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■春回(10)
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7月2日(日)、希望に初めての生理があった。数日前から下腹部が痛かったので生理が来るのかもと思いナプキンを着けていたので、下着は汚さずに済んだ。しかし真っ赤に染まったナプキンを見て、希望は「壁を越えちゃった」ことを認識した。
ぼくひょっとして妊娠とかもできるのかなあ?
7月3日(月)、インターハイ・バスケット競技の組合せが発表された。それを見て春貴はもはや笑うしか無かった。
「まあこういう相手とやるのもいい勉強かも」
と春貴は思った。
7月7日、青葉は約束通り、800m自由形で、多江・リルと競争した。競争には、リルの妹のハネ(高3)、月見里姉妹の推薦で〒〒スイミングクラブに加わった田村真美(高1)、それに南野里美も参加した。紗織はプールサイドで明恵に見ていてもらう。
全員飛び込み台に就くが、青葉だけはまだ身体が万全では無いのでと言って、飛び込み台は使わず、水中スタートにさせてもらった。号砲が鳴り全員飛び込む。青葉も泳ぎ出す。最初は飛び込んだ勢いの分、青葉が出遅れる。しかし一往復してきた時点でまずは真美ちゃんを抜き去る。2往復した段階で里美も抜き去る。その後ハネも抜き去り、300mから先は、多江・リル・青葉3人の勝負となる。3人は500mから先はほぼ横一線になり、そのまま最後の往復まで行く。最終的な到着順は、多江・リル・青葉の順だったが、1位多江と3位青葉の差は1秒程度であった。
「負けちゃった。まだ本調子じゃないな」
などと青葉が言い、身体を拭いて明恵から紗織を受け取り、水着をずらして授乳する。これをするため今日は緩い一般用の水着を着けている。
「いや、飛び込み台を使わず、しかも普通の水着を使って私たち2人と大差無しというのは事実上私たちの負けですよ」
「そうかな?でも本当に君たちに勝てるよう頑張ってリハビリするよ」
「私たちも頑張ります」
と多江。
「来月もしましょう」
とリル。
「じゃ8月7日に」
「はい!」
それで多江もリルも再度気合が入ったのであった。競争を見ていたジャネは小声で青葉に言った。
「余裕じゃん、あの子たちに勝ちを譲るなんて」
完璧に負けた高校生のハネと真美は「青葉さん凄いなあ」と感心していた。里美は「信じられん。青葉ちゃんは化け物だ」などと言っていた。
H南高校女子バスケット部。
1年生の一部から質問があった。
「バスケって、何秒ルールとかいうのがたくさんありますよね。何かこんがらがってきたんですが、どんなのありましたっけ?」
「はいルミちゃん」
「まず分かりやすいのは3秒ルールだよね。相手のペイントエリアにオフェンスの選手は3秒を越えて留まることはできない」
「あ、それは分かります」
「次に5秒ルール。ボールを持った選手は密着ディフェンスされていたら5秒以内にパスかドリブルかシユートかしなければならない。ここで間違いやすいのはドリブルせずにピボットを使って、軸足でないほうの足を回転するように動かす動作は5秒ルールの中断にはならないこと。必ずパスかシュートでボールを放すか、あるいはドリブルする必要がある」
「あ、それ間違いやすいんだよね」
と五月も言う。
「それとドリブルする場合“撞き出しのトラベリング”を犯しやすいから気を付けて」
と美奈子。
「何ですか?それ」
これは晃も五月も知らないようだった。
「これ凄く難しいから今度千里さんが来た時に教えてもらって」
「うん」
「それから8秒ルール。センターラインより手前でボールを持ったチームは8秒以内にセンターラインを越えてボールをフロントコートに運ばなければならない」
「へー」
これは知らなかった子が何人も居たようである。
「そして24秒ルール。ボールを持った側は24秒以内にシュートしなければならない。これはいつも24秒計が動いてるからみんな知ってるよね」
「はい」
「5秒ルール・8秒ルールにしても24秒ルールにしても試合は、ちんたらやってはいけない。迅速に進めなさいということだよね」
と晃は言う。美奈子が補足する。
「24秒ルールの無かった時代はリードした側がその後ボールを奪われないように5分も10分もひたすらドリブルを続けるなんて酷い行為が横行してたんだよ」
「お金取って見せる試合じゃないよね」
と夏生も言う。
「それを天皇杯でやったチームもあった」
「ひどーい。そんな大きな大会で」
「こないだの北信越大会の時、なんかディフェンスの前でくるつと回転して抜くってのやってた選手いましたよね。あれどうやるんですか」
と1年生の子から質問があった。
「はい。メイちゃん、やってみよう」
それで河世にディフェンス役に立っていてもらい、五月が実演してみせた。
「すごーい」
「格好いい!」
と言って1年生たちがみんなロールターンのやり方を習っていた。美奈子と組んで、逆に停め方も教えていた。美奈子がロールターンで抜こうとした所を五月がスティールしてみせると
「魔法みたいだ」
と声があがっていた。
「でもファウルと紙一重ですね」
「動体視力の勝負だよ」
7月12-16日、司法試験が行われ、月城たみよの姉(元兄)松崎元紀が受験した。
和栄がまた体調が悪いと言って休んでいたので希望は和栄に電話してみた。
「どうしたの?風邪か何か?御見舞い行こうか?」
「希望ちゃんにしか頼めないものがあるんだけど」
「何?風邪薬とか買ってこうか」
「あ、風邪では無いんだよ。申し訳ないけど、ナプキン買ってきてくれない?ブランドは何でもいい」
「生理用ナプキン?」
「うん」
「分かった。買ってくよ」
それで希望は詮索せずに“しあわせ素肌”の軽い日用と多い日用、生理用ショーツ、それにアーモンドフィッシュと、鉄分が補給できるビスケット、お惣菜のレバニラ炒め、ほうれん草の炒め物、マグロの剥き身とレンチンごはん、を買っていき、何も訊かずに置いて来た。
希望は学生課に呼ばれて出て行った。
「あなたは小学校教諭の免許を取得見込みで、女性度検査の点数が70点以上ですので、性別を女性に変更可能です。性別の女性への変更を希望なさいますか」
「はい。希望します」
何でも90点以上は強制的に女性に変更されるらしい。
「ではこのフォームにご記入ください」
と言うので、希望は“性別変更申請書”という紙を受け取り、記入した。
氏名:水野希望
変更方向:O男→女・女→男
女性度検査:84点
男性度検査:17点
本籍地:石川県白山市**町**番**号
戸籍筆頭者:水野東風
旧続柄:三男
新続柄:長女
旧氏名:水野希望 (Nozomi Mizuno)
新氏名:同上
「では直ちに変更しますね。これで戸籍・住民票・運転免許証・パスポートが全部変更されます。大学の学籍簿も変更されますし、教員免許もそれで発行されます」
「分かりました」
「マイナンバーカードやパスポートは通知が来るはずですから、来たら受け取りに行ってください」
「はい」
「あなたはもう女性ですから、女性しか取れない資格、例えば助産師の資格とかも取得できます。但し子供を認知することやAIDのドナーになることはできません」
AIDって何だっけ?
しかし希望は目が覚めてから「いい夢だなあ」と思った。
「え?和栄ちゃん、バイト始めたの?」
と幸花は言った。ドイルがまだ本調子では無い中、戦力ダウンはきつい。
「授業料が払えないらしいです。一応分割払にしてもらったものの、奨学金だけでは払いきれないというので。卒論も書かないといけないし、大変ではあるんですが」
と希望が説明する。
「単位とかは?」
「あの子ここまでひとつも落としてないからそれは大丈夫そうです。ドイルさんがどうしても足りない時は貸すから、サラ金とかは使わないようにって言ってました。でもできるだけ自分で頑張ってみますと本人」
「さすがドイルだ。私ならせいぜい100円くらいしか貸せん」
うちの母ちゃんよりは多いな。
7/15-16(土日)、高校バスケット、富山県の地区リーグが行われる。これは富山県を幾つかの地区に分割し、その地区の中で争うとてもローカルな大会である。H南高校は高岡地区であるが、その中でも北部である。ここには4校あり、ノックアウト・トーナメントで順位を決める。2日目は高岡地区(富山県西部)内で1位リーグ、2位リーグなどが行われる。
この大会には選手を18人登録できるので、日和と弘絵も選手登録しようと思い名簿を作っていたら、高岡C高校の矢作先生から電話がある。
「奥村先生、うちとの試合には高田晃も使ってくださいよ」
「そうですね。使いましょうか」
地区リーグは練習試合の延長のようなものだし、いいかなと春貴は思った。それで18人枠には余裕があるし、彼も入れることにしたのである。
1年生の中で中沢優は元々ドリブルが上手かったし、先日のロールターン教室でもいちばん上手くできた。それで今回はポイントガードとして登録した。
「でも私シュートもできますよ」
「うん。だからシュートもするポイントガードということで」
「面白いかも」
「相手はポイントガードはシュートしないと思ってるからシュートしたら意外じゃん」
「攻撃の幅が広がるかも」
「ということでよろしく」
(最近はこういうポイントガードも居る。昔はポイントガードがシュートしたら非難されていた)
「え〜!?ぼく選手なんですか?」
と高田晃本人は言ったが、春貴は
「地区リーグは練習試合みたいなものだから。高岡C高校が君の出場を望んでいるんだよ。だから高岡C高校戦だけに使う」
「分かりました」
しかし晃は河世・百合と組んで3人で、シュート→ブロック→リバウンドの練習をだいぶやっていた。百合もシュートを20本撃つと1本くらいは入るようになってきた。
春貴はキャプテンの夏生を呼んで高田晃を入れる趣旨を説明した。
「ああ。いいんじゃないですか」
と言ってから、夏生は更に言った。
「先生、インターハイの“2回戦”にもルミを使いましょうよ」
夏生はH南高校が2回戦で当たる相手が分かっているようだ。
「でも2回戦に進むためには1回戦に勝つ必要があるよ」
「勝ちます。ルミを入れることで落ちる子には悪いけど」
「よし。そういうことにしようか」
晃を入れるために外れてもらう子を誰にするか、春貴は3日悩んだ。本人を呼んで
「来年は入れるから今年は我慢して欲しい」
と通告したら
「キャプテンからもそう言われました。来年はスターターになれるよう頑張ります」
と言っていたのて、夏生って凄い!と春貴は思った。
7月14-30日、世界水泳が福岡市のマリンメッセで行われた。青葉はこの大会には出ないが、コーチ登録で付いていった。津幡組の選手・スタッフは12日に千里姉のガルフストリームで、能登空港から福岡空港へ飛んだ。
福岡空港の近くには、千里が管理するプールがあるので、期間中2人はここを借りて連日練習をしていた。青葉は2人の泳ぎを見ながらプールサイドで紗織を抱いていた。
雑誌社から取材申し込みがあり「女性の記者さんなら」と許可した。それでやってきた記者は青葉が紗織に授乳しているのを見て
「可愛いですね。さおりちゃんでしたっけ」
と訊く。
「はい。よくお乳飲みますからこちらは水分補給が大変です」
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