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■春回(4)
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5月中旬、火牛アリーナに建設中だったパイプオルガンが竣工し、オルガン奏者の川原夢美さんを迎えて完成記念式典がおこなわれた。
ビルダーのYY楽器の社長、火牛アリーナの白石館長、が挨拶し、県知事の祝辞もあった。(パイプオルガンは“メーカー”(製造者)ではなく“ビルダー”(建設者)と言う)
そのあと川原さんが『トッカータとフーガ・ニ短調』を弾いた。
霊界探訪はこの式典をレポートした。また別途YY楽器の金沢支店長(古庄夏樹)にも取材して、このパイプオルガンの仕様・機能などについてもレポートした。このパイプオルガンはコロナ対策のため、外から取り入れた新鮮な空気をパイプに流すように作られている。そのため空気の温度調整ユニットが付いている。たぶんこんな構造のはここだけ。(空気の温度が変われば音程が変わる)
「弾いてみますか?」
と言われて、真珠は『猫踏んじゃった』を弾いた!
「5億円の楽器でこういう曲を弾くのは爽快ですね」
と夏樹は言って自分でも『おどるポンポコリン』を弾いてみせた。
「支店長さんもお茶目ですね」
「まこちゃんには負けるよ」
「いや他人行儀で話すと変な気分です」
「まあ旧知だからね」
「実はこちらの支店長はドイルさんの親戚なんですよ」
と真珠は言った。
「うん。血はつながってないけど親戚。まこちゃんにはうちの娘とも遊んでもらった」
と夏樹も言う。
夏樹はこのパイプオルガン竣工で金沢に転勤した目的は完了したものの、当面そのまま金沢支店長として据え置かれる。
5月の霊界探訪では、このほか東京の初海が取材してくれた、アクア映画の制作状況、アクアの上野原別荘のレポート(龍と虎の象をもらったので編集部に飾った)、また4月中旬に某所で起きた交通事故と、患者がドイルの力で意識回復した件を取り上げた。再現ドラマでは奈那は本人が出演し(奈那は番組レギュラー)、事故に遭った生徒の役は墓場劇団の境界迷子が演じた(名前にピッタリの役)。
「ドイルさん、出産したばかりなのにもうフルパワーだな」
「凄い人だね」
この件では幸花は「今回は事故の直後だったのでうまく行ったとドイルは言っていました。時間が経つと非常に難しくなるそうです」とコメントした。事故から1年も経っていたジャネの意識回復は青葉も「あれは奇跡」と言っていた。
『おじいさんの時計』の奈那が歌ったバージョンも公開された。
「凄いアップテンポだね」
「ブルーグラスはこんなもんでしょ」
この他、定点観測や石川県に移住した神田あきらのインタビューなどで番組はまとめた。また番組レギュラーの真珠が妊娠したことも報告され、妊娠レポートをしていくと明恵は言った。
「それで熊本レポートは双葉ちゃんがしたのか」
「真珠ちゃんの次は明恵ちゃんが妊娠したりして」
邦生は思っていた。青山さん、青葉、真珠、と“元男の子”の妊娠が続く。俺妊娠しなくて良かったぁと。彼は“ほぼ女の身体”になっただけで妊娠はしてない。青葉の結婚相手も女になってしまったみたいだけど、次の子供はどちらが産むのだろう。
その彪志(月子)は各自治体との話し合いに奔走していた。またどうも近いうちに南砺市内でドローンの実験をすることになりそうなので4月は市内を車でかなり走り回り、地理的な感覚をつかめるようにした。それにしても凄い道だと思った。結構雪の残っている所も多く正直怖かった。こういう所だからこそドローンの出番だなとも思った。
彪志(月子)は男装なのだが、多くの人の目には女性に見えるようである。
「女性のパイロットって凄いですね」
とも言われた!
彪志は会社ではほぼFTM扱いで男子トイレの使用を“許可”されているが、生理の時は女子トイレでナプキン交換することになっている。外出中は混乱防止の観点から女子トイレを使う。
連休明けに1回公開実験をおこなった。法的な問題を避けるため、今回は危険性の少ない、目薬とシップ薬に消毒薬、体温計と生理用ナプキン、菓子パンと水のペットボトルを運んだ。処方薬を運ぶ場合は患者別の不透明な袋に入れ本人と家族以外の目には触れないようにすることは言葉で説明した。
城端の本部から離陸させたドローンをFPV(一人称視点)で操作して飛行させ、平村の合掌造りの家の前に駐めた移動店舗の上に着陸させると見学していた市の関係者やマスコミから歓声があがった。
この実験の見学には5日に地震があったばかりの珠洲市の関係者も数人来ていた。まだまだ地震が続いているので、また大きなのが来て道路が寸断されたような場合にドローンがひじょうに大きな力になるのではと考えているようである。ぜひ珠洲市でも実験をと言っておられたので、そちらも交渉を進めることにした。
珠洲市関係者はウィングライナーにも興味を持っておられたので、帰りは針野君に付き添ってもらってウィングライナーの城端〜伏木〜七尾小島〜飯田の区間に試乗してもらった。
「飯田まで直行できるとは素晴らしい」
「まあ七尾小島で一度乗り換えますけどね」
「これ一般開放する予定は?」
「ありません。あくまで内部の物資運搬やスタッフ移動用なので。それで認可も取っていますし、料金を徴収するような仕組みとかも無いんですよ。鉄道なんかと違って定時運行は困難ですし、公共の交通機関にするとなるとJRさんとか、あいの風・とやま鉄道さん、のと鉄道さんなどと競合してしまいますしね。そもそも認可がおりないと思いますよ」
「残念だなあ」
のと鉄道はスタートした時点では七尾から珠洲市の蛸島まで路線があったが、次第に縮小され、現在は七尾−穴水間だけ細々と運行されている。珠洲市としては鉄道に準じる交通機関は欲しいだろうが、競合してしまう企業は認めたくないだろう。
「それに実は公共交通機関ではないから、この上をドローンが飛べるんですよ」
「なるほどー」
「法律の穴を撞いているのか」
若葉は言った。
「敦賀と小浜のミューズエリアの間に新交通システムを作ろう」
「はあ?」
「幾ら掛かると思ってんの?」
「私お金の減ること大好き」
「それにしても」
「以前やったアクア・コンサートの時はなかなかバスに乗れなかったじゃん。新交通システム作ればトランスポートの問題が解決するよ」
「そうかなあ。鉄道や新交通システムは確かに一度に運べる人数は大きいけど、一便発車したらそれが次の駅に着くくらいの間は次の便は発車できない。それよりはバスのほうが次々と発車させることができる」
「うーん」
「それにそんなもの作ると言ったら、まともに競合するJRが反対する。認可とるだけで数年掛かるよ」
「それでは夏のコンサートに間に合わない」
「だからバスで頑張ろう」
「うーん・・・」
若葉は不満そうだった。
H南高校女子バスケット部。
青葉は春貴に「日和ちゃんはマネージャーやらせるには性格的に向いてないよ」と注意しておいたのだが、確かに向いてないと思わせる事件が幾つかあった。彼女は用具倉庫の鍵を紛失したし、頼んでいたFAXが送られていなかった。どちらもほかの子が見付けたり気付いたりして事なきを得たもののの、見かねた藤永弘絵が
「先生、インターハイ予選では私をマネージャー登録して下さい」
と言った。
藤永弘絵は元々「頭数が足りないからマネージャーでもいいから」
と言って入れた子である。
ただ、弘絵は下位の試合では実戦力になり、その間レギュラーを休ませておけるので、インターハイ予選では公式戦に出すことは無い高田晃をマネージャー登録することにした。女子の公式戦に出してしまうと、もう彼は男には戻れなくなる。
そのインターハイ予選は5月20日から始まった。ただしH南高校はシードされているので最初の週は試合が無く、5月27日の3回戦からであった。選手登録は次のようにした。
4 山口夏生(3) 154 SF
5 竹田松夜(3) 155 PF
6 原田河世(2) 165 C
7 綾野美奈子(2) 158 SG
8 鶴野五月(2) 152 PG
9 砂井梨央(3) 163 C
10 菓子弥生(3) 161 SF
11 山口一恵(3) 158 PG
12 津田秋奈(2) 162 SF
13.水森彩(1)161 SF
14.中沢優(1)162 SF
15.間鳥雅(1)165 PF
16.琵琶恵美(1) 167 PF
17.金子百合(1) 169 C
18.藤永弘絵(2) 154 SF
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** 高田晃(2) 167 manager
** 吉川日和(2) 148 Assistant coach
** 竹下叶(1) trainer
3回戦には1年生たちや弘絵なども積極的に使い特に1年生には経験を積ませた。晃は春貴の隣に座らせ、スコアを付け各選手の出場時間をチェックさせていた。3回戦は取り敢えず20点差で勝った。
翌日の準々決勝からは強いところとぶつかり始める。1年生はリバウンド係の百合以外は出番が無くなる。準々決勝は魚津市の学校と当たり、最初は競ったものの次第に引き離し、15点差で勝つことができた。
そして翌週、準決勝で高岡C高校と当たる。春の大会では割りとすんなり勝てたのだが、さすが名門校である。かなりグレードアップしていた。最初は向こうが先行して始まる。しかしこちらは河世と百合のふたりでリバウンドを拾うからリバウンドの7割くらいがこちらのボールになる。
百合を出している間はシュートできる人が少ないから得点力は落ちるのだが、それでもじわっと追い付きやがて追い越す。それで最後は何とか3点差で勝つことができた。それでH南高校は、春の大会に続いて決勝戦に進出する。
最終日6月4日、先に行われた北信越大会代表決定戦では高岡C高校が黒部市の高校を破って北信越大会出場を決めた。そして決勝戦がH南高校と富山B高校の間でおこなわれる。
夏生・河世・美奈子・百合・五月というメンツで送り出す。こちらの先制で始まったものの、すぐ逆転される。試合はリードしている側がめまぐるしく変わるシーソーゲームで進行した。春貴は晃の出場時間チェックを参考に、梨央、松夜、弥生、一恵、彩、優、などを出して疲労が溜まらないようにする。どちらもファウルは少なく、退場者も出ないまま試合は終盤まで行く。
残り7秒、2点リードされた場面から美奈子がスリーを撃った。
しかし相手選手にブロックされたかと思った。百合がボールを押さえ、夏生にパスする。
が笛が吹かれる。
ん?
と思ったら、ゴールテンディングが取られた。
相手のブロックは“ボールの下降中”であったと判定されたのである。この場合、ボールがリングを通過したかどうかによらず得点が認められる。
H南高校に3点が入る。
「スリーポイント・ゴール、7番・綾野美奈子」
と場内アナウンスがある。こちらの1点リードになる。
向こうが速攻する。相手スモールフォワードが時間切れぎりぎりにシュートしたが松夜のブロックがきれいに決まり得点ならず。ファウルとかも無し。
それでH南高校の勝ちになったのである。7月のインターハイに出場する。体育館に練習場所も割り当ててもらえてなかった弱小チームだったのが、春貴が着任してから新生女子バスケ部2年目の快挙であった。
その時ベンチに居たメンバーもあわせて全員歓喜で、選手達は相手選手とも握手したりして健闘を称え合った。
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