■春シン(10)

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3月中旬、熊本の観光協会から§§ミュージックに連絡があった。
 
「ゴールデンウィークに向けてのCMで、西浜ももえさん(発言のママ)にお願いするつもりだったんですが、年末に撮った立山きららさんのCMが凄い評判でですね。ポスター分けてくれという引き合いも凄くて、熊本城とか阿蘇への旅行者の数も明らかに多かったんですよ。熊本駅とか熊本の旅館などの売上も多かったですし。それで申し訳無いのですが、ゴールデンウィークのCMはまた立山きららさんにお願いできないでしょうか。西浜さんにはキャンセル料をお支払いしますので」
 
ということで、“きらら”は再度キャンペーンに出ることになってしまったのである。
 
それで煌は3月9-10日(土日)、宮下マネージャーと一緒に熊本に赴き、前回とは別の浴衣で生伴奏で!よへほ節を踊っているところを収録すると共に、山鹿の灯籠踊りの本拠地・八千代座にも行って保存会の人たちと一緒に踊った。また女子高制服っぽい衣裳で、阿蘇、菊池渓谷、通潤橋、天草、球泉洞、熊本城、水前寺公園、誕生寺、三井グリーンランド、などなど、2日間にわたって熊本の名所をまわり、写真と動画の撮影をした。
 
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よへほ節の保存会から特別会員の証をもらい、撮影はしなかったものの、本来保存会の人にしか踊らせない“組踊り”(2人組で踊るもの)も
指導してもらった。
 
「立山さん性転換なさったんですか?」
「してません、してません」
「だって男の服着てても女の子にしか見えないですよ」
「タレントさんじゃなかったら、うちの息子の嫁さんになってと言いたくなる」
「あはは」
 

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煌は、ももこに謝った。
「ごめんねー。ももこちゃんの仕事取っちゃって」
「仕事もしてないのにキャンセル料だけもらえるから平気です。それに、きららちゃん凄い人気だし」
「それで困ってるんだけどね。最近毎日女の子の服着てる気がする」
「性転換しましょう」
「やだ」
 

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西浜ももこと南里くりこは、花ちゃんのところに来て言った。
「バニラとショコラは“ツイストクリーム”って格好いい名前があるでしょ、私たちは単に“ももくり”と呼ばれていて、私たちにも何か名前付けてもらえませんか?」
 
花ちゃんは答えた。
「じゃピーチ&マロンだな」
 
“ももくり”を英語にしただけ!
 
でもふたりは
 
「あ、何かいいですね」
と言って満足したようにして帰っていった。
 

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3月14日(木)、竹下リル・ハネの弟(妹?)椎羅が、明日から東京に行く準備をしていたら、部屋に母がはいってきた。そして
 
「あんたこれもう着ないよね」
と言うと、男物の下着を全部捨ててしまった。男子制服も片付けられたので彼は4月からは女子制服を着るしかなくなった。
「男子制服無いと困るよう」
「今月中に性転換して女の子になれば問題無い。東京で手術受けて帰ってきてもいいよ」
「明日学校は?」
「もちろん女子制服で行けば良い。あんたこれまでも時々女子制服で行ってたじゃん」
 
なお、来週一週間は大会参加のために休むので公休に準じた扱いになり、そのまま春休みに突入する。明日の次に学校に行くのは4月8日である。
 
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3月15日(金)、立山煌の第2写真集『山が有る2』が発売された。
 
月山・湯殿山、大雪山、阿蘇山、出雲、博多、大阪などの写真がはいっている。セーラー服の写真が2枚入っているのは「可愛い!」と言われた。また山鹿の灯籠娘のコスプレも「ほんと可愛い」と言われていた。
 

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煌は連続ドラマ『銀座アルジャン亭』の初回撮影に臨んだ。何だか物凄く可愛いウェイトレス衣裳を着せられた。まるでメイド喫茶のメイドさんみたい。
 
「なんか可愛すぎじゃないですか?」
「いや、きららちゃん可愛いからそれで良い」
 
約束通りセリフは無いのだが、きららは表情と仕草で充分演技をした。
 
「きららちゃん凄いよ。セリフ無しでここまで表現するなんて」
とベテラン俳優の白石孝男さんが褒めていた。
 
「丸山さん、この子凄いよ。何かセリフ作ってあげてよ」
「それがセリフ無しを条件に参加してもらったので」
「ああ、忙しいの?」
「今レギュラーが5本くらいあるよね?」
「はい」
「これだけできたら引き合い多いだろうね」
 
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3月17日(日)、金沢市内のG大学で卒業式がおこなわれ、希望・和栄・俊美が卒業した。
 
俊美はこの日は日曜日でお弁当を作らなくてよいので、炊飯器だけセットし、おかずはこれチンして食べてね、と徹に言って早朝から美容室に行き、振袖を着付けしてもらった。
 
「もしかして妊娠しておられます?」
「4ヶ月目です」
「じゃ緩く着付けしますね」
「ありがとうございます。よろしくお願いします」
 
そして9時前に金沢市内のホールに行き、卒業式に臨んだ。振袖の子は結構居た。
 
希望も振袖を着ていた。和栄はレディススーツだった。マミちゃんとかも振袖を着ていた。
「成人式の時ローン組んで作ったからたくさん着なきゃもったいない」
とマミちゃんは言っていた。
 
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希望は成人式も振袖だったらしい。和栄は成人式は出なかったと言っていた。
「男物のスーツでは出たくなかったし、男には振袖貸してもらえないし」
 
和栄ちゃんなら女の子に見えるから貸してもらえたと思うけどなあ。ちなみに“俊夫”は男物スーツで出ている。(ダウト!)
 

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卒業式の後、俊美は卓球部の子たちと一緒に中華料理屋さんに行き、飲茶を食べた。
 
「結婚式の時はこの話題出さないけどさ、岡安さん、妊娠したということは性転換手術受けて女の子になったわけではないのね」
「うん。勝手に身体が変化したんだよ。稀に時々あることらしい。本来女だったのに何かの間違いで男にも見える形だったのが本来の形に戻ったんだと言われた。だから私の性別は“変更”ではなく“訂正”されたのよね。男という出生届けが誤りだったことになるんだって」
「誤りかも知れないよ。しょっちゅう『女子はそっちに並んで』とか言われてたもん」
「手を握った感じも女の子の感触だった」
 
「妊娠したということは少なくとも子宮があるわけだもんね」
「赤ちゃんの素(もと)を生み出す卵巣もあるはず」
「種の投入口の膣もあるはず」
 
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「高校の女子制服着た写真見たことある」
「あれ、修学旅行の時、君はよく性別間違えられるから、間違えられないようにこれ着なさい、と言われて着せられちゃったのよね」
「賢明だ」
「それで女子制服で参加して女湯にはいったのね」
「男子制服着て男湯にはいったよお」
「いや女子制服着たに違い無い」
「男子に確認したけど、過去にも誰も男湯では俊美ちゃんを見たことないと言うのよね。だからいつも女湯に入っていたに違い無い」
 
俊美は“修学旅行”というので、ひとつの黒歴史を思い出していた。
 

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小学6年生の時の黒歴史
 
俊夫が小学校の修学旅行に行った時。
 
夕食の後うっかり眠り込んでしまい、お風呂に行きそびれた。それで、ひとりで、お風呂に行こうと思い、お風呂セットを持って部屋を出た。仲居さんを見掛けて
「お風呂にはどう行けばいいですか?」
と訊いた。
「この廊下に引いてある黄色い線に沿って歩いて行ってください」
「ありがとうございます」
 
それで歩いて行くと、やがて黄色い暖簾(のれん)があって崩し字で何か書かれていたが読めなかった。そこをくぐると脱衣場のようであった。人は誰も居なかった。
 
彼はロッカーをひとつあけて服を脱いで、タオルとシャンプーセットを持ち、浴室にはいった。浴室も人は少なかった。浴室は黄色いタイルで覆われていた。彼は洗い場で髪を洗い、顔を洗い、身体を洗い、それから浴槽に浸かった。浴槽の背景に何か中国の湖(名前は知らない)の絵が描かれていた。以前、中華料理屋さんでもこの絵を見たことがあった。
 
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やがてお年寄りが一人浴槽に入ってきた。
 
「君どこから来たの?」
「金沢の近くの小さな町なんです」
「ああ、金沢はいい町だね」
「ありがとうございます」
「おまえ神社とかなんか無かったっけ?」
「おまえですか」
「凄い豪華な神門があって」
「ああ、おやま(尾山)神社ですね」
「ああ、それそれ」
 
そのお爺さんと5分くらい話したが、おじいさんは
「そろそろあがるね」
と言って、先にあがった。その時俊夫は見た。そのお爺さんのお股に何もぶらさがってないのを。病気か何かでちんちん取っちゃったのかな?と彼は思った。
 
それから1分ほどして、彼もあがった。ロッカーを開け、身体をバスタオルで拭いて、体操服を着た。脱衣室から出る時、20歳くらいの女の人とすれちがった。
 
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なんで女の人が男湯にはいってくるの〜?と思った。
 

彼はその夜同室になった男子たちの話を聞いている内にひとつの疑問を感じた。男子たちが話しているお風呂場の様子が、自分の見たものとは違うのである。彼らが入ったお風呂はグリーンのタイルだったらしい。また壁絵は中国奥地の山が描かれていたという。“カイラス山”とかいう神聖な山だとか言っていた。
 
でもぼくが入ったお風呂は黄色いタイルで、絵は湖だったのに!
 
そして翌日女子たちが話していたお風呂の情景を聞いて彼の疑惑は決定的になった。女子たちが話していたお風呂の様子が、自分の入ったお風呂と一致していたのである。黄色いタイルで壁絵は“西湖”だったと言っていた。このことは誰にも話していない。
 
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ついでに2年前、大学2年生の時の黒歴史
 
母はその年、呉服屋さんにパートで勤め始めた。
「お客さん少なくてのんびりした職場だけどノルマがきついのよね」
「ああ、生命保険、呉服、宝石はノルマのきつさで有名」
「お菓子屋さんのクリスマスケーキとかはまだ可愛いもん」
「振袖の予約あと3人取らなきゃ」
「大変ネ」
「みどり、振袖借りない?」
「私は成人式もう済んだよ。振袖自体その時買ったのがあるし」
「そうだ。俊夫、あんた振袖借りなさいよ」
「男が振袖借りてどうするんだよ」
「いやあんたなら着れる」
「うん。この子、中学の女子制服も着たし、高校の女子制服も着たから、きっと振袖も着れる」
「ちょっと待って」
 
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それで母は振袖を借りて来たのである。俊夫は地元での成人式には男物スーツで出たものの(ほんとに?)、金沢市の成人式には振袖で出た。
 
当日は早朝から美容室で着付けしてもらい、髪をセットしてお化粧もしてもらい、市内の会場に行って成人式に出席した。記念品の傘(女性向けのライトグリーン)ももらった。姉が記念写真も撮ってくれた。姉は
「あんたがお嫁さんに行く時は彼氏にこの写真見せてあげよう」
などと言っていた。
 

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3月17-24日、競泳の、通常の年の日本選手権に代わる国際大会代表選手選考会が、東京アクアティクスセンターで行われた。津幡組では、椎羅と年長者以外の全員(川上青葉・金堂多江、竹下リル・竹下ハネ・田村真美・井上道代)が参加した。
 
ちなみに竹下姉妹の名前は、リルケ・ハイネ・シラーから来ている。今回椎羅は出場はしないが、雑用係(パシリ?)で付いてきた。むろん女子制服を着せられている。
「ぼくこういう服を着るのが癖になったらどうしよう?」
「既に手遅れだと思う」
「そもそも女の子の服が好きなんでしょ?中学の時もセーラー服着てたし」
「中体連も女子で出た」
「あれ受付で女の子と間違われて『女子はそちらに並んで』と言われて、成り行きで女子に出ちゃったんだよ。予選落ちしたけど」
 
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田村が「聞かなかったことにしよう」と言っていた。
 
「つっこみ所が多すぎる」
「普通の男子なら女子のほうに案内されても女子用水着を持ってないのだが」
「普通の男子は女子水着をたとえ持っていたとしても着けられない」
「椎羅は男子用水着を持ってないから」
「男子用水着があっても着けられない」
 
「私たちが大会に出てる間に女の子になる手術受ければいいよ」
「そしたら帰りは全員女子だね」
 

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津幡組は昨年12月にはH南高校女子バスケット部が泊まった、さいたま市内の体育館に滞在し、ずっと地下のプールで泳いでいた。
 
「何かどこにでもプールがあるのが凄い。福岡にもあったし」
と田村真美が言う。
 
「津幡組が強いひとつの理由はそれだと思うね」
「短距離でならSTスイミングクラブも全国に30くらい拠点がある」
「長距離では採算取れないからなあ」
 
会場へは千里がセレナで連れて行った。椎羅は女子更衣室にも連れ込まれてお弁当を取ってきたり、飲み物を買ってきたりさせられていた。
 
彼は水連に女子として登録されており、idカードが女なので女子更衣室にはいれる。女子トイレにもはいれる。
 
椎羅は、水着を着けるのの手伝いまでやらされていた。
「妹さんですか?」
「ええ」
「君はこの大会に出ないの?」
「この子おっぱい小さいからまだ出場資格無いんですよ」
 
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胸に触られる。
「確かに小さいね。君中学生?でもきっと来年くらいまでには大きくなるよ」
 

まず3日目3月19日、午前中に400m個人メドレーの予選があり、全員決勝に進出した。
 
そして同日夕方から決勝が行われた。津幡組の6人は真ん中の2〜7レーンで泳ぎ1〜6位を独占した。順位は
 
1.川上 2.金堂(0.1) 3.リル(0.8) 4.ハネ(1.5) 5.田村(1.0) 6.井上(0.9)
 
であった(括弧内はひとつ上位の人との秒差)。1位の川上は五輪代表確定。ジュニア世代(中1〜高3)の中のトップであるハネはジュニアパンパシフィック選手権代表がほぼ確定である。あとは審議による。1-3位の3人はオリンピック派遣標準記録のABともに突破している。つまり参加資格があると認められる上に入賞可能性があると認定された。
 
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