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■春回(3)
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それでボートを岸に着けてから、明恵と双葉には梯子の登り降りもしてもらった(ふたりで交替で撮影)。
ここは完成した映画では階段に置換された。アクアが梯子を登り降りしたところも後に公開された“完全版”のNG集にのみ収録された。でも明恵たちは“崖の下”の家でコーヒーを飲んだ。アクアもここでコーヒーを飲んだということだった。但し映画では最終的にこの家は崖の上に移動された。また原作に近い洞窟に変更された。この場面は結局セットで撮影したので現地では撮影用に置いていた家(ユニットハウス)を撤去しただけ。その後洞窟のセットを熊本県が買って崖の上に置いた。明恵たちが行った時は現地ロケで使用した家がまだ残っていた:最初家で撮影したのは国が洞窟を掘ることを許可しなかったからである。もし掘っていたら、その土木工事が完全に無駄になるところだった。
双子っ湖の取材が終わった後、千里は明恵と双葉を熊本市内に連れて行き、馬刺しと太平燕を食べた。その後、湯の児温泉の“美女旅館”に案内した。
「ここの温泉に浸かると誰でも美女になるんだよ」
「誰でもというと男の子でもですか?」
「当然当然」
それでもちろん温泉にはいってレポートする。千里・明恵・双葉が湯船に浸かっている所を小杉に撮してもらった。
「この旅館そもそも女湯しか無いような」
「男の子でもここの湯に入ると美女に変わってしまうから結果的に男湯は必要無い」
「じゃ男の子でも女湯に入るんですか」
「服を脱ぐ時は男だけど、服を着る時はもう女だからね。パンティはプレゼント」
「ちんちんとバイバイだね」
「美しい別れですね」
「代わりにパイパイができる」
「誰がうまいことを言えと」
「まあちんちん無くしたくない人は隣の美男旅館の男湯に入れば良いね」
「そちらはもしかして男湯しか無いとか」
「正解」
「そういう仕組みだったのか」
「昔は混浴だったけど戦後ちゃんと男湯と女湯を分けなさいと保健所から指導されて、でもスペース的にどちらも増築の余裕が無かったんで、ふたつの旅館をつなぐ渡り廊下を作って相互利用することにしたんだよ」
「なるほどー」
「でもここの湯はぬるぬるしてる。アルカリ性温泉ですね」
「そそ。こういう湯は一般にも“美人の湯”と言われるね。美男旅館は酸性」
「へー」
ふたりは旅館で名物の太刀魚料理も堪能した。翌日は“トンカラリン”を訪れた。(やっと「霊界探訪」っぽくなった)
ここは謎の洞窟(トンネル)で、建設時期も目的も不明である。物を落とすと“トンカラリン”と音がするということからこの名前がある。(おむすびコロリンみたい)この洞窟に関する確かな資料が存在せず、邪馬壹国時代の祭祀跡という説から明治時代に用水路として掘ったという説まで様々である。邪馬台国と明治では大違い!
最後はお土産で“肥後ずいき”も買い、これは視聴者プレゼントとした。
明恵が熊本のお土産にいきなり団子を持ってきたので、青葉は
「ちょっと頼まれてくれない?」
と言って、明恵を秘密の地下室に案内した。
「この家にこんな場所があったんですね」
それで巨大水槽を見せる。
「私妊娠中全然泳げなかったからだいぶ錆び付いてるからさ。少しずつリハビリしたいんだよ。それでまともに泳げるようになるまでしばらくここで練習しようと思って」
「地下のプールで泳げばいいのに」
「あまりぶざまな所をリルちゃんたちには見せたくないし。彼女たちの志気にも良くないし」
本当はRがリルたちの前には出て行く予定なので混乱を避けるためである。
「それで私が泳ぐ時、他に誰もいない時に足が吊ったりしたらまずいからさ、そばに付いててもらえないかと思って」
「でも私には助けきれませんよ」
「千里姉に電話してもらえば何とかしてくれると思う」
「分かりました。そうします」
それで青葉Lの水泳練習中は明恵に付いててもらうことにしたのである。
編集部の正式部員になった希望は大学4年生の男の娘で、就活しなければならないのだが、本人は男として就職すべきか、女として就職しちゃうか悩んでいた。(和栄は男に戻り紳士スーツを着て県内の設計事務所に入る予定。髪も短くした)
しかし就職やその準備活動で希望まで編集部から離脱されるとマジで戦力が不足するので、幸花は青葉に電話して
「この子を雇ってくれない?」
と言った。それで青葉が助手として雇うことにして毎月取り敢えず10万払うことにした。健康保険証も発行する。
楽譜や歌詞の入力を手伝ってもらうことにする。彼女は放送委員をしていたこともあり、朗読がうまいので、歌詞の朗読係もしてもらうことにした。松本花子の小樽本部にも朗読係は数人居るが、最初から朗読した音声を登録すると手間が省けて早く楽曲を作ってもらえる。
また初海が東京に行き真珠が妊娠してドライバーが明恵だけになってしまったので、希望にはドライバーも兼任してもらう。彼女には中古のラクティスを貸与した。それで希望は就活はしないことにし、また当面男の娘を続けることにした。長い髪もどうするか悩んでいたが切らないことにした。幸花は
「玉取っちゃいなよ」
と言っていたが本人は
「まだその決断は・・・」
と言って悩んでいるようである。でも青葉の勧めで精液の冷凍保存をすることにした。
青葉Rは千里姉に連絡し
「この子女の子の声が出るようにしてあげてよ」
と言った。
「本人が望むなら」
「望みます!」
「じゃ出るようにしてあげるね。但し喉仏も無くなるよ」
「それでいいです!」
それで彼女は女の子の声になった。
5月13-14日、青葉は本当はまだ産休が終わってないのだが、ミュージシャン・アルバムの取材をした。13日にザ・ココナッツ、14日にジョイアである。
13日は東京から連れてくるのはザ・ココナッツの2人とマネージャー、ラピスラズリとケイで合計6人なのでホンダジェットに乗るのだが、明日の帰り便の都合でガルフストリームを使用した。6人で郷愁飛行場からG450で能登空港まで飛び明恵が運転するアルハンブラで青葉邸に連れてきた。
ザ・ココナッツへのインタビュー。
「朝美ちゃんと夕奈ちゃん、ザ・ココナッツのおふたりでーす」
「よろしくお願いしまーす」
「で合ってた?」
「大正解です」
「良かった。実は大宮万葉先生に教えてもらったんです。向こう側が朝美ちゃんだよって」
「大宮先生、凄い」
「お姉さんの醍醐春海先生もきれいに双子を見分ける」
「凄い姉妹ですね」
朱美は言った・
「ザ・ココナッツはハーモニーが美しいですね」
「私たち声が同じだからユニゾンで歌うとひとりで歌っているように聞こえちゃうんです」
「それで三度で歌うんですよね」
「ああ、マナカナなんかもユニゾンで歌うとひとりで歌ってるように聞こえる」
「ですよね」
「それで“ココナッツ”という名前の由来ですが」
「ザ・ピーナッツのぱくりだと随分言われたんですが」
「それとは全然関係無くて」
「最初はゆうなともう一人ココアちゃんって子が居たんですよ」
「それでココアとゆうなで“ここな”からココナッツになったんですよね」
「でもココアちゃんやめちゃって」
「それで誰か別の子をいれようという話になったんだけど、取り敢えずの練習パートナーとして、朝美にもうひとつのパートを歌ってもらったんですよ」
「ああ、この世界“取り敢えず”というのはたいてい永続化する」
「ですよねー」
「それでこのままこのふたりでということになって」
「でもふたごだとユニゾンやリレー歌唱方式が使えないということになって」
「唐突にあんた三度で歌ってみてと言われたんですよ。最初は譜面も無くて」
「もう工場にプレスに出す締め切りの2時間前に」
「そりゃきれいに譜面書く時間無い」
「でもそれでちゃんと歌えたのが偉いね」
「それで結局ハーモニー唱というスタイルが確立したんですよね」
「デビュー曲のカップリング曲はザ・ピーナッツさんの『恋のバカンス』だね」
「最初はモーニング娘。さんの『モーニングコーヒー』だったんですよ」
「でもそれも突然これ歌ってみてと言って譜面渡されて」
「だから練習とかする時間なかったね」
「5回歌ったうちのいちばんいい出来のでプレスしたんです」
「伴奏も紀ノ本さんのエレクトーンだけで」
「でもあれで゛結構多くの人に注目されたかも」
「タイトル曲の『湖の朝』よりそちらのほうがダウンロード多かったらしいです」
「ラピスラズリさんも『恋のバカンス』歌いましたよね」
「うん。歌った。女の子のデュオがいるとあの歌を歌わせたい人がいるみたいで」
「ダブルユーもクラリスも歌ってる」
「ゴールデンウィークのネットライブも盛況だったみたいね」
「なんか3万人も見てくださったということで、びっくりしました」
「売上は1億円だよ」
「恐ろしい数字だね」
「それで君たちはいくらもらえるの?」
「私たちお給料方式だから特には」
「お給料っていくら?」
朝美が朱美の耳に囁く。
「うん。まあ最初はそんなものでしょ」
「アルバムも出すんだよね」
「なりゆきですね」
「あけぼのテレビで有料ネットライブやる条件が『発売予定の作品も含めて2時間のステージの7割以上を発売したことのある作品で構成すること』だったんです。これまでに出したシングルだけでは足りなくて」
「それでこの夏にアルバムを出す予定ということにしちゃったんです」
「出さないと嘘ついたことになって出演料もらえないから頑張って出さないと」
「1億円もらえなかったら大変やん。頑張ってね」
「はい」
「ボーナスくらい出してもらいなよ」
「言ってみます」
マネージャーさんが苦笑していた。
音楽室に移動しての歌唱では出す予定のアルバム『南国』の代表曲ということで『君の瞳に』を町田朱美のエレクトーンで歌った。
「でもこの部屋音響いいですね」
「うん。ここは音響が良くなるように壁板の彫刻とかが入っている。音を全部殺してしまう“防音室”ではなくて音を活かす“音響室”なんだよね」
「凄い」
「§§ミュージックにもこういう感じの部屋があるよ(B10スタジオ)。ここには及ばないけどね」
「素晴らしい」
なおザ・ココナッツは予告していたアルバム『南国』の後になったが、ライブで歌った“ニッポン・デュオ・ヒストリー”もミニアルバムとしてリリースした。
『情熱の花』(ザ・ピーナッツ)
『SOS』(ピンクレディ)
『待つわ』(あみん)
『かしこ』(うしろゆびさされ組)
『淋しい熱帯魚』(Wink)
『渚にまつわるエトセテラ』(Puffy)
『Wake up』(ClariS)
結果的にライブの全てを音源化した曲で構成したことになりしっかり出演料をもらい、本人たちもボーナスをもらったらしい(きっと朱美のおかげ)。
インタビューが終わった後はリビングで焼肉をしたがふたりは
「富山に行くなら“氷見うどん”は食べてきなさい」と言われたと言っていたので、高岡屋の氷見糸うどんを茹でて出してあげたら
「お素麺みたい」
と言って食べていた。
2人はテレビ局の車でドラえもん広場などを見て、能登空港からホンダジェット(ここに駐めていることの多い“黒”)で帰還した。
翌日はジョイアの子たちを迎えた。彼女たちとマネージャーをホンダジェットの帰りの便に乗せて能登空港に連れて来た。
「和菜ちゃん、美香ちゃん、飛鳥ちゃん、智恵ちゃん、でジョイアの皆さんでーす」
「よろしくお願いしまーす」
「皆さんよく言い間違えられるとか」
「そうなんです」
「ガイアとか」
「ウルトラマンみたいだ」
「ジョアとか」
「飲み物みたいだ」
「イタリア語だよね」
「はい。英語のジョイ(joy)に相当するイタリア語なんです」
「じょいと言うと女のお医者さん?」
「またそういうボケを」
「病院始めようか」
「診てもらいたい男の子がたくさん来るよ」
「どんどん手術しちゃおう」
「何の手術するんですか」
「そりゃ男の子の手術するといえば、女の子に改造してあげるんだよ」
「あはは。やってみたいですね」
「うん。やっちゃえ、やっちゃえ」
「何か凄い話している気が」
「ファンクラブの会員が全員女子になったりして」
「FCグッズで化粧水とか口紅とか売れるよ」
「いいかも」
「でもデビュー3周年だね」
「あっという間に3年経ちました」
「私たちも中学生だったのが高校生になっちゃった」
「始めた時は1年持つかなと思ってたんですが」
「シングルも6枚出したし」
「ずっとコロナの流行でライブができなかったのが先日ネットライブやったら、凄い拍手と歓声で」
「ラピスラズリもデビュー直後からコロナが始まったから、生ライブやってないんだよね」
「ああ、同じくらいの年代ですよね」
「うん。ラピスラズリは2020年3月デビュー」
「ジョイアは2020年5月なんです」
「ほぼ同期だね」
「うちの事務所で生ライブの経験があったのは白鳥リズムちゃんあたりまで」
「リズムさんの翌年がラピスラズリさんでしたっけ?」
「その間に花咲ロンド・石川ポルカ・原町カペラが居るんだよ」
(正確には桜木ワルツや桜野レイア・山下ルンバ(花ちゃん)もいる)
「ごめんなさい!」
「いや開き直って“売れないシスターズ”とか言ってるから」
「この世界売れないのが普通ですよね」
「うん。毎年大量の新人がデビューするけど、1年後まで残るのは1割以下、2年後まで残るのはほんの数組だよ」
「お魚とかの生き残る確率みたい」
「そうだね。魚の子供は何万匹も生まれるけど、大人にまで成長できるのは僅かだからね」
「どこも厳しいんですね」
「全国50箇所コンサートするとか」
「はい。コロナが落ち着いてライブが解禁されたから全国まわって小さいホール中心に」
「小さいホールでのライブって音楽の原点だよね」
「うちの社長からも言われました」
「大きい箱はステータスだけど小さい箱こそファンと触れ合えるって」
「うん。そうだと思う」
歌唱ははるこがピアノを弾いてヒット曲『渚の喜び』を歌った。
「個人の家にスタインウェイがあるって凄いですね」
「この音楽室はこのピアノを置くために建てたんだよ」
「やはりスタインウェイってそれを置くための家を建てないといけないような楽器ですね」
「うん。音を響かせるための空間が必要だから。それでこの部屋は天井も高い」
「あ、天井の高い部屋だと思いました」
「ヤマハのC型グランドピアノは日本の狭い住宅でも何とかなるように作られている」
「やはりスタインウェイはヨーロッパの貴族のお城なんかで演奏するための楽器ですね」
「そうそう」
「そのうち儲けたらお城建ててスタインウェイ置こうかな」
「うん。そうなるよう頑張れ」
この日の帰りは、昨日使用したガルフG450にジョイアの4人とマネージャー、ラピスラズリとケイ、合計8人で乗って郷愁飛行場に帰還した。
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