■春シン(6)
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「でも元々性別が曖昧だったんだ?」
「大会とかでいつも『女の子はそちらに並んで』とか言われてたし、男子トイレにはいろうとすると叱られてたし」
「あはは」
「声も中学生の時まではアルトが出てたよ。だから音楽の時間はアルトの所に座ってた。その後出なくなってたけど、この夏からソプラノまで出るようになった」
「やはり基本が女の子なんだよ」
「それに私のちんちん小さかったしね。2cmくらい。だから小便器ほとんど使ってなかった」
「その長さでは使えない気がするよ」
「ヒゲも中学の時までは剃ったこと無かったのよね。床屋さんで髪切ってもらう時に剃ってもらうだけだった」
「女性ホルモンのほうが強かったのでは」
「乳首が立ってシャツにすれて痛いから中学生の頃からブラジャー着けてた」
「中学生にもなったらブラジャー着けなきゃ」
「だけど2cmのちんちんで本当にオナニーしてたの?」
「してたよ?」
「どんなふうに?」
「夜お布団の中でちんちんに触ってさ」
「うんうん」
「手の中で前後に振ったり、あるいはパンツの上からさすったりしている内に気持ち良くなってくるから、たいていそのまま眠っちゃうの」
「射精は?」
「写生?私絵はあまり得意じゃないのよね」
「えっと・・・・」
「どうかした?」
「結局としちゃんがしてたのは女の子式のオナニーだと思う」
「え〜!?そうなの?」
「私、この夏、女の身体になっても最初は男の服着てたんだけど、男子トイレに入れてもらえなくなって女子トイレ使うようになったのよね」
「女なんだから当然」
「それで女子トイレにしか入れないのなら、と開き直ってスカート穿くようにしたのよ」
「女の子はスカート穿いていいと思うよー」
「私今でもまだ結構男の意識残ってるんだけどね」
「じゃ僕に抱かれるの嫌?」
「ううん。女のセックスってこんなに気持ちいいのかって驚いた」
「だったらいいじゃん。男の意識のままでもいいから、僕の妻になって僕の子供産んでよ」
「時々男っぽい所出るかも知れないけど、それでもよければ」
「全然平気、君とは仲良くやっていけそうだし」
「うん」
俊美たちは市役所で母子手帳をもらった。苗字は鉛筆書きにしてもらった。
立石は言った。
「ダイヤの指輪は2月11日まで待ってくれない?カードの締めがあるから」
「指輪ならこないだもらったよ」
「あれはあくまでつなぎの指輪。プロポーズする時はあらためてダイヤの指輪を贈るって言ったよ」
「必要無いよ。あの指輪だけで、徹ちゃんの心はもらったもん。そんなのより新生活のためにお金使おうよ」
「そうするかな」
「うん」
立石と俊美は会社に行き、こういう話を相談するのにいちばん良いと思われた次長に相談した、避妊はしていたが、失敗したようで妊娠してしまったと言い、謝罪した。
「内定辞退しましょうか」
「いや、あんたは頭数(あたまかず)としてカウントしてるから、やめられたら困る」
次長としては偶然掛かって来た英語の電話に冷静に対処した俊美の印象が強烈なので、こんな優秀な人財を逃したくないという思いもあった。
入社する場合、産休は要らないから出産で休んだ日は欠勤として処理してくださいと俊美は言ったのだが、そういう訳にはいかない、産休を取らせなかったら、労働基準監督署から叱られるという。
・産休は労働基準法の規定では予定日の6週間前から、出産の8週間後まで
・この会社の規定では、予定日の3ヶ月前から、出産の3ヶ月後まで
それで話し合いの結果こうすることにした。
・予定日の2ヶ月前から、出産の2ヶ月後までを産休とする
つまり法令は守るが、社内の規定より短くする。
しかしそれで俊美は、この会社にやはり入ることになったが、内々定した時は岡安俊夫だったのに内定時には岡安俊美で、入社する時は立石俊美になることになってしまった!ほんの半年ほどの内に名前も苗字も性別も変わってしまう!
1月23日(火)、礼音はJ高校の推薦入試を受けた。受験票にはセーラー服を着た写真が貼られている。生徒手帳の写真がセーラー服だから願書・受験票もセーラー服でないと本人確認できない。
礼音はセーラー服を着て試験会場に行き、筆記試験(英語・数学・国語)を受け、面接も受けた。面接は個人面接だったが「合格したらうちの高校に入りますか?」 「はい」というやりとりだけだった。
翌日合格発表があり、礼音は合格していた(後で成績は推薦入試者の中で12位だったと教えてくれた)。すぐ入学手続きをした。そしてJ高校の“男子標準服”を注文した。
「バストが目立たないように少し大きめに作りましょうね」
と採寸してくれた人は言った。
「よろしくお願いします」
1月下旬、“立山きらら”は、羽田小牧主演『ぼくらは少年探偵団』にゲスト出演した(放送は2月)。
二十面相が狙う水晶の塔を所有する会社社長の令嬢!という役で、上品なワンピースを着て演技し、フルート演奏も披露した。この回ではこの令嬢が誘拐されそうになり、小林少年(羽田小牧)が令嬢に変装して身代わりになるというシーンがあり、“美少年の競艶”として話題になった。むろん“小林少年が令嬢に変装した所”はきらら自身が演技するので、おなじみの
「二十面相君もにぶいね」
「きさま、まさか小林か」
というやりとりも、きららが演技する。だからこの役には演技力が要求される。
「でも実はふたりとも本当は女の子だったりして」
「小牧は女優さんと温泉で遭遇したという噂あるし」
「きららちゃんは病院で検査受けたら女性と判定されたという説があるし」
(それカップソープが言ってた話だと思う)
「2人とも睾丸が無いのは確実だと思う」
「多分ちんちんも無い」
「小牧は中学卒業する時にちんちん取ったんじゃなかった?」
「女の子と同じようにおしっこできるようにしてもらったと聞いた」
「中学の卒業式はセーラー服で出たはず」
「でもこの話、なんで社長の“令嬢”である必要があるんですか?」
ときららは訊いた。ディレクターは明快に答えた。
「そりゃ小牧君に女装してもらうためだよ」
小牧が不愉快そうだった。共演者の白鳥リズムが笑っていた。明智小五郎役の江藤レナさんが
「アクア版でもアクアを女装させることが目的化してたからな」
と言っていた。
小牧さんも大変ネ!
でもきららのフルート演奏(吹いた曲は『シチリアーノ』:ピアノ伴奏したのは山鹿クロム)が美しかったので
「きららちゃんフルート上手いんだね」
という評価もあがっていた。
俊美が妊娠したこと、結婚したいということは双方の親にも報告したが、とちらも大歓迎であった。結婚する場合、本来なら立石の親が俊美の実家を訪問して挨拶する所だが、俊美の実家は崩壊して金沢に一時避難中だしということで、双方の親の顔合わせという形で、金沢のファミレスか何かでお食事会をすることにした。
俊美の両親は金沢に滞在中なので、2月3日(土)に立石の両親を連れて来た。立石と友人の藤島の2人で迎えに行った。藤島を見て母が言う。
「一瞬、俊美さんが男になっちゃったかと思った」
「僕実は女なんです」
「そういう混乱することを言わないように。俊美は妊娠中で無理できないから男の友人に頼んだ」
「僕が立石君と結婚してもいいよ」
「先約済みだからダメ」
「でもあんた高校時代に男の娘さんと付き合ってたね」
「そういう話を今しないように」
「ああ、こいつきっとバイですよ」
俊美の両親は希望に連れて行ってもらい、津幡の火牛モール内パントゥフル・ドゥ・ヴェール(Pantoufle de verre:ガラスの靴という意味)に行って、顔合わせをした。ここは仙台クレールや博多プラントンの姉妹店で、“貴族組合”のメイド喫茶のひとつである。加賀友禅の振袖を着たメイドさんたちがサービスしているが、クレールなどと同様「お帰りなさいませ」
などの挨拶は使用しない。料理は本格的なフレンチを楽しむことができる(メイドさんたちが自作するカフェラテ(ラテアート付き)、オムレツ・オムライスも食べられる)。
しかしテーブルマナーとかは不要である。フランスの普通の町にあるような“堅苦しくないフレンチ”のレストランを作りたかったのだと、オーナー兼チーフメイドの山瀬とみは言う。料理人は横浜のフレンチ店に居た人を高給で雇っている(石川県美川町(*4)の出身者)。食器は全て白九谷(九谷焼の白磁)である。
立石の父など、子羊のソテーを箸で食べ、スープ皿を手で持って飲んでいた。お味噌汁の感覚である。こういうのが全部OKなのが、この店の良い所である。でもみんな美しいラテアートには感心していた。
(*4) 以前「美川県一の町」という看板が立っていた。現在は近くの町村と合併して白山市になっている。
どうでもいいが、美川憲一と美輪明宏は同じ誕生日(3月15日)である!占い師の間ではわりと有名な話。
徹と俊美は避妊に失敗して妊娠してしまったことを謝罪したが、結婚するのだったら問題無いと双方の両親は言った。
「でもあんた会社はどうするの?」
「産休もらえることになった」
「1年目なのに産休くれるっていい会社だね」
俊美の卒業式が3月17日なので、結婚式はその後3月20日(祝・なる)に挙げることにした。それで俊美は17日に振袖を着て、20日にはウェディングドレスを着る。披露宴は会費制の“祝賀会”の形にしたいと言い、了承された。
「会費制がいいよ。御祝儀の額に悩まなくていいもん」
「引き出物なんて要らないしね」
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春シン(6)