17.金子百合(1) 169 C(リリー)
21 高田晃(2) 167 PF(ルミ)
12 津田秋奈(2) 162 SF(タム)nanager
補欠登録
15.間鳥雅(1) 165 SF(マド)
16.琵琶恵美(1) 167 PF(エミ)
19 藤永弘絵(2) 154 SF(イド)
客席から応援
(18)竹下叶(1) (カナ)
20 吉川日和(2) 148 SG(ヒヨ)
「え〜!?ぼくインターハイ本戦に出るんですか?」
と晃は困惑するように言った。
「理由は2回戦の相手を見れば分かるよ」
と春貴は言った。
さて、北海道まで行くのは、部員全員と春貴に、教頭先生、保護者代表として夏生と松夜のお母さん、合計22名である。遠征は費用が掛かるので登録選手のみにする学校も結構あるが、春貴は自分が費用を負担するので全員連れて行きたいと校長にお願いして了承された。だから、竹下・吉川の分の旅費は春貴が出している。
一行は7月23日“こぶたぬき号”で能登空港に移動し、千里さんが所有するエアバスA318(定員100人)に乗り込んだ。定員が大きいので、隣り合わずに座ることができる。
「自家用飛行機なんですか?すごいですね」
と教頭が言う。
「普段はもっと小さい6人乗りとか14人乗りで飛び回ってるんですけどね。今回は人数が多いからこれ持ってきました」
「何台も飛行機お持ちですか」
「今8機くらいかな。普段は自分の飛行場に駐めてるんですよ」
「飛行場をお持ちなんですか!?」
そして新千歳空港までフライトする。フライト中は前祝いと称してローストビーフのクロワッサン・サンドを食べた。新千歳からは用意してもらっていたバスで練習場所の朱雀林業札幌第2体育館に移動する。第1体育館は地域リーグに所属する札幌スノーフェアリーズという女子バスケットチームが使用しており、第2体育館の方を期間中借りる。
美奈子は千里さんに「撞き出しのトラベリングを教えてもらえませんか」と言ったが千里さんは「今教えても混乱するだけだからインターハイが終わってから26日くらいに教えてあげるよ」と言った。その時はなぜ26日なのだろうと思ったが、夏生には分かった。美奈子もすぐ分かったものの、そこまで一瞬で計算するなんて、千里さんは恐ろしい人だと思った。
この体育館で3時間ほど練習してから宿舎に行く。南区にある朱雀航空の札幌支店に移動する。ここの敷地内に部屋が10個ほどあるパイロット用宿舎があり、その中の6室にカプセルベッドを4個ずつ入れていて、24人まで泊まれるようにしてあった。5室に部員達を泊めて、1室に春貴、夏生と松夜のお母さん、千里さんが泊まり、教頭は男性なので別室に泊める。
「電源とwi-fiは自由に使ってね」
と言って、wi-fiのパスワードを書いた紙を配布した。
食事は買い出しを協力者のかたにお願いして初日は石狩鍋を夏生・松夜のお母さんと竹下・吉川で作った。お米は150kg用意した。一升炊きの炊飯器を4個用意している。
洗濯もこの4人にお願いしている。
「私たちは今回炊事洗濯係ですから」
と松夜のお母さんは言っていた。
料理は分割して各部屋に持ち込み、それぞれの部屋で食べる。食堂はコロナ対策でまだ閉鎖したままらしい。食器も紙の容器に割り箸である。WHOのコロナ終息宣言は出たもののまだ警戒は緩めていない。今回北海道への移動にエアラインの飛行機や新幹線を使わなかったのもコロナ対策である。これが用心のしすぎでは無かったことは、すぐに実感することになる。
24日は午前中普通の練習をしてから、お昼にオープンサンドを食べた後、北海道第2代表のチームと練習試合をした。このチームとは別の山にはいっており、当たるとしたら決勝戦なので、互いにいい相手だったのである。
この試合には晃も出した。向こうはかなり強いものの、晃はよく相手のシュートを防いだ。実力ではかなり差があったと思うがけっこう競っていき、最後は美奈子のスリーでなんと1点差で勝ってしまった。試合後お互い握手し
「本戦も頑張りましょう」
などと言って別れた。
着替えて帯広風の豚丼を食べた後、午後からまたたっぷり練習した。この日はたくさんマトンを買ってきてタレに3時間漬けこみ、ジンギスカンをした。いつも焼肉に使っている1人用ホットプレートを持ってきていたので、それで焼いた。
「羊も美味しいですね」
という声が多数あがっていた。
さて、インターハイ、バスケット女子の出場校は51校である。47都道府県から1校ずつに加え、東京・大阪・神奈川および開催地の北海道から2校出ている。そしてこういう日程でノックアウト・トーナメントが行われる。
25日1回戦51→32 19試合
26日2回戦32→16 16試合
27日3回戦16→8 8試合
28日準々決勝8→4 4試合
29日準決勝4→2 2試合
30日決勝2→1 1試合
初日の1回戦には38校が参加して19試合が行われ19チームが消える。13チームは1回戦不戦勝である。富山県代表のH南高校は1回戦で中国地区の高校と当たる。隣のコートでは石川県代表が東北地区のチームと対戦予定だったのだが、相手チームが居ない。キャプテンと監督が呼ばれる。
「**高校は辞退しました」
「どうしたんですか?」
「コロナ感染者が出まして」
「あらあ」
「今朝発熱した選手があり、コロナの検査をしたら陽性だったので遠征メンバー16名と監督・引率全員にPCR検査を受けてもらったら18名の内10名が陽性で、これではチームが編成できないということで辞退なさいました」
それでコートに石川県代表の選手が並び、審判が20-0で勝ちを宣言した。
こちらのコートでは試合が始まる。この試合では晃抜きで戦う。そのために百合を入れている。
こちらもインターハイ初出場だが、向こうも初出場だった。女子スポーツの世界では、こういう学校には卓越した選手がはいってきたため初出場を果たしたというチームが多い。相手チームには178cmのセンターがおり、この人が中心選手だなというのがすぐ分かった。
ティップオフもこの人が取り、こちらに攻めて来る。パス回しをした後、この人が中に飛び込んでダンク気味のシュートを放った。
それでまずは2-0・・・かと思ったら笛である。シュート前にゴール傍に居た百合を押しのけたのがチャージングを取られた。当然ノーゴールである。
すると彼女は審判に文句を言った。慌ててキャプテンが停めるが間に合わない。当然テクニカルファウルである。いきなり2ファウルとなった。
0-0のまま、こちらのスローインから再開される。五月がドリブルで進攻し、夏生が中に飛び込んでシユートしようとした。すると相手センターは夏生を押し倒した!
笛。
「大丈夫?」と美奈子が駆け寄って助け起こす。
「うん。何とか」
と言って夏生は起き上がるが頭をさすっている。
そして相手センターはアンスポーツマンライク・ファウルを取られた。
すると先程のテクニカルファウルと合わせて2回で退場となる!
(普通のファウルは5回で退場。テクニカルファウルとアンスポは合計して2回で退場)
彼女は退場を命じられてまた審判に文句を言った!
更にテクニカルファウルが宣告される。
「ああ、出場停止処分喰らうね」
「バスケットを1から勉強しなおしたほうがいいかもね」
「バスケットは空手の試合ではないということからね」
そういう訳で向こうの大黒柱は、まだどちらも点数を取る前にコートを去ったのである。
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